上 下
133 / 151

返り討ち

しおりを挟む
 牛は今、歓喜に包まれていた。

 久々に主に命令を受け、望んだ今回の戦闘。

 正直な話、私が出るほどの存在なのかと。私が出るまでもないのではないかと思っていた。

 しかし、その予想はうれしい事に、裏切られる事となる。



 すばらしい。すばらしい人物だ。



 最初の女はスピードだけで、威力などまるで無かったが、次のこの男は違う。

 パワーもスピードも私が満足できるほどにあり、絡め手やこちらの動きを読んだ様な一撃。

 すばらしい。数十年前の殺し合い程とは言えないが、すばらしい腕の持ち主だ。

 確かにこれは、私が相手するべき敵だ。



 そう考えているうちに、頭と腹に良いものをもらった。



 嗚呼、この相手になら……



 本気を出しても壊れないだろう。








 ――――








「はーっはーっ…………」

 俺は今、どこかのよくわからない道路をどこに行っているのかもよくわからないまま、ひょこひょこと歩いていた。

(とにかく……遠くへ……)

 今の俺の状態は、左腕に袖女を担ぎ、体は腹だけではなく、体の至る所から血を吹き出している。コンディションも体力も最悪といえよう。

(まさかたった一撃だけで、ここまでダメージを負うとは……)

 一撃だった。

 たった一撃。されど一撃。あの巨体から放たれたたったひとつの拳は、まるでミサイルのように俺の腹に着弾した。

 普通、拳と言うのは面にしか衝撃を与えられない。ある1つの場所にしか、衝撃を与えることができないのだ。

 しかし、あの牛の一撃は、そんな戦闘に置いての常識すらもあざ笑うかのように、"爆発"した。

 拳の着弾点。腹にしか衝撃を与えられないはずの攻撃は、俺の腹に着弾した瞬間、爆発したかのように、腹だけではなく、俺のあらゆる体の部位に衝撃を与えたのだ。

 俺がさっきから言っている、爆発と言うのは比喩表現で実際には爆発なんてしていないのだろう。

 しかし、本当に爆発したと錯覚するほどに、俺の体のあらゆる部位は破壊されていた。

 それが牛のスキルなのかは分からないが、ともかくものすごい一撃だった。

 俺はその一撃だけで、こんなところにまで吹っ飛ばされ、今に至ると言うわけだ。

(1つランクが上がるだけで、あそこまで違うのか……)

 鼠とは、スキルの厄介さも基本スペックも段違い。別格の強さだった。これからは1つランクが上がるだけでも、用心して戦わなければならない。

(とりあえず今は……)

 俺と袖女を回復することのできる手段を確保しなければ。

 ……と、考えていると、近くに小さめの病院を見つけた。

「有難い……!!」

 既に深夜にもかかわらず、閉店の看板を気にせず、俺はロックされたドアを無理矢理こじ開け、病院の中に入る。

 病院の中に入ると、おそらくこの病院の医者であろう老人が、俺に背を向けている状態でパソコンを開き、業務をこなしていた。

「ん……? すいませんねぇ、うちはもう閉店で……」

「気にする必要はありませんよ」

 俺はそう言いながら、一瞬にして接近し、医者の頭を吹き飛ばした。

「少しポーションをいただくだけなので」








 ――――








「こんなもんだな……」

 俺は医者を殺害した後、奥の倉庫にあった上級ポーションをあるだけ俺と袖女にかけまくった。

 おかげで俺も普通に歩けるまでは回復し、袖女は出血が止まって肌に潤いが戻り始めた。人の体が治る光景を実際に見ていると、今の技術の凄さを痛いほど体感させられる。

 スキルの無い時代に薬と言うものを開発した人間には、もう頭が上がらない。

 そして俺は、医者が起動しっぱなしだったパソコンを使い、今ここがどこなのかを特定する。

「……! かなり遠いな」

 どうやら我が家とは逆方向に飛ばされた様で、我が家からはかなりの距離がある。都市は大阪派閥本部のある都市と変わらないが、だいぶ遠いところまで吹っ飛ばされたようだ。

「こりゃ帰る頃には朝だな……」

 長い夜になることを覚悟し、袖女を担いで外に出た。








 ――――








 同時刻、とある1室。

「まさかの結果だね……」

「ああ、まさか鼠が殺されるとはな」

「いや、違うよネーリエン。僕が驚いているのはそこじゃない。ネームドであるタウロスが全力を出したことに驚いているのさ」

「ならばベドネ、お前は鼠が殺されるのはわかっていたと?」

「いや? 僕も鼠が死ぬとは思ってなかった。しかしまぁ……鼠はhyper1人程度の強さしかないからね。もしかしたらとは思っていたけど……って感じだね。だから本当に驚いているのさ。タウロスに全力を出させた彼にね……興味が湧いてきたよ」

