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体の性質

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 その日の夜。

 俺とハカセはテントの中で弁当を食っていた。

「……そういえば、ハカセ」

「ん?」

「顔写真付きで俺たちのことがニュースに乗ってたんだ……これからは、もはや顔を見せることすら難しくなってくるかもしれない」

 深刻な顔で、俺が今朝のことを話すと、ハカセはフッと笑い話してくれた。

「何ゆっとるんじゃ。ニュースの影響力などそれほどあるわけでもないわい。なんなら素顔を晒して歩いても、ばれんと思うぞ?」

「……そんなもんか」

「そんなもんじゃ」

 そう言って俺たちは就寝する。きたるべき時に向けて。








 ――――








 …………1週間が経った。

 えぐい。いろんな意味でえぐすぎるぞ俺の体。
 毎日、腹筋や腕立て伏せなどのトレーニングを続けてやっていた。

 ……結果。

(……全く筋力がつかん)

 筋力がついた感じがしない。すぐ飽きてしまう。
 スキルとは違い、いろんな発見といったものが全くないので、飽きがめちゃくちゃ早いのだ。

 ……それにより、この1週間は闘力操作による肉体強化を慣れさせるだけとなった。

 ぱっと見、昔の俺の肉体とは思えないほど腹がスカスカになったが、それは長い間、食料を口にしなかったからだ。

 少し訓練の方向性を変える必要があるかもな……








 ――――








 次の日、俺はスキルを扱う方向性にシフトしていた。

 体のほうはもう無理だ。シンプルに時間が足りないかつ、俺の体がトレーニング向きじゃない。

 これからも毎日トレーニングは続けていくが、これだけで1日を終えるならば、スキルを伸ばす方向にも時間をかけていきたいところである。
 と言う事で、仮想敵を作って訓練していこう。

 今俺が越えるべきは…………

「……お前か」

 目の前に現れたのは……

 あの袖女だった。

 俺が戦った中で最強の個……才華も考えたが、一度戦った相手の方がイメージしやすいと思い、あの袖女にした。

「だっ!!!」

 俺は袖女に向かって一気にダッシュして右手でパンチを繰り出す。袖女はそれに対抗し俺の拳をいなしてくる。
 だが、そんなことは俺も想定済みだ。左手で顔を殴りにかかる。

 袖女はそんなことわかっていたかと思うような目で顔を逸してかわしてきた。
 いなされた右腕を戻してもう一度殴る。またいなされる。左手でまた殴る。かわされる。

 殴る。

 かわされる。

 殴る。

 いなされる。

 蹴りを入れる。

 かわされる。

 袖女は余裕綽綽といった表情だが、俺だって全力を出しているわけではない。右手のパンチで腹に殴りかかる。袖女はまたいなそうとしてくるが、ここは俺の作戦を使うことにする。殴ろうとして振りかぶる瞬間、闘力操作を使うことによって身体能力を上げることにより、一気に体のスピードを上げる。人間と言うのは予想外のことが起きると硬直するものだ。

 それはどんな人間でも例外ではない。もちろん目の前の袖女もだ。急に早くなったスピードに戸惑っていた。

(入った!!)

 そう思った。

 だが……

「はっ?」

 袖女も急にギアをあげてきた。凄まじいスピードで俺の拳を交わし、腹に蹴りを入れてくる。

 しかし、伊達に反射を研究してきたわけではない。

 腹に事前に反射をかけておくことできっちりとガードしていた。

 案の定、蹴りをはじかれ袖女は後ろに吹っ飛んでいく。

 ……待てよ? 後ろ?

「!! しまっ……」

 袖女は正拳付きの構えをとって、拳を振り抜いた。

 オーラナックル……負けた。

 闘力を両腕に集めてガードできたとしても2回目は防げない。死ぬまでの時間を延長するのが精一杯だろう。

「……ふう」

 まだまだだな。イメージとは言え、ここまで手玉に取られると少し落ち込んでしまう。




 ……だが、車の時よりは戦えたような気がした。


 …………よし、これからはこのスタンスで行こう!!
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