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第十九章 銘酒一献
儚い約束
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「それじゃあ神前。とりあえず俺は仮眠を取るわ」
それだけ言うと嵯峨は席を立つ。
「叔父貴。これもらっていいのか?」
かなめはタレ目を輝かせて酒瓶を持ち上げる。
「勝手にしろ。誠、せいぜい怖いおばさん連に虐められないように!」
「おばさん言うな!この不良中年が!」
かなめの剣幕に押されるようにして嵯峨は出て行く。その様子にカウラは安心したように少し頬を緩める。一方でアイシャはまったく我が道を行くという様子で酒と角煮を味わっていた。
「西園寺さん、カウラさん、アイシャさん」
それぞれの目を見て誠は切り出した。
「なんだよいきなり」
かなめが怪訝な目で誠を見つめる。
「僕は思うんです。ここに来たのは正解かもしれないと」
「そうよね。こんなきれいなお姉さんが部屋に来てくれるなんて、他の東和軍じゃあ考えられないもんね」
「自分で言うんじゃねえよ、バーカ!」
「何よ!いいじゃない!それにきれいなお姉さんにはかなめちゃんも入ってるのよ!」
「フフッ」
かなめとアイシャのやり取りにカウラは思わず声を出して笑う。
「それもありますけど、隊長とか、ランさんとか、吉田さんとか、明華さんとか、マリアさんとか。ともかくみんないい人なんで。それで僕が僕の仕事をこなす事でその人達が守れるって事が凄く嬉しいんです」
「神前の」
重々しい口調でかなめが切り出す。
「生意気ですか?」
「バーカ。ようやく戦う心構えが出来たのかと安心しただけだ。今の気持ち、忘れるなよ。忘れればアタシみたいな外道に落ちる」
以前見た陰のある瞳が二つかなめの顔に浮かんでいるのを誠は見つけた。かなめは酒を口の中に流し込む。アイシャは角煮を頬張る。カウラはその様子を心地よい笑顔で眺めている。
「なんか遠足みたいな感じですね」
誠は自分より年上に見える女性三人に囲まれて、つい間が持たずに口を滑らせた。
「遠足?」
またかなめが噛み付く下準備をする。
「私とカウラは遠足なんてした事ないから。今回の任務が終わったら夏よね。私は艦長候補研修があるから難しいけど、カウラは何処か行くの?」
「特に予定はない。それ以前に無駄に動き回るのは私の性に合わない。神前、そこのオレンジ色の小さなセンベイもらっていいか」
「いいですよ。僕は角煮食べるんで」
カウラはいつものように感情が入っていない声で答えた。
「かなめちゃんは里帰り?」
「馬鹿言うな。アタシは実家とは縁切ったんだ!」
「そう?ただ康子様に会いたくないだけなんじゃないの?ねえ、聞いてよ誠ちゃん。この娘ったらお母さんの康子様が怖くていつも逃げて回って……」
「おい、アイシャ。死にてえのか?その口引き裂いて死んでみるか?」
「まあ怖い!でも康子様が怖いんでしょ?」
かなめは図星を突かれてうろたえる。得意げに鼻歌を歌いながらアイシャはコップの底の酒をあおった。
「おい、アイシャ。飲みすぎじゃないのか?」
珍しくかなめが上機嫌のアイシャに声をかけた。
「飲みすぎ?そんなんじゃないわよ!ただ少し気分がいいだけ。ねえ!誠ちゃん!」
誠は思った。明らかにアイシャは出来上がっている。しかもここは誠の部屋だ。どこにも逃げようが無い。
「おい、カウラ、こいつを連れて帰るぞ」
かなめが心配そうな表情の誠に気を使ってカウラに声をかける。カウラもうなづくと足をじたばたさせながらわけのわからない言葉を連呼するアイシャを押さえつけた。
「襲われるー!助けて!誠ちゃん!変態西園寺かなめがー!!」
「うるせえ!馬鹿!人が来たらどうすんだ!」
かなめがどうにかアイシャを背負い、カウラが後ろからそれを支える。
「大丈夫ですか?」
申し訳ない。そう思いながら誠がかなめに声をかける。
「しかし、初めてじゃないのか?神前。テメエがうちに来てから他人が潰れるの見るの」
にやりと笑いながらかなめが誠の瞳を見つめる。
「じゃあ!出発!進行!」
かなめの背中でかなめより頭一つ身長の高いアイシャが叫んだ。
「まったく何を考えているのか……、西園寺!大丈夫か?」
カウラはアイシャがかなめにきつくしがみついているのを見ながら立ち上がった。かなめはそのままアイシャを背負って部屋から出て行く。カウラは少し遅れて部屋を出ようとするが、また誠の前に戻ってき
た。
「神前少尉。頼みがある」
緑の前髪がこぼれる額、透き通るような頬を少し赤らめてカウラは言った。
「頼みですか?」
「そうだ」
誠は正直カウラの心が読めずにいた。
「もしこの作戦が終わったら、一緒に海に行ってくれないか?」
突然の誘い。誠は正直戸惑った。
「それほど深い意味はない。ただ戦場で生き抜くには生き抜いた後になにか頼るべきものが必要だと……本で読んだのでな」
カウラの声が次第にか細くなる。
ひたすら時を待ち、言葉を伝える機会を待っていたようで、かすかに顔にかかる緑の髪が震えている。
「分かりました。約束しますよ」
「そうか!ありがとう」
