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記録二 『黒猫、村の長になる』
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「暑い……」
照り付ける日差しが、俺の体力を容赦なく削っていく。
カラカラに干上がった地面だから、少しの風でも砂埃が舞い視界を悪くする。
(こんな所に、人が住んでるのか?)
草木は育たず水もないこの土地に、人が暮らしていけるのか、俺は歩きながら疑問を抱く。
人だけじゃない。虫や動物、生命力が強い魔物でもこんな環境で生きていけるはずがない。
(あれは……門、か?)
砂が舞う中、先の方に門らしきモノが見えた。
目に映り込んだモノが気になり、近付いてみる。
「やっぱり、門だ……結構、古いな」
古びた門の周りには、傷んだ木製の塀もある。
門の先を覗いてみると、今にも崩れそうな家々が並んでいる。見る限り、誰も住んでいない雰囲気を漂わせているが、一応、入ってみることにした。
「……静かだな」
人の声も、鳥の鳴き声もしない。
やはりここは、村の跡地とかで人は居ないのかもしれない。そう思いながら歩いていると、家の壁に寄り掛かる様に地べたに座り込んでいる影があった。
「人、か?」
その影に、慌てて駆け寄る。
「おい! しっかりしろ!」
座り込んでいた影は、まだ息をしている若い男だった。
「……ここも、終わりだ……」
男に声をかけるが、まるで俺の声が聞こえいない様に答えない。
その代わり、男はかすれた小さな声で何度も同じ言葉を繰り返している。
「早く、殺して……神様……楽に……楽にさせて……」
男が寄り掛かる家の中から、そんな弱々しい声も聞こえてきた。
家の中を覗いてみると、若い女と子供が二人倒れていた。俺は三人に駆け寄り声をかける。
「おい、 大丈夫か!?」
「……お腹……空いたよ……」
「喉、渇いた……」
「楽に……させて……」
女と子供二人は、家の前で座り込んでいる男と同じく俺の声には反応がない。
(顔色も悪いし、手足も細い……病気か、栄養不足か……)
倒れていた彼らを見て、そう思った。
死んだ様な目をしていて、体は痩せ細り、青ざめた顔色の悪さ。この原因は、病か飢えによる栄養不足。他にも原因があるかも知れないが、彼らの状態や村の様子から思い付くのはこの二つ。だが、俺は医者でもその知識がある訳でもから、断定も出来ない。
彼らが何時からこんな状態で倒れていたのか、何時からここに住んでいるのか、気になる事はあるが、彼らに話を聞ける状態じゃない。人がいるということは、他にも彼らの様に倒れている者がいるかも知れない。その中に、話が出来る者もいるかも知れない。そこで俺は、他に人がいないか探すことにした。すると、家の中や道端に十数人程が男達と同じ状態で倒れていた。
「しっかりしろ!」
そんな中、俺の声に反応する青年がいた。
青年は、倒れていた者達と同じく痩せ細り、気力を失いかけていた。
「猫が……人の言葉を。俺にも、幻覚が……」
(俺って、人の言葉を言ってたのか!?)
今まで人と会わずにここまで来たのもあり、自分が人の言葉を話しているいつは思いもしなかった。普通に考えて、猫の姿をしていれば、人には猫の鳴き声にしか聞こえていないと思うし、その事を俺自身も気にしなかった。だが、もしこの村の者達が正常な判断が出来る状態だったら、恐らく大事になっていただろう。そう思うと、内心こんな状態で良かったと思ってしまう。
「そ、そんな事より、何があったんだ? あちこちで人が倒れているが」
「……猫に話してもな」
彼が言いたいことは分かる。
猫に話した所でこの状況が変わるわけがないと言いたいのだろう。だが、今彼らを助けられるのは俺しかいない。彼らからしたら当てにならないと思うのは仕方ない事だが、俺だって知ってしまった以上、放っておけない。
「そこら辺にいる野良猫と一緒にするな」
「……猫じゃないなら、魔物が猫に化けて。 俺達は食われるのか……」
「いや、食わないから。確かに俺は肉は好きだが、人を食らう趣味はないし、そもそも、魔物じゃないから」
話は通じているが、どうも噛み合わない。
「そうやって、油断させて食らう気だろ……知能が高い魔物なら尚更」
俺は、青年の他人事の様な話し方にイラつき、気付いたら怒鳴っていた。
「だから、俺は魔物じゃねぇよ! 助かりたいなら、何があったか言え!」
「……」
青年は、目を丸くする。
「夢じゃない? 本当に、猫が話しているのか?」
「今まで話していただろう。一体、何だと思ってたんだよ」
「す、すまない。夢か幻覚だと……本当に魔物じゃないのか?」
「魔物じゃない。まぁ、猫が言葉を話していれば疑うのも分かるが、今は事情があってこの姿をしているだけだ。魔物の類いではないから安心しろ」
まるで目が覚めた様に、青年はハッキリとした口調で話す。
「そ、そうなのか。それで、この村を救うって……」
「その為に、話が出来るお前から、何があったのか話を聞く必要がある。話してくれるよな?」
半ば強引に、青年から村の事を聞く。
青年の話しによれば、僅かに保管していた作物や水が、近年続いている不作により底をつきようとしていた。そこで村の者達は、少しの飢えは我慢して乗り切る事を決めたが、ある魔物が村を荒らして行った。その魔物は、村人達を襲うことなく村から出ていったが、家の柱や村を囲う柵、畑や保管している作物を食い荒らした。それにより家の柱や柵は傷み始め、作物も腐ってしまった。そんな事に絶望している間もなく、ある家の少女が高熱を出し倒れ、それを看病していた両親も少女と同じ症状で倒れた。
「そこから、次々に人が倒れて……見ての通りだ」
「倒れた人達は、その家族と接触したのか? 看病や見舞いとかで」
「近所の人なら会ってたかも知れないけど、少なくとも俺や俺の家族は会ってない」
最初に症状が出たという少女と接触が無くても、村の人達は同じ症状で倒れている。
病の類いなら、最初に症状が出た者から近しい者へ移り、その近しい者から接触した者へと移っていくのが一般的だか、青年の話を聞く限りそうではなさそうだ。
「そういえば、魔物が村を荒らしたんだよな? その魔物というのは?」
「ネミルだ。隙間という隙間に入り込んで、草木をかじっていく魔物だよ。以前にも、奴らに荒らされた事はあったけど、こんな風にはならなかった……」
ネミル。確か、ネズミが異常な魔力を得たことで魔物化したと記憶にある。気が弱く、群れで行動する習性は変わらず、人を襲う事はないが作物を荒らしたり、家の柱をかじったり、至る所に糞を撒き散らしたりと人を困らせる魔物だ。そして、ネミルは闇の特性を持ち「毒」を作るとも言われている。その毒はら少し体内に入れば風邪の様な症状で数日すれば治るが、これを大量に体内に入れてしまえば死に至る程の猛毒だという。もし、何らかの原因でネミルの毒に侵されている村の人達はネミルの毒に侵されているとしたら、村人達の事は頷ける。
そこで、青年にネミルが村を荒らして行った後の事を聞いた。
「前の時と、違った事はないか?」
「違った?」
「例えば、前回はしていたが、今回はしなかった事、とかな」
青年は少し考え込み、何か思い出したのか「そういえば……」と小声で言った。
「何か思い出したか?」
「そんなに大袈裟な事じゃないんだけど、ネミルが荒らして行った後の片付けをしていた時、今までは口に布を当てて素手で作業しなかったんだけど……」
「今回は、それをしなかった?」
俺の聞き返しに、青年は頷いて言う。
「荒らされるのに慣れているせいか、皆、その事を気にしていない様だった」
「じゃあ、お前もしていなかったのか?」
「逆に俺は、それが当たり前だったから布で口を隠して、手袋をして作業していた。俺の家族も……」
原因は、ネミルの毒で間違いはないだろう。
村人達は、ネミルが村中に撒き散らして行った「毒素」を知らずのうちに吸い込んでいた。その上、十分な食事をしない日々を過ごしていたせいで、病への抵抗力が弱まってしまった少女がその毒に侵されてしまった。そして、抵抗力が弱った子供や老人、病気持ちの者達から順に毒に侵され倒れていった。
「これは病ではなく、魔物の毒にやられただけだ」
「毒!?」
「ああ。ネミルは毒を作り、それを振り撒いて歩く。毒の量や質にもよるが、生物の体内に入ってしまえば、最悪、死に至るとも言われている」
「そんな……薬草が効かなかったのは……」
魔力を使って作り出された毒には「薬草は効かない」ことを伝えると、青年は全身から力が抜けた様に肩を下ろした。
「それじゃあ、一体どうすれば良いんだよ……」
「魔力を使って作り出されたとなれば、それは魔法とも言える。魔法には魔法で消せば良いだけだ」
「魔法って……光魔法でも使って治すってのか? 俺にはそんな高度な魔法は使えない」
打つ手なしと言う様に、青年は悔しそうに言う。
今、魔法が使える様な奴は何も青年だけではない。そう、俺がいる。光魔法が使えるか確認済みだから、怪我やちょっとした風邪程度の病なら治せると思う。たが、問題は毒が病なのか、それとも怪我なのか、俺はどうでも良いことで頭を悩ませた。
(……まぁ。良いか、どっちでも)
俺は、考えるのを止めた。
「これから、どうしたら……」
青年は青年で、毒をどうやって消せば良いのか頭を悩ませている。
そこで、俺はある提案をした。
「魔法なら俺も使える。光魔法をな。だが、毒を消すのは初めなんだよな」
「そんな……」
「そこでだ。先ずは、毒が消せるのかお前の体で試してみたいんだが……良いか?」
「それって……俺に実験体になれってことか?」
実験体と言えば聞こえは悪いが、青年からしてみればそう思うのも無理はない。
「そう思うのは無理もない。お前からしたら俺に命を預けるような事だからな。だが、俺はお前を殺そうとしているわけじゃない。村人達を救えるなら救いたいだけだ。その中に、お前もいるんだ」
