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6・それらしく? 前

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 大広間に、再び全員が集められた。宰相フィブリスに先導されて私が玉座の前に立つと、ざわっ……と不穏な空気が広がった。痛いほどの視線に晒されながら、天井を眺めてフィブリスが口を開くのを待つ。
 だってフィブリスが「その舌足らずな声でしゃべられると余計な反感を買いますから、今日のところはとりあえず黙っててください」って言ったんだもの。


「本来この儀式において、王笏に選ばれるとは先代に選ばれたも同じ。今回のように選定を疑うなど、あってはならぬことでした」

そこで言葉を切り、フィブリスは広間を見渡した。

「ガルグィード将軍とともに確認をし、王笏の選択に間違いのないことを確かめました。後ろの三人が見届け人です」

 私の横で将軍ガルグィードが、いかめしい顔で頷いた。少し離れて例の三人。モドンは音が聞こえるほどギリギリと歯を食いしばり、ベレスパードは上目遣いで苦虫を嚙み潰したような顔。イルウィンだけは我関せずといった無表情で、何を考えているのか全く分からない。
 どう見ても、誰も喜んでいるようには見えない。それは大広間にいる者の多くが同じ気持ちのようで、フィブリスが私について話している間も、低いざわめきは止まなかった。

「では、慣例にのっとり、即位の儀は三日後に行います。今日はこれで」

 結局私は一言もしゃべることなく、大広間を出た。
 大広間の扉が閉まった瞬間、中からわっと怒号のような喧騒が聞こえてきた。振り返ってガルグィードが苦笑する。

「やれやれ、これはしばらく大変だな」
「全くです。しかしこの方に威厳を期待するには、あと二百年ほどは待たなければなりませんね」

フィブリスも失笑し、ついてきた三人に言った。

「こちらも解散にしましょう。分かっていると思いますが、余計なことを洩らさぬように願います」
「分かったな、モドン」

 モドンは黙って頭を下げ、出て行った。残りの二人もそれにならう。ガルグィードが改めて私を見た。

「ミミィ……いや、新王陛下。はっきり言って前途多難ですぞ。正直に申し上げるが、わしも完全に納得しているわけではありません」
「……でしょうね」
「ですがこうなった以上、無駄な争いは避けたい。わしからも軽挙妄動は慎むように言っておきますが、どうかご理解のうえ、―――無理は承知だが、何とかそれらしくあるよう、努力していただきたい」
「それらしく?」

私は首をかしげる。

「さよう。王とは、一族全ての命を預かるものです。不運なことに、先代ダンギュバルム様と貴方は、何もかも正反対だ。当然比較され、反感は増すだろう」

 さすが将軍。内心どれだけ不満なのかは分からないけど、言ってることは公正だ。決して声を荒げることなく言いたいことを言うと、堂々と退出していった。





 フィブリスはそのまま私をつれて、城の最上階へ向かった。最上階は魔王のプライベートエリアだ。豪華な執務室に入ると、ものすごい美女が待っていた。褐色の肌も艶やかな美女は、スケスケのドレスの裾からトカゲのような尻尾を覗かせている。そして何より目を引くのは、薄布から零れ落ちそうな、ぷるんぷるんのお胸。美女は優雅に首をかしげた。

「あら、宰相様。新しい魔王様はご一緒ではありませんの?」
「ミミィ、彼女はシャリムです。シャリム、目の前にいらっしゃるでしょう」

シャリムは長い睫毛をぱちぱち瞬かせた。

「え、……は? 何、まさかこの子が……」
「そのまさかですよ。よろしく頼みます」
「えええええええ!!」

執務室に甲高い悲鳴が響き渡った。

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