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『高嶺の花にはトゲがある(5)』

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『高嶺の花にはトゲがある(5)』

「そうですね、痛いのは仕方ないと思います。けれど最初は誰でもそうだと思いますし」
「……そ、それは、その、そういう事が初めての時は、という話?」
「会長、膜はまだ?」

春日井さんがストレートに聞いてくる。

私は顔が赤くなるのを感じながら答えた。

「……そ、その、怖くて。挑戦した事もあったけど、あまりに痛くて……」
「でしたらそのままでいてください。彼ならきっと喜んで、最初をもらってくれますから」
「そ、そうなのね」

処女を玩具でも野菜でも自身の指でもない、男性に散らしてもらうというのは女の夢。

だけれど男性にとってそれは面倒な作業という話もきく。

だからそういった時に備えて、邪魔な膜は処理しておくというのもマナーなんだけど。

「その彼に面倒な女と思われないかしら?」
「いえ、きっと喜んでお相手してくれると思いますよ」

断言する春日井さん。

私の不安は解消されたが、逆にそんな好きモノな男性が本当にいるのかと思ってしまう。

「さて。会長のご意思は確認させていただきました。ここからは別の話です」
「え、ええ」

春日井さんが私を見る。

さっきと違って厳しい目だ。

「私にとって会長を紹介する事は、私と彼との時間を削られる事でもあります」
「そうね、そうだと思うわ」
「では、どうして会長に彼を紹介すると思いますか?」
「……」

パッと思いついたのは報酬や見返りが目当てという事。

さっきの話の中にも出たけれど、春日井さんのお母さまが役員をしている会社は、私の家の経営する会社の一つのはずだ。

母親の立場や待遇などに対する何かを求めているのか、もしくは彼女自身への金銭などの報酬だろうか。

どちらにしても母や祖母に頼むしかないことだが、常識的な金額であれば二つ返事をくれるはずだ。

「春日井さん、金額に関しては……」
「違います」

私が言い終わる前に、きっぱりと否定された。

「私は金銭的な報酬を求めていません。それではまるで私が彼を売ったかのようではないですか?」
「そ……そうね、ごめんなさい」

確かにそうだ。これは私の軽率だった。では、他に何が?

「私からの条件は二つ。この件は絶対に他言無用。まちがっても会長が彼に他の女性を紹介したりするような事の無いようにお願いします。たとえご家族のお仕事の絡みなどがあっても」

私は春日井さんの意図がわからず、一瞬考え込むがすぐに理解する。

懇意にしている男性がいるというのは……言ってしまうと色々な材料となるからだ。

大企業が若い男性を無条件で採用するのもそういった理由が含まれる。

接待一つだって若い男性がお酌するだけでまとまる話だってある。

男女差別という声があがってもなお、それはなくならない。

女性側にも、そして男性側だって、メリットのある話だとそれぞれが根底でわかっているからだ。

春日井さんはそういった事に、その男の子を利用するなと言っている。

当然の配慮だと思うし、私はうなずくしかない。

ただ、それを破った時の罰則を春日井さんは私に課しようがないという点はどう思っているんだろうか。

社会的立場という視点なら私の実家は太い。

「もちろんこれは会長との口約束にすぎません。私は会長の言葉が軽いものではないと信じています」

春日井さんは私の心を見透かすようにそう言った。

……どことなく、それだけではない凄みに私は寒気を感じる。

私は少し冷えた感触をごまかす様に春日井さんに問いかける。

「もう一つの条件は?」
「私の言う事には絶対服従です」
「……え?」
「私の命令には絶対に従っていただきます」

聞き違いじゃなかったわ。

「ど、どういう意味かしら」
「もちろん限定的な状況下のみですが。具体的に二人きりの時、もしくは彼と三人の時です」

春日井さんのいう事がよくわからない。

「もっと、その、具体的にどういう事なのか説明してもらえると……」
「ではその目的を簡単に説明します」
「ええ、お願い」
「彼に会長を捧げる前に、しっかりと調教してからでないと申し訳が立ちません」
「え?」
「ご安心を。処女は彼におまかせします。ただ私としては"すぐに使えない女"を彼の前に出す不作法は避けたいので」
「え、え?」

春日井さんが息がかかるほど、私に顔をよせる。

「会長。どうされますか? 彼を紹介してほしいのであれば、彼に関わる事では私の言う事には従っていただきます。私と同じく、彼の従順なペットとしてふるまえるよう、優しく躾(しつけ)をして差し上げます」

無表情のまま、けれれど、まるで人が変わったような春日井さん。

「そ、そんなこと……」

春日井さんの言葉に私はひどく混乱する。

考える時間が欲しい。

頭の中を整理したい。

けれど。

「チャンスが二度巡ってくるとは思わないでください。ここで決断できないようであれば、この話はここでおしまいです。私は二度とこのお話をすることはありません」
「ま、待って!」

そう言って私の顔からすっと後ろに下がって背を向けた春日井さんに、私は無意識に声をかけていた。

そしてその手をとって、春日井さんを引き留めていた。

「それは了承ととってもよろしいですか?」
「……ええ」

私につかまれている手を見ながら問いかけてくる春日井さんに、私はうなずいた。
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