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中間テスト期間
十九、
しおりを挟む「ありがとう、杉野。助かった」
「どういたしまして」
数学の勉強を教えると、納得した表情を浮かべた清水にお礼を言われた。躓きやすいところを重点的に説明すると案の定すぐに理解してくれた為、すぐに終えることができた。
「要点まとめてくれて助かる。テストどうにかなりそう」
「良かった。でも清水ならもともと大丈夫だったと思う」
「そうでもない。部活してるんだから半端な点取るわけにはいかないし」
(真面目だなぁ)
俺には真似できない、とぼんやり考えていると突然清水から「杉野さ」とじっと視線を向けられた。
「なに?」
「なんか最近妙に元気じゃない?」
「なんだそれ」
何を言いたいのか分からず、呆気にとられる。だが、清水自身は真面目な様子なので茶化すのも違うかと続きを促した。
「なんか雰囲気が明るいというか、声に張りがあるというか。あと、姿勢?なんか肩に憑いてたものがとれて、軽そうに見える」
(肩……。)
雰囲気や声は俺には分からないが、肩が軽そうに見えるというのは事実だと思う。ケリーに血を吸われて毎回楽になってるし、俺自身鏡を見ると巻き肩気味だったのが幾分マシになっているように感じていた。
(丁度昨日も血吸われたし……あ。)
昨日のことを振り返ると、不意に自分がした行動を思い出し、思考が固まる。
(なんか俺昨日恥ずかしいことしなかったか?)
ケリーの唇とか舌が冷たくなくて気になって、頬に触れた。今考えると、自分のした行動が異様だったと頭を抱えたくなる。
「どうしたの?杉野。難しい表情して」
「いや……なんでもない」
清水に心配されたが、上手く返事をする余裕がなかった。
(気になったからと言って顔に触るか普通。ケリーじゃあるまいし)
血を吸われる時や頭を撫でられる時、ケリーから触れられることは何度もある。恐らく触れることに抵抗がないか、好きなのだと思うしそれに関しては別に問題はない。だが、俺自身は別に触れたいと思ったことはないし、俺から触れたことはこれまで一度もなかった。いきなり変な行動に出た自分が恥ずかしく、信じられない。
しかも、直接触れられることを拒んだのに、俺は勝手に触ってしまったので嫌な気持ちになったかもしれない。今朝の様子に変わったところはなかったけど内心どう思っていただろう。
「杉野、悪い。そんなに考えこむ程のことだとは思わなかった。変なこと聞いた」
俺の様子が余程おかしかったのだろう、清水にまで気を遣わせてしまう自分が少し情けなかった。
「大丈夫。ごめん、変な気遣わせて」
「いや、いいんだ。杉野が元気そうでちょっと嬉しかっただけ。でもそうか、俺の見当違いだったか」
「見当違い?何が?」
「恋人でもできたのかと思った」
「……え?」
突拍子もないことを言われ、頭が真っ白になった。何言ってるんだ。
「雰囲気が変わる理由としては、それが一番かなって」
「ありえない」
清水の考えを一蹴する。恋人なんていないし、今後も作るつもりもない。面倒くさいし。
「……そっか」
「うん」
何か言いたげな様子の清水だったが、それ以上それについては何も言わず「歴史どうやって覚えてる?」と勉強の話になった。ついでに歴史についても語呂や覚え方を説明する。
「杉野って面倒くさがりなわりに、ちゃんと勉強してるよな。」
ひとしきり説明を終えると、感心したように言われた。
「まあ、仕方ないかなって」
「仕方ない?」
「世話になってる身だし。勉強しろって言われてるならしといた方が波風立たなくてそっちの方が楽」
「ああ、そういうこと」
清水と話しているとあっという間に時間が過ぎ、本鈴五分前の予鈴が鳴った。
(そろそろ滝野が来るな。)
机の上に出していたノートやらを一度閉じる。
「ありがと。色々教えてくれて」
「いや、この前課題見せてくれたし」
「あれも殆ど終わってただろう。……杉野」
「なに?」
「テストが終わったあとの週末、だよな」
「……ああ」
「辛くなったら、言って」
「ありがと。でも今年は多分大丈夫」
「そっか」
一瞬だけ清水の口元に笑みが浮かんだ。心配してくれているのがわかり、ありがたく思う。
昨年、というか毎年、あの日の前後数日間は胸がざわざわした。上手く誤魔化せているかと思っていたのだが、清水は気付き、アパートに泊まってくれて黙って傍にいてくれた。あとから平田にも「だいぶ様子可笑しかったけどなんかあったの?」と言われ、全然誤魔化しきれてないと知った。どうしたらこの気持ちが薄れてくれるのかわからなくて、途方に暮れる。
そろそろ、母の命日。お母さんがいなくなってから今年で六年になる。
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