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第4章 魔女の館と想いの錯綜

魔女の館

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「もうじき魔女の館ってやつがあんのかァ……?」
「あぁ、俺が聞いたところでは。別荘みたいなものだって聞いたけど、たぶん……?」

俺らは、サムが入手してくれた情報をもとに魔女の館を目指していた。
館へと続く道はやはり人気のない森で、なんだか雰囲気が寒々としている。

「(それにしても……)」

歩く足を止め、一度その場に立ち止まる。

―――サム、ラルフ、ユウリ、ギルバート。

こうして旅の仲間として4人が共に一緒にいてくれる。
何だかそれが嬉しくて、たまらなかった。

サム。
幼い頃からずっと一緒、唯一無二の存在だ。
旅の途中ではぐれたり、仲違いをしたり、大変だったけど。
それでも今はこうして俺とまた友達でいてくれる。

ラルフ。
村に居た時は遠い存在だったけれど、今はずっと近い距離な気がする。
時々見せる照れ屋なところが、正直可愛くてしょうがない。

ユウリ。
いつ見てもその天使のような笑顔に救われる。
俺を信じて疑わない目が嬉しくもあり、ちょっと怖い事もあるけどな。

ギルバート。
あれほど鋭い目つきをしていても、なんだかんだ言って優しいのだ。
俺を嫌いだ、と意識しているところが、俺のハートの何かあらぬ部分を刺激してくるのが困る所だ。



前を歩くサムとギルバートが仲良さそうに会話をしている。

―――あの二人の絵柄は正直、タイプの違う最高レベルのイケメンで目の保養でしかない。

「それにしてもサムは、あっという間にギルバートと仲良くなったんだな……」

サムもギルバートも俺の前じゃ、あんな笑みをこぼしたりしないような―――。
と、なぜかサムとギルバートの両方に嫉妬する俺。

―――そういえば、サムとユウリもさっき仲良さそうに話していたっけ。

コルリの街で会った時はユウリはサムに警戒心を剥き出しだったような気がするんだが。
それもこれも、サムの人懐っこい笑顔と会話の力だろうか?
だとしたら流石だよな。

まだ魔術闘技祭の決勝戦―――サムが来たあの日から、数日と経っていないはずだ。

そんな風にあれこれと思案していた俺は、いい加減歩き出そうか、と前に向き直る。
すると、前を歩く姿が3人になっていたことに気づいた。

サム、ギルバート、ラルフ。

ユウリは―――?

どこだ―――?

「おにぃ!」
「うわっ!」

気付けばユウリが俺の横にいて、服の裾をぐっと握っていた。

「なんだかぼーっとしてたから。驚いた?」
「ああ、驚いたよ」

俺は仕返しとばかりに、ユウリの頭をわしわしと撫でた。
右手にふわふわと柔らかい髪の感触を感じる。
ユウリの肩がビクリ、と震えた。

「驚かせたお返しさ」

そして撫でる手を止める。
ユウリは俯いたまま「ごめんなさい」と言って、それから顔を上げると嬉しそうに笑った。

「楽しそうで良かった」
「……うん。だって、せっかくおにぃに会えてからもずっと修行で忙しかったから。……今、こうして一緒に歩けて嬉しいんだ」

俺は純真無垢100%な笑顔に完全にノックアウトした。
ご機嫌なユウリの様子を見て、さっき疑問に思った内容を聞いてみることにした。

「そういえば、さっきサムとも仲良さそうに話していなかったか? その、なんだ。……コルリの街で会った時はお互いぎこちなかったから、なんだか、意外だなって」

自分でも驚くほど、聞くのが下手だな。
こういう時、サムならもっとスマートに聞けるんだろうか。

ユウリは特に不機嫌な様子もなく、空を見上げると「んー……」と呟いた。

「……もういいんだ。サムさんもラルフさんと一緒だった。おにぃのことが好きなんだ、ってわかったから」

「……おお、そうか、なら良かった。……?」

おそらく俺の知らないところでサムとユウリで交わされた会話の何かがあるのだろう。
知りたくてしょうがない。
しかし、これ以上深入りしても、きっと教えてくれないだろう。

