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第2話
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と、とりあえず、キーワード出てきます。
ついでに、あの方登場(笑)
********************************************
「はぁ…。 これからどうしようっかなぁ。」
明日香は独り言ちながら路線図を見上げる。
自宅最寄り駅への最短ルートを導き出し、改札を抜け、電車に乗る。
ボーと窓の外を見ながら、これからの予定を組み立てる。
(まずは部屋に帰りつくことが先か。
そのあと、産婦人科でアフターピルを処方してもらって…。)
今日の予定を組みながら、零れてくるのはため息ばかり。
泰胤のこともそうだが、自宅へたどり着けるかが心配だった。
(むぅ…。 どうやってコンシェルジュに見つからずにエントランスを抜けるか…。)
いつの間にやら腕組みをし、眉間に皺を寄せて考え込む明日香。
明日香は大学進学に際して従姉が所有するマンションの一室に住んでいる。
従姉は明日香の両親から『くれぐれも頼む』と懇願されたようで素行には厳しい。
それ故、飲み会で羽目を外すようなことは今まで一度もなかった。
それがお持ち帰りされて、朝帰りなど。
考えただけでどんなお説教が待っていることか…。
背筋が凍る思いがする。
(如何にして佳織さんに見つからずに部屋にたどり着くか…。)
で、色々考えているうちに最寄り駅到着のアナウンスが響き、明日香は慌て降りる。
「なるようにしかならんわ。」
と、開き直ってマンションに向かったのだが…。
まさかのエントランスに従姉・一之瀬佳織が仁王立ちしているとは思いもよらなかった。
『回れ右』して逃げたかった明日香だが、そうは問屋が降りるわけなく、あっさり捕獲される。
そんなこんなでエントランス横のサロンに引っ張り込まれて女子二人でモーニングコーヒー。
「おはよう。」
「お、おはよう、ござ、い、ます。」
「まどろっこしいのは苦手だから単刀直入に聞くけど。」
「は、はい!」
「お持ち帰りされた、とか?」
緊張をほぐそうとコーヒーに口をつけたところで言い当てられてしまい吹き出しそうになる。
最早、動揺しかない。
明日香は全身から冷汗が噴き出る。
すると、佳織は大きなため息をついた。
「佳織さん?」
「明日香、あんたいくつだっけ?」
「こ、今年で28です。」
「じゃ、いっか。」
「へ?」
「とりあえず、今日のことは黙っといてあげるわ。」
「佳織さん?」
「私もあんまり人のこと言える立場じゃないしね。」
佳織の意外な返事に明日香は驚きを隠せなかった。
そこへ佳織の婚約者の男性が現れる。
「いないと思ったらこんなところにいたのか…。」
「雅之さん。」
明日香は会釈する。
佳織の声に甘さが含まれているようだったのでこのまままフェイドアウトしようとしたのだが、無理だった。
「明日香と話があるから、先に行っててもらえる?」
「ああ。 じゃ、いつもの喫茶店で待ってる。」
相手の方がフェイドアウトしてしまったのだ。
(ひえぇぇぇ。 これじゃ、もう逃げられないじゃん。)
佳織のお説教確定である。
もう、憂鬱以外のなにものでもない。
「で。」
「はい?」
「相手はどこの誰?」
「え、えっと…。」
「職場の人間、同僚もしくは上司。
そんなところかな?」
「佳織さん、エスパーですか?」
「そんな訳ないでしょ。
客観的にあなたの人間関係を精査した結果。」
「サヨウデゴザイマスカ。」
「どうやら、お迎えがきたみたいね。」
「え?」
佳織がコーヒーに口を着けながらサロンの外に視線をやっている。
ゆっくりと振り返ると、入口に横付けされたタクシーから一人の男が降りてきた。
泰胤だ。
よれよれのシャツにネクタイ、手には皺になってしまったジャケット、そしていつもの黒縁眼鏡をかけてる。
