上 下
139 / 151

不眠

しおりを挟む
「……………」

「……………」

 その日の夜12時。任務がない俺は袖女と一緒に我が家で夜を過ごしていた。

 ここ最近、夜の任務で忙しく、規則正しい時間に就寝するのは久しぶりで違和感を感じる。


 …………夜の任務ってなんかいかがわしいな。


 いや、そんな事なんてどうでもいい。せっかく時間が空いたのだ。あの牛の対抗策でも………


 ………悪い癖だ。せっかくリラックスできる時間なのに、ついつい何かについて考えてしまう。東一時代はこんな事なかったのだが……

(……ハカセと出会った時からかな……あの時も地獄だったが、今もそれなりに地獄だ……)

 あの時は次から次へと敵が現れて地獄だったが、今はいつ襲われるかわからない、そんな地獄になっている。

 というか、狙われているのかどうかすらもわからない。

「…………」

(このまま待つ姿勢になってしまっては、勢力が少ないこちら側が圧倒的に不利だ……かといって、本部に突入するのは論外……)

 とてつもないほど難しい。考えれば考えるほど、何故大阪派閥に喧嘩を売るような行為をしてしまったのだろうかと、昔の自分に問いただしたくなってしまう。

(あれはどうだ……? しかしそれだと……)

「………何か考えてますね?」

「………別に」

「嘘。絶対に何か考えてました」

「なんで言い切れんだよ」

「ずっと一緒にいたからです」

「………あっそ」

 ここまで筒抜けになっているとは。流石はチェス隊の洞察力と言った所か。

「せっかくあなたも休みなんですし、もうとっとと寝ましょう」

 そう言うと、袖女は体を起こし、俺に対してそう言ってくる。確かに、考えてしまう癖を考慮すると、寝てしまった方が大きな回復を見込めるだろう。

「それもそうだな」

 俺は袖女の意見に賛成し、自分の体を持ち上げる。

 リビングの電気を消し、袖女は洋室に移動。俺はリビングの電気を消した後、そのままベッドの中に潜り込んだ。


 そのまま目を閉じ、体を脱力させるわけだ………


 ゆっくり………


 そのまま………


 ……………………


(眠れん………!)


 もうすでに1時間経っていると言うのに、全くと言っていいほど眠れない。いつもなら、活発に動いている時間だからか、体がもぞもぞと動いてしまう。

「……………我慢ならん」

 俺はベッドの中でじっとしているのが嫌になり、むくりと起き上がってクローゼットの中に立て掛けてある黒ジャケットを着用し、玄関の前まで歩き出す。

 正直、このままでは寝られる気がしない。と言うわけで、夜の散歩で言うことを聞かない体を落ち着かせようと言うわけだ。

 外にはできるだけ出ないと言ったが、ゆうて10分位の外出だ。これぐらいなら支障は出ないだろう。

「ウウ………?」

「ん……ブラック……お前も行くか?」

「ワン!」

 どうやらブラックも俺についていくようだ。1人で行くよりは1人と1匹で行った方が心細くなくていい。

 早速、俺は玄関のドアノブをひねり、夜の街へと踏み込んだ。








 ――――








「おーさむさむ……」

 まだまだ冬では無いとは言え、今は9月中旬。黒ジャケットを着ていても、そこそこは寒い。

(……早めに帰るとするか)

 少し前まで暖かいベッドの中に居たからか、外の温度が相当寒く感じる。さすがにこんな状態で歩き回るのは嫌なので、当初よりも帰る時間を早めるとしよう。

「そこの道路曲がったら帰るか」

「ワン」

 俺の言葉にブラックも応答し、右の道路を曲がり、くるりと1回転。折り返して家へと………

「………ッ!!!」

 瞬間、空から鋭い殺気を感じる。こんな形で狙ってくると言う事は、おそらく不意打ち。しかし、ここまで正直に殺気を飛ばしてくると言う事は………

(いや、まずは回避が先だ!)

