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第十一章 司法局実働部隊運用艦『高雄』

ワンパターンの痴話げんか

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「どうだい、うちの自慢の運用艦は」 

 嵯峨の得意げな言葉に誘われるように巨大な壁のような『高雄』を見上げる。

「大きいですね」 

 率直な感想を述べた誠だが、振り返った嵯峨の表情は、明らかに期待はずれの答えを誠が出したと言うような顔をしていた。

「でかいって言うなら胡州の富嶽級とかにはまるで勝てないぞ……ってまあこいつの凄さは外から見てわかるもんじゃないからな」 

 そうして連絡橋にたどり着いた嵯峨は、相変わらずのゆったりした足取りでミサイルの模擬弾頭を積んだトレーラーの後ろを歩いていく。

 連絡橋を渡り、艦の中に入った誠。東和軍の所有の軍艦なら何度か乗せられた経験もあるので、特に気になるところの無い倉庫の中を嵯峨に導かれるようにして歩く。

「ここまでは普通」 

 嵯峨はそう言うとこの区画の端に設けられたエレベータの中に乗り込んで、誠が入ったのを確認して上昇のボタンを押した。ドアが閉まり沈黙が訪れる。誠は相変わらず読めない表情の嵯峨を見つめていた。

 そしてドアが開く。そこで初めて誠は嵯峨の言葉の意味を知った。

 生活区画の通路は、以前、誠が宇宙での各種戦闘技術の訓練のために乗った輸送艦の数倍の幅がある。

「巡洋艦って凄いんですね……」 

 誠の声に嵯峨は笑いながら振り向く。

「これは特別だ。うちに求められるのは長期戦闘に備えることじゃない。となれば交代要員や余計な物資の積載所を考える必要が無いわけだ。そうなれば生活区画に余裕が出来るだろ?だからこんなに広い」 

 そう言うと嵯峨周りを見回している誠を置いてエレベータに戻った。

「ああ、俺は用があるから。なんだかお前を待っている人がいるみたいだからからな」 

 嵯峨はそう言うと、そのままエレベータを閉める。誠が当惑して見回した先には腕組みをしたかなめが立っていた。

「新入り遅えんだよ!」 

 誠にかなめが吐き捨てるようにそう言った。手にした鮭の木箱を見るとこめかみに指を置いて呆れたと言うようなポーズをとる。

「叔父貴の馬鹿……何考えてんだ?じゃあそれを食堂に運んじまえ」

「食堂?」

 そう聞き返した誠の後ろに回るとかなめは力任せに押し始める。

「いいです!場所を教えてくれれば……」 

「このまままっすぐ!そのまま進め!」 

 かなめに押されて走るような勢いで誠が進む。そこには司法局の制服を着ている割には見慣れない顔の面々が米の袋や油の箱を抱えて入っていく部屋があった。

「わかりました!わかりましたってば!」

 誠はそのままかなめに押されて食堂に連れ込まれる。そしてテーブルの上の運んできた鮭の入った木箱を置くと、不安に思いながら振り向いた。かなめは別に機嫌を損ねているわけではなく珍しそうに誠が運んできた木箱に目をやった。

「また叔父貴がなんか持ち込んだんだろ?まったくあの不良中年が!今度は何をやろうって言うんだ?」 

「沖取り新鮭でちゃんちゃん焼きをやるとか……」 

 誠がそう口走ったのを見るや、かなめは今度は明らかに不機嫌な表情を見せる。

「あの馬鹿隊長が、演習じゃなくてピクニックにでも出かけるつもりか?」 

 かなめはそう言うとあきれ果てたというように大きなため息をついた。 立ち尽くすかなめのうしろからいつの間にか現れたカウラが顔をだす。

「嵯峨隊長にとっては演習なんかピクニックくらいのものなんだろうな」

 カウラはそう言ってテーブルに置かれた誠が運んできた木箱を持ち上げると、そのまま厨房に向かい炊事班の下士官に置く場所の指示を仰いでいた。

「どうせ今回の演習もなんかたくらんでるんだろうな。まあ退屈しないからいいけどよ」 

 かなめは淡々とそう言うと、食堂の椅子に座ってタバコに火をつけようとした。

「ここ禁煙みたいですよ?」 

「うるせえな馬鹿野郎!分かっとるわ!そんなこと。ただくわえてるだけだよ!」 

 かなめは誠の言葉についいらだたしげにそう口走った。調理場から戻ってきたカウラがその様子を呆れながら見つめている。

「んだ?小隊長さんよう。まあただの演習であることを祈るねえ。何かあったら前の隊長のアブドゥール・シャー・シンの旦那より有能かどうか、ちゃんと白黒つくだろうからな。部下に舐められるのはつらいだろ?」

 挑発するような様子でかなめがカウラを見上げる。カウラは腕組みしながらその言葉に微笑みで応えた。 

「舐めるに足る部下ならな。まあ貴様にそんな技量があるとは思えんが?」

 カウラは冷静にそう言うとニヤリと笑った。 

「テメエにでかい面されない程度の技量はあるつもりだよ、こっちは」 

 かなめとカウラお互いに自分が上だと言うように微笑みながらにらみ合う。

「あー!またあの二人喧嘩してるー!」 

「馬鹿!せっかくここからがいいところなんだから」 

 誠が振り返ると、シャムと吉田が目を輝かせてこちらを見つめていた。かなめもカウラも野次馬の奇声に飲まれたように、お互い威嚇するように一瞥した後、目を逸らした。

「神前少尉!とりあえず部屋を教えておこう」 

 カウラはふくれっつらのかなめを置いて、誠をつれて食堂を出た。

「喧嘩はいけないんだよー!」 

 暇をもてあましているのかシャムと吉田は誠達の後ろを付いてくる。

「馬鹿、喧嘩するほど仲がいいって言うじゃないか」 

「ああそうだね!じゃあカウラはかなめのこと好きなんだ!」 

 シャムの気軽に言ったその言葉に、カウラはキッとしてシャムをにらみ付ける。その剣幕に恐れをなして、シャムが悲しそうな顔を作った。

「アタシの方がお姉さんなんだぞ……年上の人をいじめちゃだめなんだぞ……」 

 シャムはそう言いながら吉田の後ろに隠れるた。その姿に誠はただ苦笑いを浮かべるだけだった。
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