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しおりを挟む「身体、大丈夫か?」
「…平気」
寝台の上で、いわゆる事後という時間が流れる。
王族と誓う従者には、このような行為で誓いを果たすこともあるようだ。それが最大級の誓いであり、その絆は決して消えない。
アルディスはそれを俺と結んでくれた。
嬉しい。こんな行為がなくたってこれからもずっと側にいたけど、目に見える形で証明できたし、これでアルディスも安心するだろう。
そういえば、アルディスは何が不安だったんだろう。
今までだって機会があったはずなのに、この誓いを今果たさなきゃいけなかったのは何故だろう。
「レイン、隣国の来客がこの王宮にいる間、お前はまた書庫の管理に戻ってくれ。」
「え?どうして…」
「…こんなに可愛いお前が隣国の王子の目に留まったらどうするの」
そう茶化しながらまたキスを落としてくるうちの王子様。
んなわけないだろ!身体中にこれだけ痕をつけておいてよく言うよ。
「揶揄うなよ!じゃあ俺戻るから。」
「朝までここにいればいいだろ?」
「馬鹿、ただの従者が朝王子の寝室から出てきたら大問題になるよ」
ちぇっと面白くなさそうに俺の手を離すアルディスが少し可愛く見えるなんて、どうかしてる。
この行為はあくまで誓いを果たすため。
雰囲気が恋人たちのそれのようで頭が麻痺しそうになるが、そこだけは履き違えてはならない。
…いつかアルディスは結婚するんだ。
今回の国交で、その話が大きく動くこともあり得るんだから。
馬鹿な勘違いはしてはいけない。
重い腰をさすりながら俺はアルディスの寝室を後にした。
「…深海の瞳」
アルディスは呟いた。
まだレインの香りが残るシーツにバタリと倒れ込む。
枕元にはキラキラと小さな「何か」が光っている。
その正体から目を背け、隣国にいる内通者の手紙に目を向けた。
「深海の瞳を…我が国へ招き入れる…」
グシャリと手紙を握りつぶした。
…ふざけたことを抜かす。
隣国は海に面した小さな国で、数百年前まで鎖国をしていたこの国は神話や宗教が色濃く残っている。
その中でも「深海の瞳」は隣国の神話の中でも一頭有名な話だ。
隣国は海の神が作り上げたものだと信じられ、その神の子として一世につき一人、真実を写し出し、涙はサファイアになる深い青色の瞳を持つ人間が生まれるのだとか。
その瞳を持つものは王宮にて大切に扱われ、人々に平和の象徴として崇められてきたらしい。
だがここ100年近く、深海の瞳を持つ子どもが生まれてないようだ。その事実に王家も国民も不安を抱えている。
今回の国交、目的は国同士の友好関係でも俺の成婚話でもない。深海の瞳…レインだ。
どうしてレインが深海の瞳を宿していることが隣国に知られたのかはわからないが、今はそれが問題ではない。
とにかく国交まで時間がない。何としてもレインを隠さなければ。
レインは俺のもの。俺の大切な宝物。
長い前髪から覗いた瞳が光に反射して輝いて、それはまるで海の煌めきを閉じ込めたような。そんなこぼれ落ちそうな大きな目で俺を見上げて手を握り返してくれたあの日から、ずっとお前に夢中なんだ。
俺に恩を感じているのはわかってる。だからってここまで健気に俺のために生きてくれているのは堪らない。
…俺がもっとまともで優しい人間ならよかったな。
でももう手遅れだ。俺に捕まってしまったんだから。
俺だけでお前の世界をいっぱいにしたい。何も知らなくていい。瞳の価値なんて関係ない。お前が誓ってくれるなら、俺はどんな手を使ってもお前を守り続けるよ。
「マーロ」
「はい」
「準備は出来ているな」
「ええ、言われた通り。ちゃんと用意しましたよ」
悪趣味ですね~、と聞こえたが関係ない。
奪われるわけにはいかないんだ。
「俺は…お前がいなくなったら、きっと息もできないよ。」
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