思わず、身を隠してしまったのは許してほしい。
何故なら、泰胤からは物凄い怒りのオーラが放たれていたから。
「明日香、彼が相手の男?」
「は、はい………。」
「どうしたい?」
「へ?」
「嫌なら、追い返す。 このマンションのオーナーは私だし。
まして、叔父さんから『くれぐれも変な虫が付かないように』と念押しされてるから。」
「…………。」
「嫌いな相手じゃないってことでいいかな?」
「はい…。」
「じゃ、適当に話しつけてくるから、ここで待ってなさい。」
そう言って、佳織はコーヒーを飲み干すと出て行った。
ソファーの陰からエントランスを覗くとコンシェルジュの後藤さんと言い争う泰胤の姿が見えた。
明日香はただ成り行きを見守るしかなかった。
「申し訳ございませんが、アポイントを取られていたいのでしたらお引き取り願えませんか?」
「何故、部下にアポを取る必要があるんだ?!」
「ここはあくまでもプライベートエリアです。
お約束のない方をお通しするわけにはまいりません。
例え、上司の方であっても、です。
私は当マンションのコンシェルジュですので…。」
「くっ。」
後藤の隙のない対応に手も足も出ない泰胤。
ようやく手に入れた女に逃げられるは、追いかけてきたら足止めされるはで踏んだり蹴ったりである。
「こんな朝早くから、何やってるの?」
「おはようございます、オーナー。」
「オーナーか。 なら、あんたと話したほうがよさそうだな。」
泰胤は佳織と対峙して話を勧めようとした。
だが、佳織はあることに気付いて眉間に皺を寄せる。
「?」
「もしかして、相馬君?」
「は? へ?」
「ゼミで一緒だった…。」
「も、もしかして、一之瀬?」
「お久しぶり。 大学卒業以来?」
「そうなるか…。」
「ところで、うちのマンションに何か用?」
「人を、探して、だな…。」
「ここの住人?」
「ああ、GPSで追っかけてきたから間違いない。」
「相変わらずね。」
「し、仕方ないだろ! 黙って逃げやがった向こうが悪い。」
「私から言わせると、逃げられることしたあなたの方が悪いと思うけど。」
「ぐぅ…。」
「まぁ、いいわ。 で、誰を探してるのかしら?」
「彼女を探している。」
泰胤はスマホを操作してその画面を佳織に見せている。
恐らくは自分の画像なのだろうと思う。
明日香は二人の会話が気になり、サロンの入り口まで近づいて耳を澄ませる。
「…………。」
「一之瀬?」
「相馬君。」
「な、なんだ?」
「彼女が誰か知ってるの?」
「知ってるも何も俺の部下だ。 名前は…。」
「一之瀬明日香。 28歳。
桜井ホールディング 営業二課 主任。」
「な、何で…。」
「知らないようだから教えといてあげる。」
「?」
「私の父の末の弟の娘。 つまり従妹。」
「はぁぁぁ?!」
泰胤は絶句している。
それと同時にみるみる顔が真っ青になっていく。
「ちょっ、まて。 てことは…。」
「明日香は一之瀬キャピタルの専務・一之瀬智の一人娘。」
「マジかぁぁ。」
泰胤は頭を抱えてその場にへたり込んだ。
何が何だか訳がわからない明日香。
「相馬君、知らずに明日香を落とそうとしたの?」
「うぐっ。」
「ま、それはそれでいいけどね。」
「一之瀬?」
「明日香ならあっちのサロンでコーヒー飲んでるから。」
「え?」
「ちゃんと話したら?」
「いいのか?」
「あの娘もいい歳だし。
なにより、私がどうこう言える義理はない。」
「はぁ?」
「詳しいことは明日香に聞いて。 私、人を待たせてるから。」
「そ、そうか。」
「じゃ、頑張ってね。」
佳織はコンシェルジュの後藤にサロンに案内するよう言い残して出て行った。
明日香は元居た席に戻る。
すると、窓の外の佳織と目が合ってウインクされてしまう。
「頑張れってこと?」
明日香はテーブルの上に残ったぬるいコーヒーを一気に煽る。
カップを置くと一つ深呼吸をする。
(もう、なるようにしかならんわ!!)
