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君に惹かれた理由
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「古民家を安く売ってもらった」のだと案内された家は平屋だがかなり大きく、二人で暮らすには広すぎるのではないかと多少面食らった。しかし、ノアも千早も仕事は家でするようでその内容から部屋がたくさんあっても困ることはないらしい。リノベーションされた内観はアンティーク調で、部屋の電気一つとっても二人のセンスの良さが窺えた。
「それで一時的に離れた、と」
「うん。結構寂しい」
「まあ、そうだろうな」
千早が淹れてくれたお茶を啜りながら、血の不足で倒れてから今日までのことを簡単に説明するとノアに同情めいた視線を向けられた。ノアと一緒に暮らしている千早も、吸血鬼の性質を十分に理解しているのか俺を見る目は憐れんでいるように感じる。
「というか、お前大変だったんだな。倒れるなんてよっぽどだろ」
「本当にね……死を覚悟したのは初めて」
「意中の相手っていうからどんな子か気になってたけど、助けてくれたっていうならケリーが執着するのもわかるわ。良かったな、良さそうな子に会えて」
「……一緒になれるかは分からないけどね」
「弱気だな。まあ、お前は元々そんな奴か」
幼い頃から一緒にいたノアだ。大人しかった昔の俺の性格も心得ているから弱音も吐きやすい。
(まあ、助けてくれたっていうのが一番の理由では無いんだけど。)
心の中でノアの言葉に少々反論する。本当の理由を伝えるのは構わないが清飛のかわいさを自慢したい一方で、自分一人で(若しくはテテと二人で)留めておきたいという思いがあった。所謂、独占欲だ。
「なぜここまでしてくれるのか」という清飛の言葉に、俺は何度も「恩人だから」と返答していた。しかし、そんな思いで済んだのは出会った当初だけで、邪な想いが滲むのにはそう時間がかからなかった。
かわいくて優しくて、そして甘えたがり。それが俺が思う、清飛の魅力であり惹かれた部分であった。
清飛が眠ってから何時間か経った。テテは貨幣を日本円に換金してもらう為おつかいに行ってもらったので今はおらず、俺は清飛の寝顔を暫く眺めていた。
(換金と一緒に常備血も頼めば良かったんだろうけど。)
姿を変え、テテをおつかいに出せるだけの力が戻ったのだからもうここにいる理由は無い。清飛が目を覚ます前にアパートから出ることはできるし、次の満月の日までまた観光することもできる。しかし、そうしないのは少しでも恩返しがしたいという理由と、単純に清飛のことが気になるという思いがあった。
(家族はいないのかな?)
吸血鬼の親は基本的に放任主義だ。自分の子供が幼い頃から独り立ちしようとしても止めないし、俺みたいに親について回るような子供でも十歳を過ぎるとどの吸血鬼も親元を離れる。自然と親子間のやりとりは疎遠になるが、険悪になる訳では無いし時々帰宅しても「あら、おかえり」とまるで毎日帰宅するようなトーンで言われるだけだ。
しかし、人間の子供はそうでは無いだろう。大学進学や就職を機に一人暮らしをするのは珍しくないだろうが、清飛は制服を着ていたし、まだ高校生のはず。家族がいないか、はたまた親元を離れて一人暮らしをしているのだろう。一介の高校生が一人で生活できる程の資金を自分で調達できるとは思えないので恐らく後者だと思うが、それならば一体なぜなのか。
しっかりとした子だとは思う。しかし、それが元々持った性質なのか、「自分は大丈夫だ」と背伸びしてそう演じているのかは分からない。何はともあれ、この子の本質を知って俺がいる間だけでも子供らしくいてくれたらと思ったのだ。
「とりあえず、ごはんでも作ろうかな」
清飛から視線を外し、台所に視線をむけて独りごちる。子供らしくいられたら、と思っても清飛に同居を断られてしまったら元も子もない。せめて少しでも、清飛に一緒に暮らすメリットを感じてもらわないと。
台所に立つと、あまり使われた形跡の無いIHが目に入り一抹の不安が過ぎる。
(自炊しないのかな?ってことは食材が無い可能性も……。)
そういえば俺は清飛が用意してくれたカップ麺でお腹を満たしたのだと思い出す。普段からインスタントやレトルト食品しか食べていないのだとしたら、料理する程の食材は無いだろう。
(栄養不足が心配……なんとかしないと。)
玉子だけでも……という微かな願いとともに恐る恐る冷蔵庫を開けた。すると、
「あ、意外とある?」
冷蔵庫の中には一先ず問題なく料理ができそうなくらいのいくつかの野菜と、豆腐、玉子などがあった。いらぬ心配だったようだと、ひと息吐き頭の中で献立を考える。これだけあれば朝食と、お弁当用のおかずは作れそうだった。
ふと、冷蔵庫の横を見ると何やら段ボールが置かれてありその隙間から乾燥ひじきが見えた。段ボールを開けて賞味期限を見ると、切れる間際だったのでこれも使うことにした。
(乾物が賞味期限間際って、いつからあったんだろう。)
