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第一章 聖者降臨
〇四三 勇者様ァッ♡②
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エレベーターは異世界にもあったから特に説明はいらない。動力は勿論魔法なんだけどな。
地下では誰にも会わなかったがエレベーターでは途中、一階で残業帰りのOLっぽい女の人が一人乗ってきて、俺たちを見てぎょっとしていた。
しかし、俺が「こんばんは。何階ですか?」と敢えて普通に対応すると、隣でエリアスが俺の言った通りにっこり微笑んだ。
ゆうしゃの スマイル こうげき!
こうかは ばつぐんだ!
OLさんは、それでもう駄目だった。
降りる階は言えない、ボタンは押せない、止まっても降りられない。
何階か聞き出してやって、ボタンを押してやって、「着きましたよ」って声掛けてやってやっと降りて行ったが、ドアが閉まる前に最後に見えたのはOLさんがフラフラしながら壁に激突する後姿だった。
俺はちょっと心配になったが、エリアスは何事もなかったかのように平然としていたのでイケメンにとってはよくある日常風景なんだろう。罪なことだな。
その後は運よく誰にも会わず自宅前へ到着した。
鍵なんか持ってないから夜中でもチャイムを連打だ。
奇抜な格好の男二人に玄関前に居座られてるのをご近所さんに目撃されるより、夜中に叩き起こされるほうが幾分マシだろう。
ほどなくしてインターフォンから「はい」という返事があった。
久々に聞く母の声だ。
「ただいま! 親父いるー!?」
カメラに向かってピースしながらインターフォンに向かって話すと、エリアスも不思議そうにカメラを見ながらピースしたので危うく噴き出すところだった。
意外と協調性があるな。
『あら、ナナセおかえりなさい。早かったわ、ね……んまっ! あらやだちょっと勇者様っ!?』
ンンンンンンンッ!?
お母様!?
突っ込みどころが多すぎて、最早どこから突っ込んでいいか分からない。
とりあえず、一年間行方不明になっていた息子が玄関から普通に帰ってきて「早かったわね」てところから突っ込んどこうか。
それより、エリアスを一目見て「勇者様」て。
何で知ってんだよ!?
しかし、すぐに開錠する音がしたので、一年ぶりに我が家の玄関の扉を開くと、母がパタパタと廊下を走ってきた。
「いらっしゃい勇者様、上がって上がって! スバルさ~ん! ナナセが勇者様連れて来たわ~! ちょっとスバルさ~ん! 起きてる~?」
待って♡
「……なあエリー、俺まだ混乱してるのかな。今のってルヴァの公用語に聞こえたんだけど」
「ああ、私にもそう聞こえたが……」
「とりあえず上がってくれよ。靴は脱いでな」
母が親父を叩き起こしに行ってしまったので、釈然としないままエリアスを居間に通していると、メゾネットの二階からバターン! ズドドド! ダダダダダーン! という、ドアを開けて、廊下を走って、階段を転げ落ちる音がした。
クソ親父だな。
「あのな、エリー。これから先、何があっても気をしっかり持ってくれよな。俺の親は常に予想の斜め上を行く」
「……心得た」
うちの親、両親揃って俺より酷い中二病だから勇者とかそういうの大好きなんだよ。
今のところ歓迎ムードなのが吉と出るか凶と出るか。
予測がつかなくて不安だ……。
何時になく緊張した面持ちのエリアスが頷いた刹那、親父がズサーッのアスキーアートみたいに横滑りで居間に文字通り滑り込んできた。
「勇者様ァッ♡」
どっから声出してんだっていう猫撫で声だったが、こっちも公用語だった。
間違いない。
こいつらルヴァの公用語喋れる。
親父だけならともかく、母までとは思わなかったが。
エリアスを見れば、可哀想にドン引きしている。
それでも立ち上がって「初めてお目に掛かります。エリアス・フォン・ブルーメンタールです」と自己紹介していたエリアスはやっぱり心が強いと思う。
それを受けて親父が「これはご丁寧に! ナナセの父、スバルだ。こっちは妻のホシナさん」なんて、普通の人みたいに挨拶始めてエリアスと握手しだしたものだから、そこで俺の怒りが有頂天。
「クソ親父! その前に俺に言うことあんだろ!」
「おおっ、そうだな! 勇者様を射止めるとはオマエ今までで一番いい仕事したな! よくやった褒めてやる! お前のお陰で勇者の義父になれるんだもんよ!」
「ハァッ!? ちょ、親父、ちょい待てや! どこまで知ってんだよ!? てか何で!? 何で!?」
動揺する俺に、お茶を淹れてきた母が「うふふ♡」と笑いを漏らした。
「実はね。ナナセが勝手に転移門使ってヴェイラに行っちゃってすぐにスバルさんと二人で迎えに行ったのよ?」
な、なんだってー!!