さて、その頃泰胤は後藤に声を掛けられサロンに通される。
「相馬様。」
「え? あ…。」
「こちらへ、どうぞ。」
「は、はい…。」
「明日香様はあちらにいらっしゃいます。」
「あ…。」
「何かお飲み物をお持ち致しましょうか?」
「じゃ、イタリアンブレンドのコーヒーを…。」
「畏まりました。」
後藤が立ち去り、窓際に目をやるとそこには明日香が座っていた。
そして、手にしたカップを一気に煽る姿が目に入る。
これには思わず笑いが込み上げる。
「ククク…。」
「へ?」
「お前、漢前過ぎだろ。」
「そ、そうですか?」
泰胤は明日香の向かいに腰を下ろす。
「それより、何で逃げた。」
「逃げたっていうか…。」
「?」
「あのまま居たらなし崩し的にそういう事になりそうだったので帰りました。」
「何だ、それ…。」
「いや、昨夜十分楽しまれたからもういいかなぁって…。」
「お前、俺を何だと思ってる?」
「ヤリたがりの絶倫筋肉。」
「………………………。」
「あれ? 違うんですか?」
「お前なぁ。」
「だって、三回連続で…。」
「声、押さえろ!」
泰胤は明日香の口を抑えるとあたりを見渡す。
で、ホッとしたようにその手を下した。
どう話を切り出そうか悩んでいたところに後藤がコーヒーを持ってきた。
「相馬様、コーヒーをお持ちしました。」
「後藤さん、私も貰っていい?」
「イタリアンブレンドになりますが。」
「構わない。」
後藤は慣れた手つきでコーヒーを注いでいく。
あたりにコーヒーのいい香りが立ち込める。
「では、ごゆっくり…。」
後藤は一言残して去っていった。
泰胤は一度深呼吸をして明日香と対峙した。
「昨日のことは謝る。」
「一応、悪いという自覚はあるんですね。」
「ま、まぁ、やりすぎたとは…。」
「なら、このままお引き取り願えますか?」
「お、おい!」
「私、できたら、産婦人科に行きたいので…。」
「それ、どういう意味だ?」
「色々と面倒なんですよ。」
「何が?」
「両親と兄もだし、伯父も祖父母も面倒です。
全員古風だから…。
あ、でも、和也伯父さんなら味方してくれるか…。」
「明日香さん、もしかして、俺は地雷を踏んだのでしょうか?」
「ええ、たぶん、踏み抜いてますよ。
だから、産婦人科でアフターピル処方してもらわないと…。」
「だから、帰れって?」
「ご名答。」
「なぁ、それ、酔って前後不覚でって…。」
「確信犯の意見は許可しません。」
「うぐっ。」
泰胤は八方ふさがりの袋小路状態に陥った。
(そろそろいいか…。 反省してるみたいだし。)
「課長。」
「な、なんだ?」
「今、課長ができることは二つです。」
「へ?」
「一つはとっとと引き取っていただくこと。」
「うぐぅ。」
「もう一つは…。」
泰胤はゴクリと唾を飲み込む。
彼の喉仏が上下に動くのを見てから、明日香はクスリと笑いその耳元でもう一つの条件を囁くのだった。
************************************************
お読みいただきありがとうございました。
次回、眼鏡とネクタイをもっと取り上げます。
【補足】
一之瀬佳織は『トキメキは突然に』のヒロインです。
佳織の父が長兄で、明日香の父は末弟になります。
その間に『雫と黒曜石』のヒロイン・一之瀬雫の父がいます。
現在、一之瀬家当主は祖父が務めており、本来は佳織の父が継ぐはずでした。
しかし、欧州で成功をおさめそのまま独立してしまったのです。
そのため、次男(雫の父)が次期当主として一之瀬キャピタルの社長となり、明日香の父が補佐役として専務となっています。
明日香自身は一族の仕事にまったく興味が沸かなかったので現在の職についています。
ついでに、あの方登場(笑)
