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『餓狼たちの挽歌(4)』
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『餓狼たちの挽歌(4)』
「おい、美雪」
「押忍」
「お前の身長に関して、その子は何とも言わないのか?」
「特に気にするふうでもありません。ちなみにその子が特別高身長というわけではありません。私とほぼ同じ背丈です」
美雪は確か172くらいだ。
女としては高い方で、男性としては平均程度。
基本、男性は低身長の女を好み、自身より背の高い女はまず敬遠する。
テレビか何かで見た記憶だが、男性が女に望む理想の身長は150センチくらいと言われていた。
その点、美雪の172という数字は将来を悲観するに十分であるが、一縷の軌跡を手にしたようだ。
だが私の背は183。
この数字が意味するところは、二文字で事足りる。
絶望。
「美雪。忌憚ない意見を聞きたい。その子が私を見て、私を見上げて、どう思うだろうか?」
「はっきり申し上げても?」
「ああ。手が出るかどうかは、お前の言葉選び次第だがな」
美雪は、うーん、と悩んでいる。
本気で言葉遣いに悩んでいるわけではないだろう。
自分から忌憚のない意見などと言っておいて、気に食わない答えが返ってきたら、私が本当に手を出すはずもないと美雪もわかっている。
「先輩」
「うむ」
「多分、信じられないと思うんですが。その子は気にしませんし、むしろ興味を持つ可能性もあります」
「馬鹿な」
こんなでくの坊どころではない女にか?
「正確に言います。あの子は先輩の身長は気にしないですし、先輩の性格は気に入ると思います」
「何を言っている?」
美雪が意味不明な補足をするので、私の疑問はますます深まった。
「私も最初は戸惑いました。あらかじめ言っておきます。信じる信じないは別として、後でなんで先に言わなかったと指導を食らうの御免ですから」
ここでいう指導とは、横っ面にビンタである。
体育会系の、指導、可愛がり、面倒を見る、という言葉は日本語でありながら、その言葉の意味を正確に表すものではない。
「その子は――サドっ気があります。しかも相当に重度の変態気質です」
「は?」
「年上で強気の女、この場合は私ですが。そういう女に対して、非情に強い関心……ああもう、ぶっちゃけると、エロい意味で服従させたがるエロガキです」
「は? ……はぁ?」
美雪が何か話すたびに私の理解が遠のいていく。
「先輩は私の趣味、知ってますよね? 付き合いも長いですし」
「アレか。年下の美少年にリードされたい、なんなら弄ばれたいという、アレか」
「ソレです」
美雪は強い。
ここまでイッている性癖を面と向かって言葉にされても、羞恥どころか即座に応と言える胆力は尊敬に値する。
狭いラーメン屋のカウンターで、私達以外にも客は横並びに座っている状況だぞ?
露骨に私の隣のバアさんが顔をしかている。
美雪の横の女子高生は席を一つ横に移動した。
すまん皆、ラーメンをまずくさせたな。
「そんな私の願いが天に届いた、そう言えばおわかりですか?」
願いが天に届いたのか、落ちるところまで落ちて、業の果て、地獄の底に落ちたのかはともかく。
「……本当か?」
「私はすでにこの手に別れを告げています」
拳ダコが消えかかった右手。
美雪の一生涯の恋人と言われた右手。
別に空手に一生を捧げたというわけではない。
オナるための右手。
そう断言していた学生時代からの恋人、つまり元カレである。
それに別れを告げたという事は。
「そうか。本当なんだな」
「雄(オス)」
うらやましい。
一発殴っても許されるだろうか。
だが早まってはいけない。
美雪は別にその子の存在を私に言う必要はなかった。
だがあえて、私に紹介し、私にバイトの面倒を見て欲しいとまで言った。
つまり共有だ。
私の資金力や社会的地位でそのエロガキを保護し、二人で共有しようという魂胆なわけだ。
そしてその子なら私を女として見るだろうと、美雪は判断している。
うまい話には裏がある、という。
美雪がそんな事をするはずもないが、たとえ裏があったとしても。
私はその裏スジ、もとい裏まで舐めつくし、しゃぶりつくす所存だ。
当然だ。
男子高校生。
この世で最も尊き存在とお近づきになれるのだから。
「美雪」
「押忍」
「私はいい後輩を持ったようだ」
「先輩のご指導のたまものです」