俺は、真っ直ぐ青年の目を見て言うと、青年は少し目を逸らし考えると、再び俺の方を見て答える。
「それで、村の人達が助かるなら、俺はあなたを信じるだけです」
青年の決意のお陰で、俺は毒が消せるのか試すことが出来た。
「それじゃあ、やるぞ? 具合が悪くなったり、違和感を感じたら直ぐに言えよ?」
そう声をかけると、青年は頷きゆっくり目を閉じた。
俺は、毒を消すイメージをしながら光魔法を青年にかけ、ほんの数秒でそれを止め青年に声をかける。
「気分はどうだ?」
「えっ、もう終わったの?」
「ああ。手応え的には良かったんだが……まだ、治ってない感じか?」
思いのほか直ぐに終わった事に驚きながら、青年は腕を回したり、その場に立ってみたりと体を動かした。
「か、体が軽い! 体のダルさも、息苦しさもない!」
「ってことは、成功みたいだな。まだ、油断は出来ないが……良かった」
成功したとはいえ、完全に毒を消せたという確証はまだない。この後、急に青年の容態か変わる可能性だってあるし、倒れている村人達の方は青年より重症だ。俺の魔法がそれに通用するのかもやってみないと分からない。安心は出来ないが、この勢いでやるしかない。
「始めるぞ?」
「お願いします」
俺は、歩き回れるまでに回復した青年と共に、倒れている村人達の毒を消して回った。
手始めに、近場の家の中で倒れていた青年の家族に光魔法を使った。青年の家族は、母、父、祖父、弟の四人。それぞれに光魔法をかけ様子を見る。
「ん……わしは……」
「爺ちゃん!! 俺のこと分かる!?」
暫くして、青年の祖父が目を覚ました。
青年の声掛けに、老人は弱々しい声だがハッキリと答える。
「分かるとも……わしの孫じゃ」
「爺ちゃん! 良かった……良かった……」
嬉しそうに青年は涙を流して、老人に抱き付いた。
それから間もなくして、残りの三人も目を覚ました。四人に今の体調の事を聞くと、疲れを感じるが体のダルさは感じないと答えた。
「それで……そこの真っ黒い猫は?」
「この猫が、俺や爺ちゃん達を助けてくれたんだ」
青年は、物凄く簡単に俺のことを話した。
「本当にこの猫が、私達を?」
「普通の猫にしか見えないが……」
観察する様に俺を見る四人に、俺は耐えきれず「他の村人達も見てくる」と青年に言って家を出た。その間「猫がしゃべった!」という声は聞こえたが、俺は気にせず倒れている村人達の所に向かった。
「家族達がごめん……」
家から出て行った俺を追いかけ、青年は言った。
「何故、謝る?」
「助けてもらったのに失礼な事を言ったから……」
青年は俺が怒ったと思ったのか、申し訳なさそうに言った。
「いや、俺は別に怒っていない。お前の家族達が疑問に思うのは普通だと思う。ただ、あんなに見られたら流石に……」
「ごめん、悪気はないんだ。この大陸に人は勿論、動物も寄り付かないから、珍しいと思ったんだと思う」
「人が寄り付かない? 何故だ?」
「もしかして……ここが何処なのか知らないの?」
驚いた顔で、青年は聞いてくる。
「ああ。気付いたら、ここに辿り着いていたって感じだからなぁ」
「そ、そうなんだ……じゃ、じゃあ、簡単にここの事を教えるよ」
気を使ったのか、青年は有り難いことに今いる場所の事を教えてくれた。
この世は、五つの大陸で出来ている。知識こそが全てと謳う「西の大陸」、力こそが全てと謳う「東の大陸」、愛こそが全てと謳う「南の大陸」、そして、全ては平等だと謳う「北の大陸」。それぞれは互いの価値観や思考こそが正しいとしており、目に見える争いは無いものの互いを敵視している関係にある。だが、それは北の大陸を除いての話だ。北の大陸は、他の大陸から恐れられている。
「恐れられている……まぁ、分からなくもないが」
「魔物が他の大陸よりも多く生息していて、作物も育ちにくい環境。そんな場所で人は生きていけないと他の大陸の人達は避けているんだよ」
苦笑いを浮かべる青年。
実際問題、人の生活が貧しいのはこの土地の環境に原因がある。この厳しい環境が少しでも良くなれば人が住みやすいと思えるだろう。だが、自然が相手だと簡単に環境を良くする事は出来ない。それが分かっていながら、ここで人が暮らし続けるのには理由がある。それは、「他の大陸に許可なく入る事は禁止」という大陸全体で共通するルールの一つ。生きて行くには厳しい環境だからと言って、他の大陸に逃げるこ事も簡単ではない。
「あと、北の大陸の守護神は魔物じゃないかって言われている。俺達は、きにしていないけどね」
俺の記憶にも、青年の話の内容があった。
自分達の大陸を守っている神こそが一番だと各大陸が言っているらしく、それが他の大陸と対立になっている一番の原因だと記憶にある。
「……くだらないな」
「俺もそう思う……まぁ、そんな場所だよ、ここは」
「教えてくれてありがとう。正直、ここが何処なのか知りたかったから助かったよ」
「これくらい、大したことじゃないよ」
そんな話をしながら、俺達は各家や道端に倒れている人達に声をかけながら、一人ずつ光魔法をかけ看病して回った。
そして、倒れていた人達は一人、また一人と意識を取り戻し、全ての村人から症状が消えた。それに比例して、ある壁が俺と青年の前に立ちはだかった。
「皆の症状が良くなったのは、良かったけど……」
「次は食料と水不足の問題だな」
「うん……」
青年が話していた通り、この村には食料となるモノが少なく、水に至っては泥が混ざった枯れた井戸の水しかなく、とてもじゃないが使えそうにない。
倒れていた村人達は、症状が消えたとはいえ誰もが不健康そうで「元気」とは言えない状態。そんな彼らに元気になってもらうには、栄養がある食事と綺麗な水を摂取してもらう必要がある。だが、今の村の状態ではかなり厳しい。そこで俺は、その場しのぎの解決策として、自分が森で採った果物や山菜、一応、狩った魔物を使うことにした。
「実は、手持ちに果物と山菜、それと魔物があるんだが……」
「え……魔物……」
栄養があるかは分からないが、肉には変わりはないし、良い食材になると思ったんだが、やはり魔物の肉は食べないか。
「魔物は食べないよな。すまない」
「ち、違うよ! むしろ、好んで食べるから!」
「そうなのか? 一瞬固まったから、食べないのかなと」
「それは、つい嬉しくて……魔物の肉は、栄養があるし、手を加えれば日持ちもするから俺達にとっては有り難い食材なんだ。だけど、本当に使って良いのか?」
恐らく青年は、俺にとっても貴重な食材だと思ったんだろうけど、正直、あの量を一人で食べきれる自信がない。食べれるのであれば、むしろ使ってくれた方が俺としては助かる。
「使って良いから言ったんだ。遠慮しなくても良い。だが、魔物を食べるとは思わなかったな。逆に、食べないと言われる覚悟をしていたんだが」
「北の大陸に住んでいる人達は食べるよ。貴重な食材だからね」
笑って青年は言う。
俺の記憶だと、魔物の肉は人は好んで食べないとあるが、これは北の大陸を除いての話なのかもしれない。他の大陸はここまで厳しい環境じゃないから、魔物の肉をわざわざ食べなくても生きていけるから、魔物の肉を食べる習慣がなく好んで食べないのだろう。だが、魔物の肉さえも有り難い食材と思う様な環境や暮らしをしていれば、青年の様に思うのかもしれない。
「そういえば、魔物の解体は終わってるのか?」
「いや、してない。俺じゃあ、出来ないからな」
「確かに、無理そう。俺で良いなら、解体するけど」
「出来るならそうしてくれ。それに、今やれるのは俺とお前しかいないし」
「はは、それもそうだ。それじゃあ、先に、解体しちゃおう」
青年に「解体場に案内する」と言われ、その場所に向かった。
「ここが、解体場……」
「す、少しアレだけど、解体に必要な物はあるから……」
苦笑いを浮かべる青年。
特別な施設なのは見れば分かるが、他の建物と変わらずボロい。まるで、ここ数年は使っていないと言う様に、全体的に埃っぽく、天井には大きなクモの巣。床や壁にはヒビや穴、腐りかけている箇所が幾つもある。
「ここで、解体するのか?」
「流石にしないよ。ここには、道具を取りに来ただけ。出来るならここでしたかったけど……こんな不衛生な場所で解体は出来ない」
「なら、何処で解体するんだ?」
「それも、ちゃんと考えてある」
青年はそう答えると、解体場の中に入り、ナイフやハサミなどの道具を探しそれらを持って戻って来た。
「それじゃあ、行こう」
「あ、ああ」
何となくだが、青年が生き生きしている様に見える。
そんな青年の後をついていくと、広い場所に着いた。
「ここなら、広さに余裕があるし、他の所よりも砂も舞っていないから、解体するのには良い場所だと思うんだけど、どうかな?」
「広さは文句ないし、本当に砂埃も舞ってない。俺も良いと思う」
仮の解体場も決まり、俺は森で狩った数体の魔物を、早速アイテムボックスから取り出した。勿論、あの食いかけのオーク以外の魔物を……。
「こ、これは……」
「どうかしたのか?」
「そ、その。予想外の量と、魔物が高ランクだから驚いて……」
「量は分かるが、魔物にランクがあるのか?」
そう聞き返すと、青年は「あるよ!」と声を上げた。
魔物には「ランク」というものがあり、そのランクが高ければ高いほど魔物の力は強く、珍しい素材や上質な肉が取れるらしい。だが、そんな魔物を倒すのは当然ながら簡単ではなく、下手をしたら死んでしまう危険な相手だと青年は言う。ランクは「S」から「D」まであり、Sに近ければ近いほど強い魔物という意味になる。そして青年曰く、俺が倒した魔物達のほとんどが「A」ランクに近い中級の魔物らしい。
「本当に、この魔物達を一人で倒したの?」
「まぁな。俺は弱く思えたが……そんなに強い魔物だったのか。知らなかった」
「そ、それじゃあ! 解体を始めよう!」
「あ、ああ。よろしく頼む」
青年は、目の前にある魔物達を一体ずつ解体していく。
(お~、手早い!)
