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成長の戦い

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「むぅん!!」

「ゴアア!!!」

 俺の拳と、ゴリラの拳が激突する。お互いの拳はお互いに一歩も引くことなく、拳圧でお互いに弾かれると言う結果に終わる。

 お互いにのけぞった俺とゴリラは、すぐさま体勢を立て直し、限界体制を崩さない。

(このゴリラ……牛程ではないにしろ、なんてパワーだ……反射をまとわせた拳を相殺するなんて……)

 さすがは猛獣の代表格ゴリラだ。その体から放たれる一撃は正しく人間離れ。パワーだけなら、神奈川のチェス隊など容易に上回っている。

「フッ!!」

 しかし、その程度で怯む俺ではない。格上の敵との戦いなら、死ぬほど経験してきた。

 今の俺にとってはそんなもの、恐怖になりはしない。

 俺は反射を足に使い、ゴリラに拳が届く距離まで一気に近づく。いつもやっている動きだが、今までの過激な戦いにより、その動きは進化。進化したその動きは、ジェット機を越えてまさに閃光。常人から見れば、本当にただの光にしか見えないんじゃないかと思うほど、鋭く速い動き。


 しかし…………


「ホッ……ホッ……」


(まじかよ……)


 相手は人間ではない。人間とは違う、脳の代わりに超人的な肉体を手に入れたジャングルの王者だ。それゆえに、その眼力も人間とは別次元。ギョロリと目を動かし、俺を目でしっかりと追う。

 ここで何故、俺がここまで驚いているのか。その理由は、"目"で俺を追っているからだ。

 今までの敵は、俺の事を目で追うのではなく、感じる殺気や風の動きで俺の場所を察知して対抗していた。

 しかし、このゴリラはあろうことか、目を動かして対応している。察知して対抗するのと、右手しっかりと見て対抗するのとでは、当然、その正確性は違う。おそらくゴリラの目には、しっかりはっきりと、俺の姿が写っているのだろう。

「ホゴアアァァ!!!」

 ゴリラは雄叫びを上げ、その太い腕で大きな拳をまるでミサイルかのように発射してくる。見えているのに回避せず、あえて向かってくる所には、ジャングルの王者としての貫禄を感じさせられた。


 そして、俺の拳とゴリラの拳がぐんぐん近づき……


 俺の拳の横を、ゴリラの拳が通り過ぎた。


「……チッ」


 なんとこのゴリラ、はっきりと俺が見えている事を利用し、俺の顔を狙うため、拳をわざと逸してきたのだ。無論、あんなものをもろに顔に受けてしまえば、顔面崩壊は逃れられない。

 なのでこの攻撃、避けるしかないのだ。

 回避しないなら顔面崩壊。回避したとしても、ゴリラにデメリットはない。まさに完璧な作戦だ。


 ……相手が俺じゃなければな。


「むんっ!」


 俺は閃光のような速度で移動する中、体をバネの様に捻り、ゴリラの拳を回避した。

 これにはゴリラも驚いた様で、ただでさえギョロリとした目をさらに大きく開き、驚きをあらわにしていた。

 それもそのはず、閃光の様な速度の中で、激しい動きをするのは、風の抵抗などの影響でほぼ不可能。それでもやるんだと無理矢理体を動かしてしまえば、体がぐちゃぐちゃになってしまうだろう。

 だとすれば何故、俺にはその動きができたのか。その理由は、俺のもう一つのスキル……"闘力操作"にある。

 闘力操作は単純に言えば肉体強化のスキル。肉体強化と言う内容自体は悪くないのだが、肉体を強化できる幅が少なすぎて、最初期は肉体強化したとしても何の役にもたたなかったスキル。

 だが、殺し合いをすればするほど、闘力が多くなっていくと言う特性を秘めていたのだ。

 そして俺は、夏から秋と言う短い時間の中で、濃密な殺し合いの日々を過ごしてきた。

 なのであの頃と比べれば、闘力の量は桁違い。

 つまり可能なのだ。

 闘力を全身に流し、ぐちゃぐちゃにならないように肉体強化することなど、容易なのだ。

 しかし、ゴリラの目は驚愕こそすれど、絶望には至らない。たった1発の拳など、何の支障もないと感じているのだろう。

 その自信は、目だけではなく、その肉体にも大いに表れている。

 その筋肉、まさに山。その体でどれほどの打撃を受け止め、自信を育んできたのかは容易に想像できる。

 そして、この打撃も容易に受け止めきれるだろう……



 無論、俺じゃなければだが。



「ハアア……!!!!」



 闘力プラス反射。これまで何回も行ってきた組み合わせ。この組み合わせ自体は物珍しいものではないが、前とは確実に変わった点が1つ。

 それは闘力の量だ。ただでさえ多かった闘力だが、前日に牛と戦った事で、その量はさらに上昇。既にその一撃は……





 筋肉の鎧を貫くほどに、強く、ただ強くなっていた。
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