「ほう…………」

「調べてみたいね……彼の事を」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~

尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。 だがその瞬間、妹たち共々『魔力満ちる世界エゾン・レイギス』に異世界召喚されてしまう。 全ての人間を滅ぼそうとうごめく魔族の長、大魔王を倒す星剣の勇者として、セカイを護る精霊に召喚されたのは妹だった。 勇者である妹を討つべく襲い来る魔族たち。 そして慧河より先に異世界召喚されていた慧河の元上司はこの異世界の覇権を狙い暗躍していた。 エゾン・レイギスの人間も一枚岩ではなく、様々な思惑で持って動いている。 これは戦乱渦巻く異世界で、妹たちを護ると一念発起した、勇者ではない只の一人の兄の戦いの物語である。 …その果てに妹ハーレムが作られることになろうとは当人には知るよしも無かった。 妹とは血の繋がりであろうか? 妹とは魂の繋がりである。 兄とは何か? 妹を護る存在である。 かけがいの無い大切な妹たちとのセカイを護る為に戦え!鳴鐘 慧河!戦わなければ護れない!

あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己
ファンタジー
祖国が田舎だってわかってた。 電車もねえ、駅もねえ、騎士さま馬でぐーるぐる。 信号ねえ、あるわけねえ、おらの国には電気がねえ。 そうだ。西へ行こう。 西域の大国、別名冒険者の国ランゴバルドへ、ぼくらはやってきた。迷宮内で知り合った仲間は強者ぞろい。 ここで、ぼくらは名をあげる! ランゴバルドを皮切りに世界中を冒険してまわるんだ。 と、思ってた時期がぼくにもありました…

新人神様のまったり天界生活

源 玄輝
ファンタジー
死後、異世界の神に召喚された主人公、長田 壮一郎。 「異世界で勇者をやってほしい」 「お断りします」 「じゃあ代わりに神様やって。これ決定事項」 「・・・え?」 神に頼まれ異世界の勇者として生まれ変わるはずが、どういうわけか異世界の神になることに!? 新人神様ソウとして右も左もわからない神様生活が今始まる! ソウより前に異世界転生した人達のおかげで大きな戦争が無い比較的平和な下界にはなったものの信仰が薄れてしまい、実はピンチな状態。 果たしてソウは新人神様として消滅せずに済むのでしょうか。 一方で異世界の人なので人らしい生活を望み、天使達の住む空間で住民達と交流しながら料理をしたり風呂に入ったり、時にはイチャイチャしたりそんなまったりとした天界生活を満喫します。 まったりゆるい、異世界天界スローライフ神様生活開始です!

目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう

果 一
ファンタジー
目立つことが大嫌いな男子高校生、篠村暁斗の通う学校には、アイドルがいる。 名前は芹なずな。学校一美人で現役アイドル、さらに有名ダンジョン配信者という勝ち組人生を送っている女の子だ。 日夜、ぼんやりと空を眺めるだけの暁斗とは縁のない存在。 ところが、ある日暁斗がダンジョンの下層でひっそりとモンスター狩りをしていると、SSクラスモンスターのワイバーンに襲われている小規模パーティに遭遇する。 この期に及んで「目立ちたくないから」と見捨てるわけにもいかず、暁斗は隠していた実力を解放して、ワイバーンを一撃粉砕してしまう。 しかし、近くに倒れていたアイドル配信者の芹なずなに目撃されていて―― しかも、その一部始終は生放送されていて――!? 《ワイバーン一撃で倒すとか異次元過ぎw》 《さっき見たらツイットーのトレンドに上がってた。これ、明日のネットニュースにも載るっしょ絶対》 SNSでバズりにバズり、さらには芹なずなにも正体がバレて!? 暁斗の陰キャ自由ライフは、瞬く間に崩壊する! ※本作は小説家になろう・カクヨムでも公開しています。両サイトでのタイトルは『目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう~バズりまくって陰キャ生活が無事終了したんだが~』となります。 ※この作品はフィクションです。実在の人物•団体•事件•法律などとは一切関係ありません。あらかじめご了承ください。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

そんなにホイホイ転生させんじゃねえ!転生者達のチートスキルを奪う旅〜好き勝手する転生者に四苦八苦する私〜

Open
ファンタジー
就活浪人生に片足を突っ込みかけている大学生、本田望結のもとに怪しげなスカウトメールが届く。やけになっていた望結は指定された教会に行ってみると・・・ 神様の世界でも異世界転生が流行っていて沢山問題が発生しているから解決するために異世界に行って転生者の体の一部を回収してこい?しかも給料も発生する? 月給30万円、昇給あり。衣食住、必要経費は全負担、残業代は別途支給。etc...etc... 新卒の私にとって魅力的な待遇に即決したけど・・・ とにかくやりたい放題の転生者。 何度も聞いた「俺なんかやっちゃいました?」       「俺は静かに暮らしたいのに・・・」       「まさか・・・手加減でもしているのか・・・?」       「これぐらい出来て普通じゃないのか・・・」 そんな転生者を担ぎ上げる異世界の住民達。 そして転生者に秒で惚れていく異世界の女性達によって形成されるハーレムの数々。 もういい加減にしてくれ!!! 小説家になろうでも掲載しております

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

処理中です...