悩む事なく青年は、魔物を解体していく。腹を裂き、内蔵を取り出し、肉から皮を剥ぎ取り、牙や角を丁寧に取り外していく。そうして作業をすること一時間弱、全ての魔物が綺麗に解体された。
「ふぅ~、こんなもんかな」
「お疲れ! こんなに早く終わるなんて、 凄いな!」
俺は、青年の手捌きに感動し、思わず叫んでしまった。
「そ、そんな事はないですよ! 俺なんか解体を長年してきた人に比べたらまだまだですよ」
照れ臭そうに青年は言う。
そうは言うが、あの量の魔物をこんな短時間で解体できるものなのか。青年は、自分のことを「経験が浅い」と言っていたが、もしそうなら、こんな風に解体は出来ないと俺は思う。恐らく、青年がそう思うのは「職人」が持つ感覚から来ているモノなのかもしれない。
そんな青年が、解体して取り出された物を見て俺は言う。
「それにしても、この量は凄いな。一旦、俺のアイテムボックスに入れるか?」
「そうしてくれる? こっちは、俺が片付けるから」
「分かった」
魔物から取り出されたのは肉だけではなく、皮や牙、そして魔石といった石がある。俺は、それをアイテムボックスに入れ、青年の片付けが終わるの待った後、一緒に青年の家に向かった。
「肉はこのくらいで良い?」
「そうだな。これなら消化しやすいだろ」
家に戻った俺と青年は、村人全員分の食事を作っている。
青年が解体して取り出した肉は、思っていたよりも多く取れ、 当分の食事には困らないと思う。だが、 村人達はは病み上がりの上、ろくに物を食べていないから ステーキの様な消化が悪い物は、まだ食べさせられない。本当は雑炊を作るのが一番良いのだが、この村には米やその代わりになりそうな物もない。そこで俺は、雑炊 もどきを作ろうと考えた。できるだけ肉や 山菜は細かく切り、柔らかくする為に水を多めに入れ、 味付けに、青年の家にあった塩をまぶし、アクを取りながら鍋でコトコト煮込む。
「いい匂いがしてきたなぁ」
「美味しそうな匂い!」
鍋からしてくる美味しそうな匂いに、俺と青年は自然と腹が鳴る。
「そろそろ、良いかな?」
「そうだな。人に食べさせる前に味見しよう」
鍋の蓋を開けると湯気が一気に溢れ、中から美味しそうな匂いが部屋中を漂う。
「これは……雑炊というより、スープだね」
「ま、まぁ! 食べられれば良いんだ! ほら、味見」
「そ、それじゃあ、早速……」
作り始めは雑炊風にしたかったのだが、米じゃないせいか、ただの具だくさんスープになってしまったがこの際味と胃に優しければ何でも良い。ということで、俺と青年は村人達に配る前に味見をする。
青年は家にあった小さな器を二つ用意し、出来たスープを少量だけ盛り、一つを俺の前に置く。俺はそれに息を吹き掛け少し覚まして、一舐めする。
「う……」
俺は、思わず顔をしかめた。
だがこれは消してまずいからではない 想像していたよりも美味しく、その感動のあまり目をギュッと閉じてしまっただけ。 そして溢れんばかりに声が出た。
「美味いぃぃ!」
その声は、青年の声とも重なり村中に響き渡る程だった。
「美味いよ、これ!」
「あっさりしているし、肉も噛まなくても良いくらい柔らかい。これなら、子供や年寄りでも問題なく食べられそうだ」
「それに、 味も文句なし!」
鍋の蓋を開けた時食欲をそそるような美味しそうな匂いがしていたがこれほどまで 良い味になるとは思わなかった。作った本人が驚くくらいだ、村人達もきっと喜んでくれる。俺と青年は、村人達に出来たスープを配って回ると、それを食べた村人達は、誰一人残すことなく完食した。
それを何日か繰り返し、村に明るさが戻り始めた頃。
俺は、物凄く困っている。目の前に並び、頭を下げる村人達に……。
「あなた様が居なければ、我々は死んでいました! 助けて下さった上、我々に食材や水を提供していただいて……」
「い、いや。俺がしたくてやったことだ。礼を言われるような事は……」
「何をおっしゃいますか! 我々にとってあなた様はもはや英雄なのです。礼を言うだけでは足りません!」
頭を下げる村人達の前にいるこのおじさんは、青年の祖父。そして、ついこの間 知ったのだが、この村の長だ。
「いや別にその礼だけで十分なのだが……」
「何もない村からあなた様に捧げる物はないか村の者達と話し合った末……」
俺の話を全く聞かず、話を進める村長。
「あなた様にこの村を差し上げるということになりました」
「……はい?」
村長の言葉に、一瞬で頭の中が真っ白になる。
今この人、何て言った。俺に「この村を差し出す」って聞こえたが、流石に聞き間違えだろう。そこで俺は、村長に聞き返す。
「すまない。もう一度、聞いて良いか? 何を決めたって?」
「ですから、あなた様にこの村を差し上げると……」
(聞き間違いじゃなかったぁ!)