疑問に思いながらも「まあ、いっか!」と頭を切り替えてひじきを水で戻す。
冷蔵庫から使用する食材を出し、下拵えをしているとテテが帰ってきた。無事に帰ってきたことを労い、テテにアーモンドを一粒あげてから久しぶりの料理に取り掛かった。
「それで一時的に離れた、と」
「うん。結構寂しい」
「まあ、そうだろうな」
千早が淹れてくれたお茶を啜りながら、血の不足で倒れてから今日までのことを簡単に説明するとノアに同情めいた視線を向けられた。ノアと一緒に暮らしている千早も、吸血鬼の性質を十分に理解しているのか俺を見る目は憐れんでいるように感じる。
「というか、お前大変だったんだな。倒れるなんてよっぽどだろ」
「本当にね……死を覚悟したのは初めて」
「意中の相手っていうからどんな子か気になってたけど、助けてくれたっていうならケリーが執着するのもわかるわ。良かったな、良さそうな子に会えて」
「……一緒になれるかは分からないけどね」
「弱気だな。まあ、お前は元々そんな奴か」
幼い頃から一緒にいたノアだ。大人しかった昔の俺の性格も心得ているから弱音も吐きやすい。
(まあ、助けてくれたっていうのが一番の理由では無いんだけど。)
心の中でノアの言葉に少々反論する。本当の理由を伝えるのは構わないが清飛のかわいさを自慢したい一方で、自分一人で(若しくはテテと二人で)留めておきたいという思いがあった。所謂、独占欲だ。
「なぜここまでしてくれるのか」という清飛の言葉に、俺は何度も「恩人だから」と返答していた。しかし、そんな思いで済んだのは出会った当初だけで、邪な想いが滲むのにはそう時間がかからなかった。
かわいくて優しくて、そして甘えたがり。それが俺が思う、清飛の魅力であり惹かれた部分であった。
清飛が眠ってから何時間か経った。テテは貨幣を日本円に換金してもらう為おつかいに行ってもらったので今はおらず、俺は清飛の寝顔を暫く眺めていた。
(換金と一緒に常備血も頼めば良かったんだろうけど。)
姿を変え、テテをおつかいに出せるだけの力が戻ったのだからもうここにいる理由は無い。清飛が目を覚ます前にアパートから出ることはできるし、次の満月の日までまた観光することもできる。しかし、そうしないのは少しでも恩返しがしたいという理由と、単純に清飛のことが気になるという思いがあった。
(家族はいないのかな?)
吸血鬼の親は基本的に放任主義だ。自分の子供が幼い頃から独り立ちしようとしても止めないし、俺みたいに親について回るような子供でも十歳を過ぎるとどの吸血鬼も親元を離れる。自然と親子間のやりとりは疎遠になるが、険悪になる訳では無いし時々帰宅しても「あら、おかえり」とまるで毎日帰宅するようなトーンで言われるだけだ。
しかし、人間の子供はそうでは無いだろう。大学進学や就職を機に一人暮らしをするのは珍しくないだろうが、清飛は制服を着ていたし、まだ高校生のはず。家族がいないか、はたまた親元を離れて一人暮らしをしているのだろう。一介の高校生が一人で生活できる程の資金を自分で調達できるとは思えないので恐らく後者だと思うが、それならば一体なぜなのか。
しっかりとした子だとは思う。しかし、それが元々持った性質なのか、「自分は大丈夫だ」と背伸びしてそう演じているのかは分からない。何はともあれ、この子の本質を知って俺がいる間だけでも子供らしくいてくれたらと思ったのだ。
「とりあえず、ごはんでも作ろうかな」
清飛から視線を外し、台所に視線をむけて独りごちる。子供らしくいられたら、と思っても清飛に同居を断られてしまったら元も子もない。せめて少しでも、清飛に一緒に暮らすメリットを感じてもらわないと。
台所に立つと、あまり使われた形跡の無いIHが目に入り一抹の不安が過ぎる。
(自炊しないのかな?ってことは食材が無い可能性も……。)
そういえば俺は清飛が用意してくれたカップ麺でお腹を満たしたのだと思い出す。普段からインスタントやレトルト食品しか食べていないのだとしたら、料理する程の食材は無いだろう。
(栄養不足が心配……なんとかしないと。)
玉子だけでも……という微かな願いとともに恐る恐る冷蔵庫を開けた。すると、
「あ、意外とある?」
冷蔵庫の中には一先ず問題なく料理ができそうなくらいのいくつかの野菜と、豆腐、玉子などがあった。いらぬ心配だったようだと、ひと息吐き頭の中で献立を考える。これだけあれば朝食と、お弁当用のおかずは作れそうだった。
ふと、冷蔵庫の横を見ると何やら段ボールが置かれてありその隙間から乾燥ひじきが見えた。段ボールを開けて賞味期限を見ると、切れる間際だったのでこれも使うことにした。
(乾物が賞味期限間際って、いつからあったんだろう。)
疑問に思いながらも「まあ、いっか!」と頭を切り替えてひじきを水で戻す。
冷蔵庫から使用する食材を出し、下拵えをしているとテテが帰ってきた。無事に帰ってきたことを労い、テテにアーモンドを一粒あげてから久しぶりの料理に取り掛かった。
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