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第一章 聖者降臨

〇三八 四年待って欲しい②

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「そうか……やり残したことがあると言っていたのはそれだったか」

俺が頷くと、エリアスはどこか吹っ切れた顔で優しい笑顔を向けてくる。

「正直なところ不満も心配もないとは言えないが、私としてはナナセが故郷への心残りを整理して後悔のない状態で私の元へ来てくれるのは大歓迎だし、ナナセの気の済むようにするといい」
「ありがと、エリー。夏休みとか長期の休みには頑張って会いに戻って来られるようにするから」
「どのみち式の準備に一年程度は掛かる。その間に卒業できるだろう?」
「……えと、それがな。四年制の大学で俺、一年生の途中でこっちに転移して来たから初年度の単位落してるし、卒業まであと四年あるんだ……」

異世界に移住すると決めた現在、今更大学に戻っても異世界で必要な知識が得られるわけでもないし無駄だと言われてしまえばそれまでなんだが、これは謂わば俺のけじめで、俺が後悔せずに前に進むためには卒業という通過儀礼はどうしても譲れないんだ。
あっちで俺はきっと行方不明者扱いになってるだろうから、親父がその間も学費を払って休学届けを出してくれていれば復学は簡単だろう。
勝手に退学か若しくは除籍されていた場合は、復学か再入学か、ちょっと頭が痛い問題に発展するが、その時はその時だ。

「……すまない。良く聞こえなかった。もう一度言ってくれ」

ちょっと現実逃避が始まっているらしいエリアスに俺はもう一度簡潔に伝える。

「四年待って欲しい」
「四年」

刹那、エリアスの目から光が消えた。
話の流れでそうなってしまっただけで他意はなかったとはいえ「上げて落とす」をやってしまったからな。
舞い上がっていた分、落ちた時痛いものだ。
俺だって両想いになったばかりで離れ離れになるのはつらいが、勢いで全てを投げ出してエリアスと一緒になったら俺は少なからず後悔するだろう。
俺はこの想いに瑕疵を残したくないんだ。

完全にいじけて意気消沈してしまったエリアスは、めそめそしながら俺にべったりくっついて離れなくなって、ベッドに入ると落ちるようにそのまま寝入ってしまったが、寝ながらすんすん泣いているのを見て俺も流石に可哀想になってくる。
だから帰るまでの間は出来るだけエリアスと一緒にいて優しくしてやろうと思ってたんだが、昼頃、ルートヴィヒ殿下の使いが来て、俺からべりっと引き剥がされて項垂れたままFBIに連行さる宇宙人みたいに連れて行かれてしまった。

フリードリヒ陛下とルートヴィヒ殿下とエリアスが陰で何かゴソゴソ動いているのは俺も気付いている。
朝食会の席で、フリードリヒ陛下の暗殺未遂事件とかヴェイラ王位継承問題の話題を避けていたし多分それ関係で、俺を巻き込まないように配慮してくれているんだろう。
気持ちは有難いけどハブられてるみたいで面白くはない。

だが、今後は帰るまでは一切問題を起こさず意地でも部屋から出ずに大人しくしているつもりでいる。
警備面でも、俺が無闇に出歩かず部屋に引き籠っていてくれるのは心底有難いだろうしな。
日中はフリードリヒ陛下とルートヴィヒ殿下が送り込んできた仕立て屋に採寸されたりもしたが、エリアスがいないから暇だし余りに詰まらなさ過ぎて、気嫌いしていた例の三日月型のソファーでその日の大半を過ごした。
ブランコのように天井から吊るされた三日月型のハンギングソファーにだらりと座って、タイヤブランコで遊ぶパンダのようにゆらゆら揺られているだけで無駄に時間が過ぎてゆく。
なんだかんだで、ここ最近ずっと一緒にいたから、エリアスがいないだけでこんなに詰まらないなんて思わなかった。
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