俺は、何故そんな考えになったのか慌てて聞くと、村長は視線を逸らして答えた。
昔は幾つかの村や集落、それこそ町と呼べる場所もあった。しかし、病気や飢えにより人々は倒れ、そこから離れ別の場所で暮らしては離れを繰り返し、最終的に各地から集まって出来たのがこの村だと、村長は言った。
「あの頃はまだ、魔物を狩る者や力仕事をする若者達がいたのですが、今は誰一人として魔物を狩る事が出来る者はおらず、若者はいますが仕事がなく年老いて行くばかり……」
他の大陸から訪れる者は勿論いない為、自分達の命を守れるのは自分達。だが、村を襲ってきた魔物を撃退する者も怪我や病気を治療する者もいない。そして、金になる仕事もなく若者は暇を持て余している。この状況を何とかしようと村長は考え、これまで行動してきたが成果は何も得られなかった。
「ですが、あなた様は多くの魔物を狩ることが出来、怪我や病気を治せる光魔法も使える。冷静に物事を考えるあなた様にならついて行きたいと思っております」
村長が言いたいことはなんとなくわかった つまり俺にこの村を守る騎士になってほしいということなのだろう 襲撃してきた魔物を倒し村の医師として怪我や病気を治し、何か良い案があればそれを村人達に伝え実行する。だがそれは、俺がわざわざ村長にならなくても出来る事のはず。きっと、村長は俺が村から出て行くのを止めようとして村長の座を譲ろうとしているのかもしれない。
(元々、行く当てがなく彷徨っていたし、こんな姿の俺を村に置いてくれるのだから有り難い話……)
そう思って、気付く。
村人達は、俺に頭を下げてまで「村長になってほしい」と言っているが、俺の姿は人ではなく猫だ。それなのに、誰も反対しなかったのか気になる。
「あのさ。会話は出来るけど、猫だぞ俺。村長が猫になっても良いのか?」
「……あなた様に村長を譲ればそうなることも含めて話し合いました。ですが、話にはあなた様の容姿ではなく、我々にして下さった感謝の言葉が多かったのです。そして、村長が猫になるのは問題ではないと、私は判断いたしました。ですが……」
村長は聞いてきた。
それは、俺の素性だ。猫が話せるのはやはりありえない話。その正体が知能が高い 魔物で猫に化けていると言った方がまだ納得がいく。だが、本人の俺が魔物じゃないと言っている以上、信じるしかない。
「あなた様のことを疑っている訳ではありませんですが、あなた様がそのような姿になっている理由があるのなら教えていただきたいのです。あなた様がその事で何か困ったことが起きた時、我々が事情を知っていれば手助けが出来るかもしれません」
真っ直ぐに俺を見る、村長と集まった村人達。
村長達は俺の事をただ知ろうとしているだけだった。俺は、ただの通りすがりの自分で言うのも虚しいが「不気味な猫」だ。それなのに俺のことを自分達を救った英雄だと言って、村長になってくれと頼んできた。俺が生きていくための最後の望みだと思っていたとしても、見ず知らずの得体の知らない猫に村を任せようなんてに普通なら思わない。俺が知らない所で何度も議論して出した答えだとしたら、俺は皆が求めていること答えなくてはいけないだろう。たまたま辿り着き出会った人たちだったのに、解決したら出て行こうとしていたのに、不思議と今はそうは思っていない。
「分かった、話す。俺の事……」
俺が知っていることを全て話した 気がついたら見知ら 森で眠っていたこと 自分の記憶がなく猫の姿だったこと 自分のこと以外の常識などの記憶は備わっていたこと 俺が自分のことを一番知りたいと思っていることを全て隠さずに村人達に話した。俺の話を聞いて村人達が「信用できない」、「村から出て行け」と言ってくる覚悟をしたが、町長や村人達はそんな言葉は口にしなかった。
「そうだったんですね。今も、ご自身のことを思い出せないのですか?」
「ああ。思い出していたら、普通に答えている……」
「ありがとうございます。話しにくいことを話して頂いて。ですが、これで我々もあなた様のことを知ることができました。何かあれば、我々を頼ってください」
「良いのか? 嘘をついているかもしれないんだぞ?」
本当は村人達の反応は嬉しかった。だが、それにも何か裏があるのではないかと疑い、俺は素直になれなかった。
「そうだったとしても、我々が出した答えは何も変わりません。あなた様に良いよ様に使われる運命だったとしても、それは我々が招いた結果です。それに、あなた様は嘘をつく様なお方ではないと、私を含め村の者達は思っております」
村長の言葉に後ろに習う 村人たちを見ると 村人たちは笑みを浮かべて頷いていた それを見た俺はここにいるのがいいと思った そして彼らに答えた。
「記憶がなく、猫の姿の俺が村長になって、後々、後悔しても知らないからな」
「そ、それでは! 村長になって頂けるのですか!?」
「ああ、引き受けるよ。俺で良ければ……」
「ありがとうございます! どうか、これからよろしくお願いいたします!」
村長と村人達は、頭を深く下げた。
あの日から数日。
この村で暮らすことを決めたのはいいが 俺が住む場所はなかったため 村人たちは俺の家を作ると言ってくれた それができるまでの間、俺は前村長の「コルマ」さんの家でお世話になることになった。最初「俺は猫だから、外でも平気だ」と言ったのだが、コルマさん達に「それは、ダメです!」と言われまくり、こうして居候している。
「そうじゃ、村長殿……」
「コルマさん。その、村長殿って呼ぶの止めてくれないか?」
「なら、村長?」
「オルドまで……普通に呼んでくれないか?」
そう言うと、コルマさんと孫息子の「オルド」が困った顔を浮かべた。
「そう言われても、村長の名前は知らないから呼びようがないんだよなぁ」
「そうだな……」
「記憶を失くされているのでしょう?名前は覚えているの?」
オルドの母の「ルイネ」さんがそう聞いてきた。
今の今まで、自分の名前のことなど気にしていなかった。確かに、名を知らないのに「呼べ」と言われても呼べるはずがない。だが、ルイネさんが言うように俺は自分の名前すら覚えていない。なら、皆にどう呼んでもらえばいいのだろう。
「いや……覚えていない。名がないと呼ぶにも呼べないよな。すまない」
「そんな、謝ることじゃないよ。記憶がないのは知っていることだし」
「そうじゃなぁ。だが、名がないと何かと不便じゃろ。この先、人様に名乗るような事があるかもしれんし、 それこそ契約のサインをする事もあるかもしれん」
名が無ければずっと「村長」と呼ばれ、自分の事を「村長だ」と名乗ることにもなる。それは、絶対に避けたい。だが、肝心の名前が思い出せないとなれば、自分の名前を新たに考えるしかない。だが、自分で考えた名で名乗っても良いものなのか悩んでいると、家のドアがノックされ1人の少女が入ってきた。
「こんにちは~」
「あら、メトちゃん。いらっしゃい」
声をかけてきたのは「メト・コリン」といい、この家の隣に住む少女だ 。
メトは、オルドと同い年の幼馴染で幼い時から良く遊びに来ているらしい。 勿論、家族ぐるみで仲が良く、一緒に食事をしたりした時もあったという。
「メト、何か用事か?」
「ううん、 特に用事はないけど遊びに来たの。それより、外で話を聞いちゃったんだけど、村長さんの名前を決めるの?」
「あ、ああ。名がないのも不便だからな。だが、名を覚えていないとはいえ、自分で自分の名前を決めるのもどうかと思ってな」
悩んでいる事を口にすると、メトはキョトンとした顔で言う。
「そう? 自分が呼ばれたい名前を決められるから、私は良いなって思うけど」
「良いなって……まぁ、でも呼びやすい名前だと俺も助かるかも」
「どうしてだ?」
「明らかに偉い人みたいな名前だと、様とか殿とか付けないといけないって思うから。そういう意味だと、在り来たりな名前の方が気楽に呼べるかな」
ボルドはそう答えた。
確かに、何処にでもいる様な名の方が、皆にも覚えてもらいやすいかもしれない
「それに。もし、良い名前が浮かばなくても、自分の見た目とか好きな物とかの名前から決めても良いしね」
「なるほど……」
俺はメトのアドバイスを聞きながら、自分の名前を考える。何処にでもいそう名前、 少しかっこいい名前、 勇者の様な強そうな名前、王族にいそうな名前、響きが良さげな名前、様々な名前が頭に浮かび、それを心の中で復唱してみるが、どれもしっくりこない。なかなか、良い名前が思い浮かばず、俺はまた悪い癖が出た。そう、考えるのが面倒になったのだ。
(面倒だ。メトが言った通り、見た目とかで決めよう……俺は真っ黒い猫だったよな。真っ黒……漆黒……黒……)
そして、ついに俺は自分の名前を決めた。
「決めた。今日から俺をクロと呼べ」
「クロ……そのままだね!」
「お、俺は良い名前だと思うよ! よ、呼びやすいし!」
オルドよ、そんなに気を遣わなくても大丈夫だ。俺は、自分で見た目から名前を決める道を選んだんだ。後悔はない。むしろ、分かりやすくて良いだろう。と、俺は心の中で誇らしげに言った。
「様とかもいらないから、気楽に呼んで……」
「良いのか? お主は、村の長なのじゃから、もっと偉そうにしても良いのじゃぞ?」
「いや、村長になってくれって言ったのはコルマさん達だろ。それに、そんな事を前村長が言っても良いのか?」
溜め息混じりにそう聞き返すと、コルマさんは笑っていう。
「しかしだな、村長となれば皆が従う立場になる。性格がネジ曲がった奴が村長なら、それくらいの強要をしてきても可笑しくはないじゃろ?」
「そういう奴がな。俺は、そんな思考の持ち主じゃないし、村長だからって特別な立場にいるとも思っていない」
「分かってるよ。時々、爺ちゃんは試すような事を聞くから……」
オルドは、申し訳なさそうに言う。
「……それくらい、分かってる。だから、俺の事は気楽に呼べと、村の人達に伝えてくれ」
「分かった。皆には、そう伝えておく」
コルマさんは、そう言って笑みを見せる。
こうして俺は、村長「クロ」として忙しい日々を過ごすことになった。
この運命が、予想もしないモノへと続く道だとも知らずに……。
照り付ける日差しが、俺の体力を容赦なく削っていく。
カラカラに干上がった地面だから、少しの風でも砂埃が舞い視界を悪くする。
(こんな所に、人が住んでるのか?)