溢れるような、太陽のような笑みがそこにあった。誠は心からの笑顔を浮かべながら部屋を出て行くカウラを見送った。
それだけ言うと嵯峨は席を立つ。
「叔父貴。これもらっていいのか?」
かなめはタレ目を輝かせて酒瓶を持ち上げる。
「勝手にしろ。誠、せいぜい怖いおばさん連に虐められないように!」
「おばさん言うな!この不良中年が!」
かなめの剣幕に押されるようにして嵯峨は出て行く。その様子にカウラは安心したように少し頬を緩める。一方でアイシャはまったく我が道を行くという様子で酒と角煮を味わっていた。
「西園寺さん、カウラさん、アイシャさん」
それぞれの目を見て誠は切り出した。
「なんだよいきなり」
かなめが怪訝な目で誠を見つめる。
「僕は思うんです。ここに来たのは正解かもしれないと」
「そうよね。こんなきれいなお姉さんが部屋に来てくれるなんて、他の東和軍じゃあ考えられないもんね」
「自分で言うんじゃねえよ、バーカ!」
「何よ!いいじゃない!それにきれいなお姉さんにはかなめちゃんも入ってるのよ!」
「フフッ」
かなめとアイシャのやり取りにカウラは思わず声を出して笑う。
「それもありますけど、隊長とか、ランさんとか、吉田さんとか、明華さんとか、マリアさんとか。ともかくみんないい人なんで。それで僕が僕の仕事をこなす事でその人達が守れるって事が凄く嬉しいんです」
「神前の」
重々しい口調でかなめが切り出す。
「生意気ですか?」
「バーカ。ようやく戦う心構えが出来たのかと安心しただけだ。今の気持ち、忘れるなよ。忘れればアタシみたいな外道に落ちる」
以前見た陰のある瞳が二つかなめの顔に浮かんでいるのを誠は見つけた。かなめは酒を口の中に流し込む。アイシャは角煮を頬張る。カウラはその様子を心地よい笑顔で眺めている。
「なんか遠足みたいな感じですね」
誠は自分より年上に見える女性三人に囲まれて、つい間が持たずに口を滑らせた。
「遠足?」
またかなめが噛み付く下準備をする。
「私とカウラは遠足なんてした事ないから。今回の任務が終わったら夏よね。私は艦長候補研修があるから難しいけど、カウラは何処か行くの?」
「特に予定はない。それ以前に無駄に動き回るのは私の性に合わない。神前、そこのオレンジ色の小さなセンベイもらっていいか」
「いいですよ。僕は角煮食べるんで」
カウラはいつものように感情が入っていない声で答えた。
「かなめちゃんは里帰り?」
「馬鹿言うな。アタシは実家とは縁切ったんだ!」
「そう?ただ康子様に会いたくないだけなんじゃないの?ねえ、聞いてよ誠ちゃん。この娘ったらお母さんの康子様が怖くていつも逃げて回って……」
「おい、アイシャ。死にてえのか?その口引き裂いて死んでみるか?」
「まあ怖い!でも康子様が怖いんでしょ?」
かなめは図星を突かれてうろたえる。得意げに鼻歌を歌いながらアイシャはコップの底の酒をあおった。
「おい、アイシャ。飲みすぎじゃないのか?」
珍しくかなめが上機嫌のアイシャに声をかけた。
「飲みすぎ?そんなんじゃないわよ!ただ少し気分がいいだけ。ねえ!誠ちゃん!」
誠は思った。明らかにアイシャは出来上がっている。しかもここは誠の部屋だ。どこにも逃げようが無い。
「おい、カウラ、こいつを連れて帰るぞ」
かなめが心配そうな表情の誠に気を使ってカウラに声をかける。カウラもうなづくと足をじたばたさせながらわけのわからない言葉を連呼するアイシャを押さえつけた。
「襲われるー!助けて!誠ちゃん!変態西園寺かなめがー!!」
「うるせえ!馬鹿!人が来たらどうすんだ!」
かなめがどうにかアイシャを背負い、カウラが後ろからそれを支える。
「大丈夫ですか?」
申し訳ない。そう思いながら誠がかなめに声をかける。
「しかし、初めてじゃないのか?神前。テメエがうちに来てから他人が潰れるの見るの」
にやりと笑いながらかなめが誠の瞳を見つめる。
「じゃあ!出発!進行!」
かなめの背中でかなめより頭一つ身長の高いアイシャが叫んだ。
「まったく何を考えているのか……、西園寺!大丈夫か?」
カウラはアイシャがかなめにきつくしがみついているのを見ながら立ち上がった。かなめはそのままアイシャを背負って部屋から出て行く。カウラは少し遅れて部屋を出ようとするが、また誠の前に戻ってき
た。
「神前少尉。頼みがある」
緑の前髪がこぼれる額、透き通るような頬を少し赤らめてカウラは言った。
「頼みですか?」
「そうだ」
誠は正直カウラの心が読めずにいた。
「もしこの作戦が終わったら、一緒に海に行ってくれないか?」
突然の誘い。誠は正直戸惑った。
「それほど深い意味はない。ただ戦場で生き抜くには生き抜いた後になにか頼るべきものが必要だと……本で読んだのでな」
カウラの声が次第にか細くなる。
ひたすら時を待ち、言葉を伝える機会を待っていたようで、かすかに顔にかかる緑の髪が震えている。
「分かりました。約束しますよ」
「そうか!ありがとう」
溢れるような、太陽のような笑みがそこにあった。誠は心からの笑顔を浮かべながら部屋を出て行くカウラを見送った。
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