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第一章 幸せだったちいたん
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「ちいたん、きょうのおやつはちいたんの大好きないちごのショートケーキだよ!」
「ワァ~ィ!」
ちいたんはまんまるな目をキラキラと輝かせ、人間もどきのような奇声を発した。見るからにぽよぽよとした真っ白な体に、小さな丸い耳と丸い尻尾。そして、よく肥えた女の臀部のようにむっくりとしたマズルをもったちいたんは、「ラブリーちいふわ族」、通称ちい族と呼ばれる種族の愛玩動物だ。ちい族はおそらくこの世界で最も可愛がられ、大切にされている存在だと言えるだろう。
見た目が愛らしいだけでなく、大人しく無害。表情豊かで愛嬌があり、しかも知能が高くしつけもしやすい。それどころか簡単な人語なら理解し、言葉でコミュニケーションをとることもできる。体臭も少なく、無駄吠えもしない。――ここまでなら、理想的なペットのように思えるだろう。
ちい族を飼うにあたって、一つ大きな難点がある。それは非常に餌代がかさむことだ。ちい族の主食は甘い菓子だ。クッキーやケーキ、プリン、シュークリーム、ドーナツ、チョコレート。限度はあるが、砂糖や油脂を多く摂取してもちい族は人間よりも病気になりにくい。糖分や脂肪分は内臓や血管周辺にはつきにくく、ほとんどは衝撃や寒さから体を守る皮下脂肪になる。コロコロした愛嬌たっぷりの体や、まんまるでもちもちのほっぺなどを維持するためにも、甘い物は必要不可欠なのである。
食べるのは菓子だけではない。ちい族は人間に似た味覚と頑丈な消化器官を持つと考えられており、菓子の他にも色々な食べ物を好む。基本的には子ども舌で、辛みや酸味、苦みの強いものは苦手とする個体が多いが、パンや米、麺類などは喜んで食べる。唐揚げやウインナー、ナゲットやポテトなどもちい族に人気がある。
しかも見た目に似合わず大飯食らいで、身体の大きさに対して理不尽なほどよく食べる。幸せそうに食べる姿に数多の人間が夢中になっているらしい。セレブリティたちにも大人気で、高級ブランドや各メーカーは競うようにちい族向けの服やアクセサリー、食品、おもちゃ、家具等々を展開している。
想像はたやすいだろうが、大量の餌を必要とするちい族を飼えるのは主に金持ちだけだ。ちい族の寿命が尽きるまで世話をすることを想定すると、食費だけでも大体五百万から六百万円はかかるらしい。ペット一匹にそれだけかけようと思えるのは、金持ちか熱狂的なちい族愛者だけだろう。
この話の主役であるちいたんも、他の多くのちい族同様に裕福な家庭で暮らしている。十歳の女の子ベリー・ストロベリ・キャンディ・キングダムのために、彼女の両親はちい族専門のブリーダーからちいたんを購入した。ウサギのように耳の長いものや、ハチワレネコのような特徴を持ったもの、フワフワの頬毛とフサフサの尻尾が愛らしいものなど、可愛いちい族の赤ん坊が何匹もいる中で、なぜベリー・ストロベリ(以下略)がちいたんを選んだのかはよく分からない。
ちい族の中では最もありきたりな白い短毛。小さい耳と丸い尻尾も、ありふれているため人気は高くない。それに加えて、顔も典型的なちい族フェイスで没個性的だった。可愛いともてはやされるようなタイプでは全くない。しかも取り立てて性質が良いわけでもない。賢くもなければ人懐っこくもなかった。他の個体との違いを挙げるとするならば、せいぜい少し太っていて、やや愚鈍そうというところだろう。
もしかしたらベリー(以下略)は、そんなちいたんに自分を重ねていたのかもしれない。世界という物は残酷で、大抵の女の子は十歳にもなれば自分がどれぐらい可愛いか、または可愛くないかということに気づくものである。自分の頭があまり良くないことにも、これといって秀でたところがないことにも気づき始めていた彼女は極度の人見知りでもあり、友達がひとりもいなかった。それもあってか、ちいたんを盲目的に可愛がった。自分を溺愛する両親と全く同じように、ちいたんを愛したのである。
