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1. わたし達の関係性
1.1-2
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やっちまった。よりによって今日忘れるなんて最悪だ。
「どうしたの?」
急に無口になったわたしに気付き、あさが訊ねる。
「数学の教科書持ってくるの忘れた。今日絶対当たると思ったから、昨日家に持って帰って予習したんだよね」
いつもなら勉強する科目の教科書だけ持って帰って、その他は学校に置いている。特に数学が苦手なわたしにとって数学の教科書は定期テスト前にしか持って帰らない代物なのに。今日は22日。出席番号22番のわたしが問題を解くのに指名される確率はかなり高い。やっぱり教科書がないのはまずい。
「他のクラスの子に借りてくるね」
「ちょっと待って」
急ぎ足で教室を出ようとしたわたしにあさが静止をかけた。あさは立ち止まったわたしを目の前を通り抜け廊下に出ると、「サト」と男子生徒に声をかけた。
「数学の教科書借りたいんだけど、今日持ってる?」
「持ってるよ。ちょっと待ってて」
そう言い残すとその男子生徒はどこかに消えた。そして数十秒に再び彼は姿を現し、片手に持っていた教科書をあさに渡した。
「今日6限に数学あるからそれまでに返してくれたら助かる」
「了解。終わったら返しに来るね。ありがとう」
じゃ、とお互い手を振って別れる。まるで映画のワンシーンを観ているかのようなスマートなやり取りだ。
「はいこれ」
今受け取ったばかりの教科書をあさは私の目の前に差し出した。お礼を言おうと思ったのに、感謝の気持ちよりも先にでた言葉は「すごい」だった。
「相変わらず安定してるね」
なにそれ、とあさはくすくすと笑う。あさは仕草が控えめだ。くしゃみも小さいし、怒る時も声を荒げたところを一度も見たことがない。もちろんわたしのように大口を開けて笑うこともない。だからこの表情から彼女がどのくらい面白がっているのか掴むのは難しい。
あさと先程教科書を貸してくれた男子生徒の“サト”くんこと仲村サトシくんは、幼馴染であり、彼氏彼女の関係だ。あさは物心つく頃から仲村くんのことが好きで、中学校の卒業式に告白したら彼もあさを好きで、付き合い始めたそうだ。
「単純に羨ましいだけ。お互い好きだっていうのが周りから見ててもすぐに分かる」
たった二言三言の会話だった。言葉はなくてもふたりの相手を見る瞳がそう思わざるを得ない雰囲気を醸し出していた。仲村くんを好きにならなくて良かったと心から思う。
「子供の頃からの付き合いだからね。ある程度は相手のこと知ってるつもり」
あさの顔が一気に緩む。完全にノロケだ。わたしが突っ込もうとしたら、わたし達の会話を盗み聞きしてた岩本さんが「ノロケか」と鋭い言葉を発してくれた。
「幼馴染で付き合ってるなんて。少女漫画かって感じだよ。そんな幼馴染あたしも欲しい」
羨ましい、とふたりで言い合っているとあさが小さな爆弾を落とした。
「咲都季だって幼馴染いるじゃん。男の子の」
「どうしたの?」
急に無口になったわたしに気付き、あさが訊ねる。
「数学の教科書持ってくるの忘れた。今日絶対当たると思ったから、昨日家に持って帰って予習したんだよね」
いつもなら勉強する科目の教科書だけ持って帰って、その他は学校に置いている。特に数学が苦手なわたしにとって数学の教科書は定期テスト前にしか持って帰らない代物なのに。今日は22日。出席番号22番のわたしが問題を解くのに指名される確率はかなり高い。やっぱり教科書がないのはまずい。
「他のクラスの子に借りてくるね」
「ちょっと待って」
急ぎ足で教室を出ようとしたわたしにあさが静止をかけた。あさは立ち止まったわたしを目の前を通り抜け廊下に出ると、「サト」と男子生徒に声をかけた。
「数学の教科書借りたいんだけど、今日持ってる?」
「持ってるよ。ちょっと待ってて」
そう言い残すとその男子生徒はどこかに消えた。そして数十秒に再び彼は姿を現し、片手に持っていた教科書をあさに渡した。
「今日6限に数学あるからそれまでに返してくれたら助かる」
「了解。終わったら返しに来るね。ありがとう」
じゃ、とお互い手を振って別れる。まるで映画のワンシーンを観ているかのようなスマートなやり取りだ。
「はいこれ」
今受け取ったばかりの教科書をあさは私の目の前に差し出した。お礼を言おうと思ったのに、感謝の気持ちよりも先にでた言葉は「すごい」だった。
「相変わらず安定してるね」
なにそれ、とあさはくすくすと笑う。あさは仕草が控えめだ。くしゃみも小さいし、怒る時も声を荒げたところを一度も見たことがない。もちろんわたしのように大口を開けて笑うこともない。だからこの表情から彼女がどのくらい面白がっているのか掴むのは難しい。
あさと先程教科書を貸してくれた男子生徒の“サト”くんこと仲村サトシくんは、幼馴染であり、彼氏彼女の関係だ。あさは物心つく頃から仲村くんのことが好きで、中学校の卒業式に告白したら彼もあさを好きで、付き合い始めたそうだ。
「単純に羨ましいだけ。お互い好きだっていうのが周りから見ててもすぐに分かる」
たった二言三言の会話だった。言葉はなくてもふたりの相手を見る瞳がそう思わざるを得ない雰囲気を醸し出していた。仲村くんを好きにならなくて良かったと心から思う。
「子供の頃からの付き合いだからね。ある程度は相手のこと知ってるつもり」
あさの顔が一気に緩む。完全にノロケだ。わたしが突っ込もうとしたら、わたし達の会話を盗み聞きしてた岩本さんが「ノロケか」と鋭い言葉を発してくれた。
「幼馴染で付き合ってるなんて。少女漫画かって感じだよ。そんな幼馴染あたしも欲しい」
羨ましい、とふたりで言い合っているとあさが小さな爆弾を落とした。
「咲都季だって幼馴染いるじゃん。男の子の」
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