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幼少期~青年期
拾丸の元服
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文禄五年九月、拾の元服の儀が禁裏(宮中)にて執り行われた。
秀吉はこれに合わせて御掟などの基本法に加え、徳川家康を筆頭とした五大老、石田三成を筆頭とした五奉行といった職制を導入し秀頼を補佐する体制を整えていく。
更に将来の側近として乳兄弟にあたる木村重成を小姓として付けた。
「これよりは『藤吉郎秀頼』と名乗るがよい。」
その言葉に真新しい直垂に身を包み、烏帽子を被せられた拾改め秀頼は緊張した面持ちで頭を下げる。それを秀吉も実母・淀の方も満足げに目を細めている。
だが、秀頼は幼いながらも不穏な空気を肌で感じ取っていた。
(なんだがちっともうれしそうにない人がいる…)
滞りなく終えられた元服の儀であったが、それは新たなる戦乱の幕開けとも言えたのだった。
*******************************************************
元服より数日後、秀頼は伏見城の一室でぼんやりと庭を眺めていた。
「若様!! またそんなところで!!」
「生駒か…。」
そう言って声をかけてきたのは侍女の生駒。色々と謎の多い奥州訛りの美しい少女だ。
「御母堂様に叱られますよ!」
「別にいいよ…。」
「若様?」
「やっぱりつまんない…。」
「は?」
「誰も僕の相手になってくれないし。」
「そう言えば…。」
「?」
「木村重成というものが若様の小姓になることが決まったそうですよ。」
「ふ~~~ん…。」
「もう、しっかりしてください!!
内府殿の孫娘、千姫様との縁談も決まったというのに…。」
「千ってどんな娘?」
「若様の従妹で、内府殿が目に入れても痛くないほど可愛がられておられると聞き及んでおります。」
「生駒は何でも知ってるんだね。」
「え?」
生駒は挙動不審になる。秀頼は追い打ちをかけるような視線を向ける。流石にこれにどう答えていいか考えあぐねた生駒は口を開けたり閉めたりしている。
そこへ救いの神が現れた。秀頼の乳母である宮内卿局である。
「秀頼様、こちらにおられたのですか。」
「えっと…。」
「本日は重成をお連れしました。」
「重成?」
「私の息子でございます。
殿下の御命令で本日より若様の小姓として仕えることになりました。」
「そう…。」
「生駒、あとは私が取り仕切ります。 其方は下がりなさい。」
「かしこまりました。」
生駒は安堵の表情を浮かべ、その場をそそくさと去っていった。その姿に面白くなくて秀頼は眉間に皺が寄る。
「若様…。」
ため息交じりの宮内卿局に秀頼は首を傾げる。だが、彼女の真意を推し量ることなどできなかった。その後、別室へと移り秀頼は重成と顔合わせをした。
「重成でございます。」
秀頼にとっては初めて出会う同年代である。堅苦しい挨拶など抜きにして語り合いたいと思ったが、如何せん、隣に母が鎮座しておりそうさせぬ雰囲気があった。
(早く終わらないかなぁ。)
秀頼は子供らしからぬ表情を浮かべながら祈る。ほどなくしてその願いはかなうことになる。淀の方が北政所に茶席をと乞われてその場を後にしたのだ。
「はぁ…。」
「秀頼様?」
「やっと、自由だ。」
「は?」
「母上と一緒にいると何もできないんだ。」
「なるほど…。」
「大人ばっかりだし。 これからはよろしくな。」
「はい!」
秀頼は重成と笑いあった。
それから秀頼は重成と連れだって様々なことを学び、時には淀の方や宮内卿局を怒らせるような悪戯を仕掛けたりと楽しい日々を送った。それは秀頼に年相応の時間を過ごさせてくれたのだった。
だが、その優しい日々は唐突に終わりを告げようとしていた。
この時はまだそのような時が訪れようなどとは誰も思っていなかったのであった。
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お読みいただきありがとうございます
秀吉はこれに合わせて御掟などの基本法に加え、徳川家康を筆頭とした五大老、石田三成を筆頭とした五奉行といった職制を導入し秀頼を補佐する体制を整えていく。
更に将来の側近として乳兄弟にあたる木村重成を小姓として付けた。
「これよりは『藤吉郎秀頼』と名乗るがよい。」
その言葉に真新しい直垂に身を包み、烏帽子を被せられた拾改め秀頼は緊張した面持ちで頭を下げる。それを秀吉も実母・淀の方も満足げに目を細めている。
だが、秀頼は幼いながらも不穏な空気を肌で感じ取っていた。
(なんだがちっともうれしそうにない人がいる…)
滞りなく終えられた元服の儀であったが、それは新たなる戦乱の幕開けとも言えたのだった。
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元服より数日後、秀頼は伏見城の一室でぼんやりと庭を眺めていた。
「若様!! またそんなところで!!」
「生駒か…。」
そう言って声をかけてきたのは侍女の生駒。色々と謎の多い奥州訛りの美しい少女だ。
「御母堂様に叱られますよ!」
「別にいいよ…。」
「若様?」
「やっぱりつまんない…。」
「は?」
「誰も僕の相手になってくれないし。」
「そう言えば…。」
「?」
「木村重成というものが若様の小姓になることが決まったそうですよ。」
「ふ~~~ん…。」
「もう、しっかりしてください!!
内府殿の孫娘、千姫様との縁談も決まったというのに…。」
「千ってどんな娘?」
「若様の従妹で、内府殿が目に入れても痛くないほど可愛がられておられると聞き及んでおります。」
「生駒は何でも知ってるんだね。」
「え?」
生駒は挙動不審になる。秀頼は追い打ちをかけるような視線を向ける。流石にこれにどう答えていいか考えあぐねた生駒は口を開けたり閉めたりしている。
そこへ救いの神が現れた。秀頼の乳母である宮内卿局である。
「秀頼様、こちらにおられたのですか。」
「えっと…。」
「本日は重成をお連れしました。」
「重成?」
「私の息子でございます。
殿下の御命令で本日より若様の小姓として仕えることになりました。」
「そう…。」
「生駒、あとは私が取り仕切ります。 其方は下がりなさい。」
「かしこまりました。」
生駒は安堵の表情を浮かべ、その場をそそくさと去っていった。その姿に面白くなくて秀頼は眉間に皺が寄る。
「若様…。」
ため息交じりの宮内卿局に秀頼は首を傾げる。だが、彼女の真意を推し量ることなどできなかった。その後、別室へと移り秀頼は重成と顔合わせをした。
「重成でございます。」
秀頼にとっては初めて出会う同年代である。堅苦しい挨拶など抜きにして語り合いたいと思ったが、如何せん、隣に母が鎮座しておりそうさせぬ雰囲気があった。
(早く終わらないかなぁ。)
秀頼は子供らしからぬ表情を浮かべながら祈る。ほどなくしてその願いはかなうことになる。淀の方が北政所に茶席をと乞われてその場を後にしたのだ。
「はぁ…。」
「秀頼様?」
「やっと、自由だ。」
「は?」
「母上と一緒にいると何もできないんだ。」
「なるほど…。」
「大人ばっかりだし。 これからはよろしくな。」
「はい!」
秀頼は重成と笑いあった。
それから秀頼は重成と連れだって様々なことを学び、時には淀の方や宮内卿局を怒らせるような悪戯を仕掛けたりと楽しい日々を送った。それは秀頼に年相応の時間を過ごさせてくれたのだった。
だが、その優しい日々は唐突に終わりを告げようとしていた。
この時はまだそのような時が訪れようなどとは誰も思っていなかったのであった。
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