ー竜の民ー 

assult

文字の大きさ
上 下
32 / 40

野望2

しおりを挟む
(ヴィルゴが…協力者だって…!?)

「ヴィルゴは金で簡単に仲間になったぞ。」

(嘘だ……)

俺は辺りを見回してみる。ヴィルゴの姿がない。

「彼には色々と裏工作をしてもらった。兵士として潜んでもらい、ここの施設に寄り付かせないようにしてもらった。」

(雲下調査の時、単騎行動を取ったのはここに兵士を寄り付かせない為…自分が見てきたと言って他の兵士を行かせなかった…)

「そして、君たちが雲下調査に来たことをヴィルゴに報告して貰った。お陰で君たちの帰り道に竜を配置できた。」

「そして、今だって彼は動いているよ。」

「どういうことだ?」

「君たちの鳥はもうこの世にはいない。君たちは死ぬまでこの暗闇の中さ!」

「なんだって…」

「彼はよく働いてくれたよ。」

「そうかい。クラウド、君にもう用はない。」

ズシャッ…

ランサーさんは躊躇せずクラウドさんの首をはねた。

隣にいたレティが震えながら泣いていた。

「レティ、君は立派な兵士だと思ってたよ。剣竜に殺されたと知ったときには本当に悲しかった。だがな…」

「今はもう敵だ。君が生きていくには仕方なかったとはいえ、君たちのせいで多くの人が死んだ。悪いが君に聞きたかったことはクラウドが全部喋ってくれたのでね。すまない。」

ランサーさんは軍刀を振り上げる。

「ゴメン…ナサイ……」

レティの首がとんだ。

仲間だった子が、こうして目の前で殺されるのはなんとも虚しく、悲しかった。

「俺も殺したくなかった…しかし、これは規則だ。裏切り者は殺せ。残酷な世界だな…」
ランサーさんは血のついた軍刀を鞘に納めた。

その後、施設内を隅々まで調査した。
研究に使っていたであろう資料が沢山出てきた。
実験途中の竜もいたし、傷ついた“地を這う竜”も手当ての途中だった。

「ヴィルゴ…本当にあいつは…」

「きっと何かの間違いだよ…」
サニーも受け入れられない様子だ。

そして、俺たちは地下施設の入口へ戻り、扉を開けた。するとそこに、

ヴィルゴが立っていた。

俺はとっさに声をかける。

「お前…本当に…」

「チッ…あいつらバラしやがったか…」

「お前、何考えてんだよ!?」

「すまねぇな。騙してて。」

「金で買収されたらしいな。」

「それは兵団学校時代の話だ。偶然声かけられてな。思わず了承しちまった。」

「でも、兵士になってから、ずっと後悔してたよ…お前たちが、大事に思えるようになっちまったんだよ…」

辺りを見回すと、幾つかの鳥の死骸が転がっていた。一部は逃げ帰ったようだが。

「これ、お前がやったのか。」

「あぁ。」

「てめぇ‼」
俺は思わず掴みにかかる。

「あ、そうだ。ちなみにトリアンは俺が殺した。」

「なんだって…」

「うっかりな、竜の動きが計画的なのは、そういうプログラムになってたからだって言っちまってな。なんとか誤魔化そうとしたが、トリアンはアレ以来、俺をずっと疑ってたようでな。『僕はヴィルゴが犯人だったらショックだな』とか言われてな。すげぇうざかったよ。このまま疑われ続けるのはあぶねぇと思ってな、竜の民との戦いの時に後ろから刺して殺した。」

「俺は絶対お前を許さない…」

「俺はこうなった以上、あとは死を待つだけだな。レイン、俺と戦え。」

「お前の手で、俺を殺してみろ。」

「男なら、魔法なんて卑怯なもん使うなよ…刀で勝負しろ。」

(俺は…また人を殺さないといけないのか?)

「正義の為に、俺を殺してみせろよ。」

「あぁ…分かったよ…」
俺は他の兵士に手出しをしないよう求めた。

「いくぞ…」

スッ…
ヴィルゴの刀が脇をかすめる

(速い‼)

俺も刀を振り下ろすがかわされる。

ヴィルゴの素早い突きが襲ってくるが、なんとか刀で軌道をそらせる。

(さすがヴィルゴ…凄まじい身体能力だ…)

カキッ、キーン!
金属音が響く。俺は受けるのに精一杯だ。

(この技なら、ヴィルゴ。お前だからこそこれには引っかかるだろう。一瞬の隙をついてくるお前だからこそ!)

