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第三話『懐いてくる犬とうるさい鶏を飼う』
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「付いてくるなぁぁぁ!」
仕事をするのが嫌で一から始めた牧場ライフ。またしても、問題が起きた。 それは、今まさに起きているこの状況。最近、我が家に野良犬が住み着付いたんだけど、その犬が物凄く僕に懐いてくる。僕は決して、この野良犬に餌付けをしたわけでも、好かれるような事をした覚えもない。それなのに……。
「僕は犬が嫌いなんだよぉ! どっちかって言うと猫が好きなんだ! だから、諦めてくれぇ!」
この野良犬と出会ってからというもの、僕はこうして敷地内を駆け回る日々を過ごす羽目になっている。そして、問題はこの犬だけじゃない。
「卵……何処に行ったんだ?」
これもまた最近の話だけど、鶏を一羽飼い始めた。取り敢えず一羽だけ飼って世話をするという習慣に慣れようと奮闘しているけど、この鶏が厄介者だった。卵を産む場所を準備したのにそこには産まず、畑や家の前、草が生えて見えにくい場所に産むから何度も卵を踏み潰してしまいそうになった。それに、当の本人は何処かに姿を眩まして、毎回いる場所が違うから探すのも一苦労。そんな鶏には一番の問題がある。それは朝鳴く声の大きさだ。それはそれは、耳を塞ぎたくなる程の大きさで、鳴き声もまるで首を閉められている様な綺麗とは言えない声。
この一匹と一羽のせいで僕は頭を抱えている。
「はぁ~、どうしたら良いんだ」
逃げるように街に来た僕が大きな溜め息をついていると、前方から「リットさん?」と声がした。顔を上げると、そこには驚いた表情をする少年がいた。
「え、と……。あ、ポルン?」
「はい、ポルンです! 良かった、間違えてたらどうしようって、ハラハラしました」
安心して僕に近寄る彼は、女性や子供に人気のお菓子を専門に作っている飲食店で働いていた従業員。因みに、僕もそこで働いていて五日で辞めた。
「良く僕の事、覚えてたね。店には五日しかいなかったのに」
「はは。それを覚えているリットさんこそ。僕は個人的にお世話になったから……」
「お世話? 僕、何かしたっけ?」
ポルンとは確かに話をしたりはしていたけど、ポルンが僕にお礼を言うような事をした覚えがなく首を傾げていると、ポルンは「覚えてませんよね」と少し残念そうに言って笑った。
僕は場所を変え、ポルンと話が出来る広場に来た。高台から見える街並みを眺めながら、僕はポルンの話を聞く。
「リットさんは、僕がやりたいことを話したの覚えていますか?」
「確か、動物に関わる仕事がしたい、だったけ?」
「はい、そうです。今、僕は動物屋で働いているんです」
ポルンが働いているという「動物屋」は、動物の「餌」や「道具」を売っているお店のこと。
「そうなのか。やりたいことが出来て良かったね」
「そうなんですが。僕がやりたいことをやれているのは、リットさんのお陰なんですよ?」
ポルンは両手で、僕の手を握る。
「お、おい……」
「リットさんが、僕にやって見たら良いって背中を押してくれたお陰で、今の仕事をすることが出来たんです。リットさんにとっては、なんの変哲もない会話だったかもしれないけど、僕はあの言葉に救われたんです!」
ポルンが言っている事は、確かに記憶にはある。やりたい仕事がある、だけど、今の仕事を辞めても続けられる仕事になるのか不安。そんな事を話していた。当時の僕は、それに対して「初めてやる仕事は誰だって不安になる。だけど、やりたい仕事なら挑戦すれば良い。やりたくない仕事をやって辞めるより、やりたい仕事をして辞める方が後悔は少ない」と言うような事を話した気がする。当時の僕はあの言葉が、彼の背中を押したなんて一ミリも思っていなかったはず。だって、あの言葉は嫌味に近いから。今の僕は、やりたいことを見つけ毎日を過ごしているけど、当時の僕には「やりたいこと」というものが一つもなかった。だから、「やりたいことがある」と話し始めたポルンを少し羨ましくて、イラついたと思う。そのお世辞のような言葉に感謝されてもとは思ったけど、ポルン本人が嬉しそうだから良いことにしよう。
「僕は何もしてないよ。勇気を出してその道に進んだのはポルン自身だよ」
「やっぱり、リットさんは優しいですね。僕、リットさんみたいな人になりたいです」
ポルンの言葉に僕は固まった。
