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賑やかな杉野家
三十、
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「この子、学校でどんな感じ?清水くんには社交的ではないけど良い子だって言われたけど」
「確かに積極的なタイプでは無いと思いますが、元々優しい性格だし勉強も頑張ってますよ!つい先日までテスト期間だったので、一緒に勉強もしましたし」
「あら、そうなの!一緒に勉強ってどこで?学校?」
「学校でもですし、アパートにもお邪魔させてもらいました!一人暮らしなのに部屋綺麗ですごいなと!俺も見習わないとですね!」
なぜこんなにもスラスラと言葉が出てくるのだろうと尊敬する。嘘の中に真実を盛り込んであたかも本当のように話す姿に、前もって作った設定ではないのだとケリーの機転に驚きっぱなしだった。
(優しい性格ってのは咄嗟に出た言葉だと思うけど、テスト勉強は一緒にした……というか教えてくれたし、アパートに来たというか住んでるし。)
「そっか、清飛頑張ってるのね。なんだか安心したわ」
「それなりにだけど」
ケリーから俺に視線がうつり、ホッとしたような表情を浮かべられるのでなんだか気恥ずかしくなりぶっきらぼうな態度になる。
「テストはどうだったの?できた?」
「まあ、普段通りにはできたと思う」
「それがどうだったかって聞いてるの!」
「……国語以外はできた」
「そう!できたのが一教科でもあるならすごいわ!」
「……そう」
(なんでなんだろう。)
返答しながら美恵子さんの言葉が気になってしまう。
美恵子さんのこういうところがいつも不思議に思う。普段からメッセージなどで勉強しろと言われ、進学しなさいと言われ、教育熱心なのかと思いきや成績については特に問われず、テストで何点とってこいとも言われない。恐らく、赤点を取っても少しは説教されるかもしれないが過度な叱責は受けないと思う。
(美恵子さんにとって何が重要なのか分からない。)
ふと窓の外を見ると、雨足が強まってきた。大翔は大丈夫だろうかとぼんやりと考えていると、一番嫌な話題にさしかかった。
「それで、清飛。進路はどうするの?」
やはり聞かれたか、とメッセージでも何度も尋ねられる話題にげんなりする。
「何度も言うけど、行ける所に行く。それは変わらない」
「もう!またそうやってはぐらかす!」
別にはぐらかしてはいない。行かないとは言ってないのだし、美恵子さんの要望には答えているはずだ。
「そろそろ志望校とか本気で決めた方がいいんじゃないの?」
「一般受験の申し込みなんてまだ先だし、大丈夫だよ。ちゃんと勉強はしてるんだし、どこにも行けないってことはない」
「だからそうやってどこでもいいっていう態度はやめなさいって言ってるの!清飛の行きたい所に行ってほしいのよ」
「別に行きたい所なんてないし」
「本当にないの?深く学んでみたいこととか、少しでも興味があることとか。あんた、読書とか好きじゃない。文学部いってみるとかさ」
「そうだね、じゃあそうしよっかな」
「またそうやって!ただ流されてるだけじゃない!清飛の意思で決めてる訳じゃないでしょ!」
「なんでそれが悪いの?」
「私はあんたに……!」
「ちょ、あの!落ち着いてください!清飛も、ほら」
ケリーに割って入られてはっとする。第三者がいるのを忘れていてつい言い合いをしてしまった。こんなの聞かせるものじゃない。美恵子さんもバツが悪そうに口を噤む。
「生意気言ってごめん」
養ってもらってる身で美恵子さんの思うように動こうとしない自分に自己嫌悪し、謝る。いつも進路の話になるとこうやって言い合って、我に返って謝る。いい加減嫌になってしまって、家に帰るのが億劫になってしまった。
「あんたのそれは生意気じゃないわ。京くん、ごめんね。変なとこ見せて」
「いえ、大丈夫です!というか、家族水入らずの場に勝手にお邪魔してるの俺なので」
ケリーが気を遣ってくれてるのも申し訳なくて、一口カフェオレを口に含んだ。氷が溶け始めていて少し味が薄くなっている。
ふと、忍がいる膝の上を見てみるとあの言い合いの間でも我関せずといった様子で眠り続けていた。なかなかの大物である。一度寝たらなかなか起きないのだろうか。
しかし、そう思った次の瞬間、急に目がぱっと開いて身体を起こして膝の上から床に降りた。「キャンキャン!」と激しく吠え始め、突然のことに驚く。
「忍?どうしたの?」
「あ、大翔が帰ってきたみたい!」
「え、そんな物音……」
した?と言おうとしたその時、玄関から「ただいまー!」という声が聞こえてきた。何を察知したのか分からないが、忍の能力に関心していると「ウー……」と低く唸りながら柔らかい毛を精一杯逆立てていた。大翔のことが本当に嫌いなようだ。
「もー!模擬戦してたのに急に降ってきた!せっかく打順まわってきてたのになー……あれ?」
大翔が頭をタオルで拭きながらダイニングに入ってきた。美恵子さんに似たクリクリとした目が俺を見て見開かれる。
「清飛くん!来てたの!?」
「久しぶり、大翔」
「久しぶりー!おかえりー!」
大翔が飛びついてこようとするが、美恵子さんに「濡れてるんだからやめなさい!」と言われ渋々諦める。俺の足元では忍が必死に大翔に向かって威嚇していた。
「連絡くれたら今日の野球休んだのに!なんで連絡くれなかったんだよ!」
「いや、来る予定じゃなくて……」
「清飛くん!ゲームしよ!僕今ハマってるのがさ」
「大翔、風邪ひくから先にシャワー浴びてきなさい!」
「えー……わかった。清飛くん、シャワー浴びてる間に帰らないでよ!」