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「はぁ…。 これからどうしようっかなぁ。」
明日香は独り言ちながら路線図を見上げる。
自宅最寄り駅への最短ルートを導き出し、改札を抜け、電車に乗る。
ボーと窓の外を見ながら、これからの予定を組み立てる。
(まずは部屋に帰りつくことが先か。
そのあと、産婦人科でアフターピルを処方してもらって…。)
今日の予定を組みながら、零れてくるのはため息ばかり。
泰胤のこともそうだが、自宅へたどり着けるかが心配だった。
(むぅ…。 どうやってコンシェルジュに見つからずにエントランスを抜けるか…。)
いつの間にやら腕組みをし、眉間に皺を寄せて考え込む明日香。
明日香は大学進学に際して従姉が所有するマンションの一室に住んでいる。
従姉は明日香の両親から『くれぐれも頼む』と懇願されたようで素行には厳しい。
それ故、飲み会で羽目を外すようなことは今まで一度もなかった。
それがお持ち帰りされて、朝帰りなど。
考えただけでどんなお説教が待っていることか…。
背筋が凍る思いがする。
(如何にして佳織さんに見つからずに部屋にたどり着くか…。)
で、色々考えているうちに最寄り駅到着のアナウンスが響き、明日香は慌て降りる。
「なるようにしかならんわ。」
と、開き直ってマンションに向かったのだが…。
まさかのエントランスに従姉・一之瀬佳織が仁王立ちしているとは思いもよらなかった。
『回れ右』して逃げたかった明日香だが、そうは問屋が降りるわけなく、あっさり捕獲される。
そんなこんなでエントランス横のサロンに引っ張り込まれて女子二人でモーニングコーヒー。
「おはよう。」
「お、おはよう、ござ、い、ます。」
「まどろっこしいのは苦手だから単刀直入に聞くけど。」
「は、はい!」
「お持ち帰りされた、とか?」
緊張をほぐそうとコーヒーに口をつけたところで言い当てられてしまい吹き出しそうになる。
最早、動揺しかない。
明日香は全身から冷汗が噴き出る。
すると、佳織は大きなため息をついた。
「佳織さん?」
「明日香、あんたいくつだっけ?」
「こ、今年で28です。」
「じゃ、いっか。」
「へ?」
「とりあえず、今日のことは黙っといてあげるわ。」
「佳織さん?」
「私もあんまり人のこと言える立場じゃないしね。」
佳織の意外な返事に明日香は驚きを隠せなかった。
そこへ佳織の婚約者の男性が現れる。
「いないと思ったらこんなところにいたのか…。」
「雅之さん。」
明日香は会釈する。
佳織の声に甘さが含まれているようだったのでこのまままフェイドアウトしようとしたのだが、無理だった。
「明日香と話があるから、先に行っててもらえる?」
「ああ。 じゃ、いつもの喫茶店で待ってる。」
相手の方がフェイドアウトしてしまったのだ。
(ひえぇぇぇ。 これじゃ、もう逃げられないじゃん。)
佳織のお説教確定である。
もう、憂鬱以外のなにものでもない。
「で。」
「はい?」
「相手はどこの誰?」
「え、えっと…。」
「職場の人間、同僚もしくは上司。
そんなところかな?」
「佳織さん、エスパーですか?」
「そんな訳ないでしょ。
客観的にあなたの人間関係を精査した結果。」
「サヨウデゴザイマスカ。」
「どうやら、お迎えがきたみたいね。」
「え?」
佳織がコーヒーに口を着けながらサロンの外に視線をやっている。
ゆっくりと振り返ると、入口に横付けされたタクシーから一人の男が降りてきた。
泰胤だ。
よれよれのシャツにネクタイ、手には皺になってしまったジャケット、そしていつもの黒縁眼鏡をかけてる。
思わず、身を隠してしまったのは許してほしい。
何故なら、泰胤からは物凄い怒りのオーラが放たれていたから。
「明日香、彼が相手の男?」