僕みたいになりたい? いやいや、待て。「僕みたいになったら仕事を転々とする奴になるぞ」なんて、嬉しそうに笑う純粋で清らかなポルンに言えるわけもなく、僕は苦笑いを浮かべることしか出来なかった。
「って、僕ばかり話しちゃいましたね。リットさんは、今は何をしているんですか?」
「えっ、僕? え~と、自宅営業的な奴だよ」
「自宅営業……例えば、どんな事をしているんですか?」
疑いもない真っ直ぐな目に、僕は何故だか後ろめたい気持ちになった。ここで、あやふやにしたら逆に質問責めになりそうだし、素直に話すことにした。
「え~と。簡単に言えば、牧場経営だよ。野菜を育てたり、牛や鶏の世話をしたり……」
「ぼ、牧場!! リットさん、凄いです!」
「そ、そう?」
「はい! 牛や鶏のお世話をして、それを稼ぎにしているなんて! やっぱり、リットさんは凄い人です!」
物凄く尊敬しているけど、ポルン、ごめん。飼っているとは言っても、まだ鶏一羽だけだし、稼いでもいない。それに、今は鶏と野良犬に頭を抱えているんだ。そもそもあの鶏は「訳有り」という名目でタダで売られていた鶏。僕は、鶏というだけでどんな問題があるのか分からないまま買ってしまった。
「……リットさん? どうかしたんですか?」
「え! あ、いや。なんでもないよ」
「あの……何か困っていることがあるなら話を聞きますよ?」
うん、物凄く困っていることはあるよ。だけど、僕を凄腕の牧場主だと思い込んでいそうな目で見てくるポルンには言えない。
「気持ちは嬉しいけど、本当に何でもないんだ」
「そう、ですか……お力になれる事があればお手伝いをしたいと思ったんですが……」
分かりやすく落ち込むポルン。そんな、耳を垂らして悲しそうな目をする子犬みたいに僕を見ないで欲しい……。
「……実は、少し困っていることがあるんだよ」
結局僕は、ポルンの態度や表情に根負けし、話してしまった。
「は、はい! 話を聞きます!」
落ち込んでいたポルンは、表情を一瞬で明るくさせ、嬉しそうにしている。
話すのはやっぱり気が引けるけど、ここまで来たら話すしかない。僕は、深い息を静かにしてからポルンの目を見て話す。
「ポルンには悪いけど、うちで飼っているのは鶏。しかも一羽だけ」
「そ、そうなんですか……。てっきり、何匹も飼っている大きな牧場なんだって……ごめんなさい。リットさんの話を詳しく聞かなくて……気を悪くしましたよね」
「あ、いや。僕もちゃんと言わなかったのが悪いし、ポルンが気にすることじゃないから」
「……はい。それで、困っていることってなんですか?」
期待を裏切ったと心が少し痛みながらも、僕は例の野良犬と鶏の話をした。話を終えると、ポルンはクスクスと笑っている。
「ポルン?」
「す、すみません。リットさんが変わらず動物に好かれやすい体質だって分かったら、つい……」
「いや、好かれてないでしょ。嫌がらせとしか思えない……」
野良犬と鶏の事を思い出して萎える僕に、ポルンは笑いを堪えて言う。
「リットさんは、動物に好かれやすいですよ。話を聞いていても、見ていても、そう思います。僕からしたら、羨ましいですよ」
「……僕は、悩んでいるんだよ? ポルンくん」
「すみません。それじゃあ、その子達の事、見せて貰ってもいいですか? これでも、動物に関して知識はありますし」
ポルンは笑顔で提案してきた。
まあ、あの野良犬と鶏に悩まされなくて済むなら頼るのも良いかもしれない。むしろ、何とかして欲しいくらいだ。
「じゃあ、お願いするよ」
「はい!」
その後、ポルンを連れて僕は我が家に戻って来た。我が家に帰って来たと安心する暇もなく、あの野良犬が何処からともなく走って来る。
「わぁ、出た!」
「ちょ、リットさん落ち着いてください! 僕に隠れないでくださいよ」
「ご、ごめんポルン。僕……大の犬嫌いなんだよ」
「……え! そうなんですか! 初めて知りました!」
「……なんか、嬉しそうにしてないか?」
「そ、そんな事はないですよ。リットさんの意外な一面を見れて嬉しいなんて、これっポチも思ってませんから!」
必死に答えるポルンだけど、僕には分かる。口にした言葉が本心だって。
「え、え~と。先ずは、この子の事を調べましょう」
「調べる? 野良犬を?」
「はい。野良犬にしては人懐こいので、もしかしたら、飼い犬かもしれません……」
ポルンが言うには、この他に性別や大体の年齢、体調、病気になっているかいないかを調べる必要があるらしい。これは、野良犬と接する上で必要な事なのだと言う。
「性別は……メス。体つきから見ておよそ一歳半位かな? よしよし、少しじっとしててね」