ダイニングを出て、バタバタと足音を響かせながら大翔は走って浴室に向かっていった。
「確かに積極的なタイプでは無いと思いますが、元々優しい性格だし勉強も頑張ってますよ!つい先日までテスト期間だったので、一緒に勉強もしましたし」
「あら、そうなの!一緒に勉強ってどこで?学校?」
「学校でもですし、アパートにもお邪魔させてもらいました!一人暮らしなのに部屋綺麗ですごいなと!俺も見習わないとですね!」
なぜこんなにもスラスラと言葉が出てくるのだろうと尊敬する。嘘の中に真実を盛り込んであたかも本当のように話す姿に、前もって作った設定ではないのだとケリーの機転に驚きっぱなしだった。
(優しい性格ってのは咄嗟に出た言葉だと思うけど、テスト勉強は一緒にした……というか教えてくれたし、アパートに来たというか住んでるし。)
「そっか、清飛頑張ってるのね。なんだか安心したわ」
「それなりにだけど」
ケリーから俺に視線がうつり、ホッとしたような表情を浮かべられるのでなんだか気恥ずかしくなりぶっきらぼうな態度になる。
「テストはどうだったの?できた?」
「まあ、普段通りにはできたと思う」
「それがどうだったかって聞いてるの!」
「……国語以外はできた」
「そう!できたのが一教科でもあるならすごいわ!」
「……そう」
(なんでなんだろう。)
返答しながら美恵子さんの言葉が気になってしまう。
美恵子さんのこういうところがいつも不思議に思う。普段からメッセージなどで勉強しろと言われ、進学しなさいと言われ、教育熱心なのかと思いきや成績については特に問われず、テストで何点とってこいとも言われない。恐らく、赤点を取っても少しは説教されるかもしれないが過度な叱責は受けないと思う。
(美恵子さんにとって何が重要なのか分からない。)
ふと窓の外を見ると、雨足が強まってきた。大翔は大丈夫だろうかとぼんやりと考えていると、一番嫌な話題にさしかかった。
「それで、清飛。進路はどうするの?」
やはり聞かれたか、とメッセージでも何度も尋ねられる話題にげんなりする。
「何度も言うけど、行ける所に行く。それは変わらない」
「もう!またそうやってはぐらかす!」
別にはぐらかしてはいない。行かないとは言ってないのだし、美恵子さんの要望には答えているはずだ。
「そろそろ志望校とか本気で決めた方がいいんじゃないの?」
「一般受験の申し込みなんてまだ先だし、大丈夫だよ。ちゃんと勉強はしてるんだし、どこにも行けないってことはない」
「だからそうやってどこでもいいっていう態度はやめなさいって言ってるの!清飛の行きたい所に行ってほしいのよ」
「別に行きたい所なんてないし」
「本当にないの?深く学んでみたいこととか、少しでも興味があることとか。あんた、読書とか好きじゃない。文学部いってみるとかさ」
「そうだね、じゃあそうしよっかな」
「またそうやって!ただ流されてるだけじゃない!清飛の意思で決めてる訳じゃないでしょ!」
「なんでそれが悪いの?」
「私はあんたに……!」
「ちょ、あの!落ち着いてください!清飛も、ほら」
ケリーに割って入られてはっとする。第三者がいるのを忘れていてつい言い合いをしてしまった。こんなの聞かせるものじゃない。美恵子さんもバツが悪そうに口を噤む。
「生意気言ってごめん」
養ってもらってる身で美恵子さんの思うように動こうとしない自分に自己嫌悪し、謝る。いつも進路の話になるとこうやって言い合って、我に返って謝る。いい加減嫌になってしまって、家に帰るのが億劫になってしまった。
「あんたのそれは生意気じゃないわ。京くん、ごめんね。変なとこ見せて」
「いえ、大丈夫です!というか、家族水入らずの場に勝手にお邪魔してるの俺なので」
ケリーが気を遣ってくれてるのも申し訳なくて、一口カフェオレを口に含んだ。氷が溶け始めていて少し味が薄くなっている。
ふと、忍がいる膝の上を見てみるとあの言い合いの間でも我関せずといった様子で眠り続けていた。なかなかの大物である。一度寝たらなかなか起きないのだろうか。
しかし、そう思った次の瞬間、急に目がぱっと開いて身体を起こして膝の上から床に降りた。「キャンキャン!」と激しく吠え始め、突然のことに驚く。
「忍?どうしたの?」
「あ、大翔が帰ってきたみたい!」
「え、そんな物音……」
した?と言おうとしたその時、玄関から「ただいまー!」という声が聞こえてきた。何を察知したのか分からないが、忍の能力に関心していると「ウー……」と低く唸りながら柔らかい毛を精一杯逆立てていた。大翔のことが本当に嫌いなようだ。
「もー!模擬戦してたのに急に降ってきた!せっかく打順まわってきてたのになー……あれ?」
大翔が頭をタオルで拭きながらダイニングに入ってきた。美恵子さんに似たクリクリとした目が俺を見て見開かれる。
「清飛くん!来てたの!?」
「久しぶり、大翔」
「久しぶりー!おかえりー!」
大翔が飛びついてこようとするが、美恵子さんに「濡れてるんだからやめなさい!」と言われ渋々諦める。俺の足元では忍が必死に大翔に向かって威嚇していた。
「連絡くれたら今日の野球休んだのに!なんで連絡くれなかったんだよ!」
「いや、来る予定じゃなくて……」
「清飛くん!ゲームしよ!僕今ハマってるのがさ」
「大翔、風邪ひくから先にシャワー浴びてきなさい!」
「えー……わかった。清飛くん、シャワー浴びてる間に帰らないでよ!」
ダイニングを出て、バタバタと足音を響かせながら大翔は走って浴室に向かっていった。
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