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第一章 聖者降臨

〇四〇 中二病ヒーラー治癒十九歳①

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「今回の騒動、公式発表はされておりませんけど、実はルートヴィヒ殿下と聖者様が駆け落ちされたのが発端だったとか」

ないないないないっ!

「まあっ、わたくし、フリードリヒ陛下が聖者様に結婚を迫ったものの拒否されて強引に攫ったと聞きましたわ」

どうしてそうなるっ!?

「いえいえ、フリードリヒ陛下の暗殺計画を知った聖者様が単身で陛下の危機に駆けつけて、その比い稀なる治癒能力で陛下は一命をとりとめ、事なきを得たんですのよ」

半分合ってて半分違ってる。

「皆さま何を仰っていらっしゃいますの? 聖者様は勇者様の婚約者ですのよ! 憶測で聖者様の貞操にあらぬ疑いを掛けないで頂きたいわ!」

すまん。その全員と寝たよ……。

「そこですわ。聖者様の失踪と時期を同じくして、ヴェイラ王国の第一王子マキシミリアン殿下が王位継承権を放棄されて事実上失脚されたのは偶然とは思えませんでしょう? ということは、ルートヴィヒ殿下やフリードリヒ陛下とのお噂は、聖者様を力尽くで我が物にしようとして勇者様に制裁を加えられたマキシミリアン殿下の醜聞を隠すためのフェイクと取るのが正統ではなくて?」

マキシミリアン殿下なんて会ったことない!
会場内にいれば自ずと耳に入ってくる貴族のご令嬢たちの噂話というか萌え語りはエキサイトする一方で、そこから先は、推しカップリングの相違からくる腐女子同士のマウント合戦になっていた……。

――これは一体どういうことだってばよ!?

ここで話は戻って、貴賓席のフリードリヒ陛下に、エリアスは綺麗な所作で所謂ボウ・アンド・スクレープを、俺は日本風のお辞儀をした後、軽く二言三言交わして挨拶を済ませると、また後ほど会う約束をして御前を後にした。
そうなんだよ。今夜は異世界を股に掛ける貿易商とやらを紹介して貰うのが目的なんだ。
今は、獣人領のレガリアの首飾りに付けられた聖者のメダイユについては目を瞑ることにして、広間へ戻ったのはいいんだが、そこで聞こえて来たのが件の噂話である。

「なあエリー、なんか凄い噂になってるみたいなんだが、どうなってるんだ?」

涼しい顔をしているが当然聞こえているであろうエリアスにこっそり訊いてみると、エリアスは俺の頭を抱えるようにして引き寄せ顳顬に口付けながら話してくれた。

「第一王子マキシミリアン殿下が失脚したのは事実だ。これを受けて第二王子であるルートヴィヒ殿下が近々立太子する。ナナセが同行した殿下の王都脱出はそもそもマキシミリアン殿下のクーデターを避けてのことだったんだ。ルートヴィヒ殿下の王都脱出にも、フリードリヒ陛下の暗殺未遂にも、どちらもナナセが深く絡んでいるからな。これらの件は今後も一切の公式発表はせず、噂や憶測が広がるのに任せ、すべてを有耶無耶にしてしまおうということでヴェイラ王国及び獣人領双方で合意して決着した」

うっ……!
全部俺のせいだった。
サーセンッ……!
そうだよな!
それ全部俺がやらかしてたな!

そして今のでまた異世界腐女子が何人か倒れて大分間引きされた気がするぞ。
深窓の令嬢っていうのは、刺激から遠ざけられて蝶よ花よと育てられるから、ちょっとしたことで気を失うんだよな。

「それから、こういう場には読唇術を使えるものも少なからずいるから唇を読まれないようにしてくれ」
「そ……そうか。エリーもルッ……殿下も陛下も、俺を護るために動いてくれていたんだな……俺、何にも知らなくて……ありがとう」

「ごめん」の代わりに「ありがとう」を言うのもすっかり板についてきたぜ。
ブーケで口元を隠しながら俺がお礼を言うと、ところがエリアスはぽりぽりと顔を掻きながら視線を彷徨わせて言いづらそうに白状した。

「……ナナセのせいではない。責任は主に私にある。クーデターは放置しておいても失敗に終わり、全ては水面下で事が運ぶはずだったんだ。だがナナセが消えてマキシミリアン殿下の関与を疑った私が締め上げてしまって……」

なんだよ! 大体お前のせいかよ!
でも、そういうことだったのか。
三人でコソコソしてるから余程アレなことになってるのかと思ってたぜ。
それでその、マキシミリアン殿下って人は大丈夫なのか?
まだ生きてるのか?
やっぱり王位継承権を放棄する書類にサインさせられて修道院にぶち込まれてたりするんだろうか。
エリアスに訊いてみたけど今日一良い笑顔で「大丈夫だ」と一言返されただけで、それ以上の追及を拒否られてしまった。
あと、もう聞かれてマズイ話は終わったんだから、顳顬に口付けるの止めもいいんだぞ?
異世界腐女子が間引きされると男ばっか残るから、それはそれでキツイものがある。
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