【R18】転生先は男女比1:30の貞操逆転世界~ビッチを夢見る三十路の魂~

尾和 ハボレ

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『打ち上げの予約』

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『打ち上げの予約』

そんなオレの計算じみた思考とはつゆ知らず、打ち上げというイベントに興味津々だと受け取った氷雨社長が小さく笑った。

気の強い印象がある美人が微笑むとますます美人に見える。

「ふふ。学生の君にとって大人の世界への興味はあるだろう。だが夢を壊すようで言いにくいが、実際の打ち上げなんぞ愚痴を言いながら酒を飲む口実のようなものだ。未成年の君であれば退屈なだけだと思うよ」
「そうですか。お酒はまだ飲めませんし、残念です」

打ち上げはお預けか。デート代わりのいい名目になると思ったが残念。

「宮城。それに先輩も。一つ提案があります」

黙って聞いていた先生が軽く挙手する。

「なんですか?」
「どうした?」
「別に打ち上げだから酒というものではないでしょう。宮城は御覧のように大人しいですが、男子学生らしく食欲旺盛です。慰労の意味での打ち上げなら、好きなものを好きなだけ食べさせてやれば良いのでは?」

先生のナイスフォローが入る。いや、氷雨社長への援護射撃という可能性もあるが、どちらにしても結果オーライだ。

「なるほど。宮城君、そういう方向で良ければ私から一席設けることもできる。もちろん差し向かいではなく美雪に同席してもらうから心配しないでいい。美雪、頼めるか?」
「押忍。ゴチになります」
「なんだ。お前が旨い飯を食いたいだけじゃないのか?」

互いに笑いあう大人の女性たち。学生時代の関係が社会に出てからも続いているというのは、なんとなく羨ましい気持ちになる。

「まったく。宮城君、本当に美雪に教師が務まっているのかな?」

氷雨社長の問いにオレも笑顔でうなずく。

「最初は怖い先生かと思いましたけど、すぐに生徒思いで優しく真面目な先生だとわかりました。冬原先生が担任で本当に良かったです」

オレはお世辞抜きで答える。

「えらく高評価だな。美雪、彼にいくら握らせた?」
「押忍、正当な評価です。ところで宮城、ケーキでも食べるか?」

わざとらしくメニューを手にしてオレの前に広げる先生。

契約が終わってひと段落という意味もこめてか、氷雨社長も冬原先生も砕けた雰囲気になる。

ケーキはともかく少しノドはかわいたが、二人も忙しい身だろう。あまり長く時間をとらせるのも気が引ける。

けれど、せっかくの厚意を無碍にするのも憚れたので、遠回しに確認してみる。

「男一人でケーキをつっつくのは少し恥ずかしいです」
「お前が食べるならもちろん付き合うぞ。先輩はどうされます? この後のご予定なんかは?」

オレは期待感を込めてチラリと氷雨社長を見る。

「確かに多忙ではあるが、今日は今回の契約……面接のために一日あけてあるよ」
「え? たかがアルバイトの面接のためにですか?」

驚いてしまい、つい心のままに声が出た。

「学生の君にとってはひと夏の軍資金を稼ぐためかもしれないが、私にとっては社運を賭け……はさすがに言いすぎだが、それなりに期待感のある場でね。今日は万全の態勢で臨んでいた。そもそも男性相手との契約は時間がかかるものだし、一日単位でスケジューリングすることも通常の対応さ。むしろこれだけ短時間かつスムースに署名をしてもらった事は記憶にない」
「でしたら先輩。時間もあおりのようですし、これから仲良く三人でケーキをつつきますか」
「そうだな。社に戻ればいくらでも仕事はあるが、楽しいコーヒータイムと秤にかけるほど急ぐ内容でもない。二人とも好きなものを頼むと良い」

そういうなり氷雨社長は壁際に控えていたホテルの女性従業員さんに目配せすると、すぐにテーブルにやってくる。実に慣れたものだ。指でパチンとかはしないんだな。

「あ、私はこの一番高いチーズケーキとミルクティーのセットを願いします。」

早々に先生がオーダーを済ませる。こちらも奢られ慣れたものだった。

「宮城君もどうぞ。見ての通りだ、遠慮はいらない」

ジト目で冬原先生を見る氷雨社長。一方、その冷めた視線を向けられていた先生が。

「宮城、これも社会勉強だ。人生の先輩が奢ってやるとおっしゃった時、遠慮して安いものを頼むのは厳禁だ。まるで尊敬する先輩の財布を気遣っているように思われ、相手の面目を潰す事になるだろう?」
「なるほど。それは一理ある、かもしれませんけれど……」

