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52・異変 下
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「カイン、ちょっと来い!」
丘の下から呼ばれたカインは辺りを見渡した。ウェインはいるが、ミアはどうしたのだろう。何かあったのか?
「ウェイン、どうした?」
「いいから来てくれ、 バート、ちょっとの間カインを貸してくれ」
ただならぬ様子に、騎士団長バートが頷いて言った。
「カイン、ウェインがあんなことを言うのは珍しい。いいから行ってみろよ」
カインは丘を駆け下りてきた。
「ウェイン、何があった!? ミアはどうした?」
「今、日陰で休ませてる。いいか、先に聞いてくれ。嬢ちゃんは最後の魔法を打った後も、普通に自力で歩いて馬にも乗った。魔力は完全に把握してたし、魔力切れには絶対になっちゃいねえ」
小声で説明しながら、あえてゆっくり歩く。
「分かった。それがどうして?」
「馬でこっちへ戻る途中、急に顔が赤くなって、熱いと言い出した。最初は嬢ちゃん本人も俺も、疲れで熱でも出たのかくらいに思ってたんだよ」
そこでウェインは、わずかに言い淀む。
「それが、こっちに着いて顔を見てみたら……。カイン、俺は前に、媚薬を盛られた女を助け出したことがある。今の嬢ちゃん、ミアは、あれと同じ顔をしてる。まるで……発情しちまってるんだ」
「そんなバカな……」
聞いた話が信じられず、思わず言ってしまったが、ウェインは怒るでもない。
「俺もそう思うぜ。だがカイン、お前なら見れば分かると思う」
「……」
そしてその岩陰で、目を閉じて岩に寄りかかるミアを見て、カインはウェインの話が完全に正しいことを理解した。
「ミア!? 大丈夫か?」
するとミアが目を開いた。その目は潤んで、蕩けて落ちる寸前の果実を思わせた。
「……カイン……」
それだけ言って、荒い息を吐く。
思わず近寄ると、ミアがゆるゆると首を振った。
「だめ、カイン……、私、変なの……。あん、お願い……触らないで……」
「だがミア……」
苦しそうに、一言ひとこと話すミアだが、それがまるで……ベッドの中で昇りつめていくときのように見えてしまう。
流石のカインも任務中にも関わらず、このままここで押し倒してしまいたい……そんな欲望がこみ上げるのを感じていた。
歯を食いしばり、ミアから少し離れる。あまり近くで見ていたら、本当に欲望に呑み込まれてしまう。ウェインも気まずいのだろう、すぐについてきた。
「どうしたらいいんだ……?」
ウェインも首を振る。
「朝から俺達と同じものしか口にしてないし、攻撃なんぞコカトリスの爪ひとつさえ受けてねえ。てことは万にひとつも媚薬はねえよな」
カインも頷いて、ちらりとミアを振り返る。
そこへエリスとグリフが追いかけてきた。
「カイン、何があった……えっ、ミア!?」
エリスが質問をしかけて、途中でミアに気づいて絶句した。グリフは口を開いたが声が出ない。
ウェインが事情を説明する。するとエリスは少し考えて、ミアの前に膝をついた。
「ミア、今の魔力は!? 言えるかい?」
「え……、魔力……?」
「そうだよ、魔力。いくつ?」
「…………う、ん」
朦朧としているミアに代わって、ウェインが言った。
「最後の魔法を打つ前が1012だった。その後最後の一発を打った。だいたい1回あたり520前後だと言ってたぜ」
「……ということは、残りは500か、もう少し低いかもだね」
そして立ち上がる。
「これ、たぶん魔力切れ手前の状態で、身体が一種の防衛反応っていうか……、ほら、ミアのチャージは|あれ(・・)だから、そうさせようとしてるってことなんじゃないかと思うんだけど」
「ああ、なるほど……。それで『発情』か」
「……ということは、チャージすれば治るってことか?」
「たぶんね。逆に言えば、できないうちはずっとこの状態だよ」
「…………」
それはまずい。この状態のミアを、他の騎士達や魔導師達と一緒にナギア村に連れて行く訳にはいかない。そのあたりはもう、お互い言わなくても分かる。
それにその出発を待っている余裕は、ミアにはなさそうだ。頬と瞼を紅く染め、時折苦しげに眉をひそめて首をふり、息を吐く。
「おい、俺が代わりにバートの所へ戻っておく。しっかり話し合ってやってくれ」
ウェインがカインの肩を叩き、馬を引いて歩き出した。
「……ああ、すまないウェイン。頼む」
3人になって、それぞれ視線を交わす。
「動けない奴らを宿へ送っておいて良かった」
「うん、あんなのにこの状態のミアを見せられないからね」
さっきまで、このあたりには魔導師たちが沢山休んでいたのだ。
「で……、どうする? 解散まで待ってる余裕はなさそうだが、俺は……、駄目だ。まだ全部片付くまでは動けない。それに、村は無理だ」
「……なら、少しかかるけど、昨日のところかな」
「ならオレは下りる」
ずっと黙ってミアを見ていたグリフが、突然言った。
「グリフ?」
グリフはミアから目をそらしながら、
「オレはだめだ。こんなミアみたら……加減なんかできねえ。そんな場所でオレが抱いたら、壊しちまう。エリス、頼む」
「そうだな。幸い討伐のほうは終わりが見えてきたから、お前なら抜けてもなんとかなる。……悔しいが、頼む、エリス」
「……分かった。僕だって、手加減できる気はしないけど……」
エリスは頷いて、馬を引いてきた。
ウェインのマントを剥いで自分のでくるみ、振り返る。
「ミアは自分で座ってもいられないだろう。僕が先に乗るから、ミアを乗せてくれ」
グリフがミアを受けとると、ミアが小さく喘いで白い喉を晒した。グリフの額に汗が浮かぶ。
「くそ、ミア……」
「……あ、ん、グリフ……?」
「大丈夫だ、もう少しだけ我慢するんだぞ」
「やあ……ん、も……だめ……」
歯を食いしばり、グリフはミアを持ち上げてエリスに渡す。マントの紐と、剣を吊る飾り帯を使ってミアをエリスに繋ぎ、エリスも片手でミアを支える。
「ミアを頼む。俺達は、解散したら昨日の夜営場所に行くから……、何かあったらそこで」
「うん。……じゃ、行くよ」
エリスは馬上で頷き、出発した。
「俺達も戻るか……」
「……ああ、そうだな」
気づけば2人とも、汗びっしょりになっていた。
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