ポルンは慣れた手付きで野良犬の事を調べていく。野良犬も威嚇することも暴れることもなく、ポルンに大人しく体を触らせている。一方、僕は「リットさんがいると興奮するみたいなので……」とポルンが言うから、少し離れた場所でそれを見ていた。暫くして、ポルンは駆け寄ってくる。
「リットさん! 終わりましたよ~」
「どうだった? 何か分かった?」
「はい、ある程度の事は。でも、リットさんに懐いている理由が分からないんですよね、こればっかりは、本人に聞くしか……」
「いや、犬は人の言葉を話せないから」
それは、僕が一番知りたい事。何処から来たのか、何で僕に懐いて付きまとうのか。犬嫌いだとはいえ気にならない訳じゃない。
「あ、でも。あの野良犬は飼い犬だった可能性はありますよ? 首輪をつけていたので」
「本当か? なら、その首輪に飼い主に繋がる何か書かれていないのか?」
「僕もそう思って見たんですが……少し気になる事があって」
ポルンはそう言うと、表情を曇らせた。
何か良くないことでも、その首輪に書かれていたのか。ポルンのこういう顔は見たことないから身構えてしまう。
「な、なに?」
「もしかしたら、あの犬……ウミコかも知れません」
ウミコは「産み子」と言って、その名の通り子を産むためだけに育てられた動物の事を指す。動物の子供を売る人達には、欠かせない存在。その人達が動物達を、最期まで愛情を持って接しているなら問題はないけど、そうじゃない人達も中にはいる。年を取って子が産めない、病気になって使い物にならないと判断すると容赦なく殺してしまう。動物を扱う上で、これは少し問題にもなっていることでもあるし、動物関連の仕事をしているポルンにとっても気になることだと思う。
「……首輪に、産み子を意味する「ルイット」って書かれていたし……気になります」
「確かに、ルイットは産み子を意味する言葉だけど、人の名前とか犬の名前とかかも知れないし、そんな顔をするなよ、ポルン」
暗い顔をするポルンにそう言うと、「そうですね」とポルンは少し悲しげな顔で笑みを浮かべた。 それから僕達は、あらゆる方向から野良犬の事を調べることに決め、次に鶏の問題に取りかかった。
「訳有りの鶏……ですか?」
「そう言われて、タダで譲って貰ったんだけど、卵は普通に産むから別な所が問題なんだとは思うけど……」
「リットさんは、鶏が姿を眩ますことと、鳴き声に悩んでいるんですよね? 鶏は普段、何処で飼育してるんですか?」
ポルンの質問に、僕は素直に答える。
飼った鶏は、まだ鶏小屋を建てていないこともあって、家のそばにある小屋で飼育することにした。小屋と言っても、物は何も置いていないから鶏が怪我をする事はないと思っている。
「ここで、飼育を……」
「やっぱり、ちゃんとした小屋じゃないからダメなのか?」
「そうですね。広さは良いとしても、少し寒い気がします。鶏は、暖かい方が良いですし……」
「ポルン?」
「いえ、小屋も気になるけど、鶏の事も気になるんです。卵は産むんですよね?」
何が気になっているのか分からないけど、僕はポルンの質問に分かる範囲で答える。
「そうだけど……」
「朝に鳴くんですよね?」
「うん」
「おかしいですね……卵を産むのはメスだけなのに、朝に鳴くなんて」
何が言いたいのか分からず首を傾げていると、ポルンは僕に教えてくれた。
朝に鳴く鶏はオスだけらしい。そして、卵を産むのはメスだけ。だとしたら、あの鶏はメスでありながらオスの習性もあるってことになる。ポルンはこんな話しは聞いたことがなくて、今働いている動物屋の店主に話を聞いてみるらしい。僕の方は、早急に鶏に適した小屋を建てることになった。
「分かり次第また来ます。そうだ、飼い主が分かるかもしれないので、首輪を預かっても良いですか?」
「良いよ、首輪が唯一の手がかりだしね……ありがとう、ポルン。僕じゃ分からないこともあって勉強にもなったよ」
「リットさんのお役に立てたなら嬉しいです! では、また」
「またな」
ポルンは野良犬から首輪を外すと、嬉しそうに手を振り帰って言った。
あれから数日。
今日は、親方やナオル達を呼んで鶏小屋を建てる作業に取りかかった。
ちゃんとした鶏小屋が必要だと分かった後、僕は直ぐに親方達がいる大工屋に行き用件を話すと、親方達は「次の休みの日に行く」と言ってくれた。
「場所は、日当たりが良くて、冬の風が入りにくい場所が良いんだよな?」
「話を聞いたら、その方が良いみたい」
「じゃあ、あの辺だな。建てるなら」
