魔導師ミアの憂鬱

砂月美乃

文字の大きさ
上 下
74 / 104

74・謝らないで 下

しおりを挟む

 ◆◇◆

 あれから王宮では、国王とルカ、魔導長官の3人が話し合っていた。
 とはいえ国王たるもの、当然他にも公務が山積みである。国王がそちらへ出ている間に、長官は記録庫から代々の魔導師の記録を持ち出し、ソフィアからサラまでを辿ろうと試みた。

「ソフィア王妃が亡くなったとされる年、王宮では数人の若い女性魔導師が立て続けに亡くなり、原因不明として記録に残されております。おそらくこの中の何人かは関わりがあるのでしょうか」
「長官殿、逆にサラが王宮に入ったころに亡くなったとされる魔導師も気になるところです。齢を重ね、若い魔導師に乗りかえようとするのは、今回の件を見ても明白です」

 見当をつけて辿っていくと、所々あやふやな箇所は残るが、この魔導師はサラ……ではなくソフィアではないかと思える人物が浮かんできた。
 すると驚くことに、前に魔物の研究者であるダールと話したことのある、特殊魔法をもった魔導師にたどり着いた。もちろん魔物召喚の能力だ。

「これは……」
「つながりましたね」
「しかし、100年も前とはいえ、元王妃というのは扱いが難しいですね。どこまで明らかにして良いものか」
「……さぞ陛下が悩むことでしょうな」
2人の魔導師はため息をついた。




 その日の夜から翌日にかけて、近隣の町や村へ遣わされた騎士たちが、次々と報告をもって戻ってきた。しかし、サラらしい人物を見かけたという情報はなかなか上がって来なかった。
 しかし翌日も遅くなって、リーズという町の若い魔導士が、前夜から姿が見えなくなっているという報告がもたらされた。

「魔導士アデルといいまして、22歳、短くした水色の髪に青い瞳、女性にしては背の高い、少年みたいな娘だそうです」
「よし、1隊はそのアデルの足取りを追え。もう1隊はアデルの行動範囲を中心に、サラを探すんだ」
 カインがその後の指示をだしているそこへ、騎士団長が魔導長官を伴って入ってきた。後ろに従う副官が、何やら物々しい封印のついた、大きな箱を抱えている。
「カイン、陛下の許可をいただいた。魔力封じの道具一式だ」
「ありがたい。これで、もう逃がさないぞ」

 魔力封じの道具とは、触れている者の魔力を、文字通り封じてしまう効果をもっている。ごくまれだが、今回のように魔導師が犯罪を犯した場合に、抵抗や逃走を防ぐために使われる。相手に触れさせて使うため武器は剣に鞭、遠くから動きを止めるために矢もある。危険な場合、緊急に備えて投網状になったものもある。そして捕らえた後に使う縄。

 悪用されては堪らないので、通常は王宮で厳重に保管されているものだ。説明をする長官でさえ、決して触れようとはしない。
「とにかく不快なのですよ。騎士の方なら……触れると腕が痺れて剣を握れなくなる、そんな道具を想像してみて下さい」

 騎士達は酸っぱいものでも飲んだような顔をして頷き、それぞれ慎重に受け取って出発していった。



 ◆◇◆

 じっとしていられないと、翌日はカイン達も捜索に出ていった。その間、私は王宮で長官様とルカ様のお手伝いをしていた。今回のことで「魔導師サラ」はあくまで最後に乗り移られた名前に過ぎないということで、基本的に「王妃」とつけずに、ただの「ソフィア」と呼ばれることになった。

 ソフィアが乗り移ってきたと思われる魔導師は、順を追ってほぼ特定され、魔物の召喚をしたのも、おそらくソフィアの仕業だろうということになった。それにしてもなぜそんなことをしたのか。
「お前とカイン達を振り回し、疲れさせるのが目的だったのか……、それとも国中を荒らす目的でもあったのか」
ルカ様が首をかしげる。長官様も同様だった。

 夕方になっても、アデルの姿もサラの姿も見つからず、カイン達は疲れはてて戻ってきた。




 魔導師アデル、22歳。王都モルシェーンから馬車で西へ1日のところにある、リーズという町で魔導師をしていた。
 記録によると、王宮で魔導師の試しを受けたのが1年前。年齢も、私とさほど変わらない。
 属性は水、魔力は4950。これだけの魔力があれば、王宮の魔導師にもなれた筈だし、実際に王宮から話もあったそうだ。しかしアデルはそれを断り、生まれ育ったリーズの魔導師になることを選んでいた。


 魔導師なので当然、今回の面接も受けている。アデルは行方不明になる3日前に王都を訪れて面接を受けていて、ルカ様も彼女のことを覚えていた。
 面接を終えたのは午後も遅くなった頃で、王都で一泊して帰ると申し出た。今回の急な面接のため、馬車や宿泊の費えは王宮から支払われる。アデルも一泊分の宿代を受け取っていた。

「翌朝モルシェーンを出れば、夜までにはリーズに着く。だが到着が遅かったのか、その時は町の人に会っていない。翌日の夕方、町の門を出るところを見られたのが最後で、それから今まで、1日経っても戻っていないそうだ」

 そこまで説明を聞いて、ふと思った。私は初めて王都へ来たとき、すべてが珍しくて、あちこちのお店をのぞいてみたかった。幸い、エリスとグリフに案内してもらって買い物も出来て嬉しかった。
 同じ年頃の女性なら、アデルもそうなのでは? 初めてではないにしろ、せっかく王都へ来たら、どこかで身に付けるものや美味しそうなものなど、見たいのではないか。

「ね、思ったんだけど……」
私はカイン達に伝えてみた。
「何の意味もないかもしれないけど、何かヒントになるようなことがあれば……」
エリスが大きく頷いた。
「いや、意外に正解かも知れないよ、ミア。一緒に来てくれる? 女性の視点でみてほしいんだ」


 私達はまず、アデルが王宮から紹介された宿へ行ってみた。
「ああ、その魔導師様なら覚えてますよ」
やはりアデルは、町の人へのお土産を買いたいと言って、おかみさんに店の場所を聞いたそうだ。
「他にも、あまり高くない飾り物の店があれば見てみたい、って言われましてね。2件ほど教えてあげたんですよ」
私達もその店を聞いて、行ってみることにした。

 一番近かったので、まずは飾り物の店の1件から訪ねた。しかし店主はアデルらしい客の記憶がなかった。
「ここには寄らなかったのか?」
「外からのぞいてみて、好みでなかったとか?」

 がっかりして店を出たところで、突然声をかけられた。
「あら、ミア様じゃないか、いつかは悪かったねぇ」
見ると、ルカ様と初めて王都に来たときに入った、食堂のおかみさんだった。大きな声で「4属性持ちかい?」と言ってくれたあの人だ。相変わらず大きな声で話しかける。
「良かったねえ、最近はご活躍ですごいじゃないか。今度皆さんでまた来ておくれよ」
「あ、はい、ありがとうございます。あの、すみませんが急ぐので……」
日が暮れる前に次の店に行きたいけれど、おかみさんはまったく気がつかない。

「しかし魔導師様ってのは、皆さん美人なんだねえ? この前来た2人も、びっくりするほど色っぽいのと、美少年みたいな組み合わせで……」
「え?」
全員が揃って声をあげた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

高級娼婦×騎士

歌龍吟伶
恋愛
娼婦と騎士の、体から始まるお話。 全3話の短編です。 全話に性的な表現、性描写あり。 他所で知人限定公開していましたが、サービス終了との事でこちらに移しました。

処理中です...