草木は育たず水もないこの土地に、人が暮らしていけるのか、俺は歩きながら疑問を抱く。
人だけじゃない。虫や動物、生命力が強い魔物でもこんな環境で生きていけるはずがない。
(あれは……門、か?)
砂が舞う中、先の方に門らしきモノが見えた。
目に映り込んだモノが気になり、近付いてみる。
「やっぱり、門だ……結構、古いな」
古びた門の周りには、傷んだ木製の塀もある。
門の先を覗いてみると、今にも崩れそうな家々が並んでいる。見る限り、誰も住んでいない雰囲気を漂わせているが、一応、入ってみることにした。
「……静かだな」
人の声も、鳥の鳴き声もしない。
やはりここは、村の跡地とかで人は居ないのかもしれない。そう思いながら歩いていると、家の壁に寄り掛かる様に地べたに座り込んでいる影があった。
「人、か?」
その影に、慌てて駆け寄る。
「おい! しっかりしろ!」
座り込んでいた影は、まだ息をしている若い男だった。
「……ここも、終わりだ……」
男に声をかけるが、まるで俺の声が聞こえいない様に答えない。
その代わり、男はかすれた小さな声で何度も同じ言葉を繰り返している。
「早く、殺して……神様……楽に……楽にさせて……」
男が寄り掛かる家の中から、そんな弱々しい声も聞こえてきた。
家の中を覗いてみると、若い女と子供が二人倒れていた。俺は三人に駆け寄り声をかける。
「おい、 大丈夫か!?」
「……お腹……空いたよ……」
「喉、渇いた……」
「楽に……させて……」
女と子供二人は、家の前で座り込んでいる男と同じく俺の声には反応がない。
(顔色も悪いし、手足も細い……病気か、栄養不足か……)
倒れていた彼らを見て、そう思った。
死んだ様な目をしていて、体は痩せ細り、青ざめた顔色の悪さ。この原因は、病か飢えによる栄養不足。他にも原因があるかも知れないが、彼らの状態や村の様子から思い付くのはこの二つ。だが、俺は医者でもその知識がある訳でもから、断定も出来ない。
彼らが何時からこんな状態で倒れていたのか、何時からここに住んでいるのか、気になる事はあるが、彼らに話を聞ける状態じゃない。人がいるということは、他にも彼らの様に倒れている者がいるかも知れない。その中に、話が出来る者もいるかも知れない。そこで俺は、他に人がいないか探すことにした。すると、家の中や道端に十数人程が男達と同じ状態で倒れていた。
「しっかりしろ!」
そんな中、俺の声に反応する青年がいた。
青年は、倒れていた者達と同じく痩せ細り、気力を失いかけていた。
「猫が……人の言葉を。俺にも、幻覚が……」
(俺って、人の言葉を言ってたのか!?)
今まで人と会わずにここまで来たのもあり、自分が人の言葉を話しているいつは思いもしなかった。普通に考えて、猫の姿をしていれば、人には猫の鳴き声にしか聞こえていないと思うし、その事を俺自身も気にしなかった。だが、もしこの村の者達が正常な判断が出来る状態だったら、恐らく大事になっていただろう。そう思うと、内心こんな状態で良かったと思ってしまう。
「そ、そんな事より、何があったんだ? あちこちで人が倒れているが」
「……猫に話してもな」
彼が言いたいことは分かる。
猫に話した所でこの状況が変わるわけがないと言いたいのだろう。だが、今彼らを助けられるのは俺しかいない。彼らからしたら当てにならないと思うのは仕方ない事だが、俺だって知ってしまった以上、放っておけない。
「そこら辺にいる野良猫と一緒にするな」
「……猫じゃないなら、魔物が猫に化けて。 俺達は食われるのか……」
「いや、食わないから。確かに俺は肉は好きだが、人を食らう趣味はないし、そもそも、魔物じゃないから」
話は通じているが、どうも噛み合わない。
「そうやって、油断させて食らう気だろ……知能が高い魔物なら尚更」
俺は、青年の他人事の様な話し方にイラつき、気付いたら怒鳴っていた。
「だから、俺は魔物じゃねぇよ! 助かりたいなら、何があったか言え!」
「……」
青年は、目を丸くする。
「夢じゃない? 本当に、猫が話しているのか?」
「今まで話していただろう。一体、何だと思ってたんだよ」
「す、すまない。夢か幻覚だと……本当に魔物じゃないのか?」
「魔物じゃない。まぁ、猫が言葉を話していれば疑うのも分かるが、今は事情があってこの姿をしているだけだ。魔物の類いではないから安心しろ」
まるで目が覚めた様に、青年はハッキリとした口調で話す。
「そ、そうなのか。それで、この村を救うって……」
「その為に、話が出来るお前から、何があったのか話を聞く必要がある。話してくれるよな?」
半ば強引に、青年から村の事を聞く。
青年の話しによれば、僅かに保管していた作物や水が、近年続いている不作により底をつきようとしていた。そこで村の者達は、少しの飢えは我慢して乗り切る事を決めたが、ある魔物が村を荒らして行った。その魔物は、村人達を襲うことなく村から出ていったが、家の柱や村を囲う柵、畑や保管している作物を食い荒らした。それにより家の柱や柵は傷み始め、作物も腐ってしまった。そんな事に絶望している間もなく、ある家の少女が高熱を出し倒れ、それを看病していた両親も少女と同じ症状で倒れた。
「そこから、次々に人が倒れて……見ての通りだ」
「倒れた人達は、その家族と接触したのか? 看病や見舞いとかで」
「近所の人なら会ってたかも知れないけど、少なくとも俺や俺の家族は会ってない」
最初に症状が出たという少女と接触が無くても、村の人達は同じ症状で倒れている。
病の類いなら、最初に症状が出た者から近しい者へ移り、その近しい者から接触した者へと移っていくのが一般的だか、青年の話を聞く限りそうではなさそうだ。
「そういえば、魔物が村を荒らしたんだよな? その魔物というのは?」
「ネミルだ。隙間という隙間に入り込んで、草木をかじっていく魔物だよ。以前にも、奴らに荒らされた事はあったけど、こんな風にはならなかった……」
ネミル。確か、ネズミが異常な魔力を得たことで魔物化したと記憶にある。気が弱く、群れで行動する習性は変わらず、人を襲う事はないが作物を荒らしたり、家の柱をかじったり、至る所に糞を撒き散らしたりと人を困らせる魔物だ。そして、ネミルは闇の特性を持ち「毒」を作るとも言われている。その毒はら少し体内に入れば風邪の様な症状で数日すれば治るが、これを大量に体内に入れてしまえば死に至る程の猛毒だという。もし、何らかの原因でネミルの毒に侵されている村の人達はネミルの毒に侵されているとしたら、村人達の事は頷ける。
そこで、青年にネミルが村を荒らして行った後の事を聞いた。
「前の時と、違った事はないか?」
「違った?」
「例えば、前回はしていたが、今回はしなかった事、とかな」
青年は少し考え込み、何か思い出したのか「そういえば……」と小声で言った。
「何か思い出したか?」
「そんなに大袈裟な事じゃないんだけど、ネミルが荒らして行った後の片付けをしていた時、今までは口に布を当てて素手で作業しなかったんだけど……」
「今回は、それをしなかった?」
俺の聞き返しに、青年は頷いて言う。
「荒らされるのに慣れているせいか、皆、その事を気にしていない様だった」
「じゃあ、お前もしていなかったのか?」
「逆に俺は、それが当たり前だったから布で口を隠して、手袋をして作業していた。俺の家族も……」
原因は、ネミルの毒で間違いはないだろう。
村人達は、ネミルが村中に撒き散らして行った「毒素」を知らずのうちに吸い込んでいた。その上、十分な食事をしない日々を過ごしていたせいで、病への抵抗力が弱まってしまった少女がその毒に侵されてしまった。そして、抵抗力が弱った子供や老人、病気持ちの者達から順に毒に侵され倒れていった。
「これは病ではなく、魔物の毒にやられただけだ」
「毒!?」
「ああ。ネミルは毒を作り、それを振り撒いて歩く。毒の量や質にもよるが、生物の体内に入ってしまえば、最悪、死に至るとも言われている」
「そんな……薬草が効かなかったのは……」
魔力を使って作り出された毒には「薬草は効かない」ことを伝えると、青年は全身から力が抜けた様に肩を下ろした。
「それじゃあ、一体どうすれば良いんだよ……」
「魔力を使って作り出されたとなれば、それは魔法とも言える。魔法には魔法で消せば良いだけだ」
「魔法って……光魔法でも使って治すってのか? 俺にはそんな高度な魔法は使えない」
打つ手なしと言う様に、青年は悔しそうに言う。
今、魔法が使える様な奴は何も青年だけではない。そう、俺がいる。光魔法が使えるか確認済みだから、怪我やちょっとした風邪程度の病なら治せると思う。たが、問題は毒が病なのか、それとも怪我なのか、俺はどうでも良いことで頭を悩ませた。
(……まぁ。良いか、どっちでも)
俺は、考えるのを止めた。
「これから、どうしたら……」
青年は青年で、毒をどうやって消せば良いのか頭を悩ませている。
そこで、俺はある提案をした。
「魔法なら俺も使える。光魔法をな。だが、毒を消すのは初めなんだよな」
「そんな……」
「そこでだ。先ずは、毒が消せるのかお前の体で試してみたいんだが……良いか?」
「それって……俺に実験体になれってことか?」
実験体と言えば聞こえは悪いが、青年からしてみればそう思うのも無理はない。
「そう思うのは無理もない。お前からしたら俺に命を預けるような事だからな。だが、俺はお前を殺そうとしているわけじゃない。村人達を救えるなら救いたいだけだ。その中に、お前もいるんだ」
俺は、真っ直ぐ青年の目を見て言うと、青年は少し目を逸らし考えると、再び俺の方を見て答える。
「それで、村の人達が助かるなら、俺はあなたを信じるだけです」
青年の決意のお陰で、俺は毒が消せるのか試すことが出来た。
