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最終章 砂漠の薔薇
〇一四 勇者マジシコい①
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「砂漠の薔薇」では昼の営業が終わり夜の営業に切り替わるまで若干のインターバルを設けている。
化粧直しをしたり食事を取ったりするためだ。
客がいないその間に俺はサンルームから自室へ移動するんだが、何故か今日はまだ日が高いうちにギャレットが乗り込んできた。
「ナナシ、一緒に来い」
何だかよく分からないが、俺は言われるままにギャレットに着いて行く。
ギャレットの言葉が絶望的に足りないのは、初日の顔合わせの際に競売所での刃傷沙汰を暴露されたとき承知済みだ。
後始末した後だったから良かったけど、この部屋は換気が出来ないからオナニーしてたことが匂いでバレたかもしれない。
「水揚げだ。急げ」
随分急だが遂にその時が来たか。
俺は今日死ぬ。
薔薇の毒が致死量分あるかどうか不明だが、駄目だった時は手が付けられないほど暴れて殺させるように仕向けよう。
ほとんど何も覚えてないから短い人生だったけど、その分悔いもない。
だが俺が部屋に戻ろうとすると、ギャレットはそのままでいいから付いて来いと言う。
随分とせっかちな客だな。
どんだけ金を積んだんだよ。
最後に風呂に入って綺麗な身体になりたかったが仕方がない。
それでも一度部屋に戻って必要なものを取って来たいと態と言葉を濁して言うと、なにがしかのシモ事情を察してか了承してくれる。
このときのために集めた薔薇の毒が入った香油壜を取ってこなくては。
そうして香油壜を握りしめてギャレットに連れて行かれたのは、ここへ来たとき最初に従業員と顔合わせをしたサロンだ。
黒尽くめの男が外套も脱がずソファーにも座らず立ったまま待っていた。
「待たせた。ナナシ」
前半は男に、後半は俺に言って、ギャレットは俺の背をそっと押す。
黒尽くめの男は黒地に金糸の刺繍の入ったクロークのフードを被っていて顔はよく見えないが、声や身体つきから判断して若い男のようだ。
腰に一五〇センチはあろうかという長剣を差しているので騎士だろうか。
肌の色が白いのでこの土地の者ではないことは一目瞭然だ。
てっきり脂ぎった爺さんが買ったんだと思っていたのでちょっと拍子抜けした。
汚いより綺麗な方がいいけど、それでも男に犯されるのは嫌だ。
俺は薔薇の毒を入れた香油壜をこっそり握りしめる。
計画に変更はない。
俺は今日、決行する。
そう決意を新たにしていると、男は俺の姿を見て大股で近寄って来て感極まったように俺の手を取った。
香油壜を持ってる方の手じゃなくて良かったとちょっと焦る。
「ナナセ……ッ!」
惜しい。
俺の名前はナナセじゃなくてナナシだ。
まあでも、源氏名だし訂正するほどナナシって名前を気に入っているわけでもないので、指摘するべきかどうか困って首を傾げていると、男は何かに気付いたように目深に被っていたフードを降ろす。
そこで俺は「あっ!」と声を上げてしまった。
「――勇者エリアス!」
あの新聞の切り抜きの姿絵から抜け出してきたようなイケメン勇者がそこにいた。
化粧直しをしたり食事を取ったりするためだ。
客がいないその間に俺はサンルームから自室へ移動するんだが、何故か今日はまだ日が高いうちにギャレットが乗り込んできた。
「ナナシ、一緒に来い」
何だかよく分からないが、俺は言われるままにギャレットに着いて行く。
ギャレットの言葉が絶望的に足りないのは、初日の顔合わせの際に競売所での刃傷沙汰を暴露されたとき承知済みだ。
後始末した後だったから良かったけど、この部屋は換気が出来ないからオナニーしてたことが匂いでバレたかもしれない。
「水揚げだ。急げ」
随分急だが遂にその時が来たか。
俺は今日死ぬ。
薔薇の毒が致死量分あるかどうか不明だが、駄目だった時は手が付けられないほど暴れて殺させるように仕向けよう。
ほとんど何も覚えてないから短い人生だったけど、その分悔いもない。
だが俺が部屋に戻ろうとすると、ギャレットはそのままでいいから付いて来いと言う。
随分とせっかちな客だな。
どんだけ金を積んだんだよ。
最後に風呂に入って綺麗な身体になりたかったが仕方がない。
それでも一度部屋に戻って必要なものを取って来たいと態と言葉を濁して言うと、なにがしかのシモ事情を察してか了承してくれる。
このときのために集めた薔薇の毒が入った香油壜を取ってこなくては。
そうして香油壜を握りしめてギャレットに連れて行かれたのは、ここへ来たとき最初に従業員と顔合わせをしたサロンだ。
黒尽くめの男が外套も脱がずソファーにも座らず立ったまま待っていた。
「待たせた。ナナシ」
前半は男に、後半は俺に言って、ギャレットは俺の背をそっと押す。
黒尽くめの男は黒地に金糸の刺繍の入ったクロークのフードを被っていて顔はよく見えないが、声や身体つきから判断して若い男のようだ。
腰に一五〇センチはあろうかという長剣を差しているので騎士だろうか。
肌の色が白いのでこの土地の者ではないことは一目瞭然だ。
てっきり脂ぎった爺さんが買ったんだと思っていたのでちょっと拍子抜けした。
汚いより綺麗な方がいいけど、それでも男に犯されるのは嫌だ。
俺は薔薇の毒を入れた香油壜をこっそり握りしめる。
計画に変更はない。
俺は今日、決行する。
そう決意を新たにしていると、男は俺の姿を見て大股で近寄って来て感極まったように俺の手を取った。
香油壜を持ってる方の手じゃなくて良かったとちょっと焦る。
「ナナセ……ッ!」
惜しい。
俺の名前はナナセじゃなくてナナシだ。
まあでも、源氏名だし訂正するほどナナシって名前を気に入っているわけでもないので、指摘するべきかどうか困って首を傾げていると、男は何かに気付いたように目深に被っていたフードを降ろす。
そこで俺は「あっ!」と声を上げてしまった。
「――勇者エリアス!」
あの新聞の切り抜きの姿絵から抜け出してきたようなイケメン勇者がそこにいた。
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