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『かつてのカラオケ店』

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『かつてのカラオケ店』

駅前商店街のメインストリートから少し外れた場所にあるカラオケ店。

オレの前世にもあった二階建ての古びた建物で、機種も型遅れ、だが料金もそれなりに安いという、まさにお金は無いが騒ぎたい、そんな学生向けのカラオケ店だ。

前世の親友、山田君とよく来た店でもあり、夜を徹してアニソンを絶唱した思い出の店でもある。

さて、そんな店の自動ドアを通り、カウンター前のちょっとしたロビーに入ると、うす暗い照明の下、数人のブレザーの制服姿の集団が目に入った。

お菓子やトランプ、パーティーグッズなんかが陳列されている棚の前で騒いでいるのは、全員が茶髪か金髪の、スカートがやたら短い女子高生が三人。

ふむ?

男の子がいないが、遅れてくるのだろうか?

オレは周囲を見回すが、やはりそれらしい影はない。

女の子達の中の一人で一番背の高い金髪で長髪の子、ただし頭頂部が黒い、いわゆるプリンちゃんが、店に入ってきたオレ達を見るなり手を上げた。

「カオル久しぶりー! ……って、お前、マジで男連れてきたの!?」

薫ちゃんの言葉を信じていなかったとばかりに、マジマジとオレを見るプリンちゃん。

「いや、ショーコ、お前が連れてこいって言ったんだろーが……しかも絶対に今日とか言ったから無理して来てもらったんだぞ!?」

おお、タメ語の薫ちゃん。なかなか新鮮だ。

彼女たちは薫ちゃんが本当に男(オレ)を連れてきたので驚いているようだった。

薫ちゃんから聞いた話では、どうにもいがみ合っているような雰囲気だったが仲が悪いようには見えない。

普通にお友達、というカンジだ。

今回の件は互いに友人にカッコつけたい見栄を張りたい、そんな話がエスカートしただけかな。

プリンちゃんと別の女の子二人は、オレをジっと見たままだ。

こちらは二人とも茶髪だが、一人はおさげ、一人はツインテールと、やや幼い髪型だがよく似合っている。

ただ顔がまっくた同じだ。双子ちゃんである。

「ふふ、初めまして」

双子ちゃんはオレを見たままヒソヒソと内緒話をしているので、とりあえずイケメンスマイルを飛ばしておく。

「ひゃ」
「ひゅ」

面白い悲鳴をあげて、互いに肩を寄せ合ってしまった。

不良界隈、どうにもかわいい子が多いな。

夏木さんはツンデレ猫ちゃんだし、薫ちゃんはデレデレわんこだし、この子らも小動物な雰囲気を感じる。

再び視線を薫ちゃんたちに戻すと、ショーコちゃんが自分のカバンに手を入れて何かを取り出した。

「いや、どうしても今日ってのはさ。カオル、お前、誕生日だろ?」
「は?」

ショーコちゃん手にあるのは小さく畳まれている……派手な布?

「ボッチで寂しく泣いてんじゃねーかってさ。みんなでカラオケでもして慰めてやろーと思ったんだよ」

ショーコちゃんがその布を開くと、それは『今日の主役』と書かれたタスキだった。

……この子ら、仲いいな。前世の男子高生のノリを彷彿とさせる雰囲気がある。

「は? あ、今日、ウチ誕生日か。いや、それはいらねーからしまえって。いらねーって!」

薫ちゃんが思い出したとばかりにポンと手を打ち、ショーコちゃんもポリポリと頭をかきながら薫ちゃんにタスキをかけようとする。

タスキを拒否する薫ちゃんの抵抗が続くが、背丈も体格的にも勝るショーコちゃんが力で勝り、最終的に薫ちゃんが折れた。

「じゃあ、お前らのクラスメートの男子ってのはハナからウソか?」

めでたく『今日の主役』となった薫ちゃんが、ショーコちゃんに問いかける。

「そりゃホントの話。けど女除け目的のハッタリヤンキーで、中身はただのシャバ僧だった。とっくに全員フラれてシカトくらってる。クラスの女子もガードに入ってるし担任にもチクられてさ。あのババア、停学チラつかせてきたから、もうお手上げ」
「ナニやってんだ、お前ら」
「最初アッチも乗り気っぽくしてやがったんだし、それにイケメンだったんだよ。写真見るか? 盗撮だけど」

