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47・予定変更 上
しおりを挟む「おはようこざいます」
身支度をすませ、朝食に降りていくと、大抵私より早いはずのカインの姿が見えなかった。
朝は皆、各自のペースで食事をする。起きたらとりあえず食べるのがカインとグリフ、完全に身支度や準備を済ませてから食べるのがエリスと私。ウェインは、討伐に出ない日はほとんど食べない。
「カインはさっき、王宮から呼び出されて行ったぜ?」
既に食べ終わっていたグリフが教えてくれた。
こんなに早くから?
首をかしげつつも、私もテーブルにつく。昨日アンナさんが大量のスープを作っておいてくれたので、それをいただいた。朝食を終えてしばらく待ったけど、カインは戻らない。
「……思ったより長くかかってるな。これは何か起こったか?」
ウェインが食堂に入ってきて、カインの姿がないのをみて言った。エリスが頷いて同意する。
「……これは予定変更になりそうだね」
そこへカインが戻ってきた。
「ミア、悪い……、冷たい水を貰えるか?」
私はすぐに水瓶の水をくんで、魔法で氷片を浮かべる。
「カイン、どうぞ」
カインは一気に飲み干し、私にグラスを返す。
「皆、聞いてくれ」
話し始めるカインの横にまた氷入りのグラスを置いて、私も話を聞く。
「予定が変わった」
予想したことで、皆頷く。
「また異常発生だ。……しかも2ヵ所」
「……!?」
さすがに絶句し、顔を見合わせる。カインは少し疲れた顔で、さらに説明をする。
「ひとつは東のメロール湖の近くで、サイクロプスだ」
「サイクロプス!?」
それはひとつ目の巨人、とはいえ人の形はしていてもほとんど知性はない。深い森の奥でごくごく稀に出会う程度の魔物だ。
「サイクロプスが、異常発生……?」
「あの湖は漁場として有名だ。漁師が何人も襲われて、捕った魚を奪われている。……おそらく10体は下らないだろう」
「でも、サイクロプスは本来……凶暴だけど臆病で、出会ってしまわない限り襲われたりしないものだったよね?」
「ああ、それこそ昨日から探してる『不自然な違い』ってやつだな」
「ともかく、もう一方の方も教えてくれ」
ウェインが先を促す。カインも頷いて、気を取り直したように続けた。
「こっちは少し遠い。イガル平原の先の荒れ地に、コカトリスだ。……こっちは大量なんてもんじゃないらしい」
「どれくらいなんだ?」
「見渡す限り、コカトリスで埋め尽くされてるそうだ。餌もないのにな」
想像しただけで総毛立ってくる。……いったいなぜ、そんなことになるのだろう?
「ただ、不思議なことに、というか、もはやお約束というか。このコカトリス、石化攻撃ができないらしい」
「……何だよそれ」
グリフが苛立たしげに、テーブルを何度も叩く。
「ありえねぇ。訳が分かんねえよ」
「グリフ、落ち着け。イラつくのは皆同じだ」
ウェインが窘めるとグリフも黙った。ウェインはカインを見て、落ち着いた声で尋ねる。
「それで、どうするんだ? 陛下のお考えは?」
ウェインの、いつもと違う落ち着いた声と、「陛下」という言葉をだしたことで、全員がはっと冷静になれた。カインは少し姿勢を正す。
「陛下は、我々にはまずサイクロプスの方に当たれと言われた。コカトリスのほうは騎士と魔導師たちを向かわせるから、と」
「逆に考えれば石化の心配がないってことだし、まあ当然だな。……で、出発は?」
「コカトリスのいるイガル平原は、馬でも3日かかる。すでに陛下は準備にかからせているが、午後に出発できたとしても……実際討伐にかかれるのは3日後の朝だ」
「その点、幸い僕らはすでに出発する予定でいたからね。いくらか荷物を増やすとしても何とか出発できる」
「メロール湖か……。近くに漁村があったな」
「そこまで行きたいが、今からでは厳しいだろう」
