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第十四章 法術師と言う存在

使者

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 その時突然内線が鳴った。

「神前。隊長居るか?」 

 勤務服姿のランの姿がモニターに浮かんだ。

「ランか。すまんねいつもこんな仕事ばかり頼んで」 

 嵯峨はいつの間にかヨハンの目を盗んでつけていたタバコをふかす、カウラとヨハンは明らかに不機嫌そうに彼等の上官の昼行燈をにらみつけた。しかし、不敵な笑みを浮かべる嵯峨はまるで気にする様子は無い。

「気にしねーでいいですよ。アタシはこのためにいるんだから」 

「じゃあ忠さんにヨロシク」 

 モニターが消え、再びアメリカの機密文書に切り替わる。

「隊長!忠さんて……」 

「そんなことも知らんのか?新入りはこれだから……」 

 かなめはあきれ果てたというように大きくため息をつく。仕方なく誠は苦笑いで応える。

「仕方が無いだろかなめ。神前少尉、胡州第三艦隊提督、赤松忠満(あかまつただみつ)中将のことだ。隊長とは……」 

「胡州の西園寺家に養子に入った時からの幼馴染でね。高等予科の同期の桜だ。まあ忠さんに言わせりゃあ腐れ縁だって答えるかも知れんがな」 

 これまで見たことの無い、緊張感がありながら穏やかとでも言うべき表情を浮かべた嵯峨の姿がそこにあった。

「しかし、クバルカ中佐が動くことは……」 

「まああれだ。あのナリだろ?アイツ。会議とかではインパクト満点で物好きな連中の中には意外と話しかけてくる人間が多くて人脈があるんだよ。今回のヤマは火はつけました、が風向き変わって俺達が丸焼けになりました、と言うわけにもいかんし」 

 そう言いながら嵯峨は短くなったタバコをふかすと、ポケットから取り出した携帯灰皿に吸い殻を押し付けた。それをカウラが容赦ない瞳でにらみつける。

「そんな怖い顔で見るなよ。俺は気が小さいんだから」 

 肺の中に残った煙を吐きつくすと、嵯峨は視線を誠に向けた。

「そうだ神前の。ちゃんと特訓してもらってるか?」 

 嵯峨は再びつけたタバコの火を見つめながら一息つくとそう切り出してきた。

「まあなんとかやってますが、剣一本じゃ何も出来ませんよ」 

「まあ普通の戦い方してたら勝ち目がないのは分かっちゃいたけどね」 

「分かっていたなら教えてくれてもいいじゃないですか!」 

 タバコの煙が室内に充満してきた。さすがに耐えられなくなったのか、かなめもポケットからタバコを取り出して火をつけている。露骨に嫌な顔をするヨハンを無視して嵯峨までもタバコをふかしだした。

「法術兵器についちゃお前さん達にも最後まで秘密にしておく必要があったからな。それにあの手の兵器はまだ実験段階だ。あのダンビラだって菱川重工からの借りもんだし。そっち系のマニュアルは確かシミュレーターに積んであるって吉田から聞いたんだが……」 

「吉田少佐とは殆ど会っていないんですが……」 

「まああれだ。奴は伝説のハッカーだぜ。そのあたりの仕込みで忙しいんだろ。まあ今回の作戦の本当の目的ってものがどういうものかってのが分かっただけで良しってことで」

「説明だけしてあとは丸投げかよ……。叔父貴……そりゃちょっと酷くないか?これからアタシとカウラがこいつに付き合うからな」 

「西園寺さん……」 

 手を伸ばして感謝を示そうとする誠の手を振りほどくと、かなめは頬を赤らめながらそっぽを向く。

「別に……アタシはお前の事なんかどうでもいいんだが、目の前で死なれちゃ寝覚めが悪いかだけで……」 

「西園寺。貴様の気持ちなどどうでもいいことだ。それでは隊長!私達はシミュレーションルームへ行きますので!」 

 カウラが素早く敬礼をして歩いていく。それにつられて誠も敬礼の後その後に続く。

「ったくカウラの奴が。ゆっくりタバコも吸えねえや!」 

 かなめはそう言うと嵯峨の手にある携帯用灰皿に吸いガラをねじ込んだ後、不愉快そうに頭をかきながら出て行った。

「良いんですか?隊長。神前君は未だ法術系システム起動までのエネルギー調整が出来ないみたいですが……」 

 ヨハンが心配そうにタバコを燻らせている嵯峨を見つめる。

「なあに。俺は自分の勘には自信があってね。それに今回のミッションはあの二人がついててくれれば神前も死ぬことはないだろ」 

 そう言うとヨハンが顔をしかめるのをしり目に肺の中にたまっていた煙を大きく噴出した。
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