魔導師ミアの憂鬱

砂月美乃

文字の大きさ
上 下
103 / 104

103・あらたな称号

しおりを挟む
「まったく、どうしたものか……」
翌日、サロンで頭を抱える国王の向かいには、朝いちばんで呼び出された宰相ミルカが苦虫を嚙み潰したような顔で座っていた。
「しかし陛下、いや、ここは叔父として言わせてもらおう。そもそもけしかけたのはセレス、そなたなのだろう?」
「そうだが……。だと言ってまさかそんな常識外れのことを言い出すとは思わんではないか、叔父上」
「その常識外をさせたのは誰だ!」
「……」

 さすがの国王も返す言葉がない。宰相ミルカはひとつ咳払いをし、態度を改めた。
「今さら言っても仕方のないこと。まず片付けられるほうから決めてしまおう、陛下。魔導師ミアに与える称号の件からだ」
 2人は額を寄せるようにして、真剣な話し合いを続けた。途中で魔導長官も呼ばれたが、その後サロンの扉は夕方まで開かれることはなかった。



 ◆◇◆

「私に、称号……ですか?」
宰相閣下に呼び出されたのは、エリンが帰って行った2日後のことだ。
「そうだ。例の秘薬については伏せるしかないが、本来はあれこそ何より評価されるべきだ。魔導師にとってどれほど苦しい作業だったか、魔導長官ジェストからも聞いている。よってそなたに『大魔導師』の称号を贈る」
「大魔導師……」
宰相閣下は頷いた。

「まず勅命を受け、遂行していることが必須条件。そして国の安寧に関わる事例に携わり、成果を上げていること。そのうえで、魔導師としてのもともと持つ資質や人格も考慮される。そなたの場合、問題になるとすれば歳が若すぎることくらいだ」

 今、現役の魔導師の中では長官様しか持っていないという「大魔導師」の称号(ちなみにルカ様は「面倒臭い」と辞退したとか)。それを私などが受けて良いのだろうか?
「躊躇うのも分からんではないが、これは陛下もお認めになったこと。素直に受けるが良い。―――わずかだが、称号に伴う恩恵もある」

 他に、カイン達への褒賞の授与と併せ、後日式典を執り行うという。そしてカインが「勇者」の称号を受けた時と同じように、王宮のバルコニーから国民へのお披露目をするそうだ。





「良かったな、嬢ちゃん。苦労の甲斐があったじゃねえか」
ウェインが嬉しそうに、私の頭をわしわしと撫でる。
「ありがとう、ウェイン。でも、そんな大きな称号、本当にいいのかな……?」

「何言ってるんだ。歴代の魔導師で、実際に『王家の秘薬』を作った奴なんていないんだぞ? あれほどの事件を阻止したんだ、胸張って受けろよ」
カイン達も横で頷いている。カインがすでに「勇者」の称号を手にしていることもあり、彼らは今回は褒賞どまりだ。
「本来俺たちは、竜を倒した時に称号を得るものだからな」
カイン達の褒賞は、まだ何かは分からないらしい。


「そういえば、お披露目の魔法は何にするつもり?」
そう、魔導師が称号をいただいた場合、バルコニーから国民に向けて何らかの魔法を放つのが恒例になっているらしい。通常は、大きな雷とか炎とか、虹をかけるとか。私は何か自分らしいものを見せたいと思っている。
「楽しみだね」
「うん、喜んでもらえるといいな」
私の言葉に、彼らは笑って頷いてくれた。





 その日、王都モルシェーンは雲ひとつない快晴に恵まれた。久々の正装に身を包み、ルカ様にいただいた首飾りと、王妃様から贈られた腕輪を身につけた私は、前と同じく皆と一緒に大広間にいた。
 あの時は「勇者」の称号を受けるカインの背中を見ていた。今回はそればかりではない。

 まずはカイン達、4人の騎士に今回の褒賞が贈られた。
 それは美しい刺繍と宝石で飾られた、剣を吊る帯。騎士に定められている革の実用的な剣帯に代えて、それを身につけることが許された。その他には金貨の袋。

 彼らが恭しく礼をして下がると、次は私の名が呼ばれた。陛下が称号の所以を述べ、証の指輪を下された。
「―――よって此度の功を鑑み、『大魔導師』の称号を与える」
「謹んで、お受け致します」
跪いて答えると、いつかのカインのように私の身体がふわっと光った。


 バルコニーから眺めると、あの時を上回る人だった。
「やはりそなたたちの活躍で、ますます人望を集めたようだな」
陛下がそう言って笑いながら、人々に向けて手を振った。大きな歓声が湧き上がる。
「さあ、あとはそなたたちだ」
 陛下に促され、私達は前に進み出る。まず全員で並ぶと、歓声に加えて悲鳴のような女性たちの声。やはり騎士達の人気は根強い。
 しばらく笑顔で手を振った後、カイン達が一歩引いた。
「ミア、頼んだ」

 私は笑顔で頷いて、バルコニー中央へ進み出た。一瞬どよめくような歓声を聞いた気がしたけれど、私が片手を上げると、今度は潮が引くようにさあっと声が引き、静まり返った。
 指先に白い光の球が浮かび上がり、煌めきながら少しずつ大きくなってゆく。

 なかなか魔力が顕現せず、もう一生魔法を使えることなどないのかと思った私が、こんな晴れがましい場で魔法を披露している。王都へ来てからももちろん努力は惜しまなかったけれど、嬉しい思いだけでなく、辛い思いもたくさん味わった。そして大切な人に囲まれて、支えられたから今の私がいる。そんな感謝を、せめて魔法に込めて。