ふむ。どうやら男の子の話は本当だったようだ。

ただし、あまり仲よくはなれなかった様子で、この場には来ていないようだ。

そう言えばシマ先輩のお店でカオルちゃんが、女の子から声をかけられにくくするためにイカつい擬態をする男子もいると聞いていたが、そのパターンだったらしい。

すこし残念だが、薫ちゃんもきっとウソだろうと言っていたし、勝手に期待したオレが悪い。

いずれ似たような機会はあるだろうから、オレもそれまで精進するとしよう。

双子の茶髪コンビも薫ちゃんたちの話に加わる。

「イケると思った」
「アレはどう見てもハナから無理。ショーコがアホ」

三人寄れば姦しい(かしましい)というのはこの世界でも同じようだ。

久しぶりに顔を合わせた薫ちゃんも合わせて四人となればなおさらか。

しかし、こうなるとオレはお邪魔ではなかろうか。

誕生日会みたいなノリでもあるし、親しい仲だけで遊んだほうがいいだろう。

可愛い子ばかりだし仲良くなりたいが、薫ちゃんの前で、しかもその薫ちゃんの友達相手にがっつくというのもね。

というわけで、イケメンはクールに去る事にしよう。

「んー。じゃあ、ボクの役目も終わったという事で?」
「あ、京センパイ! マジですいませんッした! こんなアホな事に時間とらせちゃって!」
「いやいや。仲のいいお友達がいてうらやましいよ。じゃあ、ボクはこれで」

オレが手を振ると、ショーコちゃんがものすごい勢いで薫ちゃんの手をひっぱった。

「カオルッ!」
「おわっ! なんだよ!」
「ちょっと来い!」

そうしてオレから離れた場所で何やら内緒話を始めた。

残されたオレは、同じく何事? と思っていたおさげちゃん&ツインテちゃん達と再び目が合った。

「ふふ?」

イケメンスマイル。

「はふっ」
「ほふっ」

双子ちゃん、面白いな。

「あ、あのー、京センパイ……」

二人組をからかっていると、後ろから声がかかった。

何か言いにくそうにしている薫ちゃん。

頭一つ背の高いショーコちゃんが、薫ちゃんの小さな背を後ろから押していた。

「お呼び立てしてお礼もせずというのも失礼な話ですし、もし良ければ同席されませんか?」
「え。でもせっかく薫ちゃんの誕生日会でしょ?」
「いえ。まぁ、その、そーなんスけど」

なんとも言えない顔になる薫ちゃん。

その後ろで、ショーコちゃんが勢いよく手を挙げた。

この子もこの子で面白い。

オレはショーコちゃんを指さす。

「はい、後ろの席の人」
「え? あ、はいッ! カオルの誕生日とか、そんなの集まるための方便なんでッ!」

薫ちゃんが、そんなの? とオウム返しにしてふくれっ面になる。

「もちろん、お代はアタシらで持ちますんで! 好きなモン飲み食いしてもらってですね。気が向いたら、ちょっと歌ってもらったりなんかできたらなぁって」

オレがノリよく反応したのを見てか、ショーコちゃんがここぞとばかりに畳みかけてくる。

「あとあと! できたらデュエットとか、ですね……お願いできたらなぁ、なんてッ!」
「うーん」

オレが渋い顔をした途端、ショーコちゃんが落胆し、薫ちゃんが小声でざまぁみろと呟き悪い顔になった。

別にカラオケが嫌いというわけでもない。

さらに可愛い子にこんなにグイグイ迫られれば、二人きりのデュエットだろうが、二人きりでダイエットになる運動だろうが大歓迎なのだが。

「ボクね。あんまり歌知らないんだ。特にデュエットとか」

ネットなどで見る限り、昔からメジャーだった曲が男女逆転していたりと、異世界あるある現象になっている。

別に異性の曲を歌う事はさほど変ではないと思うが、デュエット曲そのそものをほぼ知らない。

有名な三年目の不倫、それもサビぐらいなもんだ。

「あっ、それはもう全然! もちろん座ってもらってるだけでも!」

そこまで言われれば……ねぇ?

オレはふと想像する。

いやすでにわかりきった未来事象をこの目はとらえている。

薫ちゃん含めて全員のスカートは極端に短い。

流行りのファッションというより、ヤンキースタイルの一環と思われるのだが、理由などどうでもいい。

これだけ短いスカートでイスに座るとどうなるか?

しかもカフェなどの高いテーブルではなく、カラオケ店のようなローテーブルではどうなるか?

桃源というべき光景が、ありありと目に浮かぶ。

この瞳は女の子をオトす魔眼だけではなく、未来視すらも獲得したようだ。

「薫ちゃん」
「あ、はいッス」
「ここまで言ってくれるし、ボクも同席していいかな? 折角、お友達同士での集まりみたいだけど……」
「もちろんッス! こんなやつらと一緒でよければ、ぜひ!」

こんなやつら? と言われてショーコちゃんが微妙な顔をしているが意趣返しとわかっているだけに、苦い顔はしつつも口は閉ざしたまま期待した瞳でオレを見ている。

茶髪二人組もオレを見ていた。微妙にオレと距離をとる小動物的な動きをしているが、期待されているのはわかる。

「じゃあ少しお邪魔しようかな?」
『あざッス!』

そこだけ四人の声がハモる。

そんなわけでオレはこの世界で初のカラオケを楽しむ事となった。
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