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さよならの前のふんわりパン
五十五、
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「食べてみて、清飛」
ケリーが薄く切った一枚を半分にして渡してくれた。
「……美味しい。ふんわりしてる」
大袈裟でも無く、本当に美味しかった。口に入れると良い香りが鼻から抜け、優しい甘さが口の中に広がった。何もつけなくても十分美味しい。
ケリーがもう半分のパンを小さく切って、テテにあげると両手に持って一口齧った。その途端に目がきらきらと輝いてすごい勢いで始めたので、テテも美味しいと思ったようだ。
「美味しい!良かった、無事にできあがったね!」
「うん」
できあがった食パンは一斤程だった。六等分に切ってとりあえず二枚をトーストする。優しい甘い香りに香ばしい香りも加わって、幸せな気分になった。トーストしている最中にケリーがココアを作ってくれて、一緒にテーブルに運ぶ。
いつもの場所に座って手を合わせた。
「いただきます」
「いただきまーす!」
「ぴゃー!」
まずはシンプルにバターを塗って食べる。一口齧るとサクッとした良い音がした。
「美味し」
「口溶けか良い……!」
「ぴゃ~!」
何もつけなくても美味しかったのに、バターが加わると格別だった。食パンの口溶けとともにじゅわりとバターが口の中に広がる。甘いココアともよく合った。
「これは……一人で一斤食べられるかもしれない……!」
「流石に多いとは思うけど、その気持ちは分かる」
「ぴゃ~~」
一枚目をすぐに食べ終えて、二枚目にさしかかった。先程よりも焦げ目を強くしてみる。
「ピザトーストにしてみても美味しそうだよね!」
「うわぁ、やめて。食べたくなる」
チーズも具材も今は無いので、諦めるしかないがケリーの提案は魅力的だった。このパンでピザトーストを作ったらとても美味しいだろう。少し分厚目に切って、贅沢に食べたい。
焼き上がったパンに今度はケリーが買ってきてくれたピーナッツバターを塗った。ケリーはいちごジャムである。久しぶりに食べるなと、過去に食べたホットケーキに思いを馳せながら一口齧った。
(甘い……。)
食べた感想は、想像していたよりも甘かった。食べていたのは小学生までだし、少し味覚が変わったのかもしれない。
(甘いけど、そうだ。この味だ。)
食べていると、段々と思い出してきた。ピーナッツバターにココアは少し甘過ぎたが、食べることができて幸せだった。
ケリーは一斤食べられると言ったけど、少なめとはいえお昼ごはんも食べたのでもうお腹いっぱいになってしまった。
「清飛、まだ食べる?」
「いや、もうやめとく。お腹いっぱい」
「じゃあ俺もやめようかな」
「食べていいよ。まだ食べられるでしょ」
「歯止めきかなくなりそうだから、俺もやめとく!」
「ぴゃー」
テテもお腹いっぱいになったようで、お腹をぽんぽんと叩いていた。心なしか丸みが増した気がする。
「余ったパンは冷凍しようか。また食べてね」
「……うん、ありがと」
そのパンを食べる時には、ケリーとテテはもういない。寂しいけど、最後に楽しい思い出ができた。
「材料入れて、スイッチ押すだけだしまた作ってみる」
「そうだね、火使わないから危なくないし。でも釜から出す時は熱いから気をつけてね!あと包丁で手切らないように!」
「なにそれ、子どもみたいな」
必死に言うケリーが可笑しくて、つい笑ってしまう。ケリーからしたら子ども同然なのかもしれないが、今の見た目は同い年ぐらいなのに。
この時、ケリーはいつもと同じ感じで返してくれると思っていた。だが、普段よりも真面目な表情を向けられ可笑しいと言う感情は急速に萎んでいく。
「どうしたの?」
「子どもじゃなくて、大切だから」
「え?」