親方は、鶏を育てるのに適した位置を見定めて指示を出す。鶏小屋を建てる場所は、家がある場所から少し離れたまだ未開拓の地に決めた。建てるのは小屋の他に、放牧する平地とそれを囲む柵も一緒に作ることになったから、必要な面積も家を建てた時以上に広くなった。前回よりも大掛かりな作業になるけど、親方達の作業の早さは分かっていても驚くほど早い。きっと、手際が良いのとナオル達の次にやる工程の理解と判断が早いからだと思う。
「希に性転換……そんなのがあるのか……」
「僕も聞いて驚いたんだけど、そうみたいで。後、野良犬の件もやっぱり産み子でした」
鶏小屋を建て始めて数日、ポルンが野良犬の事や鶏の事を教えに来た。
鶏の方は、メスなのにオスのように朝に鳴くのは、突然の性転換をしてしまった可能性があるとポルンの勤め先の店主が教えてくれたらしい。この場合、卵も産まなくなるみたいだけど、どういう訳かこの鶏は卵を産み続けている。僕にタダで売った本人が、その現象に「気味が悪い」と話したことをポルンは教えてくれた。そして、野良犬のことも「ルイット」という言葉を手がかりに調べていくと、飼っていた犬が逃げたと言っている商人と出会い、その逃げた犬が野良犬の特徴と似ていたらしく、野良犬が着けていた首輪をその商人に見せた。すると、商人は驚いた顔で「うちの犬だ、間違いない」と答えたから、ポルンは「連れてきますね」と言うと、その商人は煙たがるように「いや、そのまま飼うなり、殺すなり好きにしてくれ」と返してきたという。話を詳しく聞くと、野良犬は若いが言うことを聞かず暴れるため、無理やり子を産むようにさせた。初めは無事に子を産んだらしいが、その後から人に噛みついたり、暴れることが激しくなり手がつけれないと困っていた。そんな時、檻から逃げ出した事で商人は心配するどころか安心したという。
「暴れて手がつけられないから、要らないってことか……」
「そうだと思います……リットさん、あの犬をどうしますか? リットさん犬が嫌いだし、僕が新しい飼い主を……」
「いや、このまま飼うよ。あの犬」
「え、でも……」
確かに犬は嫌いだ。直ぐ吠えるし、容赦なく距離を縮めてくるから、はっきり言って怖い。だけど、話を聞いて「可哀相」って情が湧いた訳じゃないけど、あの犬の僕に対する行動とか仕草とかを見ると、意味がある事なんだろうなと思えてしまう。言葉が通じなくても、何かを伝えようとしていることは分かる。人に対して暴れて厄介者と見放される程なのに、僕には噛み付かないし、暴れるどころか懐いてすり寄ってくる。その姿に「この場所にいたい」って言っているようにも見える。だから、僕はこの犬をこの場所に居させてやりたいと思った。
「大丈夫。飼うからにはちゃんと最期まで責任持つよ。もしかしたら、犬嫌いも克服出来るかも知れないし……何より、ここにいたそうだから」
「リ、リットさん! やっぱり、リットさんは、凄く優しくて、いい人です!」
「ポ、ポルン? 何で泣いてるんだ?」
「感動しているんですよ! 犬嫌いなのに飼うとか優しすぎます。あの、また動物の事で困ったら何時でも言って下さい! 僕、飛んでくるので!」
僕を真っ直ぐに見るポルンに、苦笑いを浮かべながら「分かった、その時は頼むよ」と返事をすると「絶対ですよ!」とポルンは強く念を押してきた。
「それじゃあ、僕は帰りますね。また明日、来ます」
「うん、待ってる」
犬の飼育の仕方が分からない僕はポルンから教わることになり、当分の間、うちは賑やかなままだ。
それから数週間。
例の鶏は、卵を全く産まなくなり完全にオスとなった。出来た鶏小屋にはオスが二羽とメスが二羽いる。
「コケー!!」
「分かったから、暴れるなって。卵は取らないから。こら、喧嘩するな!」
「リットさん、動物の気持ちが分かってきたみたいですね。流石です」
「いや、感心してないでポルンも手伝ってよ……」
「あ、すみません!」
今、鶏小屋には四羽の鶏の他に、命を宿した卵が二個あり、その成長をポルンと観察して無事に孵化する日を楽しみにしていたりする。
野良犬には、幸せという意味を込め「トリエ」と名付け、番犬兼動物達の誘導係をして貰う為、今はその訓練をしている。トリエは「ダメ」だと言われたことは二度としない、頭が賢い犬だと生活する中で分かった。まだ、犬嫌いは克服できたとは言えないけど、トリエのお陰で近付かれてもあまり驚かなくなったし、「怖い」とも思わなくなったとは思う。そして、これはついでだけど、鶏小屋を建てている最中に親方の案で「牛小屋」も建てることになって、鶏小屋の隣に牛小屋を建てた。牛小屋の中には牛が一頭いたりするけど、その話はまた別の機会に……。
ドタバタ生活が、まだまだ続きそうな牧場ライフ。