私は自分の今カレを差し出すと、美雪も自分の元カレを差し出し、固い握手を交わすのだった。
「おい、美雪」
「押忍」
「お前の身長に関して、その子は何とも言わないのか?」
「特に気にするふうでもありません。ちなみにその子が特別高身長というわけではありません。私とほぼ同じ背丈です」
美雪は確か172くらいだ。
女としては高い方で、男性としては平均程度。
基本、男性は低身長の女を好み、自身より背の高い女はまず敬遠する。
テレビか何かで見た記憶だが、男性が女に望む理想の身長は150センチくらいと言われていた。
その点、美雪の172という数字は将来を悲観するに十分であるが、一縷の軌跡を手にしたようだ。
だが私の背は183。
この数字が意味するところは、二文字で事足りる。
絶望。
「美雪。忌憚ない意見を聞きたい。その子が私を見て、私を見上げて、どう思うだろうか?」
「はっきり申し上げても?」
「ああ。手が出るかどうかは、お前の言葉選び次第だがな」
美雪は、うーん、と悩んでいる。
本気で言葉遣いに悩んでいるわけではないだろう。
自分から忌憚のない意見などと言っておいて、気に食わない答えが返ってきたら、私が本当に手を出すはずもないと美雪もわかっている。
「先輩」
「うむ」
「多分、信じられないと思うんですが。その子は気にしませんし、むしろ興味を持つ可能性もあります」
「馬鹿な」
こんなでくの坊どころではない女にか?
「正確に言います。あの子は先輩の身長は気にしないですし、先輩の性格は気に入ると思います」
「何を言っている?」
美雪が意味不明な補足をするので、私の疑問はますます深まった。
「私も最初は戸惑いました。あらかじめ言っておきます。信じる信じないは別として、後でなんで先に言わなかったと指導を食らうの御免ですから」
ここでいう指導とは、横っ面にビンタである。
体育会系の、指導、可愛がり、面倒を見る、という言葉は日本語でありながら、その言葉の意味を正確に表すものではない。
「その子は――サドっ気があります。しかも相当に重度の変態気質です」
「は?」
「年上で強気の女、この場合は私ですが。そういう女に対して、非情に強い関心……ああもう、ぶっちゃけると、エロい意味で服従させたがるエロガキです」
「は? ……はぁ?」
美雪が何か話すたびに私の理解が遠のいていく。
「先輩は私の趣味、知ってますよね? 付き合いも長いですし」
「アレか。年下の美少年にリードされたい、なんなら弄ばれたいという、アレか」
「ソレです」
美雪は強い。
ここまでイッている性癖を面と向かって言葉にされても、羞恥どころか即座に応と言える胆力は尊敬に値する。
狭いラーメン屋のカウンターで、私達以外にも客は横並びに座っている状況だぞ?
露骨に私の隣のバアさんが顔をしかている。
美雪の横の女子高生は席を一つ横に移動した。
すまん皆、ラーメンをまずくさせたな。
「そんな私の願いが天に届いた、そう言えばおわかりですか?」
願いが天に届いたのか、落ちるところまで落ちて、業の果て、地獄の底に落ちたのかはともかく。
「……本当か?」
「私はすでにこの手に別れを告げています」
拳ダコが消えかかった右手。
美雪の一生涯の恋人と言われた右手。
別に空手に一生を捧げたというわけではない。
オナるための右手。
そう断言していた学生時代からの恋人、つまり元カレである。
それに別れを告げたという事は。
「そうか。本当なんだな」
「雄(オス)」
うらやましい。
一発殴っても許されるだろうか。
だが早まってはいけない。
美雪は別にその子の存在を私に言う必要はなかった。
だがあえて、私に紹介し、私にバイトの面倒を見て欲しいとまで言った。
つまり共有だ。
私の資金力や社会的地位でそのエロガキを保護し、二人で共有しようという魂胆なわけだ。
そしてその子なら私を女として見るだろうと、美雪は判断している。
うまい話には裏がある、という。
美雪がそんな事をするはずもないが、たとえ裏があったとしても。
私はその裏スジ、もとい裏まで舐めつくし、しゃぶりつくす所存だ。
当然だ。
男子高校生。
この世で最も尊き存在とお近づきになれるのだから。
「美雪」
「押忍」
「私はいい後輩を持ったようだ」
「先輩のご指導のたまものです」
私は自分の今カレを差し出すと、美雪も自分の元カレを差し出し、固い握手を交わすのだった。
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