5 / 9
5
しおりを挟むカシャンッと金属が擦れる音がして、俺はアルディスを見上げた。
「何でこんなこと…」
アルディスの寝台の上、長い足枷をつけられ座り込む俺の震えた声にアルディスが答えた。
「ごめんね、書庫の整理って言っても王宮内で鉢合わせたら困るから」
にこりと笑って見せているが、いつもの笑顔じゃないことくらいわかっている。貼り付けたみたいな笑顔が、怖い。
おかしい。アルディスに何があった…?
「大丈夫、国交の間だけだ。夜は俺もいるから。」
「待って、本当に何が…っ」
言いかけた言葉は唇に触れたアルディスの人差し指で静止された。
「いいね、この部屋から一歩も出てはいけないよ。」
出てはいけないって…出れるわけないだろう、こんな重い足枷付けられて…!
「マーロ、護衛頼むよ」
「はい」
マーロさんを護衛に?大事な国交期間中に騎士団の中でも主力のマーロさんを俺につけるって…本当にどうゆうことなんだ。
「何も心配しないで。…俺がいないからって泣いちゃだめだぞ?」
「こんな状況で何冗談言ってるんだよ!」
「冗談でもないよ。じゃあまた夜に、愛してるよ」
「まっ…アルディス!!」
バタンと寝室の扉は無慈悲に閉じられた。
こんな事は初めてだ。何かあってもいつも俺に話してくれた。なのに何も言わず一方的にこんなことするなんて…
俺に隠したいことがある?
そういえば誓いを立てたあの日だって、何か様子が変じゃなかったか?
何か焦っているような、不安げな…。
それが原因かはわからないけど、あの時ちゃんと話を聞いておけばよかった。アルディスの力になりたいのに、これじゃまるで囲われの姫じゃないか。
…そんなに頼りないのかな。
一方的なだけじゃいやだ。貴方に忠誠を誓うものとして、寄り添いたい。支えたい。
「マーロさんお願いです、ここから解放してください」
「すまない、まだ無理だ」
「アルディスとちゃんと話さなきゃ…!」
ジャラッと足枷が音を立てる。
マーロさんは俺の顔を見てため息をついた。
「殿下と君の関係は確かに特別だ。でも立場が違う。あの人は国王になる男で、君はただの従者だ。大人しく命令に従いなさい。」
「…それでもっ、」
「大丈夫だ、意外と早く出られるさ」
どうゆうことだ?ただマーロさんが何か知ってるのは確かだ。
マーロさんが去った部屋にはいよいよ自分一人だ。部屋にあるのは数冊の本くらい。
…夜まで待つしかないか。
諦めて寝台に倒れ込んだ。するとキラリと光る何かに気づいた。
「…何だこれ、石?」
キラキラ光る小さなガラスの破片のような。窓から差し込む太陽の光に透かしてみると、それは薄い水色だった。
綺麗…だけどちょっと危ないな。こんな枕元にあったら目に入ってしまうかもしれない。今度メイドに言っておこう。
倒れ込んだ寝台のシーツからアルディスの匂いがする。…こんなときに思い出すことじゃないけど、あの日のことを思って1人赤面してしまう。
優しすぎるとも思えるような手つきで、確かめるように俺に触れてくれたあの夜。子どもの頃から今までずっと一緒にいて、お互い全てを知ってると思ってたけど、そうじゃなかった。
あんな風に全てを見られて、暴かれて。やっと俺の全てがアルディスの物になったと思った。
…なのに、今日のアルディスはまた俺の知らない顔をする。
俺はもう全てアルディスに捧げたのに、アルディスは俺にくれないのか?
それともやっぱり俺はただの従者?こんな風に思うこと自体がわがままなのかな。
「わからないよアルディス。…早く帰ってきて」
そう言って目を閉じた俺は深い眠りについた。
0
お気に入りに追加
46
あなたにおすすめの小説
平凡顔のΩですが、何かご用でしょうか。
無糸
BL
Ωなのに顔は平凡、しかも表情の変化が乏しい俺。
そんな俺に番などできるわけ無いとそうそう諦めていたのだが、なんと超絶美系でお優しい旦那様と結婚できる事になった。
でも愛しては貰えて無いようなので、俺はこの気持ちを心に閉じ込めて置こうと思います。
___________________
異世界オメガバース、受け視点では異世界感ほとんど出ません(多分)
わりかし感想お待ちしてます。誰が好きとか
現在体調不良により休止中 2021/9月20日
最新話更新 2022/12月27日
記憶喪失の君と…
R(アール)
BL
陽は湊と恋人だった。
ひねくれて誰からも愛されないような陽を湊だけが可愛いと、好きだと言ってくれた。
順風満帆な生活を送っているなか、湊が記憶喪失になり、陽のことだけを忘れてしまって…!
ハッピーエンド保証
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
大好きな幼馴染は僕の親友が欲しい
月夜の晩に
BL
平凡なオメガ、飛鳥。
ずっと片想いしてきたアルファの幼馴染・慶太は、飛鳥の親友・咲也が好きで・・。
それぞれの片想いの行方は?
◆メルマガ
https://tsukiyo-novel.com/2022/02/26/magazine/
貴方の事を心から愛していました。ありがとう。
天海みつき
BL
穏やかな晴天のある日の事。僕は最愛の番の後宮で、ぼんやりと紅茶を手に己の生きざまを振り返っていた。ゆったり流れるその時を楽しんだ僕は、そのままカップを傾け、紅茶を喉へと流し込んだ。
――混じり込んだ××と共に。
オメガバースの世界観です。運命の番でありながら、仮想敵国の王子同士に生まれた二人が辿る数奇な運命。勢いで書いたら真っ暗に。ピリリと主張する苦さをアクセントにどうぞ。
追記。本編完結済み。後程「彼」視点を追加投稿する……かも?
新訳 美女と野獣 〜獣人と少年の物語〜
若目
BL
いまはすっかり財政難となった商家マルシャン家は父シャルル、長兄ジャンティー、長女アヴァール、次女リュゼの4人家族。
妹たちが経済状況を顧みずに贅沢三昧するなか、一家はジャンティーの頑張りによってなんとか暮らしていた。
ある日、父が商用で出かける際に、何か欲しいものはないかと聞かれて、ジャンティーは一輪の薔薇をねだる。
しかし、帰る途中で父は道に迷ってしまう。
父があてもなく歩いていると、偶然、美しく奇妙な古城に辿り着く。
父はそこで、庭に薔薇の木で作られた生垣を見つけた。
ジャンティーとの約束を思い出した父が薔薇を一輪摘むと、彼の前に怒り狂った様子の野獣が現れ、「親切にしてやったのに、厚かましくも薔薇まで盗むとは」と吠えかかる。
野獣は父に死をもって償うように迫るが、薔薇が土産であったことを知ると、代わりに子どもを差し出すように要求してきて…
そこから、ジャンティーの運命が大きく変わり出す。
童話の「美女と野獣」パロのBLです
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる