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虎 その2
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「い!?」
俺は素頓狂な声を上げながら、5本の爪のような衝撃を空中で体を捻って回避する。東一にいた時では絶対に不可能な動き。2ヶ月半と言う少ない期間だが、その2カ月間の内容の濃さが、今の俺にその動きを可能としていた。
俺はそのまま瓦礫に着地し、靴の裏にしっかりと瓦礫をかませ、グリップを効かせて踏みとどまる。
「くっそ……」
後ろから聞こえる破壊音はもう気にしない。絶大な威力な事は直感で分かった。今頃威力を確認する必要はない。どちらにしても死ぬのだから。
むしろ、その威力を確認しようとして、あの虎から視線を外してしまう方が危ない。今はあの虎から視線を離してはだめだ。
「ゴルルルル……」
俺は全身に闘力をたぎらせ、虎をしっかりと見すえる。
そんな中、当の本人の虎は右足を上げたまま動かない。おそらくあの右足から衝撃波を放ったのだろう。衝撃波が5本だったのも、その鋭利な爪から放ったからに違いない。
俺の体のダメージは、闘力操作でカバーできても、体力だけはさすがにカバーできない。あんな遠距離攻撃がそこまではっきりした隙もなく、足を振り上げるだけで発生すると思うとぞっとする。
あれを何回も連続で使用されれば、回避するだけで体力ほとんどほとんど全部使ってしまう。
(つまり……結局は……)
いつも通り、近づかなければならない。
もっとも今回、近づいたとしても、ダメージを与えられるとは限らないのだが……それでも近づかなければダメージを与えられるチャンスすらもらえない。
あの虎の下へ移動するため、最初の一歩踏み出すと……
ヒュッと虎が消える。
「なっ……」
ありえない。あの巨体がいきなり消えるなんてそんなことが――
瞬間、地面がひっくり返る。
「…………え?」
逆さになった地面、その地面は動きを止めることを知らず、俺の視点からは右へ左へ、地面が移動していく。
これは一体どういうことなのか、それを理解するには、少しの時間が必要だった。
地面が移動し続けてしばらく、ようやっとその現状を理解した俺は、その受け止めがたい現状に思わず笑ってしまう。
「ああ、そうか……俺……」
「ぶっ飛ばされたんだ」
やっとこさ俺の現状を理解した時は、俺が地面に落下しはじめた時と同時刻。頭から瓦礫の山に落下した。
「う、ぐう……がぁ……」
(いっ……て……)
頭から地面に着地した衝撃で、右へ左で動いていた地面がぐにゃりと曲がり始める。この現象を治すためには、数秒間の時間が必要だった。
……が。
敵がうまく動けない。そんな絶好のタイミングを、あの虎が逃すわけがなかった。
曲がりくねった視界の中で、ひときわ目立つ黄土色が音を立てて大きくなり始める。地面が揺れることにより、ただでさえ歪む視界がさらに揺れ、視界がゲロのようにぐちゃぐちゃになっていく。
だが、そんなゲロのような視界の中でも、黄土色の物体は確かに大きくなってきていた。
(かわせ、かわせ、かわせ!!!)
俺は、手や足の感覚に集中する。視界が役に立たなくとも、瓦礫の感覚だけで、横に飛んで回避しようとする。
誰しもが経験したことがあるだろう、熱が出たときに、本当にゲロが出そうになると気持ち悪くて視界が悪くてもトイレに向かってダッシュしてしまう、あの感覚に近い。
黄土色の物体がもうすぐそこまで迫る。
……が、開始するタイミングが早すぎても、虎に回避することを気付かれ、方向転換されてしまってはいけない。そうなってしまえば一発アウト。血まみれの肉塊になる事は間違いない。
(タイミングを見計らないと……)
まだ、まだまだ。黄土色の物体が、ぐにゃぐにゃと曲がりくねる視界の中いっぱいになるまでじっと我慢だ。
まだ……
まだまだ……
黄土色の物体は、どんどん大きくなり……やがて、黄土色の物体が視界いっぱいに広がった。
(今だ!!!!)
