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11・玉座の対面 中

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 さらに次の日、前日よりもさらに早い時間に第10階層をクリアした彼らは、階段の見えるところで話し合っていた。このまま進むか否か、それを相談しているのかもしれない。

「お、進むようですな」

 宰相アードンが身を乗り出した。
 王宮からの情報は、まだ届いていない。この先は今までのボスクラスがうようよいる状態になるけれど、ケントたちの妙に手際のよい攻略を見ていると、どれだけ干渉出来るのか。正直なところ全く分からない。


「むうう、またしても迷いなく最短ルートを」

 そうなのだ。魔王城のフロアは迷路状になっている。そう、まるで昔やったことがある、ダンジョン探索ゲームのようだ。
 ケントたちが早いのは、強いのはもちろんだけど、ほぼ最短距離を歩いているからでもある。彼らは地図もなく、魔法を使っている気配もなく、ただ通り慣れた庭を歩くように、自然に道を選んでいる。
 おかしい、絶対おかしい。例え召喚勇者でも、ここまで魔王城を知り尽くしているはずはない。だいたい過去に一度でも討伐隊が通ると、迷路を組み替えたり罠を配置替えしたりしているのだ。それにもう11階層、私の知る限り、過去にここまで来たものはいない。

「何故ルートが分かるの? そうだ、それならいっそのこと……」

 私が悔し紛れに思いついたことを伝えると、将軍たちは呆れた顔をした。

「でも理由はどうあれ、これが一番効率がいいんじゃないの?」

 誰も反論できない。結局筆頭のバルゴラス将軍とアードンが決断し、策は実行された。
 私の策とは、何のことはない。ケントたちがどうせ最短ルートをとるならば、そこへ最初から魔物と罠を集中的に配置しろ、ということ。
 理由を探っている暇はないのだ。少なくともその分魔物に対峙する時間がかかれば、それだけ足止めと消耗を強いることができる。

「その間に、情報を……後は将軍たちに考えてもらいたいもんだわ」





 無駄だった。
 翌日までに13階層をクリアし、また次の日には15階層を突破した。あれだけ増員して妨害してもこれなのだ。

「ルートだけではない、奴ら、我々の弱点も瞬時に見抜いている節がある。そう思われませんか、陛下」

 筆頭将軍の黒竜バルゴラスが重い声で言った。私もアードンも黙って頷くしかない。

「こんなことが出来るとは……。奴ら、いったいどんな手を」

 ギエルムが美しい顔を歪め、唸るように独り言ちた。だいぶ本性の悪魔が透けて見えている。それだけ余裕がないのだろう。
 でも、ギエルムの気持ちも分かる。こうまで一方的に、勇者たちの有利に魔王城が攻略されるなんて、どうしても納得がいかないのだ。まるで、一度クリアしたゲームを最強レベルでもう一度、みたいな展開じゃないか。

 そう、この数日、私の頭から離れない考えがある。
 もっと前から、時々気になってはいたのだ。でも当時の勇者たちは弱すぎて何の不安もなかったし、私もそれ以上深く考えることはしなかった。この魔王城のつくりからも覗える。
 今の、魔王オリアニスが統べるこの世界は……どこかのゲームの世界なんじゃないか、っていうこと。まさかと否定する一方で、考え始めればいくらでも、それを裏付ける条件が見えてきてしまう。それにそう考えれば、勇者ケントたちの、あり得ないほどの強さと強運の説明もつくような気がするのだ。
 とはいえ、こんなことをアードンや将軍たちに言っても、理解できるわけがない。胸に広がる不安は、魔王としては隠しておくしかなかった。


 そこへやっと、私がずっと待っていた情報が届いた。ところが結果は、かえって混乱させられただけだった。

「え、あの聖女は王家の末娘なの? あの、国王が舐めるように可愛がって育てたっていう……?」
「2人の魔導士は王宮きっての宮廷魔導士……? そんな奴らを何だって手放したんだ、国王は」
「弓手は近衛の副長だと? 気でも違ったのか」

 しかも国王を顎で使うように、文句も言わせずこれらの手配をさせたらしい。魔導士と弓手はともかく、聖女がもし本当に王女だというなら、国王の勇者ケントに対する扱いは、確かに破格と言っていい。というより、あれではまるで……謙斗のほうが上のようではないか。

「……それだけじゃないんだわ、きっと。これ以上探っている暇はないけど、絶対に……まだ何か秘密がある」

 それだけは確信を持って言える。だからって何の役にも立たないけれど。
 魔王オリアニスの代になって200年以上。魔王城はかつてないほど追い詰められていた。





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