「それじゃあ、やるぞ? 具合が悪くなったり、違和感を感じたら直ぐに言えよ?」
そう声をかけると、青年は頷きゆっくり目を閉じた。
俺は、毒を消すイメージをしながら光魔法を青年にかけ、ほんの数秒でそれを止め青年に声をかける。
「気分はどうだ?」
「えっ、もう終わったの?」
「ああ。手応え的には良かったんだが……まだ、治ってない感じか?」
思いのほか直ぐに終わった事に驚きながら、青年は腕を回したり、その場に立ってみたりと体を動かした。
「か、体が軽い! 体のダルさも、息苦しさもない!」
「ってことは、成功みたいだな。まだ、油断は出来ないが……良かった」
成功したとはいえ、完全に毒を消せたという確証はまだない。この後、急に青年の容態か変わる可能性だってあるし、倒れている村人達の方は青年より重症だ。俺の魔法がそれに通用するのかもやってみないと分からない。安心は出来ないが、この勢いでやるしかない。
「始めるぞ?」
「お願いします」
俺は、歩き回れるまでに回復した青年と共に、倒れている村人達の毒を消して回った。
手始めに、近場の家の中で倒れていた青年の家族に光魔法を使った。青年の家族は、母、父、祖父、弟の四人。それぞれに光魔法をかけ様子を見る。
「ん……わしは……」
「爺ちゃん!! 俺のこと分かる!?」
暫くして、青年の祖父が目を覚ました。
青年の声掛けに、老人は弱々しい声だがハッキリと答える。
「分かるとも……わしの孫じゃ」
「爺ちゃん! 良かった……良かった……」
嬉しそうに青年は涙を流して、老人に抱き付いた。
それから間もなくして、残りの三人も目を覚ました。四人に今の体調の事を聞くと、疲れを感じるが体のダルさは感じないと答えた。
「それで……そこの真っ黒い猫は?」
「この猫が、俺や爺ちゃん達を助けてくれたんだ」
青年は、物凄く簡単に俺のことを話した。
「本当にこの猫が、私達を?」
「普通の猫にしか見えないが……」
観察する様に俺を見る四人に、俺は耐えきれず「他の村人達も見てくる」と青年に言って家を出た。その間「猫がしゃべった!」という声は聞こえたが、俺は気にせず倒れている村人達の所に向かった。
「家族達がごめん……」
家から出て行った俺を追いかけ、青年は言った。
「何故、謝る?」
「助けてもらったのに失礼な事を言ったから……」
青年は俺が怒ったと思ったのか、申し訳なさそうに言った。
「いや、俺は別に怒っていない。お前の家族達が疑問に思うのは普通だと思う。ただ、あんなに見られたら流石に……」
「ごめん、悪気はないんだ。この大陸に人は勿論、動物も寄り付かないから、珍しいと思ったんだと思う」
「人が寄り付かない? 何故だ?」
「もしかして……ここが何処なのか知らないの?」
驚いた顔で、青年は聞いてくる。
「ああ。気付いたら、ここに辿り着いていたって感じだからなぁ」
「そ、そうなんだ……じゃ、じゃあ、簡単にここの事を教えるよ」
気を使ったのか、青年は有り難いことに今いる場所の事を教えてくれた。
この世は、五つの大陸で出来ている。知識こそが全てと謳う「西の大陸」、力こそが全てと謳う「東の大陸」、愛こそが全てと謳う「南の大陸」、そして、全ては平等だと謳う「北の大陸」。それぞれは互いの価値観や思考こそが正しいとしており、目に見える争いは無いものの互いを敵視している関係にある。だが、それは北の大陸を除いての話だ。北の大陸は、他の大陸から恐れられている。
「恐れられている……まぁ、分からなくもないが」
「魔物が他の大陸よりも多く生息していて、作物も育ちにくい環境。そんな場所で人は生きていけないと他の大陸の人達は避けているんだよ」
苦笑いを浮かべる青年。
実際問題、人の生活が貧しいのはこの土地の環境に原因がある。この厳しい環境が少しでも良くなれば人が住みやすいと思えるだろう。だが、自然が相手だと簡単に環境を良くする事は出来ない。それが分かっていながら、ここで人が暮らし続けるのには理由がある。それは、「他の大陸に許可なく入る事は禁止」という大陸全体で共通するルールの一つ。生きて行くには厳しい環境だからと言って、他の大陸に逃げるこ事も簡単ではない。
「あと、北の大陸の守護神は魔物じゃないかって言われている。俺達は、きにしていないけどね」
俺の記憶にも、青年の話の内容があった。
自分達の大陸を守っている神こそが一番だと各大陸が言っているらしく、それが他の大陸と対立になっている一番の原因だと記憶にある。
「……くだらないな」
「俺もそう思う……まぁ、そんな場所だよ、ここは」
「教えてくれてありがとう。正直、ここが何処なのか知りたかったから助かったよ」
「これくらい、大したことじゃないよ」
そんな話をしながら、俺達は各家や道端に倒れている人達に声をかけながら、一人ずつ光魔法をかけ看病して回った。
そして、倒れていた人達は一人、また一人と意識を取り戻し、全ての村人から症状が消えた。それに比例して、ある壁が俺と青年の前に立ちはだかった。
「皆の症状が良くなったのは、良かったけど……」
「次は食料と水不足の問題だな」
「うん……」
青年が話していた通り、この村には食料となるモノが少なく、水に至っては泥が混ざった枯れた井戸の水しかなく、とてもじゃないが使えそうにない。
倒れていた村人達は、症状が消えたとはいえ誰もが不健康そうで「元気」とは言えない状態。そんな彼らに元気になってもらうには、栄養がある食事と綺麗な水を摂取してもらう必要がある。だが、今の村の状態ではかなり厳しい。そこで俺は、その場しのぎの解決策として、自分が森で採った果物や山菜、一応、狩った魔物を使うことにした。
「実は、手持ちに果物と山菜、それと魔物があるんだが……」
「え……魔物……」
栄養があるかは分からないが、肉には変わりはないし、良い食材になると思ったんだが、やはり魔物の肉は食べないか。
「魔物は食べないよな。すまない」
「ち、違うよ! むしろ、好んで食べるから!」
「そうなのか? 一瞬固まったから、食べないのかなと」
「それは、つい嬉しくて……魔物の肉は、栄養があるし、手を加えれば日持ちもするから俺達にとっては有り難い食材なんだ。だけど、本当に使って良いのか?」
恐らく青年は、俺にとっても貴重な食材だと思ったんだろうけど、正直、あの量を一人で食べきれる自信がない。食べれるのであれば、むしろ使ってくれた方が俺としては助かる。
「使って良いから言ったんだ。遠慮しなくても良い。だが、魔物を食べるとは思わなかったな。逆に、食べないと言われる覚悟をしていたんだが」
「北の大陸に住んでいる人達は食べるよ。貴重な食材だからね」
笑って青年は言う。
俺の記憶だと、魔物の肉は人は好んで食べないとあるが、これは北の大陸を除いての話なのかもしれない。他の大陸はここまで厳しい環境じゃないから、魔物の肉をわざわざ食べなくても生きていけるから、魔物の肉を食べる習慣がなく好んで食べないのだろう。だが、魔物の肉さえも有り難い食材と思う様な環境や暮らしをしていれば、青年の様に思うのかもしれない。
「そういえば、魔物の解体は終わってるのか?」
「いや、してない。俺じゃあ、出来ないからな」
「確かに、無理そう。俺で良いなら、解体するけど」
「出来るならそうしてくれ。それに、今やれるのは俺とお前しかいないし」
「はは、それもそうだ。それじゃあ、先に、解体しちゃおう」
青年に「解体場に案内する」と言われ、その場所に向かった。
「ここが、解体場……」
「す、少しアレだけど、解体に必要な物はあるから……」
苦笑いを浮かべる青年。
特別な施設なのは見れば分かるが、他の建物と変わらずボロい。まるで、ここ数年は使っていないと言う様に、全体的に埃っぽく、天井には大きなクモの巣。床や壁にはヒビや穴、腐りかけている箇所が幾つもある。
「ここで、解体するのか?」
「流石にしないよ。ここには、道具を取りに来ただけ。出来るならここでしたかったけど……こんな不衛生な場所で解体は出来ない」
「なら、何処で解体するんだ?」
「それも、ちゃんと考えてある」
青年はそう答えると、解体場の中に入り、ナイフやハサミなどの道具を探しそれらを持って戻って来た。
「それじゃあ、行こう」
「あ、ああ」
何となくだが、青年が生き生きしている様に見える。
そんな青年の後をついていくと、広い場所に着いた。
「ここなら、広さに余裕があるし、他の所よりも砂も舞っていないから、解体するのには良い場所だと思うんだけど、どうかな?」
「広さは文句ないし、本当に砂埃も舞ってない。俺も良いと思う」
仮の解体場も決まり、俺は森で狩った数体の魔物を、早速アイテムボックスから取り出した。勿論、あの食いかけのオーク以外の魔物を……。
「こ、これは……」
「どうかしたのか?」
「そ、その。予想外の量と、魔物が高ランクだから驚いて……」
「量は分かるが、魔物にランクがあるのか?」
そう聞き返すと、青年は「あるよ!」と声を上げた。
魔物には「ランク」というものがあり、そのランクが高ければ高いほど魔物の力は強く、珍しい素材や上質な肉が取れるらしい。だが、そんな魔物を倒すのは当然ながら簡単ではなく、下手をしたら死んでしまう危険な相手だと青年は言う。ランクは「S」から「D」まであり、Sに近ければ近いほど強い魔物という意味になる。そして青年曰く、俺が倒した魔物達のほとんどが「A」ランクに近い中級の魔物らしい。
「本当に、この魔物達を一人で倒したの?」
「まぁな。俺は弱く思えたが……そんなに強い魔物だったのか。知らなかった」
「そ、それじゃあ! 解体を始めよう!」
「あ、ああ。よろしく頼む」
青年は、目の前にある魔物達を一体ずつ解体していく。
(お~、手早い!)
