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お墓参りへ
二十七、
しおりを挟む「じゃあ、また来るから」
線香が燃え尽きてから墓地を後にした。歩いていると寂しく、焦がれていた感情がゆっくりと凪いでいく。ふと、来た時と違って暗くなっているように感じて見上げると厚い雲が空を覆い尽くそうとしていた。雨の予報なんてあっただろうか、と訝しむがもしかしたら降られるかもしれないと思い、急いでスーパーに戻った。
「もうー!お兄さんったら口が上手いわね!コロッケ安くしちゃう!」
「ありがとー!お姉さん!お昼に食べるね!」
(人たらしだ……)
スーパーに戻ってきてケリーを捜そうと意識した瞬間、そのような声が聞こえてきてすぐに見つかった。お惣菜コーナーで店員と一緒に談笑している。手には先程渡されたのだろうコロッケの入った紙袋を持っていた。無理だろうと思っていたが、本当にスーパーで時間が潰せたのかと驚く。
「あ、清飛!」
「あら、お友達?」
「お待たせ……本当に乾物ばっかり買ってる」
ひじきにキクラゲに椎茸に昆布に高野豆腐に……一体何が出来上がるのだろう。
「明日はひじきの煮物作るね!」
「そっか、楽しみにしとく」
いつもの調子のケリーを見ていると、張り詰めていたものがふっと緩んだ。ケリーもそれに気づいたようで俺の顔をじっと見る。すると、にこにこと話していたケリーの表情が少し強張った。
(なんだ?)
普段と違う様子に戸惑うが、じっと目を合わせてくるのでああ、と勘付いた。
(泣いたから、目が赤くなってるのか。)
泣いていたことを忘れていたわけでは無い。だが、気にされる程だとは思わなかった。痛ましいような表情にどうしたら良いのか分からなくなり、黙りこむ。すると、ケリーの手がすぐ目元まで伸びてきた。
触れられる……と思ったがその手は目の前で止まった。人前だからかはたまた、手袋をしていないからか。俺が肌には直接触れないでほしいと言ったのに、この時ばかりは厚かましくも触れてほしいと思ってしまう自分がいた。結局、目の前からその手は離れてしまい、心がすっと冷えたように感じた。
(仕方ないよな。)
だが、そのままおろされると思っていた手は頭の上に移動した。撫でてくれて、手を追っていた視線をケリーの顔に戻すと優しく微笑んでくれていて安心してまた泣きそうになってしまった。
(優しい……。)
「あらあら、仲良しなのね!」
隣から聞こえた声にびくりとして視線を向ける。傍に店員がいたのを思い出し一気に恥ずかしくなった。満面の笑みを浮かべて微笑ましいものを見るような視線を向けられ、逃げたくなる。
「そう!仲良しなんです!」
「ちょ、ケ……」
(あれ、ケリーって呼んでいいのか?)
「かわいいわー!コロッケ追加しちゃう!」
「え!いいんですか!一緒に食べますね!」
店員に恥ずかしげも無く答えるケリーを制止させようとしたが、名前を呼ぼうとして戸惑った。普段のケリーの姿は日本人である。
結局、話を聞いていることしかできず、俺は右往左往していた。
「呼び名決める?」
お会計をしてスーパーを出た後、置いてあった電子レンジで温めたコロッケを食べながら歩く。
「さっきケリーって呼ぶか迷ってたよね」
「よく気付いたね」
「清飛おろおろしてて可愛かった!」
嬉しそうな様子が少し腹立たしい。こっちは恥ずかしくてどうやって止めるのか迷っていたのだ。
「清飛怒ってる?ごめんって!顔怖い!」
「こういう顔」
慌てるように謝るケリーにそう返答しながら、確かに呼び名は欲しいなと思った。知り合いに出会した時にまた悩むことがないとは言い切れない。
「……"リ"があったら外国人っぽくなるし、伸ばす感じゃなくて"ケイ"にしたらどう?」
「そうだね!近い呼び名の方が清飛も言い易そうだし」
「でも、俺外であんまり話さないし呼ぶこともなさそう」
「今日みたいな日がまたあったらね!」
二人でたわいの無い話をしながら、約束していた美恵子さんの家に行く。スーパーからは歩いて十五分程度だ。行くのは正月ぶりだが、あの時は駅に着いてすぐに車に詰め込まれたので歩いて向かうのは久しぶりだった。
「もう少し歩くけど、疲れてない?」
「大丈夫!体力あるし!」
「そりゃ筍掘り手伝ってたんなら体力あるか」
筍ご飯を作ってくれた時があったな、と今思い出した。柔らかくて味がしみていて美味しかった。
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