理想とする「ゆったり、ほのぼの生活」はこの先、本当に待ってるのか。先が見えない未来になぜか胸を弾ませる僕は、次はどんな問題が待ち構えているのか「楽しみ」と思う程、今の生活は「悪くない」と思い始めていたりする。
仕事をするのが嫌で一から始めた牧場ライフ。またしても、問題が起きた。 それは、今まさに起きているこの状況。最近、我が家に野良犬が住み着付いたんだけど、その犬が物凄く僕に懐いてくる。僕は決して、この野良犬に餌付けをしたわけでも、好かれるような事をした覚えもない。それなのに……。
「僕は犬が嫌いなんだよぉ! どっちかって言うと猫が好きなんだ! だから、諦めてくれぇ!」
この野良犬と出会ってからというもの、僕はこうして敷地内を駆け回る日々を過ごす羽目になっている。そして、問題はこの犬だけじゃない。
「卵……何処に行ったんだ?」
これもまた最近の話だけど、鶏を一羽飼い始めた。取り敢えず一羽だけ飼って世話をするという習慣に慣れようと奮闘しているけど、この鶏が厄介者だった。卵を産む場所を準備したのにそこには産まず、畑や家の前、草が生えて見えにくい場所に産むから何度も卵を踏み潰してしまいそうになった。それに、当の本人は何処かに姿を眩まして、毎回いる場所が違うから探すのも一苦労。そんな鶏には一番の問題がある。それは朝鳴く声の大きさだ。それはそれは、耳を塞ぎたくなる程の大きさで、鳴き声もまるで首を閉められている様な綺麗とは言えない声。
この一匹と一羽のせいで僕は頭を抱えている。
「はぁ~、どうしたら良いんだ」
逃げるように街に来た僕が大きな溜め息をついていると、前方から「リットさん?」と声がした。顔を上げると、そこには驚いた表情をする少年がいた。
「え、と……。あ、ポルン?」
「はい、ポルンです! 良かった、間違えてたらどうしようって、ハラハラしました」
安心して僕に近寄る彼は、女性や子供に人気のお菓子を専門に作っている飲食店で働いていた従業員。因みに、僕もそこで働いていて五日で辞めた。
「良く僕の事、覚えてたね。店には五日しかいなかったのに」
「はは。それを覚えているリットさんこそ。僕は個人的にお世話になったから……」
「お世話? 僕、何かしたっけ?」
ポルンとは確かに話をしたりはしていたけど、ポルンが僕にお礼を言うような事をした覚えがなく首を傾げていると、ポルンは「覚えてませんよね」と少し残念そうに言って笑った。
僕は場所を変え、ポルンと話が出来る広場に来た。高台から見える街並みを眺めながら、僕はポルンの話を聞く。
「リットさんは、僕がやりたいことを話したの覚えていますか?」
「確か、動物に関わる仕事がしたい、だったけ?」
「はい、そうです。今、僕は動物屋で働いているんです」
ポルンが働いているという「動物屋」は、動物の「餌」や「道具」を売っているお店のこと。
「そうなのか。やりたいことが出来て良かったね」
「そうなんですが。僕がやりたいことをやれているのは、リットさんのお陰なんですよ?」
ポルンは両手で、僕の手を握る。
「お、おい……」
「リットさんが、僕にやって見たら良いって背中を押してくれたお陰で、今の仕事をすることが出来たんです。リットさんにとっては、なんの変哲もない会話だったかもしれないけど、僕はあの言葉に救われたんです!」
ポルンが言っている事は、確かに記憶にはある。やりたい仕事がある、だけど、今の仕事を辞めても続けられる仕事になるのか不安。そんな事を話していた。当時の僕は、それに対して「初めてやる仕事は誰だって不安になる。だけど、やりたい仕事なら挑戦すれば良い。やりたくない仕事をやって辞めるより、やりたい仕事をして辞める方が後悔は少ない」と言うような事を話した気がする。当時の僕はあの言葉が、彼の背中を押したなんて一ミリも思っていなかったはず。だって、あの言葉は嫌味に近いから。今の僕は、やりたいことを見つけ毎日を過ごしているけど、当時の僕には「やりたいこと」というものが一つもなかった。だから、「やりたいことがある」と話し始めたポルンを少し羨ましくて、イラついたと思う。そのお世辞のような言葉に感謝されてもとは思ったけど、ポルン本人が嬉しそうだから良いことにしよう。
「僕は何もしてないよ。勇気を出してその道に進んだのはポルン自身だよ」
「やっぱり、リットさんは優しいですね。僕、リットさんみたいな人になりたいです」
ポルンの言葉に僕は固まった。
僕みたいになりたい? いやいや、待て。「僕みたいになったら仕事を転々とする奴になるぞ」なんて、嬉しそうに笑う純粋で清らかなポルンに言えるわけもなく、僕は苦笑いを浮かべることしか出来なかった。