言われた意味が分からなくて、反射的に聞き返す。大切って、なんでいきなりそんな抽象的なことを言うのだろう。それを言うなら、俺にとってもケリーは大切である。短い間だったけど、良くしてくれたし、
だが、ケリーの言葉がそういう意味ではないということは直感的に理解していた。聞き返したが、俺はその続きを聞きたいのか、聞きたくないのかも分からない。
「傷ついてほしくないから。俺、清飛が……」
言いかけて、はっと我に返ったようにケリーは口を噤んだ。また、「何?」と聞き返せば良かったのに、何故だか何も言うことができず沈黙が流れ、テテも異変を感じてか俺とケリーをキョロキョロと見渡した。
やがて、ケリーがふっと表情を緩めて優しい笑顔を向けてきた。それを見ると肩の力が抜けて、自分が緊張していたことに気付く。
「……清飛は俺の恩人だからね。傷ついてほしくないんだよ」
「まだそんなこと言ってるの?」
本気と捉えず、茶化すようにそう返したが頭の中では「本当に?」と勇気が出なくて聞けない言葉をケリーにぶつける。
(恩人って言うだけなら、言い淀むことなんてこれまで無かったし……。)
ケリーが何か隠しているのはすぐに分かった。だけど、何故かそれを問うのが怖くて「明日にはいなくやるのだから、良いか」と自分を納得させる。だけど、そうすると寂しさとは違う感情が胸の中に沸いてきて、ぎゅーっと締め付けられるような痛みに苦しんだ。
(なんだ?俺、どうしたんだ?)
ケリーを不思議に思う気持ちと、自分の中にある得体の知れない感情。どちらもその気持ちの正体に気づきたくなかった。気付いてしまったらもう後戻りができないと、そう本能が告げていた。
ケリーの手が伸びてきて一瞬だけ身構えた。だが、頭を撫でてくれて、その感触に安心する。
(うん、この感情は心地よい。)
安心できる存在に懐くように、ほわほわと温かくなるようなそんな感情。先程ケリーから向けられた真面目な表情から沸き上がる感情は、少し怖かった。
縋るように、ケリーの手の感触に意識を集中させた。ケリーはそれ以上は何も言わずに、ただ頭を撫でていてくれた。
ケリーが薄く切った一枚を半分にして渡してくれた。
「……美味しい。ふんわりしてる」
大袈裟でも無く、本当に美味しかった。口に入れると良い香りが鼻から抜け、優しい甘さが口の中に広がった。何もつけなくても十分美味しい。
ケリーがもう半分のパンを小さく切って、テテにあげると両手に持って一口齧った。その途端に目がきらきらと輝いてすごい勢いで始めたので、テテも美味しいと思ったようだ。
「美味しい!良かった、無事にできあがったね!」
「うん」
できあがった食パンは一斤程だった。六等分に切ってとりあえず二枚をトーストする。優しい甘い香りに香ばしい香りも加わって、幸せな気分になった。トーストしている最中にケリーがココアを作ってくれて、一緒にテーブルに運ぶ。
いつもの場所に座って手を合わせた。
「いただきます」
「いただきまーす!」
「ぴゃー!」
まずはシンプルにバターを塗って食べる。一口齧るとサクッとした良い音がした。
「美味し」
「口溶けか良い……!」
「ぴゃ~!」
何もつけなくても美味しかったのに、バターが加わると格別だった。食パンの口溶けとともにじゅわりとバターが口の中に広がる。甘いココアともよく合った。
「これは……一人で一斤食べられるかもしれない……!」
「流石に多いとは思うけど、その気持ちは分かる」
「ぴゃ~~」
一枚目をすぐに食べ終えて、二枚目にさしかかった。先程よりも焦げ目を強くしてみる。
「ピザトーストにしてみても美味しそうだよね!」
「うわぁ、やめて。食べたくなる」
チーズも具材も今は無いので、諦めるしかないがケリーの提案は魅力的だった。このパンでピザトーストを作ったらとても美味しいだろう。少し分厚目に切って、贅沢に食べたい。
焼き上がったパンに今度はケリーが買ってきてくれたピーナッツバターを塗った。ケリーはいちごジャムである。久しぶりに食べるなと、過去に食べたホットケーキに思いを馳せながら一口齧った。