カインの気遣わしげな視線で、私を乗せてでは間に合わないのだと分かった。私が乗っていられるのは、せいぜい速歩の馬までだ。それ以上の速さで走られると、短時間ならともかく、今から夜まではとても乗っていられない。馬にだって負担がかかりすぎる。
「カイン、もし長時間なら、私は馬よりも……魔法で移動したほうが楽なんですけど……?」
それを聞いてグリフが手を打った。
「ああ、そういや前に言ってたよな、ミア。馬と同じくらいで移動出来るって」
「はい、……全速力にはついて行かれるか分かりませんけど……、半日以上なら、そこまでは飛ばしませんよね?」
カインはそれでも心配そうだ。私はふと思いついてウェインに聞く。
「そういえば、ショーン様は移動のとき、どうしてたんですか?」
ショーン様というのは前の勇者モース様の専属魔導師。ウェインと一緒に長年戦ってきた仲間だ。
ウェインの顔がふっと和んだ。
「あいつは、今でこそ俺たちと同じように馬に乗れるが、最初はからっきしでなあ……」
「じゃ、私と同じように乗せてもらって?」
「馬鹿いえ。嬢ちゃんみたいないい女ならともかく、髭の魔導師なんか乗せる奴がいるかよ。あいつも風属性だったし、それに特殊魔法があったからな」
「え、そうだったんですか?」
「まあ、その話は出発してからだ。カイン、嬢ちゃんがああ言うんだからやってみろ。無理なら途中の村で泊まりゃいいだけだ」
私もカインを見る。カインは私をみて、ようやく頷いてくれた。
場合によってはコカトリスの発生したイガル平原に回る可能性もあるので、その分の荷物を準備し、それでも1時間もたたずに出発した。街を出るまではカインの馬に乗り、少し行ったところで馬を下りる。
「ミア、無理しないで疲れたら言うんだぞ? それに魔力は大丈夫なのか?」
「カイン……。大丈夫です。もしもの時はちゃんと言いますから」
私はいつもの移動よりも高い位置に浮き上がり、馬に乗った皆と同じくらいの高さにした。
「大丈夫。どうぞ出発してください」
安心してもらいたくて、カインに向けて微笑んだ。
最初は心配そうだったカインも、私が危なげなくついてくるのを見て安心したらしく、安定した駈歩で馬を走らせていた。
「それ、魔力はどのくらい減るものなんだ?」
横から興味深そうに見ていたグリフが聞いた。
「ん……、私の魔法は、力加減や使う時間で魔力が増減するので……はっきりわかる訳ではないですけど、前にルカ様と王都まで来たときは200ちょっとでしたから……」
「時間が倍、少し早めで……600ちょいって感じか?」
「かな、と思ってますけど」
「そういえば……ウェイン、ショーン様の特殊魔法って何だったんですか?」
特殊魔法。6つの属性のどれにも属さない、固有の能力。複数属性より珍しいと言われている。特殊魔法だけは、魔力が顕現したときに魔導師が見ても分からないので、時には本人すら気づかず終わることもあるのだとか。
そしてなぜか本人が隠していることも多くて、あまり記録にも残っていない。でも私がルカ様に聞いたところでは、過去には遠くのものが見えるとか、人の心の声が聞こえるとか……変わったところでは魔物の姿に変われるものとかあったらしい。
「俺たちは、動物遣いって呼んでたがな」
「動物遣い?」
「ああ。その辺にいる動物や弱い魔物なんかを、文字通り手下として使えるんだ。だからさっきの話の、馬に乗れなかったころは……よく鳥だの熊だのに乗ってたぜ」
馬をとばすよりは少し遅かったけれど、どうにか私達はメロール湖の近くの漁村、メロール村に着くことができた。村の人達は喜んで、村長はもてなそうとしてくれたが、カインが丁重に辞退した。すでにサイクロプスに襲われた人が何人もいて、中には亡くなった方もいるのだから。
そしてこの村にもある小さな騎士宿舎に泊まった。
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