「って、僕ばかり話しちゃいましたね。リットさんは、今は何をしているんですか?」
「えっ、僕? え~と、自宅営業的な奴だよ」
「自宅営業……例えば、どんな事をしているんですか?」
疑いもない真っ直ぐな目に、僕は何故だか後ろめたい気持ちになった。ここで、あやふやにしたら逆に質問責めになりそうだし、素直に話すことにした。
「え~と。簡単に言えば、牧場経営だよ。野菜を育てたり、牛や鶏の世話をしたり……」
「ぼ、牧場!! リットさん、凄いです!」
「そ、そう?」
「はい! 牛や鶏のお世話をして、それを稼ぎにしているなんて! やっぱり、リットさんは凄い人です!」
物凄く尊敬しているけど、ポルン、ごめん。飼っているとは言っても、まだ鶏一羽だけだし、稼いでもいない。それに、今は鶏と野良犬に頭を抱えているんだ。そもそもあの鶏は「訳有り」という名目でタダで売られていた鶏。僕は、鶏というだけでどんな問題があるのか分からないまま買ってしまった。
「……リットさん? どうかしたんですか?」
「え! あ、いや。なんでもないよ」
「あの……何か困っていることがあるなら話を聞きますよ?」
うん、物凄く困っていることはあるよ。だけど、僕を凄腕の牧場主だと思い込んでいそうな目で見てくるポルンには言えない。
「気持ちは嬉しいけど、本当に何でもないんだ」
「そう、ですか……お力になれる事があればお手伝いをしたいと思ったんですが……」
分かりやすく落ち込むポルン。そんな、耳を垂らして悲しそうな目をする子犬みたいに僕を見ないで欲しい……。
「……実は、少し困っていることがあるんだよ」
結局僕は、ポルンの態度や表情に根負けし、話してしまった。
「は、はい! 話を聞きます!」
落ち込んでいたポルンは、表情を一瞬で明るくさせ、嬉しそうにしている。
話すのはやっぱり気が引けるけど、ここまで来たら話すしかない。僕は、深い息を静かにしてからポルンの目を見て話す。
「ポルンには悪いけど、うちで飼っているのは鶏。しかも一羽だけ」
「そ、そうなんですか……。てっきり、何匹も飼っている大きな牧場なんだって……ごめんなさい。リットさんの話を詳しく聞かなくて……気を悪くしましたよね」
「あ、いや。僕もちゃんと言わなかったのが悪いし、ポルンが気にすることじゃないから」
「……はい。それで、困っていることってなんですか?」
期待を裏切ったと心が少し痛みながらも、僕は例の野良犬と鶏の話をした。話を終えると、ポルンはクスクスと笑っている。
「ポルン?」
「す、すみません。リットさんが変わらず動物に好かれやすい体質だって分かったら、つい……」
「いや、好かれてないでしょ。嫌がらせとしか思えない……」
野良犬と鶏の事を思い出して萎える僕に、ポルンは笑いを堪えて言う。
「リットさんは、動物に好かれやすいですよ。話を聞いていても、見ていても、そう思います。僕からしたら、羨ましいですよ」
「……僕は、悩んでいるんだよ? ポルンくん」
「すみません。それじゃあ、その子達の事、見せて貰ってもいいですか? これでも、動物に関して知識はありますし」
ポルンは笑顔で提案してきた。
まあ、あの野良犬と鶏に悩まされなくて済むなら頼るのも良いかもしれない。むしろ、何とかして欲しいくらいだ。
「じゃあ、お願いするよ」
「はい!」
その後、ポルンを連れて僕は我が家に戻って来た。我が家に帰って来たと安心する暇もなく、あの野良犬が何処からともなく走って来る。
「わぁ、出た!」
「ちょ、リットさん落ち着いてください! 僕に隠れないでくださいよ」
「ご、ごめんポルン。僕……大の犬嫌いなんだよ」
「……え! そうなんですか! 初めて知りました!」
「……なんか、嬉しそうにしてないか?」
「そ、そんな事はないですよ。リットさんの意外な一面を見れて嬉しいなんて、これっポチも思ってませんから!」
必死に答えるポルンだけど、僕には分かる。口にした言葉が本心だって。
「え、え~と。先ずは、この子の事を調べましょう」
「調べる? 野良犬を?」
「はい。野良犬にしては人懐こいので、もしかしたら、飼い犬かもしれません……」
ポルンが言うには、この他に性別や大体の年齢、体調、病気になっているかいないかを調べる必要があるらしい。これは、野良犬と接する上で必要な事なのだと言う。
「性別は……メス。体つきから見ておよそ一歳半位かな? よしよし、少しじっとしててね」
ポルンは慣れた手付きで野良犬の事を調べていく。野良犬も威嚇することも暴れることもなく、ポルンに大人しく体を触らせている。一方、僕は「リットさんがいると興奮するみたいなので……」とポルンが言うから、少し離れた場所でそれを見ていた。暫くして、ポルンは駆け寄ってくる。