理屈はわかる。けれど。

「宮城君。美雪の言葉に間違いはないよ。奢るといった手前、私も見栄を張りたい気持ちがあるからね。ただそれは君に対するものであり、オマケのコイツは遠慮してしかるべきだ」

氷雨社長が苦笑しつつ、オレへメニューを向ける。

「というわけで遠慮は無用だ。そろそろ夕食時だが男の子ならいくらでも入るだろう?」
「でしたら御馳走になります。先生と同じのをお願いします」
「うむ。ではそのケーキセットを三つお願いする」

テーブル横で控えていた従業員さんにオーダーをする氷雨社長。

ちなみにお値段はチラッと見た限り、ケーキとミルクティーで三千円だった。一人分だぞ?

氷雨社長からすれば大した額ではないのだろうが、オレの感覚だといくら場所代も含むとは言えとても出せない金額だ。

しかもそれを三人分。さら言えば面接中に出してもらってコーヒーもあるし、すでに一万円を超えている。ホテルのロビーとは実に恐ろしい場所だ。

ほどなくして三人分のケーキセットが並べられ、雰囲気もずいぶん柔らかくなったところで氷雨社長からいかにも学生向けの話題が振られた。

「ちなみに宮城君は学業の方はどうなのかな?」
「成績ですか? 可もなく不可もなく、といった所です」

前世の記憶があるから多少のアドバンテージはあるが、十年以上前に学んだことなど半分以上は忘却の彼方だ。

歴史、社会、偉人の存在などは男女の比率による違いから差異も大きい。だがそれでも前世とほぼかわらない世界情勢は奇跡のごとく。

そんな異世界事情はさておき、いわゆる学力は中の中。がんばって上の下と告げる。

「であれば問題ないかな。アルバイトに時間を割いて、学業に支障をきたすというのは雇用側としても、あまり望まない結果だからね」
「維持するようにがんばります」

ここでもっと上を目指しますと言わないところが、オレの慎み深い点だ。

以前にも言ったが、がんばって勉強していい会社に入ろうなんていう考えは無い。

そうやって過ごした前世は、生活に不自由はなかったが満たされないものだった。

そもそもこの世界での男なら――。

「宮城は男の子だし、成績や学歴なぞさほど気にする必要もない。困ったら親しい女を頼ればいい」

そう。冬原先生の言う通りだ。

「美雪。それは性差別だ」

それを聞いた氷雨社長が露骨にムッとした。

「いいえ。女が男を支え、面倒をみるのは当然です。もちろん見返りなど求めずに。それが女の本懐でしょう」
「む。一理ある」
「それが宮城のようなつつましい男の子であれば、まさに女の甲斐性では?」
「むむむ、確かに……」

昭和に躾けられた男のような理論に対して、氷雨社長がムッとしていた顔を、ムムムと変えて納得している。

「良かったな、宮城。優しくて頼れる美人の知り合いが増えたぞ? 見ろ、氷雨先輩もまんざらではない顔だ」
「ば、馬鹿者。宮城君が困っているだろう」

とは言いつつも悪い気はしていないようで、オレをチラチラと見ては愛想笑いを浮かべている。

遠慮がちに向けられる好意というのは実にこそばゆく、また快い。

対してオレはそれに気づかないように振舞うのだ。

「失礼ですよ、先生。氷雨社長のような大人の女性がボクなんか相手にするはずがないでしょう?」
「そ、そんな事はないさ。君も高校生だ。子供ではないよ」

焦る様に否定する氷雨社長。オレも短い異世界生活ながら、自惚れない程度には自分のイケメン具合を把握してきた。

氷雨社長の反応。つまり脈アリだ。

「いえいえ。大人なのはせいぜい体だけです。むだに大きくなってしまって。いたっ」

などと甘い駆け引きを楽しんでいると、隣に座っている冬原先生がオレの尻をつねってきた。先生のジェラシーがなんとも可愛い。

だがそんな楽しい時間は、唐突に終わりを告げた。

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