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第二章 異世界に飛ばされて

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 「なんかさ…極端に小さい犬とかもだけど、人工的に作られたような見た目の動物が好きじゃないんだよ」 

 その気持ちはよく分かる気がして、私は深く頷いた。動物に罪はないが、何だか見ていて不安になるのだ。見るからにか弱い、自然の摂理に反した風貌に庇護欲をかき立てられる人もいるだろう。だが私は苦手だった。おそらくケンさんもそうなのだろう。謎の生き物は、何か言いたげに二足立ちで私を見上げて小さく鳴いた。

 「ゥ…ア…ア…」

 キュウとかチューチューとかじゃないんだ、と私は思った。思ったより低い、何だか人間くさい声だ。着ぐるみの中身をうっかり見てしまったような気分になり、泥とイチゴの汁で汚れたその顔から私は目を背けた。

 「でもケンさん、この動物意外と逞しいんじゃない?だってあんなにイチゴをいっぱい食べて、野生で生きてたわけでしょう」

 「確かにね。この一匹の仕業だってまだ決まったわけじゃないけど、強かだろうね」

 「ね。…とりあえずこれ、移動させない?病気とか寄生虫持ってるかもしれないし、畑に放置するの気になる」

 「あ、そうだね。人が通らないところに置いとこう」

 ケンさんは箱罠を持ち上げ、畝の間をすいすい歩いて庭のすみっこに運んだ。そして手入れをつい後回しにしてしまう、ドクダミが生い茂るただ中に罠をガシャリと置いた。

 「よし、ここなら誰も来ない」

 人間よりも嗅覚が鋭いであろう動物にはドクダミの匂いがきついのか、罠の中からヴーッという声が聞こえたが、私もケンさんもスルーした。この生物をどうするか確定するまでは、ここに置いておくのがいいだろう。

 この土地で暮らすようになるまで私は全然知らなかったが、害獣の処分方法は種類によって全然違う。例えば、ネズミなら燃えるゴミに出せる。粘着シートタイプの罠にかかったネズミなどは、新聞紙にくるむなどして生きたまま捨ててしまってもOKだ。その事実を初めて聞いたとき私は衝撃を受けたが、それを教えてくれたケンさんは平然としていた。

 「昔は生きたまま川に流したりしてたけどね。それか、袋に入れてコンクリに叩きつけて殺してから林に埋めたり。でも最近はみんなゴミの日に出してると思うよ」

 「おおぉぅ…」

 びっくりしたが、今思うとびっくりすることでもなかったのかもしれない。手段や対象が変わるだけで、いつの時代だって人間は自分たちより弱い生き物を容赦なく犠牲にして生きている。自分たちの健康で文化的な、自己中心的な生活を守るために。私たちは傲慢で、業の深い生き物だ。だからこそ、事実から目を背けてはいけないだろう。

 ケンさんは他にも色々なことを教えてくれた。例えば、イタチやアライグマ、ハクビシンなんかは鳥獣保護法の関係で殺処分するにも自治体に届け出る必要がある。なるべく苦しまないよう、ガスを使って殺すことが多いらしい。

 (これも多分、そういう流れで片付けることになるのかな…)

 私は謎生物を見下ろしながら思った。大事なイチゴを食い荒らした憎い畜生とはいえ、少し申し訳ないような気持ちがした。私の気持ちを察したのか、ケンさんが明るい声で言った。

 「とりあえず家に戻って、朝ご飯食べよっか。…あとごめん、一つ大事なこと言うの忘れてた」

 「え…なあに?」

 「誕生日おめでとう」

 「あ、そうだった!ありがとう!」

 朝起きたときは覚えていたのに、すっかり頭から飛んでいた。二十七歳の幕開けは、奇妙な日々の始まりでもあった。
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