「は、はい………。」
「どうしたい?」
「へ?」
「嫌なら、追い返す。 このマンションのオーナーは私だし。
まして、叔父さんから『くれぐれも変な虫が付かないように』と念押しされてるから。」
「…………。」
「嫌いな相手じゃないってことでいいかな?」
「はい…。」
「じゃ、適当に話しつけてくるから、ここで待ってなさい。」
そう言って、佳織はコーヒーを飲み干すと出て行った。
ソファーの陰からエントランスを覗くとコンシェルジュの後藤さんと言い争う泰胤の姿が見えた。
明日香はただ成り行きを見守るしかなかった。
「申し訳ございませんが、アポイントを取られていたいのでしたらお引き取り願えませんか?」
「何故、部下にアポを取る必要があるんだ?!」
「ここはあくまでもプライベートエリアです。
お約束のない方をお通しするわけにはまいりません。
例え、上司の方であっても、です。
私は当マンションのコンシェルジュですので…。」
「くっ。」
後藤の隙のない対応に手も足も出ない泰胤。
ようやく手に入れた女に逃げられるは、追いかけてきたら足止めされるはで踏んだり蹴ったりである。
「こんな朝早くから、何やってるの?」
「おはようございます、オーナー。」
「オーナーか。 なら、あんたと話したほうがよさそうだな。」
泰胤は佳織と対峙して話を勧めようとした。
だが、佳織はあることに気付いて眉間に皺を寄せる。
「?」
「もしかして、相馬君?」
「は? へ?」
「ゼミで一緒だった…。」
「も、もしかして、一之瀬?」
「お久しぶり。 大学卒業以来?」
「そうなるか…。」
「ところで、うちのマンションに何か用?」
「人を、探して、だな…。」
「ここの住人?」
「ああ、GPSで追っかけてきたから間違いない。」
「相変わらずね。」
「し、仕方ないだろ! 黙って逃げやがった向こうが悪い。」
「私から言わせると、逃げられることしたあなたの方が悪いと思うけど。」
「ぐぅ…。」
「まぁ、いいわ。 で、誰を探してるのかしら?」
「彼女を探している。」
泰胤はスマホを操作してその画面を佳織に見せている。
恐らくは自分の画像なのだろうと思う。
明日香は二人の会話が気になり、サロンの入り口まで近づいて耳を澄ませる。
「…………。」
「一之瀬?」
「相馬君。」
「な、なんだ?」
「彼女が誰か知ってるの?」
「知ってるも何も俺の部下だ。 名前は…。」
「一之瀬明日香。 28歳。
桜井ホールディング 営業二課 主任。」
「な、何で…。」
「知らないようだから教えといてあげる。」
「?」
「私の父の末の弟の娘。 つまり従妹。」
「はぁぁぁ?!」
泰胤は絶句している。
それと同時にみるみる顔が真っ青になっていく。
「ちょっ、まて。 てことは…。」
「明日香は一之瀬キャピタルの専務・一之瀬智の一人娘。」
「マジかぁぁ。」
泰胤は頭を抱えてその場にへたり込んだ。
何が何だか訳がわからない明日香。
「相馬君、知らずに明日香を落とそうとしたの?」
「うぐっ。」
「ま、それはそれでいいけどね。」
「一之瀬?」
「明日香ならあっちのサロンでコーヒー飲んでるから。」
「え?」
「ちゃんと話したら?」
「いいのか?」
「あの娘もいい歳だし。
なにより、私がどうこう言える義理はない。」
「はぁ?」
「詳しいことは明日香に聞いて。 私、人を待たせてるから。」
「そ、そうか。」
「じゃ、頑張ってね。」
佳織はコンシェルジュの後藤にサロンに案内するよう言い残して出て行った。
明日香は元居た席に戻る。
すると、窓の外の佳織と目が合ってウインクされてしまう。
「頑張れってこと?」
明日香はテーブルの上に残ったぬるいコーヒーを一気に煽る。
カップを置くと一つ深呼吸をする。
(もう、なるようにしかならんわ!!)