 俺は体が前のめりにし、飛び跳ねてその場からすぐにでも離れる。離れてから、一瞬でもともと俺がいた場所に砂嵐が舞う。何かが着地したのだ。

 しばらくすると、その砂嵐がゆっくりと晴れていく。

「…………やっぱ狙われてたか」

「ホッ、ホッ、ホーーーッ!!!!」

 そこには、1匹のゴリラがドラミングをしながらたたずんでいた。








 ――――








「…………なぜこんな回りくどいことをした?」

「どこが回りくどいんだい? 立派に彼が1人の所を狙ったじゃないか」

「ゴリラにしなくとも、雀なんかの小柄なのを使えば、不意打ちが成功したんじゃないのか」

「無理だよ。彼らは殺気が抑えきれない。動物たちは不意打ちが大の苦手なんだ。あーやって1人の所を狙えただけ上出来だよ」

「それに………今回の目的を忘れたのかい?」

「しかし………」

「強さの点なら問題ないよ。あのゴリラは十二支獣に迫る強さを持っているからね……彼にとっても、一筋縄ではいかない戦いになるだろう。さぁ、ポップコーンでも持ってきて、一緒に観戦しようじゃないか」

「…………そうだな」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

許嫁な婚約者~4番目の許婚候補after&番外編集~

富樫 聖夜
恋愛
『4番目の許婚候補』の本番後のSSや小話をまとめた番外編集です。ブログに掲載していたものやWeb拍手用小話などで、本編に入れるのに躊躇したもの(笑)もこちらに掲載していきたいと思います。未来編中心。ラブあり、エロありですが、基本は笑い――というかギャグに近いです。

自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!

ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。 ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。 そしていつも去り際に一言。 「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」 ティアナは思う。 別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか… そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。

そちらがその気なら、こちらもそれなりに。

直野 紀伊路
恋愛
公爵令嬢アレクシアの婚約者・第一王子のヘイリーは、ある日、「子爵令嬢との真実の愛を見つけた!」としてアレクシアに婚約破棄を突き付ける。 それだけならまだ良かったのだが、よりにもよって二人はアレクシアに冤罪をふっかけてきた。 真摯に謝罪するなら潔く身を引こうと思っていたアレクシアだったが、「自分達の愛の為に人を貶めることを厭わないような人達に、遠慮することはないよね♪」と二人を返り討ちにすることにした。 ※小説家になろう様で掲載していたお話のリメイクになります。 リメイクですが土台だけ残したフルリメイクなので、もはや別のお話になっております。 ※カクヨム様、エブリスタ様でも掲載中。 …ºo。✵…𖧷''☛Thank you ☚″𖧷…✵。oº… ☻2021.04.23 183,747pt/24h☻ ★HOTランキング2位 ★人気ランキング7位 たくさんの方にお読みいただけてほんと嬉しいです(*^^*) ありがとうございます!

あなたの浮気相手は人妻ですよ?

杉本凪咲
恋愛
婚約者のイアンと浮気をしていたのは同じクラスの男爵令嬢ラナ。 二人の関係を知った私は一人嘆き悲しんだ。 そして迎えた卒業パーティーでイアンは私に婚約破棄を告げる。 しかし第一王子であるエドが声を上げて……

ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?

望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。 ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。 転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを―― そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。 その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。 ――そして、セイフィーラは見てしまった。 目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を―― ※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。 ※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)

【R18】両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が性魔法の自習をする話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 「両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が初めてのエッチをする話」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/575414884/episode/3378453 の続きです。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

追放された魔女は、実は聖女でした。聖なる加護がなくなった国は、もうおしまいのようです【第一部完】

小平ニコ
ファンタジー
人里離れた森の奥で、ずっと魔法の研究をしていたラディアは、ある日突然、軍隊を率いてやって来た王太子デルロックに『邪悪な魔女』呼ばわりされ、国を追放される。 魔法の天才であるラディアは、その気になれば軍隊を蹴散らすこともできたが、争いを好まず、物や場所にまったく執着しない性格なので、素直に国を出て、『せっかくだから』と、旅をすることにした。 『邪悪な魔女』を追い払い、国民たちから喝采を浴びるデルロックだったが、彼は知らなかった。魔女だと思っていたラディアが、本人も気づかぬうちに、災いから国を守っていた聖女であることを……

処理中です...