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心の空
しおりを挟む夏の暑い盛り。一人の男が中庭に胡坐をかき、酒を呷っていた。彼は姓を呂、名を布、字を奉先という。
「フンッ、あの能無しの豚めが!!」
そういって、手酌で杯に注ぐとそれをまた一気に煽る。それでも一向に酔うことはない。むしろ逆に頭は冴えていた。思い出すだけでも忌ま忌ましい、昼間の出来事に呂布は酒を呷ることで憂さを晴らそうとしていた。だが、酒が不味くなるだけで一向に気は晴れない。
「今宵の奉先様は随分と荒れておいでですね」
「貂蝉……」
「隣に座ってもよろしいですか?」
「好きにしろ!」
「では、そうさせていただきます」
隣に座ったのは司徒・王允の娘で、董相国の寵姫・貂蝉だった。呂布はなぜここに貂蝉がいるのか分からず、眉を顰める。それをクスクスと笑う貂蝉。呂布はますます不機嫌になった。
「文遠様ですよ」
「文遠、だと?」
文遠とは自身の部下・張遼の字だ。呂布は更に不機嫌になった。つまり、貂蝉は今日宮中で自分が董相国に罵倒されたことを知っているということだ。そして、それを知らせた文遠から、自分を慰めてほしいと頼まれたに違いない。あの男は自分が貂蝉に気があることを知っているのだから……。
「酒ならば私が注ぎましょう」
「…………」
呂布はは無言で杯を貂蝉の前に差し出した。貂蝉は何も言わず、ただ微笑み酒を注いだ。
「そのように杯ばかり見ていても気は晴れませぬよ」
「なら、どうしろと?」
「そうですねぇ」
「?」
「空を見上げられてみてはいかがですか?」
「空、だと?」
貂蝉につられて呂布は夜空を見上げた。そこに広がるのは満天の星空。今宵は新月ということもあり、星が身近に感じられた。その中央には川のように集まる星々が見える。そして、呂布は思い出す。今宵が七夕であると……。
「奉先様、あれが織姫星であちらが牽牛星ですわ」
「…………」
「今年は晴れてよかった……」
「?」
「奉先様はご存じないですか?」
「何を?」
「織姫と牽牛の話……」
そこで幼い頃、母から寝物語に聞いた話を思い出した。
お互いを思うが故にその愛に溺れ、結果天帝の怒りを買い、引き裂かれたという哀れな恋人の話を……。
呂布は目を瞑り、深いため息をつく。
「奉先様?」
呂布は名を呼ばれ、目を開けると貂蝉の腕を取り抱き寄せる。そして、無理矢理唇を重ねた。始めは驚いて強張っていた貂蝉だったが、すぐに腕を背に回し答えてきた。呂布は更に口付けを深くし、舌を入れ貂蝉の口腔内を舐め上げる。それに答え、貂蝉は自ら絡めてくる。やがて離れた唇は銀の糸でつながる。呂布はそのまま押し倒し、貂蝉の着物をはだけさせると、その白い双丘の頂にある赤い実にむしゃぶりつく。
「あぁん……」
貂蝉の甘い吐息が聞こえてくる。気をよくした呂布は裾を捲り上げ、やわやわと太腿を撫で上げる。足の付け根に届きそうで届かない程度に撫で上げてやると、我慢できなくなったのか腰を揺らし始める貂蝉。呂布は一度の赤い実から口を離す。
「欲しいか?」
「奉先様……。お願い、です……。あまり、意地悪、なさらないで……」
「わかった」
呂布は太腿を撫でていた手を足の付け根の繁みへと這わせる。そこは既に潤っており、いつでも男を受け入れられる状態だった。呂布はそれがわかると、足を取りその間に自身を割り入れる。そして、下ばきを寛げ、既に硬く勃ち上がった熱杭を濡れそぼった蜜壺に宛がい一気に押し込む。
「はうっ!」
「キツイな……。董相国は其方を愛でておらぬのか?」
「目に留まる女官たちを片っ端からつまみ食いしておられますから……」
「そうか。なら、俺が目一杯愛でてやろう」
そう言うと呂布は一気に奥まで穿つ。そうかと思うと抜けるギリギリまで引く。それを繰り返すうちに、貂蝉の甘い吐息は嬌声へと変わり背に回された腕は更にきつく抱きしめてくる。呂布は抽挿を速め、ガツガツと中を穿った。余程ご無沙汰だったのだろう。貂蝉はあっという間に達した。そして、呂布自身を搾り取らんとばかりに中が蠢き締め付ける。それに贖うことなく、熱を解き放つ。
二人は折り重なって息を整える。二人見つめ合い、どちらともなく口づけを交わす。
「奉先様……」
「今宵は七夕であろう?」
「え?」
「ならば、一夜限りの逢瀬を楽しもう」
「そ、それは……」
貂蝉の言葉を遮るように再び口づけをする呂布。その後、力を失った熱杭を引き抜き、体を起こす。貂蝉も体を起こし、乱れた着物を直す。呂布は見計らったように貂蝉を抱き上げると自身の寝室へと向かった。
「今宵は寝かせぬ。覚悟しておけ」
「は、はい……」
貂蝉はそう返事をするので精いっぱいだった。呂布の顔を見上げれば、先ほどまでの不機嫌な顔が嘘のようにいい笑顔をしていた。
(明日、私は起き上がれるのかしら……)
呂布の笑顔の意味を正確に理解した貂蝉。その予感は的中する。貂蝉は何度も貪られ、声が嗄れるほど喘がされ、それでも『まだ足りぬ』と意識を飛ばしそうになる度に揺さぶられる。呂布が満足し、眠りについたのはよく朝日が昇り切ったころだった。その日、貂蝉が寝台から起き上がれなかったのは言うまでもない。
翌日の文遠さん……。
「呂将軍はまだ起きてこられぬのか?」
「はい……」
「もう昼が来るというのに何をされておられるか!?」
「そ、それが……」
「うん?」
「どうも、女子を連れ込んだようでして」
「は?」
「今朝方まで喘ぎ声が聞こえておりまして。邪魔をすればあの御気性ですので『首が飛ぶ』と誰も寝室に近寄らぬのです」
「なっ!」
出仕してこぬので迎えに来てみれば呂布は朝まで睦み合っていたらしいと家令に言われ、頭を抱えた張遼。相手は貂蝉であることは間違いない。自分が慰めるように頼んだのだから……。
(う~む、何か理由を考えるしかないか……)
張遼は董相国への言い訳を必死に考える羽目になる。だが、自分で蒔いた種であるので文句は言えないのであった。
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