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『アルバイト探し(2)』

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『アルバイト探し(2)』
 
「私には学生時代から、今も良くしてもらっている先輩がいる」

一つ息を吐いてから、先生はそう語り始めた。

「はい」
「若くして成功した実業家で金もあるお人だ。夜の店にも頻繁に足を運ぶし、マッチングアプリで若い子とも会っているそうでな? 街歩きデート程度なら自分が年増であっても小遣い目当ての若い子が愛想よくしてくれるので<
とても気持ちいいと何度も自慢されている」
 
その先輩とやらには、心のねじれを感じてしまうのだが要するに。
 
「それで……先生もやってみたかった? と」
「うん」
 
うん、ときた。かわいい。
 
色々と都合のいいオレという存在ができたので、忘れかけた夢を果たそうという事か。
 
しかし問題がある。
 
「お茶ぐらいならいつでもお付きいしますけど。それでは意味がないんですよね?」
「さすが宮城! お前は女の機微というものをよくわかっているな!」
 
意を得たとばかりに感心する冬原先生。
 
オレはさらに細部を確認する。
 
「要するに、イヤイヤだけどお愛想笑いを浮かべてご機嫌をとる若い子をはべらすプレイ、ですよね? つたない演技で良ければボクがやってみましょうか? だけどお金は受け取りませんからね?」
「おお。お前は本当に天使だな。この醜い私の女心を理解して、なお、つきあってくれるというのか……」
 
感涙をこぼしそうなほどピュアな瞳をオレに向ける冬原先生。
 
醜い心とは思わない。単にこの人が面白いとは思うが。
 
「素人演技ですから真に迫った体験はできませんよ? あまり期待されても心苦しいのですが」
「いや。今の私にはそれくらいがちょうどいい。昔のような飢えた狼だった頃の私ならどれほど辛辣に扱われても、若い男とともにする時間は天国に感じただろう」
 
この世界は残酷だな。

これだけ若くて美人で面白い女の人が辛い目にあっている。
 
「だが心も体もお前に満たされた今の私は腑抜けだ。先輩のようにアプリで若い子とマッチしたとして、その男の子に本気で辛くあたられたら普通に泣く」
 
私は弱くなったよ、と寂しそうに笑う先生。本当に面白い人である。
 
「では、ええと。ボクでよければ、という事で?」
「ああ、ぜひとも頼む! 放課後、校舎裏の駐車場で待ち合わせだ! 街デート中にバイトの件も相談しよう!」
「あ、はい。そうでした。そちらもよろしくお願いします」
 
本題よりも面白そうなイベントがポップしたので、肝心の自分のアルバイトの話を忘れかけていた。



***



放課後。
 
少し車を飛ばした場所にある、大きなショッピングモールにオレと冬原先生はやってきた。
 
3Fにあるフードコートでオレたちは腰を落ち着けていた。

デートコースというには、ややファミリー向けなチョイスだ。
 
オレにフードコートや全国チェーンのレストランの食事をさせて『そういう店でも喜んでくれる理解ある彼君』をさせたいのか? と思ったが、どうにも違う様子だった。
 
なんとなく先生の意図を理解したオレは、ニコニコと微笑んでいる。
 
「先日、高校時代の空手部の友人たちと飲んだ時にな? もう、この年だろう? 皆、妊活相手が見つからずで、精子バンクに切り替えるという話を聞いた。そして、そういう男絡みの話になると決まってこう言われるんだ。美雪は若い男と接点があるから、ワンチャンあって羨ましいとな」
 
目の前でホットコーヒーをかきまぜながら、冬原先生は饒舌に生々しい近況報告をしている。
 
オレは意識して笑顔を維持したまま、その話を聞いていた。
 
「そのたびにふざけるな! 常に訴えられるかもしれない職場だ、と言い返していたが……」
「ワンチャンありましたからね」
「……もちろん他言はしていないが女のカンは鋭いぞ。その時も、私が女としての飢えと牙を失ったとかボロクソに言われた。中には私に男ができたと勘ぐるヤツもいる」
 
怒り心頭という顔。
 
「だが」
 
それがイヤらしい顔に変わった。エロい方向にいやらしいのではなく、人としてダメな方にいやらしい顔だ。
 
「まさか同期どもは、私が本当に教え子と制服デートをしているなど思いもよるまい」
「学校から離れた場所とはいえ、ボク、だいぶ目立っていますけど、大丈夫ですかね?」
 
制服デート。
 
一般的には制服同士の学生男女が、ほほえましい青春の一ページを刻む事と認識されている。
 
前世で寂しく過酷な一生を終えたオレからすると、嫉妬にまみれた目でしたこの文字列を読むしかなかったが、今は優しい女神様のおかげで幾分か平静をもって読む事ができる。
 
ただし、この世界において制服デートの価値は前世よりも遥かに高い。
 
その上、一方がスーツを着た成人女性となれば周囲から向けられる視線は、鋭く、またねちっこいものだった。
 
しかも、ここはフードコート。
 
この世界では、自分の男を他の女の目にさらしたくないという独占欲が強く、男性と二人きりで食事やお茶などをする場合、個室の店を確保するのが常識だ。
 
確かに先生との最初のゴハンは個室の焼肉だった。
 
だが今日、あえて先生はココを選んだ。
 
オレはなぜ、と問わなかった。
 
逆にこんな所で悪いが、と冬原先生が申しわけなさそうにした時には、先生の意図に気付いていたからだ。
 
「ボクを見せつけたいんですよね? 金で若い子を買ったんだろうという視線を感じつつも、実際はボクとセフレ関係ですから、心中でマウントを取る優越感を得たいのでしょう?」
「お、お前。実は私の心の中を読んでいないか?」
 
複雑な乙女心であるが、この世界の乙女心は過去のオレの写し鏡だ。言葉は不要である。
 
感心した冬原先生に、その通りだマイエンジェル! と抱きしめられたので、オレはその通りの役柄に集中して、今に至る。
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