俺は刀を地面と平行になるよう倒し、全力で左へ振った。

ヴィルゴが斬り終わりを狙って距離を詰めてくる。

(今だ‼)
俺は刃を右へ向け、返す刃で斬り払った。

ヴィルゴの胴体を切り裂く。

ヴィルゴの動きを予測したことで攻撃が決まった。

「くそっ…やるなレイン。」
まるで効いてない。

そりゃそうだ。軍服には鎖帷子が織り込まれているからな…

ヴィルゴがまた接近してくる。

シュババ…
片手で突きを連発してくる。なんて速さだ。

ピシュッ

「ぐっ…」
俺の頬をかすめた。痛ぇ。
以前受けた右肩の傷も再び痛み始める。

「動きが落ちてるぜ、レイン‼」

(仕方ない、先に斬られてやる。)
俺は左腕で頭を守り、抵抗を止めた。

ズシャッ
ヴィルゴの刀が縦に俺を斬るが、軍服のお陰で傷は浅い。

そして、俺は動き出す。

ヴィルゴの刀が下に抜けていくと同時にヴィルゴの刀を上から叩きつけた。

ピキッ…カラン、カラン…

ヴィルゴの刀は真っ二つに斬れた。

俺はすぐに間合いを詰め、ヴィルゴの手足を斬りつけた。

バサッ
ヴィルゴが崩れ落ちる。

俺はヴィルゴの顔面に刀を突きつけた。

「早く、殺してくれ…」
「俺はお前たちを騙した。最低なことをした。だから…お前の手で、仲間の手で殺されたい…」
「仲間、なんて…俺に言える資格はねぇか…」

「なぁヴィルゴ…俺はお前を殺さないといけない…でも、やっぱり俺は、どうしてもお前を、今でも仲間だと思っちまうんだよ…」
涙が溢れてくる。

俺はもうやるしかないと思った。俺の手で殺してあげたいと思った。

俺は泣きながら、ゆっくりと刀を振り上げる。

「すまなかったな…」

「ヴィルゴ、お前は俺たちの大事な仲間だよ。今でも。」

ヴィルゴは微笑んだ。

俺は刀を振り下ろした。

ヴィルゴは最期にかすかな声で「ありがとう」って、そう言った気がした。





しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

おっさん聖女!目指せ夢のスローライフ〜聖女召喚のミスで一緒に来たおっさんが更なるミスで本当の聖女になってしまった

ありあんと
ファンタジー
アラサー社会人、時田時夫は会社からアパートに帰る途中、女子高生が聖女として召喚されるのに巻き込まれて異世界に来てしまった。 そして、女神の更なるミスで、聖女の力は時夫の方に付与された。 そんな事とは知らずに時夫を不要なものと追い出す王室と神殿。 そんな時夫を匿ってくれたのは女神の依代となる美人女神官ルミィであった。 帰りたいと願う時夫に女神がチート能力を授けてくれるというので、色々有耶無耶になりつつ時夫は異世界に残留することに。 活躍したいけど、目立ち過ぎるのは危険だし、でもカリスマとして持て囃されたいし、のんびりと過ごしたいけど、ゆくゆくは日本に帰らないといけない。でも、この世界の人たちと別れたく無い。そんな時夫の冒険譚。 ハッピーエンドの予定。 なろう、カクヨムでも掲載

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

【第2部完結】勇者参上!!~究極奥義を取得した俺は来た技全部跳ね返す!究極術式?十字剣?最強魔王?全部まとめてかかってこいや!!~

Bonzaebon
ファンタジー
『ヤツは泥だらけになっても、傷だらけになろうとも立ち上がる。』  元居た流派の宗家に命を狙われ、激戦の末、究極奥義を完成させ、大武会を制した勇者ロア。彼は強敵達との戦いを経て名実ともに強くなった。  「今度は……みんなに恩返しをしていく番だ!」  仲間がいてくれたから成長できた。だからこそ、仲間のみんなの力になりたい。そう思った彼は旅を続ける。俺だけじゃない、みんなもそれぞれ問題を抱えている。勇者ならそれを手助けしなきゃいけない。 『それはいつか、あなたの勇気に火を灯す……。』

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

人の身にして精霊王

山外大河
ファンタジー
 正しいと思ったことを見境なく行動に移してしまう高校生、瀬戸栄治は、その行動の最中に謎の少女の襲撃によって異世界へと飛ばされる。その世界は精霊と呼ばれる人間の女性と同じ形状を持つ存在が当たり前のように資源として扱われていて、それが常識となってしまっている歪んだ価値観を持つ世界だった。そんな価値観が間違っていると思った栄治は、出会った精霊を助けるために世界中を敵に回して奮闘を始める。 主人公最強系です。 厳しめでもいいので、感想お待ちしてます。 小説家になろう。カクヨムにも掲載しています。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

処理中です...