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第六章 司法局実働部隊男子下士官寮

賑やかな車内風景

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 隊舎の裏の駐車場にはこの夏の最新型で八人乗りの四輪駆動車が止まっていた。パーラは勤務服のスカートのポケットからキーを取り出した。

 まるで当然と言うように助手席の扉をサラが開ける。

「待たせたな!」 

 勤務服姿のカウラがエメラルドグリーンの髪をなびかせて走ってきた。

「遅いわよ!置いていこうかと思ってたところなんだから」 

 サラがそう言うと誠の手を引いて後部座席に座った。つられるようにそのまま島田も後ろの席に陣取り真ん中の席に座れるようにたたんでいた座席を上げた。

「もう少し奥に動いてくれ」 

 そう言うカウラにサラが座席をさらに後ろに下げる。誠はカウラに引かれて真ん中の席の中央に腰かけた。

「モテモテねえ、誠君は」 

 そう言うとパーラはエンジンをかけてすべての窓を開ける。

「クーラーつけないの?」 

「すぐにかけても意味無いわよ」 

 サラの言葉にパーラがやけ気味に言い返す。遼州ならではのディーゼルエンジンの振動が車内に響いて四輪駆動車が動き出した。

「そう言えば皆さんは……」 

「そうよ、遺伝子操作が生み出した生体兵器の成れの果て……まあブリッジクルーは全員そうなんだけど」

 誠の質問をさえぎってサラが答えた。

 ラストバタリオン計画。

 先の大戦で敗色濃厚になったゲルパルト帝国が兵士不足を補うために作り上げた人造兵士計画が生み出した遺物。

 遼州系では培養ポッドから出た彼女達に更生プログラムを受けさせて市民として受け入れることが多かった。誠と同じ幹部候補にも彼女等の仲間はいた。クローニングを基本とするため製造の容易な女性兵士が多く、彼と同じ教育課程にいたのも女性だった。

 しかし、カウラの態度はなんとなくそこから推測がついたがブリッジ三人娘の馴染みぶりは、誠のこれまでの既成概念を根底から覆すものだった。

「なんで司法局が私達みたいなのが一杯いるかって聞きたいんでしょ?まあ人手不足の部隊ではよくあることよ」

「そうなんですか……」 

 そっけない誠の返答に眉をひそめながらサラは続ける。

「それに本来の『高雄』の艦長の鈴木リアナお姉さんなんか結婚までしてるのよ!社会との付き合いは問題ありません!……ってお姉さんは産休中だから誠君とはしばらく会えないけどね」

 サラはそう言うとゲートを開ける警備兵に手を振る。 

「え!あ、ああそうですよね。鈴木って東和の苗字ですからね。でも……」 

 その時、彼の後ろに座っていたサラが、誠の頭を叩きながら顔を出してくる。

「何?あたし等は結婚しちゃ、恋しちゃだめって言うわけ?ねえ、誠君」 

 誠の方に顔を近づけてくるサラに、誠は思わず愛想笑いを浮かべた。

 そんな様子に気がついたのか、反対側に座っていたカウラが鋭い目つきでその二人の手を見据える。

「カウラちゃん、どうしたの?」 

 サラはとなりで咳払いをする島田の事を無視してカウラに話しかけた。

「二人とも!車の中よ!」 

 バックミラー越しに異変に気づいたパーラが思わず声を上げたのでサラは頭をひっこめた。

 誠はほっと一息ついてカウラのほうを見据えた。

 初めて会った時のカウラの気高そうな印象が、次第に誠には不器用さ故のしぐさのように誠には見えてきていた。

 誠は気の利いた台詞の一つでもひねり出そうとしたが、国語が苦手で私立理系に逃げた彼にはどうしてもいい台詞が思い浮かばない。車は菱川重工豊川工場の敷地を出て、産業道路と呼ばれる大型車が行きかう道路から外れた小道をかなりのスピードで走っていく。

「ラビロフ中尉、こんなに急がなくても……」 

 誠の言葉にパーラがバックミラーに笑みを浮かべた。

「そう言えばカウラは男子下士官寮って来たこと無いんだったっけ?」 

 サラがとぼけたようにそう言った。カウラは黙ってうなづく。

「汚いところですよ。それに建物は古いし」 

「誠君。それ言っちゃ駄目よ。家賃がタダなんだから文句言わない」 

 笑いながらサラが誠の言葉をさえぎる。 

「もうすぐね」 

 そんなサラの言葉に誠は車が見慣れた下士官寮から最寄のコンビニの隣の信号で止まっていることを確認した。

 ようやく全開で稼動していたエアコンが冷気を誠にも浴びせてくれるようになったばかりだった。だが四輪駆動車は誠の涼みたいと言う欲求を無視してアパートが続く町並みを抜けて下士官寮の駐車場に入り込んだ。
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