サムとユウリで交わされた話というのは、きっとキサスの街に来てからのことだ。
もっと詳しく言えば、魔術闘技祭の決勝が終わった後、俺とサムが仲直りできた―――あの後。
だとしたら俺を好きという、単語ともつじつまが合う。

おそらくサムは、俺とちゃんと仲直りできて―――
あの時の告白の返事は―――伝わっていないか―――もう気にしていないか。

「(ちょっと寂しいけど)」

少なくとも今は友達のように想ってくれている事はユウリの話から間違いないのだろう。

―――その時、前を歩いていたサムがこちらを振り向いた。

「ここが、魔女の館ってやつ! だと! 思う!」



魔女の館の雰囲気は城といった感じであった。
建物自体は2階建てのように見えるが、そこから伸びるように4つの塔のようなものがくっついている。

「ここが……」
「いかにも、って感じだなァ……」
「その魔女がおにぃの事を……!」
「俺はもう魔女に負けねぇ……!」

サム、ラルフ、ユウリはついに魔女の本拠地を見つけた、というように各々が士気を高めるのが分かる。
ギルバートは、相変わらずの冷静沈着で、その表情から感情は読み取れない。
俺はと言えば、妙な胸騒ぎがしてしょうがなかった。

―――なぜなら。

サムが魔女の館の場所を見つけたといっても、そして今ここまで来ても。
魔女のペンダントからは、一切声が聞こえてこないのだ。

ラルフが魔女の親戚の家に行ったときは色々と呟いていたはずだ。
いくら気まぐれとはいえ、今までの反応からするに、何か言ってきてもおかしくないような気がする。

もし何もこの場所にないなら、「何もない」と言ってきそうなものだ。
だとすれば、この場所には―――何かがある、と思った方がいいのだろうか。

―――その時。

まるで待ち構えてたとでもいうように、屋敷の扉が自動的にキィと音を立てて開いた。
中は外からでは薄暗くいまいちここからではわからない。

胸騒ぎがより一層大きくなる。

「……!」

サムとラルフ、ユウリが顔を見合わせて、それから歩を進めた。
扉の中へと、躊躇する様子なく進んでいく。

するとギルバートが、俺の方を振り返った。
それから無表情のまま、俺の真正面まで歩いてきた。
先を歩く3人はこちらに気づく様子はない。

ギルバートが右手の手袋を取った。

「手を出せ」
「……え?」

俺が躊躇っていると、ギルバートは左手で俺の腕ごと掴んで引き寄せる。
俺はバランスを崩しかけて転びそうになったが、ギルバートの手袋のない素の右手が俺の肩を支えた。

「……あ、ありがと」

ギルバートは表情を崩すことなく、俺の肩から右手を離すと、その手で俺の右手を取った。


ギルバートの体温が―――直に伝わる。
それに反するように俺の中の魔力がギルバートに流れていく。



―――いつもより、ギルバートの手は少しだけ冷たいような気がした。



きっといつ危険な状態になっても良いように、魔力を補給しておこう、ということだろう。

―――その魔力の根源こそ、この魔女のものなんだけどな。

―――そうも言えないのが辛い所なんだ。

―――ギルバート、ごめんな。



「……勘違い、すんじゃねぇよ」



ギルバートが俺の顔を見て、そう言った。
その顔は無表情ながらに真剣なように見える。

「……何を?」

俺は考えていたことを読み取られないように、すかさず笑みを浮かべて、そう返事をした。
すると、ずっと無表情だったギルバートの眉がピクリと動いた。

「……本当にお前は馬鹿野郎だ」

ギルバートは俺の手を、今度は無理やり払い除ける。
すると一人で、扉に向かって歩いていく。

俺も急いで扉へと駆け足で向かって行く。



―――扉からはなんだか甘ったるい香りがした。


胸元のペンダントからは、やっぱり何の声も聞こえてこなかった。
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