「リットさん! 終わりましたよ~」
「どうだった? 何か分かった?」
「はい、ある程度の事は。でも、リットさんに懐いている理由が分からないんですよね、こればっかりは、本人に聞くしか……」
「いや、犬は人の言葉を話せないから」
それは、僕が一番知りたい事。何処から来たのか、何で僕に懐いて付きまとうのか。犬嫌いだとはいえ気にならない訳じゃない。
「あ、でも。あの野良犬は飼い犬だった可能性はありますよ? 首輪をつけていたので」
「本当か? なら、その首輪に飼い主に繋がる何か書かれていないのか?」
「僕もそう思って見たんですが……少し気になる事があって」
ポルンはそう言うと、表情を曇らせた。
何か良くないことでも、その首輪に書かれていたのか。ポルンのこういう顔は見たことないから身構えてしまう。
「な、なに?」
「もしかしたら、あの犬……ウミコかも知れません」
ウミコは「産み子」と言って、その名の通り子を産むためだけに育てられた動物の事を指す。動物の子供を売る人達には、欠かせない存在。その人達が動物達を、最期まで愛情を持って接しているなら問題はないけど、そうじゃない人達も中にはいる。年を取って子が産めない、病気になって使い物にならないと判断すると容赦なく殺してしまう。動物を扱う上で、これは少し問題にもなっていることでもあるし、動物関連の仕事をしているポルンにとっても気になることだと思う。
「……首輪に、産み子を意味する「ルイット」って書かれていたし……気になります」
「確かに、ルイットは産み子を意味する言葉だけど、人の名前とか犬の名前とかかも知れないし、そんな顔をするなよ、ポルン」
暗い顔をするポルンにそう言うと、「そうですね」とポルンは少し悲しげな顔で笑みを浮かべた。 それから僕達は、あらゆる方向から野良犬の事を調べることに決め、次に鶏の問題に取りかかった。
「訳有りの鶏……ですか?」
「そう言われて、タダで譲って貰ったんだけど、卵は普通に産むから別な所が問題なんだとは思うけど……」
「リットさんは、鶏が姿を眩ますことと、鳴き声に悩んでいるんですよね? 鶏は普段、何処で飼育してるんですか?」
ポルンの質問に、僕は素直に答える。
飼った鶏は、まだ鶏小屋を建てていないこともあって、家のそばにある小屋で飼育することにした。小屋と言っても、物は何も置いていないから鶏が怪我をする事はないと思っている。
「ここで、飼育を……」
「やっぱり、ちゃんとした小屋じゃないからダメなのか?」
「そうですね。広さは良いとしても、少し寒い気がします。鶏は、暖かい方が良いですし……」
「ポルン?」
「いえ、小屋も気になるけど、鶏の事も気になるんです。卵は産むんですよね?」
何が気になっているのか分からないけど、僕はポルンの質問に分かる範囲で答える。
「そうだけど……」
「朝に鳴くんですよね?」
「うん」
「おかしいですね……卵を産むのはメスだけなのに、朝に鳴くなんて」
何が言いたいのか分からず首を傾げていると、ポルンは僕に教えてくれた。
朝に鳴く鶏はオスだけらしい。そして、卵を産むのはメスだけ。だとしたら、あの鶏はメスでありながらオスの習性もあるってことになる。ポルンはこんな話しは聞いたことがなくて、今働いている動物屋の店主に話を聞いてみるらしい。僕の方は、早急に鶏に適した小屋を建てることになった。
「分かり次第また来ます。そうだ、飼い主が分かるかもしれないので、首輪を預かっても良いですか?」
「良いよ、首輪が唯一の手がかりだしね……ありがとう、ポルン。僕じゃ分からないこともあって勉強にもなったよ」
「リットさんのお役に立てたなら嬉しいです! では、また」
「またな」
ポルンは野良犬から首輪を外すと、嬉しそうに手を振り帰って言った。
あれから数日。
今日は、親方やナオル達を呼んで鶏小屋を建てる作業に取りかかった。
ちゃんとした鶏小屋が必要だと分かった後、僕は直ぐに親方達がいる大工屋に行き用件を話すと、親方達は「次の休みの日に行く」と言ってくれた。
「場所は、日当たりが良くて、冬の風が入りにくい場所が良いんだよな?」
「話を聞いたら、その方が良いみたい」
「じゃあ、あの辺だな。建てるなら」
親方は、鶏を育てるのに適した位置を見定めて指示を出す。鶏小屋を建てる場所は、家がある場所から少し離れたまだ未開拓の地に決めた。建てるのは小屋の他に、放牧する平地とそれを囲む柵も一緒に作ることになったから、必要な面積も家を建てた時以上に広くなった。前回よりも大掛かりな作業になるけど、親方達の作業の早さは分かっていても驚くほど早い。きっと、手際が良いのとナオル達の次にやる工程の理解と判断が早いからだと思う。
