カエル王子と闇落ち聖女

涼暮 月

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5.変わる聖女

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「ユイ、調子はよくなったかい?」

 案の定、エドワードは午前中からやってきた。お見舞いにと薔薇の花束を携えて。
 
 その薔薇は昨日の庭園の、二人がいた薔薇に覆われたガゼボを思い出させた。

 あの綺麗な人と一緒にいた時のエドワードはすごく表情豊かだった。
 嬉しそう、悲しそう、くしゃりとした笑顔、熱い瞳。気を許した人への顔。秘密を共にした人との顔。薔薇に覆われたガゼボの中、二人は顔を寄せ合って二人だけの秘密を楽しんでいた。

 私といる時と全然違った。
 
「お見舞いありがとう。でも私、このお花は好きじゃないの。……香りが強くて苦手なの。頭が痛くなっちゃうのよね。持って帰ってくれる?」

 エドワードは慌てて花束をを引いた。
「し、知らなかったんだ。ごめんね」
「いいのよ」

 今まで私、エドワードが差し出したものを拒否したことがあったかな?ないよね、きっと。
 なんでも喜んで、感謝して受け取った。
 エドワードの期待に応えたかったんだよ。
 そしたら褒められて、好かれたりするんじゃないかと思って。
 私、受け入れられたいと思って一生懸命だったんだよ。

 私はしかめっ面をして、頭痛がするかのように頭に手をやった。
 申し訳ない、なんてそぶりはしない。
 ごめんね、なんて全然思わない。

 エドワードはいつもと違う私に戸惑いながら、まだ体調が悪いのかな、なんて言ってる。
 
 その顔に張り付いた上品な笑みがすごく薄っぺらくて、気持ち悪いと感じてしまう。

「ユイ、本当に大丈夫かい?」
 エドワードが私に近づいてこようとするけれど、私はそれを避けて一歩下がった。
 やだ、傍に来ないで。触らないで。

「ユイ?」

 私は突然エドワードと二人きりで部屋にいることが耐えられなくなった。

 エドワードの横をすり抜けて部屋のドアを開ける。
 ドアの外にはいつものように、護衛騎士が二人立っていた。
 私はその二人に聞こえるように、大きな声で言った。

「王太子様、今後は部屋のドアは開けたままでお入りください。誤解をする者がいるようです!」

 護衛の顔を見ると、苦々しい顔をしている。
 
「ユイ?どうしたんだい?誰かに何か言われた?」

 私は何も答えず、じっとエドワードを見つめる。だから早く出て行ってと言ってんのよ!もう!

「もしかしてその騎士が昨日何かしたのかい?その者はまじめで私によく仕えてくれる、信頼のおける者だよ。何か誤解があったのかもしれないが、私の顔に免じて許してもらえないか」

 エドワードが微笑みながら私に言う。

 おえええええ。その顔、気持ち悪くて吐きそう。

 あとさ、何言ってんのか分かんないわ。誤解?誤解なんて何もないわ!これって全部あんたのせいなんじゃないの?あなたが私に謝るべきでは?なんで私が譲らなきゃいけないのよ!!
 あなたは一体何様なのよ。あ、王太子様か。でも私はここの国民じゃないからね!なんなら聖女だから!あんたたちに召喚された聖女だからね!
 
 護衛はエドワードの言葉に心を打たれたのか感動した様子で、それから私を憎々し気にギロリと睨んだ。

 うわああああ最悪ううううう。

 これって、また私がワガママ言ってるって思ってんじゃないの?王太子はお優しい方です?は?

 私が疎まれ嫌悪されるのって、この王太子のせいなんじゃないの。
 
 もうほんとやだ、王太子、あんたもうホント無理。ムリだから!
 私の近くにいないで!あっちいって!
 
 「本日はお忙しい中をわざわざありがとうございました。もう十分ですのでどうぞお帰りください!」

 私は王太子を部屋から追い出し、バタンとドアを閉じた。
 背中に触っちゃったわ。いやだ、鳥肌が立っちゃった!

「あ~~~~。なんかもう、生理的に無理!もうしばらくあの顔見たくない!王太子の仕事がめちゃくちゃ忙しくなったらいいのに!!!」

 私の願いが叶ったのか、それからしばらく王太子の顔を見ることはなかった。
 なんだか色々あって疲れちゃった。考えなきゃいけないことはたくさんあるけれど、今はすごく眠くて何もできない。
 私はベッドに潜り込み毛布にくるまってうとうとする。
 
 ここでの生活はすごく神経を使うし、周囲の期待や不満に過敏になってしまう。
 疲れた。信じられる人が誰もいないってすごくむなしいな。

 そんな思いを薄布にそっと包んで胸に押し込めるように、私は丸くなって眠る。
 
 私はぼんやりと日々を過ごし、そうしてあの、王家主催のパーティーの日を迎えたのだ。
 
 
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