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第3章 闘技場とハーレム

ラルフとデート(2)

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「ところでラルフはどうなんだ? 魔女の調査を続けてくれてるんだよな」
「あ、あァ……」

ラルフは先ほど注文したドーナツを口いっぱいに頬張っている。
問いかけると、それを中々飲み込もうとせず、発言をどうやら躊躇っているようだった。

ラルフのは全部で5個のドーナツを買っていた。
俺がほとんど食べ始めないうちに2つを平らげたラルフは、既に3つ目に取り掛かろうとしている。

―――それにしても、よく食べるものだな。

その見事な食べっぷりに思わず、惚れ惚れとする。
ちなみに俺はチョコレートがコーティングされたドーナツと、シンプルなプレーン味のサクサクとした食感の2つを注文していた。

「じ、実はだな……」
「実は?」

「例の魔女の子孫が住む家を見つけたンだよな。……チビすけと一緒にこの前、その家まで行ってきた」
「子孫……!?」

(あぁ。ワタシももうこの街の家はずっと行ってないわね)

胸のペンダントから声がした。
俺はその声には全く気付かない振りをして、ドーナツを持つと一口食べ進めた。

しかしラルフは、先程のドーナツを一度置くと、そこから言葉を続けようとしない。

「何か良くない情報か……?」
「いや……そういうわけじゃねェんだけどよ」

それからラルフはしばしの間、窓の外を眺めていた。
そして頭の後ろを掻くと大きくため息をついて観念したように顔をこちらに向けた。

「例の魔女が残していった私物が一部残ってんだとよォ。そう言われて、だから見てきたんだが……その、えーと、なんだァ?」

「……どんなものだったんだ?」

「……大部分は本だな」

内容を問うがなかなかラルフは話そうとしない。
俺は辛抱強くラルフの顔を見つめ続け、次の言葉を待つ。

ラルフが言い出しにくそうに、口ばかりを困ったようにパクパクと開けている。
そしてラルフは再び口を閉じると、大きくハァとため息を吐いた。


「それが……その、男どうし、でヤッてる本でなァ」


その言葉の意味を瞬時に理解した俺は、口に入れていたドーナツを勢いよく飲み込んでしまった。
ドーナツに塗されたチョコレートの粉が、突然喉に詰まり、大きく咳き込む。

「ゲホッ……ゲホッ」
「オイオイ、大丈夫かァ?」

(……あらやだ☆ 恥ずかしい☆)

その時、再びペンダントから声が聞こえた。
俺はそれ以上その声を聞いていられなくて、意味もないのに胸のペンダントを左手で強く握った。

「……安心しろよ。チビすけには見せてねェ」

そうじゃない。

「その……どうだった?」

俺は純粋にラルフがそういった本を見た時の感情が知りたくて、そう聞いてみた。
質問の意図がいまいちわからないのか、ラルフは困っているようだった。

「どうだったって変なこと聞くんだな。オレは男どうしを考えたことがなかったからよォ、正直わからなかったってのが感想だなァ」
「ふーん、そうか……」

次の言葉を俺は探そうとする。
ラルフはまだ何かを言いたげだ。

「男どうしってああやってヤれるもんなんだなァ。初めて知ったぜ」
「や……やめてくれ、ラルフの口からなんとなく聞きたくない」

俺がそう言うと、ラルフが「そうかァ?」とガハハと大きく笑い声をあげた。
ひとしきりラルフは笑うと、真剣な表情になった。

「……でも、なァ。その好き同士なら、男どうしだろうとデートっつーんだよなァ。……そういうもんなんだな」

俺はその言葉に、朝ラルフを誘った時のデートの発言を思い返していた。
だからラルフは変に今日の事を意識していたのかもしれない。

しかし……だとしても、なんだかおかしい。


「じゃあ、さ。……もしも、俺がラルフのこと好きだっていったら、どう思う? 気持ち悪いと思うか?」


ラルフの手に握ったドーナツがポトリと落とす。
ラルフはその手を戻すこともなく、その体制のまま停止した。

「へ、変な例え話をするんじゃねェよ……」

するとラルフは勢いよく残りの2つのドーナツを両手に持ち、がつがつと食べ始めた。
俺は複雑な気持ちで、あっという間に吸い込まれていくドーナツたちを眺めていた。

ラルフは息を大きく吐きだすと、「ゲフッ」とゲップをした。

―――どうやら落ち着きを取り戻したようだった。

俺はこれ以上、変な空気にならないように、この話題を続けることを止めようと思った。

「本のことはわかった……あまり参考にはならなそうだよな。……他にわかったことはあったのか?」

「あぁ。その家に住んでた奴にさ、オメェの事を話したんだけどよォ。あの例の魔女の事はやっぱり知ってたぜ」

「そ、そうか。……それで?」


「例の魔女は他人の生気を吸い取ったりイタズラめいたことをしてるみてェだが、人間の生命をただ奪って殺す、っつーような残虐な話は聞いたことないってよォ」


俺は思わずドキッとした。
この秘密を知られるわけにはいかない。

「……そうなんだ。じゃ俺はなんで、こうなったんだろうな……」

俺はひとまず何も知らない振りを決め込むしかないため、誤魔化すことにした。
すると俺の声音を察したのか、ラルフの耳が急にしゅんと折りたたまれる。

「す、すまねェ……。気休めにならないことをいったな」
「いや、ラルフは悪くないんだ」

「あ、あぁ……。オレも、それはわかってる」

ラルフは空っぽの皿をじっと見つめている。

「……ただ、オメェが死なねェって信じたかっただけなんだ」

そのラルフの発言に思わずハッとして、俺はラルフの顔を見つめた。


その瞬間、俺はラルフの左頬に白いクリームがぺったりとついている、のを思わず見つけた。
先程、生クリームがたっぷりと乗ったドーナツを両手でガツガツ食べた時についたのだろう。

「ラルフ」
「なんだ?」

「クリームがついてる」

俺は座席から少し腰を浮かすと、ラルフの頬まで右手を伸ばす。
そして頬についた生クリームを人差し指でさっと拭うと、それを自身の口元に持っていき、ペロッと舐めた。

口の中に甘ったるい生クリームの香りが広がり、舌には油がべったりと乗っかった。


ハッとした。


ラルフの口元の生クリームを見た瞬間、それを舐めたい、と身体が勝手に反応するように動いていた。

「……う、うまいな! 俺も、生クリームのドーナツを頼めばよかったかな」


慌ててその場を取り繕うように、視線をずらして外を見つめながらそう言った。
しかし当のラルフを見ると、なぜか机に顔を突っ伏したまま、そのまま顔をあげなかった。
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