地下では誰にも会わなかったがエレベーターでは途中、一階で残業帰りのOLっぽい女の人が一人乗ってきて、俺たちを見てぎょっとしていた。
しかし、俺が「こんばんは。何階ですか?」と敢えて普通に対応すると、隣でエリアスが俺の言った通りにっこり微笑んだ。
ゆうしゃの スマイル こうげき!
こうかは ばつぐんだ!
OLさんは、それでもう駄目だった。
降りる階は言えない、ボタンは押せない、止まっても降りられない。
何階か聞き出してやって、ボタンを押してやって、「着きましたよ」って声掛けてやってやっと降りて行ったが、ドアが閉まる前に最後に見えたのはOLさんがフラフラしながら壁に激突する後姿だった。
俺はちょっと心配になったが、エリアスは何事もなかったかのように平然としていたのでイケメンにとってはよくある日常風景なんだろう。罪なことだな。
その後は運よく誰にも会わず自宅前へ到着した。
鍵なんか持ってないから夜中でもチャイムを連打だ。
奇抜な格好の男二人に玄関前に居座られてるのをご近所さんに目撃されるより、夜中に叩き起こされるほうが幾分マシだろう。
ほどなくしてインターフォンから「はい」という返事があった。
久々に聞く母の声だ。
「ただいま! 親父いるー!?」
カメラに向かってピースしながらインターフォンに向かって話すと、エリアスも不思議そうにカメラを見ながらピースしたので危うく噴き出すところだった。
意外と協調性があるな。
『あら、ナナセおかえりなさい。早かったわ、ね……んまっ! あらやだちょっと勇者様っ!?』
ンンンンンンンッ!?
お母様!?
突っ込みどころが多すぎて、最早どこから突っ込んでいいか分からない。
とりあえず、一年間行方不明になっていた息子が玄関から普通に帰ってきて「早かったわね」てところから突っ込んどこうか。
それより、エリアスを一目見て「勇者様」て。
何で知ってんだよ!?
しかし、すぐに開錠する音がしたので、一年ぶりに我が家の玄関の扉を開くと、母がパタパタと廊下を走ってきた。
「いらっしゃい勇者様、上がって上がって! スバルさ~ん! ナナセが勇者様連れて来たわ~! ちょっとスバルさ~ん! 起きてる~?」
待って♡
「……なあエリー、俺まだ混乱してるのかな。今のってルヴァの公用語に聞こえたんだけど」
「ああ、私にもそう聞こえたが……」
「とりあえず上がってくれよ。靴は脱いでな」
母が親父を叩き起こしに行ってしまったので、釈然としないままエリアスを居間に通していると、メゾネットの二階からバターン! ズドドド! ダダダダダーン! という、ドアを開けて、廊下を走って、階段を転げ落ちる音がした。
クソ親父だな。
「あのな、エリー。これから先、何があっても気をしっかり持ってくれよな。俺の親は常に予想の斜め上を行く」
「……心得た」
うちの親、両親揃って俺より酷い中二病だから勇者とかそういうの大好きなんだよ。
今のところ歓迎ムードなのが吉と出るか凶と出るか。
予測がつかなくて不安だ……。
何時になく緊張した面持ちのエリアスが頷いた刹那、親父がズサーッのアスキーアートみたいに横滑りで居間に文字通り滑り込んできた。
「勇者様ァッ♡」
どっから声出してんだっていう猫撫で声だったが、こっちも公用語だった。
間違いない。
こいつらルヴァの公用語喋れる。
親父だけならともかく、母までとは思わなかったが。
エリアスを見れば、可哀想にドン引きしている。
それでも立ち上がって「初めてお目に掛かります。エリアス・フォン・ブルーメンタールです」と自己紹介していたエリアスはやっぱり心が強いと思う。
それを受けて親父が「これはご丁寧に! ナナセの父、スバルだ。こっちは妻のホシナさん」なんて、普通の人みたいに挨拶始めてエリアスと握手しだしたものだから、そこで俺の怒りが有頂天。
「クソ親父! その前に俺に言うことあんだろ!」
「おおっ、そうだな! 勇者様を射止めるとはオマエ今までで一番いい仕事したな! よくやった褒めてやる! お前のお陰で勇者の義父になれるんだもんよ!」
「ハァッ!? ちょ、親父、ちょい待てや! どこまで知ってんだよ!? てか何で!? 何で!?」
動揺する俺に、お茶を淹れてきた母が「うふふ♡」と笑いを漏らした。
「実はね。ナナセが勝手に転移門使ってヴェイラに行っちゃってすぐにスバルさんと二人で迎えに行ったのよ?」
な、なんだってー!!
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