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第六章 司法局実働部隊男子下士官寮

男子下士官寮

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 いかにも郊外の住宅街と言う雰囲気の通りを一つ入り、いつも目を引く技術部の夜勤の隊員の改造車の隣にパーラは車を止めた。

「到着ね」 

 サラはそう言うと自分目の前の誠の頭を小突いた。

「降りるわよ。開けて」 

 そう言うサラに誠は苦々しげに頭を下げる。そのまま言われるままに扉を開け、寮の駐車場に降り立った。

「パンプスじゃつらくないの?」 

 パーラの言葉にカウラは首を振ると目の前の古ぼけた建物に目をやった。

「これが男子下士官寮か」 

 カウラはそう言うと目の前の四階建ての建物を見つめた。誠にとってはただの古びたアパートである。カウラも特に感慨が無いようで一瞥しただけで鍵を閉めるパーラに目をやった。

「別に変わったところは無いですよ」 

「お前が言うな」

 誠の言葉に遅れて降りた島田が突っ込む。誠は駐車場から道路に出ていたサラの後に続いた。

 誠は慣れた様子で玄関で靴を脱いでスリッパに履き替えたパーラとサラについて寮に入った。玄関にいると日差しが黄色く見えた。夕方は近い。

「いらっしゃい。今ぐらいに着くと思ったわよ」

 寮の玄関にはさもそれが当然というように紺色の髪をなびかせながらアイシャが立っていた。

「アイシャの家じゃないでしょ」

「いいじゃないの先に来てたんだから。誠ちゃんの部屋は二階だったわね」

「じゃあ行きましょう」

 そう言ってようやく靴を履き替えたカウラを置いてサラ達三人は階段を登り始めた。サラの闖入には驚かない喫煙室の非番の警備部員も、その後ろにカウラがいるのを見つけて珍しそうに腰を乗り出して玄関を眺めている。

「それじゃあ行きましょうか」 

 誠はそう言うとカウラと島田を連れて階段を登った。

 二階の廊下には人気が無い。ちょうど通常勤務の連中はあと一時間で勤務が終わると時計を眺めている時間だろう。

「早く先生!」 

 誠の部屋の前でアイシャが手を振っている。サラは中腰になってドアノブの鍵穴を覗き込んでいた。

「今開けますから、待ってください」 

 そう言うと誠は腰のポケットから財布を取り出してその中に入れてある鍵を取り出した。

「鍵を財布に入れるのは感心しないな」 

 ポツリとカウラがつぶやく。しかし、すぐさまアイシャとサラがにやけながら彼女を見つめるので黙ってしまった。

 ドアが開いたとたん、待ちきれないと言うようにサラが誠の部屋に飛び込む。

 スリッパをドアのところで脱ぎ散らかすと、彼女は部屋を満遍なく眺めた。

「アイシャの部屋みたい!」 

 サラの第一声はそれだった。書庫に並んだ漫画、フィギュア、プラモデル。誠の性格を反映するかのように、几帳面にそれは並べられていた。カウラとパーラも思わず息を呑んでいた。

「ささっ、そんなに緊張しないで入って」

 アイシャは誠を押しのけるとスリッパを脱いで部屋の中央に胡坐をかいて座り込む。 

「あのー、ここ僕の部屋なんですけど」 

 誠の言葉を聞くまでもなく、カウラとパーラはスリッパを脱いで部屋に入った。

「確かにアイシャの部屋そっくりね」 

 パーラはそう言うとアイシャの隣に正座して座る。カウラは驚いた様子で部屋を立ったまま満遍なく眺めていた。

「じゃあお茶取って来ますから」 

 そう言うと誠は廊下に出た。駆け足で会談を降りて食堂に入ると、一人遅れて車から降りていた島田が食堂で茶をすすっていた。

 先任下士官で、技術部整備班班長である彼は、この下士官寮の寮長でもある。面倒見の良い親分肌の島田を明華は非常に信頼していることは、誠もここ数日だけの経験だけでもわかっていた。

「茶でも入れるつもりだろ?夜勤の連中が用意している時間だろうから大丈夫なんじゃないの?」 

 島田の他には遅番の二人の技術部員が寂しげに食事をしているのが見えた。

「そのやかん、麦茶か?」 

 島田の言葉に二人は頭を下げて疲れた笑みを浮かべる。

「ええ、ですがほとんど残りは無くて……これより厨房に一杯に入ってるやつありますよ」 

「そうか」 

 奥に座っていた眼鏡をかけた隊員の言葉を聞くと島田は誠に目を向けた。誠はそれが取って来いという合図とわかって厨房に入る。

 流しに置かれたやかんを持ち上げてみると確かに一杯に麦茶が入っていた。だが、やかんを触ってみるとまだ生暖かった。

「ぬるいですよ、これ」

 誠の言葉に島田は呆れたような表情を浮かべた。

「生きてるうちに頭使えよ。氷を入れればいいだろ?そこの冷凍庫にロックアイスが入っているから」

 島田は戸棚から盆を出してグラスを六つ並べる。指示通りに誠は冷凍庫からロックアイスを取り出した。
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