「希に性転換……そんなのがあるのか……」
「僕も聞いて驚いたんだけど、そうみたいで。後、野良犬の件もやっぱり産み子でした」
鶏小屋を建て始めて数日、ポルンが野良犬の事や鶏の事を教えに来た。
鶏の方は、メスなのにオスのように朝に鳴くのは、突然の性転換をしてしまった可能性があるとポルンの勤め先の店主が教えてくれたらしい。この場合、卵も産まなくなるみたいだけど、どういう訳かこの鶏は卵を産み続けている。僕にタダで売った本人が、その現象に「気味が悪い」と話したことをポルンは教えてくれた。そして、野良犬のことも「ルイット」という言葉を手がかりに調べていくと、飼っていた犬が逃げたと言っている商人と出会い、その逃げた犬が野良犬の特徴と似ていたらしく、野良犬が着けていた首輪をその商人に見せた。すると、商人は驚いた顔で「うちの犬だ、間違いない」と答えたから、ポルンは「連れてきますね」と言うと、その商人は煙たがるように「いや、そのまま飼うなり、殺すなり好きにしてくれ」と返してきたという。話を詳しく聞くと、野良犬は若いが言うことを聞かず暴れるため、無理やり子を産むようにさせた。初めは無事に子を産んだらしいが、その後から人に噛みついたり、暴れることが激しくなり手がつけれないと困っていた。そんな時、檻から逃げ出した事で商人は心配するどころか安心したという。
「暴れて手がつけられないから、要らないってことか……」
「そうだと思います……リットさん、あの犬をどうしますか? リットさん犬が嫌いだし、僕が新しい飼い主を……」
「いや、このまま飼うよ。あの犬」
「え、でも……」
確かに犬は嫌いだ。直ぐ吠えるし、容赦なく距離を縮めてくるから、はっきり言って怖い。だけど、話を聞いて「可哀相」って情が湧いた訳じゃないけど、あの犬の僕に対する行動とか仕草とかを見ると、意味がある事なんだろうなと思えてしまう。言葉が通じなくても、何かを伝えようとしていることは分かる。人に対して暴れて厄介者と見放される程なのに、僕には噛み付かないし、暴れるどころか懐いてすり寄ってくる。その姿に「この場所にいたい」って言っているようにも見える。だから、僕はこの犬をこの場所に居させてやりたいと思った。
「大丈夫。飼うからにはちゃんと最期まで責任持つよ。もしかしたら、犬嫌いも克服出来るかも知れないし……何より、ここにいたそうだから」
「リ、リットさん! やっぱり、リットさんは、凄く優しくて、いい人です!」
「ポ、ポルン? 何で泣いてるんだ?」
「感動しているんですよ! 犬嫌いなのに飼うとか優しすぎます。あの、また動物の事で困ったら何時でも言って下さい! 僕、飛んでくるので!」
僕を真っ直ぐに見るポルンに、苦笑いを浮かべながら「分かった、その時は頼むよ」と返事をすると「絶対ですよ!」とポルンは強く念を押してきた。
「それじゃあ、僕は帰りますね。また明日、来ます」
「うん、待ってる」
犬の飼育の仕方が分からない僕はポルンから教わることになり、当分の間、うちは賑やかなままだ。
それから数週間。
例の鶏は、卵を全く産まなくなり完全にオスとなった。出来た鶏小屋にはオスが二羽とメスが二羽いる。
「コケー!!」
「分かったから、暴れるなって。卵は取らないから。こら、喧嘩するな!」
「リットさん、動物の気持ちが分かってきたみたいですね。流石です」
「いや、感心してないでポルンも手伝ってよ……」
「あ、すみません!」
今、鶏小屋には四羽の鶏の他に、命を宿した卵が二個あり、その成長をポルンと観察して無事に孵化する日を楽しみにしていたりする。
野良犬には、幸せという意味を込め「トリエ」と名付け、番犬兼動物達の誘導係をして貰う為、今はその訓練をしている。トリエは「ダメ」だと言われたことは二度としない、頭が賢い犬だと生活する中で分かった。まだ、犬嫌いは克服できたとは言えないけど、トリエのお陰で近付かれてもあまり驚かなくなったし、「怖い」とも思わなくなったとは思う。そして、これはついでだけど、鶏小屋を建てている最中に親方の案で「牛小屋」も建てることになって、鶏小屋の隣に牛小屋を建てた。牛小屋の中には牛が一頭いたりするけど、その話はまた別の機会に……。
ドタバタ生活が、まだまだ続きそうな牧場ライフ。
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