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番外編 シュノー・ブリューテ
雄っぱい揉む?②
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どんな夢を見ているのか穏やかな寝顔をじっくり眺め、暖炉の炎で薔薇色に火照った頬にそっと触れる。
ナナセは治癒を施すとき、毎回自分自身も漏れなく範囲に入ってしまうため肌荒れや吹き出物などとは無縁だ。
肌理の細かい肌は身体中どこもかしこも指先に吸い付くように滑らかですべすべしている。
特に内腿や脇の皮膚の薄くて柔らかい部分は至高の手触りで、睦まじく過ごした後、ベッドの中でこっそり撫で回している。
中でも最も好きなのは胸や乳嘴なのだが、ナナセの乳嘴は敏感で、眠っていても少し触れただけで途端にビクンと身体を震わせて切ない吐息を漏らすため、不用意に触れることは出来ないでいるのだ。
なんだか堪らなくなってナナセの上に屈み込み、口付けを落としたその時、黒い睫毛に縁取られた瞼が僅かに震え、不意にナナセが目を覚ました。
「……エリー?」
寝惚け眼を擦りながら私の名を呼ぶ。
返事をする代わりにもう一度口付けるとナナセはその焦げ茶色の瞳に私を映してくすぐったそうに喉の奥で笑う。
「悪い、起こしてしまったか」
――などと口では言ってみたが、ナナセが起きてくれて内心とても嬉しい。
「……仕事はもういいのか?」
「まだもう少し残っている。ナナセの寝顔を見に来ただけだ」
「それじゃあ起きちまって悪かったな。寝直した方がいいか?」
「つれないことを言わないでくれ」
悪戯っぽく見上げてくるナナセに気の利いた科白の一つも返せない自分が恨めしい。
もぞもぞと肘を付いたナナセを手伝って起こしてやると、さっき私がナナセの髪に挿した二種類の白い花がぽろぽろと零れ落ちた。
「って、なにこれ、花? なんだよこれ」
「婚礼衣装を飾る花だ」
「寝ているところに花とか、葬式みたいだから止めてくれよ」
ナナセが死んでしまったら私もすぐに後を追うので、花を手向けるのはきっと私ではない。
それに関しては敢えて口に出しては何も言わず、私は話題を変えた。
「ナナセはどちらの花がいいと思う?」
「俺、わかんねえ。エリーが俺に似合うって思う方を選んでくれよ」
ナナセは今まで私が贈った衣装や装飾品は何でも喜んで身に着けていたから予想はしていたが、今回ばかりはそういうのが一番困る。
「エリー、なんだか疲れてるな」
無意識にぐったりと肩を落としてしまった私の顔をナナセが心配そうに覗き込んできた。
疲れているといえば疲れているが、ナナセの顔を見たからこれでも元気が出た方なのだと思う。
「ごめんな、式のこと全部エリーに任せきりで。俺なんにもできなくて……」
前回の準備のときは政治的な意向もあって陛下に丸投げ出来たが今回は違う。
結婚式の準備には、土地や風習や古い貴族の家門特有の慣習なども鑑みて一つ一つ作法に則って決めて行かなければならないのだ。
会場の準備から衣装や食事、領民に振舞うワインや金銭など多岐に亘るそれら諸々の手配を異世界人のナナセが分かるはずもない。
ナナセが気に病むことではないのだが、今ここで私が何を言っても結局ナナセは気にしてしまうだろう。
どう答えたものか考えあぐねていると、ナナセが思い詰めたような顔で続ける。
「雄っぱい揉む?」
――幻聴だろうか。
これまでの会話と何の脈絡もない提案が齎されたような気がする。
さっき胸や乳嘴を撫で回したいなどと考えていただけに、心を読まれたようで後ろめたさにぎくりとする。
やはり自分で思うより疲れているのかも知れない。
「――失礼、今なんと?」
「揉まないならいいけど……」
「揉む」
今度は少し食い気味に返事をしてしまった。
幻聴などではない。
ナナセは治癒を施すとき、毎回自分自身も漏れなく範囲に入ってしまうため肌荒れや吹き出物などとは無縁だ。
肌理の細かい肌は身体中どこもかしこも指先に吸い付くように滑らかですべすべしている。
特に内腿や脇の皮膚の薄くて柔らかい部分は至高の手触りで、睦まじく過ごした後、ベッドの中でこっそり撫で回している。
中でも最も好きなのは胸や乳嘴なのだが、ナナセの乳嘴は敏感で、眠っていても少し触れただけで途端にビクンと身体を震わせて切ない吐息を漏らすため、不用意に触れることは出来ないでいるのだ。
なんだか堪らなくなってナナセの上に屈み込み、口付けを落としたその時、黒い睫毛に縁取られた瞼が僅かに震え、不意にナナセが目を覚ました。
「……エリー?」
寝惚け眼を擦りながら私の名を呼ぶ。
返事をする代わりにもう一度口付けるとナナセはその焦げ茶色の瞳に私を映してくすぐったそうに喉の奥で笑う。
「悪い、起こしてしまったか」
――などと口では言ってみたが、ナナセが起きてくれて内心とても嬉しい。
「……仕事はもういいのか?」
「まだもう少し残っている。ナナセの寝顔を見に来ただけだ」
「それじゃあ起きちまって悪かったな。寝直した方がいいか?」
「つれないことを言わないでくれ」
悪戯っぽく見上げてくるナナセに気の利いた科白の一つも返せない自分が恨めしい。
もぞもぞと肘を付いたナナセを手伝って起こしてやると、さっき私がナナセの髪に挿した二種類の白い花がぽろぽろと零れ落ちた。
「って、なにこれ、花? なんだよこれ」
「婚礼衣装を飾る花だ」
「寝ているところに花とか、葬式みたいだから止めてくれよ」
ナナセが死んでしまったら私もすぐに後を追うので、花を手向けるのはきっと私ではない。
それに関しては敢えて口に出しては何も言わず、私は話題を変えた。
「ナナセはどちらの花がいいと思う?」
「俺、わかんねえ。エリーが俺に似合うって思う方を選んでくれよ」
ナナセは今まで私が贈った衣装や装飾品は何でも喜んで身に着けていたから予想はしていたが、今回ばかりはそういうのが一番困る。
「エリー、なんだか疲れてるな」
無意識にぐったりと肩を落としてしまった私の顔をナナセが心配そうに覗き込んできた。
疲れているといえば疲れているが、ナナセの顔を見たからこれでも元気が出た方なのだと思う。
「ごめんな、式のこと全部エリーに任せきりで。俺なんにもできなくて……」
前回の準備のときは政治的な意向もあって陛下に丸投げ出来たが今回は違う。
結婚式の準備には、土地や風習や古い貴族の家門特有の慣習なども鑑みて一つ一つ作法に則って決めて行かなければならないのだ。
会場の準備から衣装や食事、領民に振舞うワインや金銭など多岐に亘るそれら諸々の手配を異世界人のナナセが分かるはずもない。
ナナセが気に病むことではないのだが、今ここで私が何を言っても結局ナナセは気にしてしまうだろう。
どう答えたものか考えあぐねていると、ナナセが思い詰めたような顔で続ける。
「雄っぱい揉む?」
――幻聴だろうか。
これまでの会話と何の脈絡もない提案が齎されたような気がする。
さっき胸や乳嘴を撫で回したいなどと考えていただけに、心を読まれたようで後ろめたさにぎくりとする。
やはり自分で思うより疲れているのかも知れない。
「――失礼、今なんと?」
「揉まないならいいけど……」
「揉む」
今度は少し食い気味に返事をしてしまった。
幻聴などではない。
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