悩む事なく青年は、魔物を解体していく。腹を裂き、内蔵を取り出し、肉から皮を剥ぎ取り、牙や角を丁寧に取り外していく。そうして作業をすること一時間弱、全ての魔物が綺麗に解体された。
「ふぅ~、こんなもんかな」
「お疲れ! こんなに早く終わるなんて、 凄いな!」
俺は、青年の手捌きに感動し、思わず叫んでしまった。
「そ、そんな事はないですよ! 俺なんか解体を長年してきた人に比べたらまだまだですよ」
照れ臭そうに青年は言う。
そうは言うが、あの量の魔物をこんな短時間で解体できるものなのか。青年は、自分のことを「経験が浅い」と言っていたが、もしそうなら、こんな風に解体は出来ないと俺は思う。恐らく、青年がそう思うのは「職人」が持つ感覚から来ているモノなのかもしれない。
そんな青年が、解体して取り出された物を見て俺は言う。
「それにしても、この量は凄いな。一旦、俺のアイテムボックスに入れるか?」
「そうしてくれる? こっちは、俺が片付けるから」
「分かった」
魔物から取り出されたのは肉だけではなく、皮や牙、そして魔石といった石がある。俺は、それをアイテムボックスに入れ、青年の片付けが終わるの待った後、一緒に青年の家に向かった。
「肉はこのくらいで良い?」
「そうだな。これなら消化しやすいだろ」
家に戻った俺と青年は、村人全員分の食事を作っている。
青年が解体して取り出した肉は、思っていたよりも多く取れ、 当分の食事には困らないと思う。だが、 村人達はは病み上がりの上、ろくに物を食べていないから ステーキの様な消化が悪い物は、まだ食べさせられない。本当は雑炊を作るのが一番良いのだが、この村には米やその代わりになりそうな物もない。そこで俺は、雑炊 もどきを作ろうと考えた。できるだけ肉や 山菜は細かく切り、柔らかくする為に水を多めに入れ、 味付けに、青年の家にあった塩をまぶし、アクを取りながら鍋でコトコト煮込む。
「いい匂いがしてきたなぁ」
「美味しそうな匂い!」
鍋からしてくる美味しそうな匂いに、俺と青年は自然と腹が鳴る。
「そろそろ、良いかな?」
「そうだな。人に食べさせる前に味見しよう」
鍋の蓋を開けると湯気が一気に溢れ、中から美味しそうな匂いが部屋中を漂う。
「これは……雑炊というより、スープだね」
「ま、まぁ! 食べられれば良いんだ! ほら、味見」
「そ、それじゃあ、早速……」
作り始めは雑炊風にしたかったのだが、米じゃないせいか、ただの具だくさんスープになってしまったがこの際味と胃に優しければ何でも良い。ということで、俺と青年は村人達に配る前に味見をする。
青年は家にあった小さな器を二つ用意し、出来たスープを少量だけ盛り、一つを俺の前に置く。俺はそれに息を吹き掛け少し覚まして、一舐めする。
「う……」
俺は、思わず顔をしかめた。
だがこれは消してまずいからではない 想像していたよりも美味しく、その感動のあまり目をギュッと閉じてしまっただけ。 そして溢れんばかりに声が出た。
「美味いぃぃ!」
その声は、青年の声とも重なり村中に響き渡る程だった。
「美味いよ、これ!」
「あっさりしているし、肉も噛まなくても良いくらい柔らかい。これなら、子供や年寄りでも問題なく食べられそうだ」
「それに、 味も文句なし!」
鍋の蓋を開けた時食欲をそそるような美味しそうな匂いがしていたがこれほどまで 良い味になるとは思わなかった。作った本人が驚くくらいだ、村人達もきっと喜んでくれる。俺と青年は、村人達に出来たスープを配って回ると、それを食べた村人達は、誰一人残すことなく完食した。
それを何日か繰り返し、村に明るさが戻り始めた頃。
俺は、物凄く困っている。目の前に並び、頭を下げる村人達に……。
「あなた様が居なければ、我々は死んでいました! 助けて下さった上、我々に食材や水を提供していただいて……」
「い、いや。俺がしたくてやったことだ。礼を言われるような事は……」
「何をおっしゃいますか! 我々にとってあなた様はもはや英雄なのです。礼を言うだけでは足りません!」
頭を下げる村人達の前にいるこのおじさんは、青年の祖父。そして、ついこの間 知ったのだが、この村の長だ。
「いや別にその礼だけで十分なのだが……」
「何もない村からあなた様に捧げる物はないか村の者達と話し合った末……」
俺の話を全く聞かず、話を進める村長。
「あなた様にこの村を差し上げるということになりました」
「……はい?」
村長の言葉に、一瞬で頭の中が真っ白になる。
今この人、何て言った。俺に「この村を差し出す」って聞こえたが、流石に聞き間違えだろう。そこで俺は、村長に聞き返す。
「すまない。もう一度、聞いて良いか? 何を決めたって?」
「ですから、あなた様にこの村を差し上げると……」
(聞き間違いじゃなかったぁ!)
