短編まとめ

あるのーる

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「んっ♡ふ、んんんっ♡♡」

 くちゅ♡ちゅぷ♡と小さく鳴る水音に、これまた小さく漏れる喘ぎ声。ホテルの一室、ベッドに仰向けに寝転ぶ幸田は、自らの下半身の前に陣取った男にアナルをかき混ぜられていた。
 両手にはベッドヘッドへ繋がる鎖の付いた手錠がかけられており、SMにも対応しているこのホテルに備え付けられている類の物にしてはしっかりとしたそれはいくら揺すっても外れる気配はない。足首にもそれぞれ同じように枷が付けられ、鎖の伸びる先は同じくベッドヘッド。そうしてでんぐり返しの途中の体勢で身動きの取れない状態にされた幸田はかれこれ1時間、男にアナルをほぐされていた。
 男との経験はなく当然使ったことなどなかった幸田のアナルは、今や蕩けて3本の指を容易に咥え込むほど。違和感しかなかった挿入感もゆっくり出し入れされる度にぞわぞわとした快感を産み出すようになっており、特に抜かれる時には思わず大きな声が出そうにまでなっている。

「声、抑えんなよ」
「っ♡うる、さ、ぁあっ♡あっ♡は、ふっ♡」
「はは、ケツぐっちゃぐちゃにして、ヤリチンが形無しだなぁ」
「ふっ♡ぅ♡くぅっ♡♡」
(ちくしょう! ちくしょう! なんで、こんなことに……っ!)

 揶揄する男の声に反論しようと口を開けば、ぐりっ♡と中の指を回され甲高い声を発してしまう。慌てて口を閉じキッと男を睨みつけるが、恥ずかしい部分を丸出しにして顔を赤くしている状態では欠片も怯ませることなどできないのは幸田も分かっていた。

「そんな可愛い顔して見られたら、もっと頑張りたくなっちゃうな。ほら、お前の好きなココ、弄ってやるよ」
「っあ゛♡やっ♡あ゛っ♡やめっ♡っ♡あ゛♡あ゛あ゛っ♡♡♡」

 曲げられた指が前立腺を捕らえ、こりゅこりゅと押し潰すようにして刺激してくる。すっかり性感帯として開発されたソコをそんなに強く弄られると堪らず幸田はビクビクと震えだし、頭を振って快感を逃がそうとするもあっけなく射精してしまった。
 その様子を上から見下ろす男を、幸田は息を荒げながら見上げる。普段は下ろされている黒い前髪がかき上げられ、予想外に整った顔は獲物を甚振る獣のように鋭い笑みを浮かべていた。

(くそっ、あの時、酔いつぶれなければ……)

 爛々と輝く目を前にして、幸田に浮かぶのは後悔。それもこれも今から数時間前、居酒屋にいた時から始まっていた。

・・・・・

「で、『行かないで!』って縋り付いてくるもんだから、俺も一晩だけならってホテルに誘ったワケよ。でもその女が外れでよぉ」
「えー、見た感じかなり可愛いじゃん。何がダメだったん?」
「それがさぁ、すーぐイくんだよ! 俺としては『女』を抱きたいわけだけど、潮まで吹いたらもう『メス』じゃん? こっちもびしょびしょになるし、もー最悪」

 がやがやと煩い居酒屋で、いつもの顔ぶれに囲まれた幸田はビール片手に自慢げに話をしていた。
 整った顔つきに引き締まった体、それに加えて人の懐に入り込むような性格、と一言でいえば幸田は『モテる』男である。
 中学生の時年上の女性と流されるように付き合った時から幸田が望めば彼女が途切れたことはなく、短期間の体だけの関係の相手も数えきれないほどいた。少し狙えば簡単に女をひっかけられると豪語する幸田は、実際にシたくなったらワンナイト目的の女性を見繕うため今では束縛されるのも面倒だと彼女すら作っていないほどだ。
 そんな経験豊富な幸田の話を笑いながら聞いているのは幸田の大学時代の悪友たちである。幸田には劣るがそれでも煌びやかな顔つきをしている男たちは、幸田と共によく集まって夜の街に繰り出してはナンパに勤しんだ仲間であった。社会人となった今では流石に遊び回ることはしないものの、一緒によくない遊びをした仲だと繋がりは強固でこうして頻繁に集まっては飲んでいるのである。
 話している内容はろくでもないが、離れたところから見れば目の保養にはなりそうな集団。その中に、一人だけ浮いた存在がいた。
 染めていない真っ黒な髪は、目元を隠すほどに長い。服も着れればいいとばかりにちぐはぐな組み合わせであり、幸田たちのオシャレ着の中にあると一層ダサく見えてしまっていた。

「そんで、下から突いてやると……遠藤、どうなったと思う?」
「……さぁ……」

 ペラペラと喋り続ける幸田、その会話の矛先がその地味な男へと向けられる。この店にきてから一言も喋らず静かにつまみを食べていただけの男に注がれる幸田たちの目はにやにやと歪んでおり、『お友達』を見るにしては嘲りの色があまりにも濃かった。
 その哀れな男、遠藤は幸田の同僚である。とはいっても幸田が営業部であるのに対して遠藤は開発部、普通に仕事をしているのならばほとんど接点など存在しないほどに会社内でのつながりは薄い。
 しかしなんの因果か同時期に入社した彼らは職場の同期会で顔を合せ、あからさまに人を避けるように会場の片隅でひっそり息を殺していた遠藤を幸田が目ざとく見つけたのだ。
 良くも悪くも常に華やかな生活をしていた幸田にとって、進んで暗がりに身を置くような遠藤は異質な存在。しかも話しかけるも鬱陶しそうに返答され、気に障りはしたもののこれから長い付き合いになるのだからと幸田なりに気を使って遠藤に絡んだのだが返されたのは塩対応である。無関心ともいえる遠藤の反応は自分が無条件で人に好かれる人間なのだと染み付いていた幸田の自尊心を酷く傷つけ、同期会が終わった後も暇を見つけては幸田は遠藤にやたらと構うようになっていた。
 そして面倒くさそうにあしらってくる遠藤の発したある言葉に、ようやく反撃のタネを見つけた幸田はこうして遠藤を連れ出してはしつこいほどに纏わりついている。もちろん仲良くなるため、ではない。

「あ、ごめんごめん! 遠藤は分からないよなぁ。だって……ど、う、て、い、だしな!!」
「……」

 ギャハハッ! と自らの言葉に耐えきれず噴き出した幸田に合わせて、遠藤以外の男たちは笑う。嘲笑の中ただ一人無言の遠藤は眉一つ動かしてはいないのだが、それは痩せ我慢なのだろうと思っている幸田。今まで過ごしてきた人生とつるんでいた仲間によって女性と関係を持った数こそが男の価値であると信じて疑っていない幸田は、誰とも関係を持っていない、つまりは童貞であることは何よりも恥ずべきことだと思い込んでいるのだ。
 とはいえ遠藤の女性遍歴を根掘り葉掘り聞いていた幸田に返ってきた答えは正確にいうと童貞を示すものではないのだが、遠藤が言外に含んだ意味を幸田は察することなく今に至る。
 そんなこんなで続く飲み会は、久しぶりとあってペースも早い。童貞弄りと自慢話をつまみにがぶがぶと酒を喰らい、気付けばいつもより大量のアルコールを摂取していた幸田。まともに歩けないほどべろべろに酔いつぶれた幸田は、誰かに腕を引っ張られ立ち上がったところで記憶を途切れさせた。
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