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日常に追加された
十、
しおりを挟む駅まで十分、電車で三駅、その後また五分歩くと俺が通っている高校がある。元々、文化部の活動が盛んで、よく〇〇コンクールとかで入賞しているような学校だったのだが、二、三年程前から運動部の方も着々と力をつけてきており、部活動目当てで入学する者が多くなってきたらしい。
だが、どの部活にも所属していない俺にとっては全く意味のない特徴である。
自分のクラスで席に着き、昨日できなかった課題をできるだけ進める。授業は三限目だし、少し急げば間に合いそうだった。
粗方進めた所で本鈴五分前の予鈴が鳴る。一つ前の席に目を向けるが、清水はまだ来ていない。
(朝練なんて本当によくする。)
本鈴の二分前に清水は教室に現れた。駆け足で教室に入り、席に座って一息つく。
「おはよ」
「おはよう、杉野。はあー、間に合わないかと思った」
「遅かったな。なんかあった?」
「後輩が俺の制服間違えて着てて、手間取った」
「あー、そりゃさいな……」
「可愛い間違いだなって思った」
「……そか」
災難だな、と言おうとしたがこうである。清水は顔と話している内容が一致しないことが多々あって、今みたいにおよそ見当のつかないことで可愛いと言ったり、真剣な表情でスマホの画面を覗いてるかと思えば「卒業した先輩が練習見にきてくれることになった。今日は祭りだ」と理解できないことを言い出したりする。
そして、清水はバレー部の副部長だ。朝練の為、いつもこのくらいの時間に現れる。普段は運動部らしからぬ静かな男で、一年時から同じクラスだったのと出席番号も前後だったことから気が合い、なんとなく一緒にいるようになった。
「珍しい。課題終わってないの?」
「昨日バイト長引いて寝てた」
「お疲れ。ほら」
間違ってはいない理由を言うと、清水の方から課題を貸してくれた。お互いあまり多く喋る方でないが、こういう所は根本的に違うと思う。俺は貸してと言われたら断るのが面倒くさくて貸すけど、清水は言わなくても相手が困ってたら貸す。基本的に無表情で、突然変なことを言い出すけど、優しい奴だ。
「ありがと」
清水に感謝していると、本鈴が鳴った。担任の滝野が教室に入ってくると、清水は前に向き直り俺は残った課題を写し始めた。
昼休憩になり、いつものようにコンビニで買ったパンを出そうとカバンを開いた時、ケリーが作ってくれた弁当の存在を思い出した。
(そうか、今日パンじゃないのか)
机の上に弁当を置く。
「今日弁当?叔母さん来たとか?」
「うん、まあそんな感じ」
「そっか」
曖昧に誤魔化すが、それ以上清水は何も聞いてこない。週の半ばに遠路はるばる来るなんて普通無いだろうし、気になっているのがなんとなく伝わってくるが、まさか吸血鬼が暫く一緒に住むことになって作ってくれたとは言えず黙っていた。
(そういえば朝ごはんは洋食だったけど弁当は何が入ってるんだ?パスタでも詰められてるのか?)
少し不安になり、恐る恐る弁当の蓋を開ける。
(あ、和食だ。)
「おお、美味しそうな弁当」
「……ああ」
卵焼きに、ひじきの煮物、ほうれん草のお浸し、豆腐ハンバーグ……等、バランスの良いおかずが彩りよく詰められている。
(すごい、丁寧な弁当……。)
変な話だが、その弁当に少し見惚れた。中学生までは給食だったし、高校も時々叔母の美恵子さんが作ってくれたおかずを詰めて持ってくる時があるくらいで、しっかりとしたお弁当を作られたのは初めてだった。
一体どのくらい時間をかけて作ってくれたのだろう。恩は返すと昨日言ってくれたが、朝食も作ってくれたし正直既にそれ以上のことをしてくれていると思う。
(まあ、やりたくてやってるんだろうし。気にしないでいいか。血吸わなきゃ命の危険があるんだし、これくらいって感じなのかな)
「いただきます」
手を合わせて、弁当を食べ始める。朝食同様、優しい味わいで美味しい。それにしても、吸血鬼が料理上手なんて妙な話だとふと思っていると、背後からふわりと香水のかおりがした。
「あれ?杉野が普通のごはん食べてる」
香水の主、平田が少し驚いたように言う。平田は別のクラスだが、バレー部で清水と仲が良いので一緒にいるうちに自然と話しかけられるようになった。
「平田、今日は女子達と食べないの?」
「告白されて断ったらそのグループの子達に敵認定された。一緒に食わせて」
「どんまい」
へらへらと笑いながら、隣の席の椅子を勝手に借りて俺の机にコンビニで買ったパンを置く。
平田はどうも女関係にだらしなく、何かトラブルがある度に清水を求めてこの教室に来る。俺は別に平田のことは好きでも嫌いでもないが、なぜこの二人が仲が良いのかは分からない。最初、部活が同じで仲良くなったのかと思ったが、清水が平田をバレー部に誘ったというから中学生の頃から交流があったようだ。
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