上 下
94 / 1,473
第十八章 戦闘を前に

生と死を知り尽くす女達

しおりを挟む
「ベルガー大尉」 

 カウラの緑色のポニーテールにしたがって誠はその後に続いた。

「カウラでいい。この部隊の流儀ではそうなっている」 

 濃い緑色の鋭い視線が誠に突き刺さる。

「じゃあカウラさん。あれだけの説明で終わりなんですか?」 

 呼び出した割りに説明があれだけとはあまりの事だ。誠はそう思いながら規定どおりに深い緑色の作業服に身を包んだカウラに語りかける。

「少なくともこれが隊長のやり方だ。文句があるなら隊長に言う事だな」 

 それだけ言うとカウラは長い緑の髪をなびかせて歩き去ろうとする。誠はその後姿を見送っていた。

「素直じゃないよね、カウラちゃんて」 

 急に背中に甲高い声を聞いたと思って振り返る。何もいない。さらに見下ろす。

「誠ちゃん!あなたまでみんなと同じことやんの!」 

 降ろした視界の中にシャムが立っていた。いつもの事ながら小さい。

「ナンバルゲニア中尉、実は……」 

「それ無し!シャムちゃんでいいよ!」 

「じゃあシャム先輩」 

「違うの!シャムちゃんなの!」 

 頬を膨らませながらシャムが抗議する。

「じゃあシャムちゃん」 

「なあに。お姉さんで分かる事なら何でも答えちゃうよ!」 

 無い胸を張りながらシャムは得意げに話す。

「そう言えば最近会いませんでしたが……」 

「酷いんだ!アタシ隣のトレーニングルームからシミュレーションの画像ずっと見てたのに」

 膨らんだ頬はまるでハムスターかリスである。

「すみません。どうもシミュレーターに集中したかったもので」 

「じゃあいい。特別に許してしんぜよう!」 

 ともかくシャムは非常に元気である。誠はそれまでの緊張感が一気にほぐれたような気がした。

「それなら伺いますが、隊長っていつもああなんですか?」 

「ああって?」 

「まあ何でもめんどくさそうにするのは前から知ってたんですが、直前になるまで作戦の細目は教えてくれないし、それも無理っぽい作戦だと言うのにまるで勝つことが決まったような口ぶりで話すし、それに……」 

 言い出したらきりが無い。雲をもつかむような曖昧な説明と投げやりな態度。どちらにしても初めての作戦行動に向かう誠にとって不安要素以外の何者でもなかった。

「大丈夫だって!少なくとも隊長の指示で動いて負けた事ないから」 

「そうでもないぜ。先の大戦じゃあ叔父貴の部下の九割は死んでるんだ。今回だって人死にが出てもおかしくないんじゃねえの?なあ神前」 

 タバコを吸い終わったようで、隊長室から出てきたかなめがそう水を差した。

「奴は楽しんでんだよ。オメエみたいに物事悪く考える癖のある奴にゃあ、さぞとんでもないバケモンに見えるかも知れねえがな」 

 そう言いつつかなめは黒いタンクトップの上に乗っかった顔は笑みを浮かべていた。誠はただ彼女の笑みの意味を考えながら立ち尽くしていた。

「西園寺さんは気にならないんですか?」 

 頬のところで切りそろえられた髪を揺らしているその姿に一瞬心が揺らいだが、誠は確かめるようにして切り出した。

「気になるって?アタシは元々要人略取とか破壊工作とか、まあまともな兵隊さんがやりたがらないような仕事しかしたことねえしな。隠密活動じゃ情報が命だ。それに標的が予定外の行動をとることもざらにある。作戦開始前まで作戦内容が伏せられているなんてのも日常茶飯事だ」 

「そうなんですか」 

 知り抜いたようなかなめの顔に誠は嵯峨に作戦の詳細を述べてくれることを期待することをあきらめるべきなのだろう。明らかに戦力で劣る司法局実働部隊が独自で近藤中佐の逮捕を狙うのならば誠一人の安心感が犠牲にされるのも当然の話だ。そう誠は思いなおした。

「で、このチビは何してるんだ?」 

 かなめはいつもどおり珍獣を見るような視線をシャムに送った。誠もかなめとの間に突っ立っているシャムを見つめる。

 服務規程に有るとおり、どう見ても特注品だと思われる子供サイズの濃い灰色の作業服を着ている。

「どうしたの?二人とも」 

「いやあ、オメエがいつもどおりチビで安心したなあ、と思ってただけだよ」 

「かなめちゃん!酷いんだ!せっかくいいこと教えてあげようと思ってたのに!」 

「あのなあシャム。オメエにモノ教わるくらいアタシは落ちぶれちゃいないんだ。分かったらさっさとション便して寝ちまえ」 

「その言い方ひどくない?誠ちゃんも何とか言ってよ!」 

『まるで……子供とそれをあやす気のいいお姉さんだな』

 誠はそんな感じで二人を見ていた。それでもシャム以外に頼るものも無いので誠は少しばかり気にはしていた疑問をぶつける事にした。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『修羅の国』での死闘

橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった その人との出会いは歓迎すべきものではなかった これは悲しい『出会い』の物語 『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる 法術装甲隊ダグフェロン 第三部  遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』は法術の新たな可能性を追求する司法局の要請により『05式広域制圧砲』と言う新兵器の実験に駆り出される。その兵器は法術の特性を生かして敵を殺傷せずにその意識を奪うと言う兵器で、対ゲリラ戦等の『特殊な部隊』と呼ばれる司法局実働部隊に適した兵器だった。 一方、遼州系第二惑星の大国『甲武』では、国家の意思決定最高機関『殿上会』が開かれようとしていた。それに出席するために殿上貴族である『特殊な部隊』の部隊長、嵯峨惟基は甲武へと向かった。 その間隙を縫ったかのように『修羅の国』と呼ばれる紛争の巣窟、ベルルカン大陸のバルキスタン共和国で行われる予定だった選挙合意を反政府勢力が破棄し機動兵器を使った大規模攻勢に打って出て停戦合意が破綻したとの報が『特殊な部隊』に届く。 この停戦合意の破棄を理由に甲武とアメリカは合同で介入を企てようとしていた。その阻止のため、神前誠以下『特殊な部隊』の面々は輸送機でバルキスタン共和国へ向かった。切り札は『05式広域鎮圧砲』とそれを操る誠。『特殊な部隊』の制式シュツルム・パンツァー05式の機動性の無さが作戦を難しいものに変える。 そんな時間との戦いの中、『特殊な部隊』を見守る影があった。 『廃帝ハド』、『ビッグブラザー』、そしてネオナチ。 誠は反政府勢力の攻勢を『05式広域鎮圧砲』を使用して止めることが出来るのか?それとも……。 SFお仕事ギャグロマン小説。

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

処理中です...