 光の球は、もう両手を広げても抱えきれないほどの大きさになっていた。次第に高まる期待に町の人たちが知らず漏らす声が、バルコニーまで響いてくる。
 私はさらにひとつ呪文を唱えた。光の球は高く、町の人たちの真上に進んで行き……そこで弾ける。
 基本はいつもの光の槍を降らせる魔法。もちろん槍は出さない。花火のように広がった光の筋は、途中再び弾けて姿を変え、四季折々の花になって町に降り注ぎ……、三たび光って姿を消した。

 わずかな静寂の後、さらに熱狂的な歓声がバルコニーを包んだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

【完結】聖女が世界を呪う時

リオール
恋愛
【聖女が世界を呪う時】 国にいいように使われている聖女が、突如いわれなき罪で処刑を言い渡される その時聖女は終わりを与える神に感謝し、自分に冷たい世界を呪う ※約一万文字のショートショートです ※他サイトでも掲載中

狂乱令嬢ニア・リストン

南野海風
ファンタジー
 この時代において、最も新しき英雄の名は、これから記されることになります。  素手で魔獣を屠る、血雨を歩く者。  傷つき倒れる者を助ける、白き癒し手。  堅牢なる鎧さえ意味をなさない、騎士殺し。  ただただ死闘を求める、自殺願望者。  ほかにも暴走お嬢様、爆走天使、暴虐の姫君、破滅の舞踏、などなど。  様々な異名で呼ばれた彼女ですが、やはり一番有名なのは「狂乱令嬢」の名。    彼女の名は、これより歴史書の一ページに刻まれることになります。  英雄の名に相応しい狂乱令嬢の、華麗なる戦いの記録。  そして、望まないまでも拒む理由もなく歩を進めた、偶像の軌跡。  狂乱令嬢ニア・リストン。  彼女の物語は、とある夜から始まりました。

本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。

なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。 しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。 探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。 だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。 ――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。 Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。 Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。 それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。 失意の内に意識を失った一馬の脳裏に ――チュートリアルが完了しました。 と、いうシステムメッセージが流れる。 それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!

吸血鬼公爵に嫁いだ私は血を吸われることもなく、もふもふ堪能しながら溺愛されまくってます

リオール
恋愛
吸血鬼公爵に嫁ぐこととなったフィーリアラはとても嬉しかった。 金を食い潰すだけの両親に妹。売り飛ばすような形で自分を嫁に出そうとする家族にウンザリ! おまけに婚約者と妹の裏切りも発覚。こんな連中はこっちから捨ててやる!と家を出たのはいいけれど。 逃げるつもりが逃げれなくて恐る恐る吸血鬼の元へと嫁ぐのだった。 結果、血なんて吸われることもなく、吸血鬼公爵にひたすら愛されて愛されて溺愛されてイチャイチャしちゃって。 いつの間にか実家にざまぁしてました。 そんなイチャラブざまぁコメディ?なお話しです。R15は保険です。 ===== 2020/12月某日 第二部を執筆中でしたが、続きが書けそうにないので、一旦非公開にして第一部で完結と致しました。 楽しみにしていただいてた方、申し訳ありません。 また何かの形で公開出来たらいいのですが…完全に未定です。 お読みいただきありがとうございました。

本物の恋、見つけましたⅡ ~今の私は地味だけど素敵な彼に夢中です~

日之影ソラ
恋愛
本物の恋を見つけたエミリアは、ゆっくり時間をかけユートと心を通わていく。 そうして念願が叶い、ユートと相思相愛になることが出来た。 ユートからプロポーズされ浮かれるエミリアだったが、二人にはまだまだ超えなくてはならない壁がたくさんある。 身分の違い、生きてきた環境の違い、価値観の違い。 様々な違いを抱えながら、一歩ずつ幸せに向かって前進していく。 何があっても関係ありません! 私とユートの恋は本物だってことを証明してみせます! 『本物の恋、見つけました』の続編です。 二章から読んでも楽しめるようになっています。

魔力ゼロの出来損ない貴族、四大精霊王に溺愛される

日之影ソラ
ファンタジー
魔法使いの名門マスタローグ家の次男として生をうけたアスク。兄のように優れた才能を期待されたアスクには何もなかった。魔法使いとしての才能はおろか、誰もが持って生まれる魔力すらない。加えて感情も欠落していた彼は、両親から拒絶され別宅で一人暮らす。 そんなある日、アスクは一冊の不思議な本を見つけた。本に誘われた世界で四大精霊王と邂逅し、自らの才能と可能性を知る。そして精霊王の契約者となったアスクは感情も取り戻し、これまで自分を馬鹿にしてきた周囲を見返していく。 HOTランキング&ファンタジーランキング1位達成!!

運命の選択が見えるのですが、どちらを選べば幸せになれますか? ~私の人生はバッドエンド率99.99%らしいです~

日之影ソラ
恋愛
第六王女として生を受けたアイリスには運命の選択肢が見える。選んだ選択肢で未来が大きく変わり、最悪の場合は死へ繋がってしまうのだが……彼女は何度も選択を間違え、死んではやり直してを繰り返していた。 女神様曰く、彼女の先祖が大罪を犯したせいで末代まで呪われてしまっているらしい。その呪いによって彼女の未来は、99.99%がバッドエンドに設定されていた。 婚約破棄、暗殺、病気、仲たがい。 あらゆる不幸が彼女を襲う。 果たしてアイリスは幸福な未来にたどり着けるのか? 選択肢を見る力を駆使して運命を切り開け!

処理中です...