俺は、何故そんな考えになったのか慌てて聞くと、村長は視線を逸らして答えた。
昔は幾つかの村や集落、それこそ町と呼べる場所もあった。しかし、病気や飢えにより人々は倒れ、そこから離れ別の場所で暮らしては離れを繰り返し、最終的に各地から集まって出来たのがこの村だと、村長は言った。
「あの頃はまだ、魔物を狩る者や力仕事をする若者達がいたのですが、今は誰一人として魔物を狩る事が出来る者はおらず、若者はいますが仕事がなく年老いて行くばかり……」
他の大陸から訪れる者は勿論いない為、自分達の命を守れるのは自分達。だが、村を襲ってきた魔物を撃退する者も怪我や病気を治療する者もいない。そして、金になる仕事もなく若者は暇を持て余している。この状況を何とかしようと村長は考え、これまで行動してきたが成果は何も得られなかった。
「ですが、あなた様は多くの魔物を狩ることが出来、怪我や病気を治せる光魔法も使える。冷静に物事を考えるあなた様にならついて行きたいと思っております」
村長が言いたいことはなんとなくわかった つまり俺にこの村を守る騎士になってほしいということなのだろう 襲撃してきた魔物を倒し村の医師として怪我や病気を治し、何か良い案があればそれを村人達に伝え実行する。だがそれは、俺がわざわざ村長にならなくても出来る事のはず。きっと、村長は俺が村から出て行くのを止めようとして村長の座を譲ろうとしているのかもしれない。
(元々、行く当てがなく彷徨っていたし、こんな姿の俺を村に置いてくれるのだから有り難い話……)
そう思って、気付く。
村人達は、俺に頭を下げてまで「村長になってほしい」と言っているが、俺の姿は人ではなく猫だ。それなのに、誰も反対しなかったのか気になる。
「あのさ。会話は出来るけど、猫だぞ俺。村長が猫になっても良いのか?」
「……あなた様に村長を譲ればそうなることも含めて話し合いました。ですが、話にはあなた様の容姿ではなく、我々にして下さった感謝の言葉が多かったのです。そして、村長が猫になるのは問題ではないと、私は判断いたしました。ですが……」
村長は聞いてきた。
それは、俺の素性だ。猫が話せるのはやはりありえない話。その正体が知能が高い 魔物で猫に化けていると言った方がまだ納得がいく。だが、本人の俺が魔物じゃないと言っている以上、信じるしかない。
「あなた様のことを疑っている訳ではありませんですが、あなた様がそのような姿になっている理由があるのなら教えていただきたいのです。あなた様がその事で何か困ったことが起きた時、我々が事情を知っていれば手助けが出来るかもしれません」
真っ直ぐに俺を見る、村長と集まった村人達。
村長達は俺の事をただ知ろうとしているだけだった。俺は、ただの通りすがりの自分で言うのも虚しいが「不気味な猫」だ。それなのに俺のことを自分達を救った英雄だと言って、村長になってくれと頼んできた。俺が生きていくための最後の望みだと思っていたとしても、見ず知らずの得体の知らない猫に村を任せようなんてに普通なら思わない。俺が知らない所で何度も議論して出した答えだとしたら、俺は皆が求めていること答えなくてはいけないだろう。たまたま辿り着き出会った人たちだったのに、解決したら出て行こうとしていたのに、不思議と今はそうは思っていない。
「分かった、話す。俺の事……」
俺が知っていることを全て話した 気がついたら見知ら 森で眠っていたこと 自分の記憶がなく猫の姿だったこと 自分のこと以外の常識などの記憶は備わっていたこと 俺が自分のことを一番知りたいと思っていることを全て隠さずに村人達に話した。俺の話を聞いて村人達が「信用できない」、「村から出て行け」と言ってくる覚悟をしたが、町長や村人達はそんな言葉は口にしなかった。
「そうだったんですね。今も、ご自身のことを思い出せないのですか?」
「ああ。思い出していたら、普通に答えている……」
「ありがとうございます。話しにくいことを話して頂いて。ですが、これで我々もあなた様のことを知ることができました。何かあれば、我々を頼ってください」
「良いのか? 嘘をついているかもしれないんだぞ?」
本当は村人達の反応は嬉しかった。だが、それにも何か裏があるのではないかと疑い、俺は素直になれなかった。
「そうだったとしても、我々が出した答えは何も変わりません。あなた様に良いよ様に使われる運命だったとしても、それは我々が招いた結果です。それに、あなた様は嘘をつく様なお方ではないと、私を含め村の者達は思っております」
村長の言葉に後ろに習う 村人たちを見ると 村人たちは笑みを浮かべて頷いていた それを見た俺はここにいるのがいいと思った そして彼らに答えた。
「記憶がなく、猫の姿の俺が村長になって、後々、後悔しても知らないからな」
「そ、それでは! 村長になって頂けるのですか!?」
「ああ、引き受けるよ。俺で良ければ……」
「ありがとうございます! どうか、これからよろしくお願いいたします!」
村長と村人達は、頭を深く下げた。
あの日から数日。
この村で暮らすことを決めたのはいいが 俺が住む場所はなかったため 村人たちは俺の家を作ると言ってくれた それができるまでの間、俺は前村長の「コルマ」さんの家でお世話になることになった。最初「俺は猫だから、外でも平気だ」と言ったのだが、コルマさん達に「それは、ダメです!」と言われまくり、こうして居候している。
「そうじゃ、村長殿……」
「コルマさん。その、村長殿って呼ぶの止めてくれないか?」
「なら、村長?」
「オルドまで……普通に呼んでくれないか?」
そう言うと、コルマさんと孫息子の「オルド」が困った顔を浮かべた。
「そう言われても、村長の名前は知らないから呼びようがないんだよなぁ」
「そうだな……」
「記憶を失くされているのでしょう?名前は覚えているの?」
オルドの母の「ルイネ」さんがそう聞いてきた。
今の今まで、自分の名前のことなど気にしていなかった。確かに、名を知らないのに「呼べ」と言われても呼べるはずがない。だが、ルイネさんが言うように俺は自分の名前すら覚えていない。なら、皆にどう呼んでもらえばいいのだろう。
「いや……覚えていない。名がないと呼ぶにも呼べないよな。すまない」
「そんな、謝ることじゃないよ。記憶がないのは知っていることだし」
「そうじゃなぁ。だが、名がないと何かと不便じゃろ。この先、人様に名乗るような事があるかもしれんし、 それこそ契約のサインをする事もあるかもしれん」
名が無ければずっと「村長」と呼ばれ、自分の事を「村長だ」と名乗ることにもなる。それは、絶対に避けたい。だが、肝心の名前が思い出せないとなれば、自分の名前を新たに考えるしかない。だが、自分で考えた名で名乗っても良いものなのか悩んでいると、家のドアがノックされ1人の少女が入ってきた。
「こんにちは~」
「あら、メトちゃん。いらっしゃい」
声をかけてきたのは「メト・コリン」といい、この家の隣に住む少女だ 。
メトは、オルドと同い年の幼馴染で幼い時から良く遊びに来ているらしい。 勿論、家族ぐるみで仲が良く、一緒に食事をしたりした時もあったという。
「メト、何か用事か?」
「ううん、 特に用事はないけど遊びに来たの。それより、外で話を聞いちゃったんだけど、村長さんの名前を決めるの?」
「あ、ああ。名がないのも不便だからな。だが、名を覚えていないとはいえ、自分で自分の名前を決めるのもどうかと思ってな」
悩んでいる事を口にすると、メトはキョトンとした顔で言う。
「そう? 自分が呼ばれたい名前を決められるから、私は良いなって思うけど」
「良いなって……まぁ、でも呼びやすい名前だと俺も助かるかも」
「どうしてだ?」
「明らかに偉い人みたいな名前だと、様とか殿とか付けないといけないって思うから。そういう意味だと、在り来たりな名前の方が気楽に呼べるかな」
ボルドはそう答えた。
確かに、何処にでもいる様な名の方が、皆にも覚えてもらいやすいかもしれない
「それに。もし、良い名前が浮かばなくても、自分の見た目とか好きな物とかの名前から決めても良いしね」
「なるほど……」
俺はメトのアドバイスを聞きながら、自分の名前を考える。何処にでもいそう名前、 少しかっこいい名前、 勇者の様な強そうな名前、王族にいそうな名前、響きが良さげな名前、様々な名前が頭に浮かび、それを心の中で復唱してみるが、どれもしっくりこない。なかなか、良い名前が思い浮かばず、俺はまた悪い癖が出た。そう、考えるのが面倒になったのだ。
(面倒だ。メトが言った通り、見た目とかで決めよう……俺は真っ黒い猫だったよな。真っ黒……漆黒……黒……)
そして、ついに俺は自分の名前を決めた。
「決めた。今日から俺をクロと呼べ」
「クロ……そのままだね!」
「お、俺は良い名前だと思うよ! よ、呼びやすいし!」
オルドよ、そんなに気を遣わなくても大丈夫だ。俺は、自分で見た目から名前を決める道を選んだんだ。後悔はない。むしろ、分かりやすくて良いだろう。と、俺は心の中で誇らしげに言った。
「様とかもいらないから、気楽に呼んで……」
「良いのか? お主は、村の長なのじゃから、もっと偉そうにしても良いのじゃぞ?」
「いや、村長になってくれって言ったのはコルマさん達だろ。それに、そんな事を前村長が言っても良いのか?」
溜め息混じりにそう聞き返すと、コルマさんは笑っていう。
「しかしだな、村長となれば皆が従う立場になる。性格がネジ曲がった奴が村長なら、それくらいの強要をしてきても可笑しくはないじゃろ?」
「そういう奴がな。俺は、そんな思考の持ち主じゃないし、村長だからって特別な立場にいるとも思っていない」
「分かってるよ。時々、爺ちゃんは試すような事を聞くから……」
オルドは、申し訳なさそうに言う。
「……それくらい、分かってる。だから、俺の事は気楽に呼べと、村の人達に伝えてくれ」
「分かった。皆には、そう伝えておく」
コルマさんは、そう言って笑みを見せる。
こうして俺は、村長「クロ」として忙しい日々を過ごすことになった。
この運命が、予想もしないモノへと続く道だとも知らずに……。
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