(甘い……。)
食べた感想は、想像していたよりも甘かった。食べていたのは小学生までだし、少し味覚が変わったのかもしれない。
(甘いけど、そうだ。この味だ。)
食べていると、段々と思い出してきた。ピーナッツバターにココアは少し甘過ぎたが、食べることができて幸せだった。
ケリーは一斤食べられると言ったけど、少なめとはいえお昼ごはんも食べたのでもうお腹いっぱいになってしまった。
「清飛、まだ食べる?」
「いや、もうやめとく。お腹いっぱい」
「じゃあ俺もやめようかな」
「食べていいよ。まだ食べられるでしょ」
「歯止めきかなくなりそうだから、俺もやめとく!」
「ぴゃー」
テテもお腹いっぱいになったようで、お腹をぽんぽんと叩いていた。心なしか丸みが増した気がする。
「余ったパンは冷凍しようか。また食べてね」
「……うん、ありがと」
そのパンを食べる時には、ケリーとテテはもういない。寂しいけど、最後に楽しい思い出ができた。
「材料入れて、スイッチ押すだけだしまた作ってみる」
「そうだね、火使わないから危なくないし。でも釜から出す時は熱いから気をつけてね!あと包丁で手切らないように!」
「なにそれ、子どもみたいな」
必死に言うケリーが可笑しくて、つい笑ってしまう。ケリーからしたら子ども同然なのかもしれないが、今の見た目は同い年ぐらいなのに。
この時、ケリーはいつもと同じ感じで返してくれると思っていた。だが、普段よりも真面目な表情を向けられ可笑しいと言う感情は急速に萎んでいく。
「どうしたの?」
「子どもじゃなくて、大切だから」
「え?」
言われた意味が分からなくて、反射的に聞き返す。大切って、なんでいきなりそんな抽象的なことを言うのだろう。それを言うなら、俺にとってもケリーは大切である。短い間だったけど、良くしてくれたし、
だが、ケリーの言葉がそういう意味ではないということは直感的に理解していた。聞き返したが、俺はその続きを聞きたいのか、聞きたくないのかも分からない。
「傷ついてほしくないから。俺、清飛が……」
言いかけて、はっと我に返ったようにケリーは口を噤んだ。また、「何?」と聞き返せば良かったのに、何故だか何も言うことができず沈黙が流れ、テテも異変を感じてか俺とケリーをキョロキョロと見渡した。
やがて、ケリーがふっと表情を緩めて優しい笑顔を向けてきた。それを見ると肩の力が抜けて、自分が緊張していたことに気付く。
「……清飛は俺の恩人だからね。傷ついてほしくないんだよ」
「まだそんなこと言ってるの?」
本気と捉えず、茶化すようにそう返したが頭の中では「本当に?」と勇気が出なくて聞けない言葉をケリーにぶつける。
(恩人って言うだけなら、言い淀むことなんてこれまで無かったし……。)
ケリーが何か隠しているのはすぐに分かった。だけど、何故かそれを問うのが怖くて「明日にはいなくやるのだから、良いか」と自分を納得させる。だけど、そうすると寂しさとは違う感情が胸の中に沸いてきて、ぎゅーっと締め付けられるような痛みに苦しんだ。
(なんだ?俺、どうしたんだ?)
ケリーを不思議に思う気持ちと、自分の中にある得体の知れない感情。どちらもその気持ちの正体に気づきたくなかった。気付いてしまったらもう後戻りができないと、そう本能が告げていた。
ケリーの手が伸びてきて一瞬だけ身構えた。だが、頭を撫でてくれて、その感触に安心する。
(うん、この感情は心地よい。)
安心できる存在に懐くように、ほわほわと温かくなるようなそんな感情。先程ケリーから向けられた真面目な表情から沸き上がる感情は、少し怖かった。
縋るように、ケリーの手の感触に意識を集中させた。ケリーはそれ以上は何も言わずに、ただ頭を撫でていてくれた。
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