「ワァ~ィ!」
ちいたんはまんまるな目をキラキラと輝かせ、人間もどきのような奇声を発した。見るからにぽよぽよとした真っ白な体に、小さな丸い耳と丸い尻尾。そして、よく肥えた女の臀部のようにむっくりとしたマズルをもったちいたんは、「ラブリーちいふわ族」、通称ちい族と呼ばれる種族の愛玩動物だ。ちい族はおそらくこの世界で最も可愛がられ、大切にされている存在だと言えるだろう。
見た目が愛らしいだけでなく、大人しく無害。表情豊かで愛嬌があり、しかも知能が高くしつけもしやすい。それどころか簡単な人語なら理解し、言葉でコミュニケーションをとることもできる。体臭も少なく、無駄吠えもしない。――ここまでなら、理想的なペットのように思えるだろう。
ちい族を飼うにあたって、一つ大きな難点がある。それは非常に餌代がかさむことだ。ちい族の主食は甘い菓子だ。クッキーやケーキ、プリン、シュークリーム、ドーナツ、チョコレート。限度はあるが、砂糖や油脂を多く摂取してもちい族は人間よりも病気になりにくい。糖分や脂肪分は内臓や血管周辺にはつきにくく、ほとんどは衝撃や寒さから体を守る皮下脂肪になる。コロコロした愛嬌たっぷりの体や、まんまるでもちもちのほっぺなどを維持するためにも、甘い物は必要不可欠なのである。
食べるのは菓子だけではない。ちい族は人間に似た味覚と頑丈な消化器官を持つと考えられており、菓子の他にも色々な食べ物を好む。基本的には子ども舌で、辛みや酸味、苦みの強いものは苦手とする個体が多いが、パンや米、麺類などは喜んで食べる。唐揚げやウインナー、ナゲットやポテトなどもちい族に人気がある。
しかも見た目に似合わず大飯食らいで、身体の大きさに対して理不尽なほどよく食べる。幸せそうに食べる姿に数多の人間が夢中になっているらしい。セレブリティたちにも大人気で、高級ブランドや各メーカーは競うようにちい族向けの服やアクセサリー、食品、おもちゃ、家具等々を展開している。
想像はたやすいだろうが、大量の餌を必要とするちい族を飼えるのは主に金持ちだけだ。ちい族の寿命が尽きるまで世話をすることを想定すると、食費だけでも大体五百万から六百万円はかかるらしい。ペット一匹にそれだけかけようと思えるのは、金持ちか熱狂的なちい族愛者だけだろう。
この話の主役であるちいたんも、他の多くのちい族同様に裕福な家庭で暮らしている。十歳の女の子ベリー・ストロベリ・キャンディ・キングダムのために、彼女の両親はちい族専門のブリーダーからちいたんを購入した。ウサギのように耳の長いものや、ハチワレネコのような特徴を持ったもの、フワフワの頬毛とフサフサの尻尾が愛らしいものなど、可愛いちい族の赤ん坊が何匹もいる中で、なぜベリー・ストロベリ(以下略)がちいたんを選んだのかはよく分からない。
ちい族の中では最もありきたりな白い短毛。小さい耳と丸い尻尾も、ありふれているため人気は高くない。それに加えて、顔も典型的なちい族フェイスで没個性的だった。可愛いともてはやされるようなタイプでは全くない。しかも取り立てて性質が良いわけでもない。賢くもなければ人懐っこくもなかった。他の個体との違いを挙げるとするならば、せいぜい少し太っていて、やや愚鈍そうというところだろう。
もしかしたらベリー(以下略)は、そんなちいたんに自分を重ねていたのかもしれない。世界という物は残酷で、大抵の女の子は十歳にもなれば自分がどれぐらい可愛いか、または可愛くないかということに気づくものである。自分の頭があまり良くないことにも、これといって秀でたところがないことにも気づき始めていた彼女は極度の人見知りでもあり、友達がひとりもいなかった。それもあってか、ちいたんを盲目的に可愛がった。自分を溺愛する両親と全く同じように、ちいたんを愛したのである。
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