今しかない。今を逃せば俺は肉塊だ。
俺は横に一気にとびはね、回避しようとした……
(よし!! ここでこの攻撃を回避した後、体制を立て直せば……)
そう、今この攻撃を回避すれば、この視界の歪みを元に戻し、体制を立て直すことができる。
……しかし、それは回避できればの話。
「……っ!! がぁぁぁ!!!」
飛び跳ねた瞬間、右足に感じる痛み。こんな状況で感じる痛みの元凶など、1つしか存在しなかった。
「あ、あああ……」
足が。
喰われた。
俺は素頓狂な声を上げながら、5本の爪のような衝撃を空中で体を捻って回避する。東一にいた時では絶対に不可能な動き。2ヶ月半と言う少ない期間だが、その2カ月間の内容の濃さが、今の俺にその動きを可能としていた。
俺はそのまま瓦礫に着地し、靴の裏にしっかりと瓦礫をかませ、グリップを効かせて踏みとどまる。
「くっそ……」
後ろから聞こえる破壊音はもう気にしない。絶大な威力な事は直感で分かった。今頃威力を確認する必要はない。どちらにしても死ぬのだから。
むしろ、その威力を確認しようとして、あの虎から視線を外してしまう方が危ない。今はあの虎から視線を離してはだめだ。
「ゴルルルル……」
俺は全身に闘力をたぎらせ、虎をしっかりと見すえる。
そんな中、当の本人の虎は右足を上げたまま動かない。おそらくあの右足から衝撃波を放ったのだろう。衝撃波が5本だったのも、その鋭利な爪から放ったからに違いない。
俺の体のダメージは、闘力操作でカバーできても、体力だけはさすがにカバーできない。あんな遠距離攻撃がそこまではっきりした隙もなく、足を振り上げるだけで発生すると思うとぞっとする。
あれを何回も連続で使用されれば、回避するだけで体力ほとんどほとんど全部使ってしまう。
(つまり……結局は……)
いつも通り、近づかなければならない。
もっとも今回、近づいたとしても、ダメージを与えられるとは限らないのだが……それでも近づかなければダメージを与えられるチャンスすらもらえない。
あの虎の下へ移動するため、最初の一歩踏み出すと……
ヒュッと虎が消える。
「なっ……」
ありえない。あの巨体がいきなり消えるなんてそんなことが――
瞬間、地面がひっくり返る。
「…………え?」
逆さになった地面、その地面は動きを止めることを知らず、俺の視点からは右へ左へ、地面が移動していく。
これは一体どういうことなのか、それを理解するには、少しの時間が必要だった。
地面が移動し続けてしばらく、ようやっとその現状を理解した俺は、その受け止めがたい現状に思わず笑ってしまう。
「ああ、そうか……俺……」
「ぶっ飛ばされたんだ」
やっとこさ俺の現状を理解した時は、俺が地面に落下しはじめた時と同時刻。頭から瓦礫の山に落下した。
「う、ぐう……がぁ……」
(いっ……て……)
頭から地面に着地した衝撃で、右へ左で動いていた地面がぐにゃりと曲がり始める。この現象を治すためには、数秒間の時間が必要だった。
……が。
敵がうまく動けない。そんな絶好のタイミングを、あの虎が逃すわけがなかった。
曲がりくねった視界の中で、ひときわ目立つ黄土色が音を立てて大きくなり始める。地面が揺れることにより、ただでさえ歪む視界がさらに揺れ、視界がゲロのようにぐちゃぐちゃになっていく。
だが、そんなゲロのような視界の中でも、黄土色の物体は確かに大きくなってきていた。
(かわせ、かわせ、かわせ!!!)
俺は、手や足の感覚に集中する。視界が役に立たなくとも、瓦礫の感覚だけで、横に飛んで回避しようとする。
誰しもが経験したことがあるだろう、熱が出たときに、本当にゲロが出そうになると気持ち悪くて視界が悪くてもトイレに向かってダッシュしてしまう、あの感覚に近い。
黄土色の物体がもうすぐそこまで迫る。
……が、開始するタイミングが早すぎても、虎に回避することを気付かれ、方向転換されてしまってはいけない。そうなってしまえば一発アウト。血まみれの肉塊になる事は間違いない。
(タイミングを見計らないと……)
まだ、まだまだ。黄土色の物体が、ぐにゃぐにゃと曲がりくねる視界の中いっぱいになるまでじっと我慢だ。
まだ……
まだまだ……
黄土色の物体は、どんどん大きくなり……やがて、黄土色の物体が視界いっぱいに広がった。
(今だ!!!!)
今しかない。今を逃せば俺は肉塊だ。
俺は横に一気にとびはね、回避しようとした……
(よし!! ここでこの攻撃を回避した後、体制を立て直せば……)
そう、今この攻撃を回避すれば、この視界の歪みを元に戻し、体制を立て直すことができる。
……しかし、それは回避できればの話。
「……っ!! がぁぁぁ!!!」
飛び跳ねた瞬間、右足に感じる痛み。こんな状況で感じる痛みの元凶など、1つしか存在しなかった。
「あ、あああ……」
足が。
喰われた。
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