さて、その頃泰胤は後藤に声を掛けられサロンに通される。
「相馬様。」
「え? あ…。」
「こちらへ、どうぞ。」
「は、はい…。」
「明日香様はあちらにいらっしゃいます。」
「あ…。」
「何かお飲み物をお持ち致しましょうか?」
「じゃ、イタリアンブレンドのコーヒーを…。」
「畏まりました。」
後藤が立ち去り、窓際に目をやるとそこには明日香が座っていた。
そして、手にしたカップを一気に煽る姿が目に入る。
これには思わず笑いが込み上げる。
「ククク…。」
「へ?」
「お前、漢前過ぎだろ。」
「そ、そうですか?」
泰胤は明日香の向かいに腰を下ろす。
「それより、何で逃げた。」
「逃げたっていうか…。」
「?」
「あのまま居たらなし崩し的にそういう事になりそうだったので帰りました。」
「何だ、それ…。」
「いや、昨夜十分楽しまれたからもういいかなぁって…。」
「お前、俺を何だと思ってる?」
「ヤリたがりの絶倫筋肉。」
「………………………。」
「あれ? 違うんですか?」
「お前なぁ。」
「だって、三回連続で…。」
「声、押さえろ!」
泰胤は明日香の口を抑えるとあたりを見渡す。
で、ホッとしたようにその手を下した。
どう話を切り出そうか悩んでいたところに後藤がコーヒーを持ってきた。
「相馬様、コーヒーをお持ちしました。」
「後藤さん、私も貰っていい?」
「イタリアンブレンドになりますが。」
「構わない。」
後藤は慣れた手つきでコーヒーを注いでいく。
あたりにコーヒーのいい香りが立ち込める。
「では、ごゆっくり…。」
後藤は一言残して去っていった。
泰胤は一度深呼吸をして明日香と対峙した。
「昨日のことは謝る。」
「一応、悪いという自覚はあるんですね。」
「ま、まぁ、やりすぎたとは…。」
「なら、このままお引き取り願えますか?」
「お、おい!」
「私、できたら、産婦人科に行きたいので…。」
「それ、どういう意味だ?」
「色々と面倒なんですよ。」
「何が?」
「両親と兄もだし、伯父も祖父母も面倒です。
全員古風だから…。
あ、でも、和也伯父さんなら味方してくれるか…。」
「明日香さん、もしかして、俺は地雷を踏んだのでしょうか?」
「ええ、たぶん、踏み抜いてますよ。
だから、産婦人科でアフターピル処方してもらわないと…。」
「だから、帰れって?」
「ご名答。」
「なぁ、それ、酔って前後不覚でって…。」
「確信犯の意見は許可しません。」
「うぐっ。」
泰胤は八方ふさがりの袋小路状態に陥った。
(そろそろいいか…。 反省してるみたいだし。)
「課長。」
「な、なんだ?」
「今、課長ができることは二つです。」
「へ?」
「一つはとっとと引き取っていただくこと。」
「うぐぅ。」
「もう一つは…。」
泰胤はゴクリと唾を飲み込む。
彼の喉仏が上下に動くのを見てから、明日香はクスリと笑いその耳元でもう一つの条件を囁くのだった。
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お読みいただきありがとうございました。
次回、眼鏡とネクタイをもっと取り上げます。
【補足】
一之瀬佳織は『トキメキは突然に』のヒロインです。
佳織の父が長兄で、明日香の父は末弟になります。
その間に『雫と黒曜石』のヒロイン・一之瀬雫の父がいます。
現在、一之瀬家当主は祖父が務めており、本来は佳織の父が継ぐはずでした。
しかし、欧州で成功をおさめそのまま独立してしまったのです。
そのため、次男(雫の父)が次期当主として一之瀬キャピタルの社長となり、明日香の父が補佐役として専務となっています。
明日香自身は一族の仕事にまったく興味が沸かなかったので現在の職についています。
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