魔導師ミアの憂鬱

砂月美乃

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62・王都は大騒ぎ

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 怒ったり怒られたりいろいろあったけれど、とりあえず落ち着いて話をすることにして、さっき休憩したところにもう一度座る。カインからはクラーケン討伐の様子を伝え、エリスからは王宮であったこと、ダール様からさらに聞いたことなどを聞いた。そして最後にエリスが付け加えた。

「コカトリス討伐の話が、かなり大げさに広まってるんだ」
「どういうことだ?」
「ほら、ミアの魔法が……効果もすごいけど、何しろ派手だったでしょ? 討伐に参加してた騎士の間で、噂になったらしいんだ」
「……え、私の魔法の話なの?」
思わず口を挟むと、エリスは複雑な笑みを浮かべた。
「魔法っていうより、『魔導師ミア』が噂になってるってことだよ」

 え? 意味が分からなくて首をかしげると、エリスが言った。
「討伐に出る前から、町を歩くと騒がれたでしょ? あれがもっと大騒ぎになってる感じだよ。……まあ、見れば分かる。物凄い人気だよ」





 エリスの話は本当だった。カインの馬で門をくぐったとたん、悲鳴のような歓声に迎えられた。町の人が口々に何かいいながら押し寄せて、囲まれてしまった。エリスが予め、門に詰めている騎士に頼んでくれていたので、すぐにガードしてもらうことはできたけれど、それでもなかなか先へ進めない。
「キャー、ミア様ー!」
「お疲れ様あ!」
「こっち向いてくれよ!」
間にカインやエリスの名前も混じることはあるけれど、あまりの熱気と迫力に、私は笑顔をつくることも出来ず、呆然としてしまった。

「何、これ……?」
「すごい騒ぎだな……」
いつも冷静なカインでさえ、相当驚いている。
「なんでこんなことに?」
静まることのない騒ぎに、私の戸惑いは深まるばかりだ。グリフがそっと言う。
「……このままじゃなかなか進めねえ。ミア、ダメもとで何か言ってみたらどうだ?」
「え、……通して下さい、とかでいいんですか?」
するとエリスが考えて、少し顔を寄せた。余計に騒がれないように、カインに話しかける体を装って。
「こんなのはどう?」


「ミア様ー!」
「きゃあっ、こっち見たあ!」
「違う、おれだよ!」
「……皆さん、聞いて下さい!」
全く理解できない騒ぎに、声をあげてみたもののこれでは何も聞こえない。
「おい、静かにしてくれ!」
グリフの声量をもってしても、すぐには無理そうだ。これでは本当にいつになっても進めない。
 仕方がない、私はカインに小声であることを確認した。

 カインの前で鞍に座っていた私が、ふわっと浮き上がった。騒いでいた町の人たちもさすがに驚いて(なかには声をあげる人もいたけれど)、私の行動を注目する。私はカインとグリフの間に立つように浮かぶ。
「皆さん、聞いて下さい」
やっと声が通るようになった。
「勇者カインと私達を応援して下さって、ありがとうございます」
言葉を切るとまた歓声が沸く。
「皆さんのお気持ち、本当に嬉しいです。ですが、今もある任務から戻ったところです。国王陛下にご報告に伺わなくてはなりません。どうか、道を空けて下さい」
ここでエリスと、空気を読んだカインがにっこり笑って手を上げて挨拶した。私もひきつる頬を必死に緩めて笑顔をつくる。

 ワアアアァ!!!
「ミア様、頑張って!」
「応援するよー!」
町の人たちがまた大きな歓声をあげる。でも圧力は明らかにひいた。
「おい、今だ! 進めっ!」
ウェインが小声で騎士たちを叱咤し、私達はやっとのことで館に帰ることができたのだった……。




「はあ、いったい何だったんだ?」
グリフが大きな声でぼやいた。
 逃げるように「勇者の館」へ戻って、私達はサロンの椅子にへたりこんでいた。早速駆けつけて来てくれたアンナさんが、お茶を淹れて運んでくれる。
「モース様のときは、こんなに目立つことは久しくなかったですからねえ。若くて見目麗しい皆さんの大活躍に、熱狂してしまってるんですよ。ねえウェイン?」
「どうせ俺はもう麗しくねえよ」
ウェインは苦笑してお茶を飲み干した。


 もちろん陛下に報告に行くというのも嘘ではない。一休みしてからお湯を浴び、服装を改めて王宮へ行った。
 報告後、陛下は王妃様もお呼びになってサロンでお茶をいただき、しばらく楽しい時間を過ごした。


 陛下のサロンを失礼して戻る途中、カインが数人の騎士に呼び止められた。エリスやグリフも親しげに話しているのを待っていると、後ろから私の名を呼ぶ声がした。

「ミア様、またお会いしましたね」
「サラ様!」
深いワインのような色の髪を艶やかに結い上げて近づいてくるのは、魔導師の試しの時に私にお化粧をしてくれたサラ様だった。
「……失礼しました。その節は本当にありがとうございました、サラ師」
もうあの時とは違って、魔導師の先達だ。ルカ様とカインに注意するよう言われたこともあり、私は丁寧に挨拶をしなおす。

「ご活躍のようね」
サラ様はそう言って艶然と微笑んだ。女の私から見てもくらくらするほどだ。
「とんでもございません。皆様のおかげで、未熟ながらどうにかこなしております」
あくまで無難に返事をする私に、サラ様が何か言いかけた。そこへ、
「これはサラ殿ではありませんか」
カインが騎士達との談笑を抜けて、私の後ろへ来てくれた。

「ミア、知り合いなのか?」
「はい、試しの時にお世話になりました」
「それは幸運だ。サラ殿のようなベテランが、そんなお役をなさるなんて滅多にないだろう」
「そうだったんですか?」



 ◆◇◆


 魔導師サラは、カインが来るとさっさと話を止めて、表面上はにこやかに挨拶をして行ってしまった。
 だから廊下を歩きながらサラが呟いた独り言は、誰にも聞こえなかっただろう。

「見目は良いけど、全く手強い勇者だこと。あの娘、もっと早くに囲い込んでおくべきだったか……」

 そして自分の部屋に戻っていく。
 彼女の部屋にはまた今夜も来客があるのだ……。



 ◆◇◆


 翌朝、またも異常発生の知らせが舞い込んだ。陛下とダール様も交えて相談し、それには騎士団で討伐に行ってもらった。
 その後も異常発生は続き、騎士団も王宮の魔導師達も何度か出動になっている。
 当然私達も4度討伐に出て、合わせて半月以上も王都を留守にした。

 討伐はされても原因が一向に分からないという異常な事態に、さすがの陛下もお顔が厳しくなった。騎士団や魔導師達はもちろん、私達も正直いってかなり疲労がたまっている。
 特に魔導師の魔力切れは深刻で、私もギリギリで止めたのが2度あった。何か方法を考えたいところだが、こればかりは全員違うし何とも言えない。


 そしてなぜか、私達の出た討伐の様子が伝わる度に、また町で騒がれる。ナーシュから戻った巡回の騎士からクラーケンの討伐が語られ、その後の討伐も見てきた者がいると、また噂になる。なぜこんなに勇者のチーム、そして私に人気が集まるのか、私達にも分からなかった。


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