6 / 17
6・それらしく? 前
しおりを挟む
大広間に、再び全員が集められた。宰相フィブリスに先導されて私が玉座の前に立つと、ざわっ……と不穏な空気が広がった。痛いほどの視線に晒されながら、天井を眺めてフィブリスが口を開くのを待つ。
だってフィブリスが「その舌足らずな声でしゃべられると余計な反感を買いますから、今日のところはとりあえず黙っててください」って言ったんだもの。
「本来この儀式において、王笏に選ばれるとは先代に選ばれたも同じ。今回のように選定を疑うなど、あってはならぬことでした」
そこで言葉を切り、フィブリスは広間を見渡した。
「ガルグィード将軍とともに確認をし、王笏の選択に間違いのないことを確かめました。後ろの三人が見届け人です」
私の横で将軍ガルグィードが、いかめしい顔で頷いた。少し離れて例の三人。モドンは音が聞こえるほどギリギリと歯を食いしばり、ベレスパードは上目遣いで苦虫を嚙み潰したような顔。イルウィンだけは我関せずといった無表情で、何を考えているのか全く分からない。
どう見ても、誰も喜んでいるようには見えない。それは大広間にいる者の多くが同じ気持ちのようで、フィブリスが私について話している間も、低いざわめきは止まなかった。
「では、慣例にのっとり、即位の儀は三日後に行います。今日はこれで」
結局私は一言もしゃべることなく、大広間を出た。
大広間の扉が閉まった瞬間、中からわっと怒号のような喧騒が聞こえてきた。振り返ってガルグィードが苦笑する。
「やれやれ、これはしばらく大変だな」
「全くです。しかしこの方に威厳を期待するには、あと二百年ほどは待たなければなりませんね」
フィブリスも失笑し、ついてきた三人に言った。
「こちらも解散にしましょう。分かっていると思いますが、余計なことを洩らさぬように願います」
「分かったな、モドン」
モドンは黙って頭を下げ、出て行った。残りの二人もそれにならう。ガルグィードが改めて私を見た。
「ミミィ……いや、新王陛下。はっきり言って前途多難ですぞ。正直に申し上げるが、わしも完全に納得しているわけではありません」
「……でしょうね」
「ですがこうなった以上、無駄な争いは避けたい。わしからも軽挙妄動は慎むように言っておきますが、どうかご理解のうえ、―――無理は承知だが、何とかそれらしくあるよう、努力していただきたい」
「それらしく?」
私は首をかしげる。
「さよう。王とは、一族全ての命を預かるものです。不運なことに、先代ダンギュバルム様と貴方は、何もかも正反対だ。当然比較され、反感は増すだろう」
さすが将軍。内心どれだけ不満なのかは分からないけど、言ってることは公正だ。決して声を荒げることなく言いたいことを言うと、堂々と退出していった。
フィブリスはそのまま私をつれて、城の最上階へ向かった。最上階は魔王のプライベートエリアだ。豪華な執務室に入ると、ものすごい美女が待っていた。褐色の肌も艶やかな美女は、スケスケのドレスの裾からトカゲのような尻尾を覗かせている。そして何より目を引くのは、薄布から零れ落ちそうな、ぷるんぷるんのお胸。美女は優雅に首をかしげた。
「あら、宰相様。新しい魔王様はご一緒ではありませんの?」
「ミミィ、彼女はシャリムです。シャリム、目の前にいらっしゃるでしょう」
シャリムは長い睫毛をぱちぱち瞬かせた。
「え、……は? 何、まさかこの子が……」
「そのまさかですよ。よろしく頼みます」
「えええええええ!!」
執務室に甲高い悲鳴が響き渡った。
だってフィブリスが「その舌足らずな声でしゃべられると余計な反感を買いますから、今日のところはとりあえず黙っててください」って言ったんだもの。
「本来この儀式において、王笏に選ばれるとは先代に選ばれたも同じ。今回のように選定を疑うなど、あってはならぬことでした」
そこで言葉を切り、フィブリスは広間を見渡した。
「ガルグィード将軍とともに確認をし、王笏の選択に間違いのないことを確かめました。後ろの三人が見届け人です」
私の横で将軍ガルグィードが、いかめしい顔で頷いた。少し離れて例の三人。モドンは音が聞こえるほどギリギリと歯を食いしばり、ベレスパードは上目遣いで苦虫を嚙み潰したような顔。イルウィンだけは我関せずといった無表情で、何を考えているのか全く分からない。
どう見ても、誰も喜んでいるようには見えない。それは大広間にいる者の多くが同じ気持ちのようで、フィブリスが私について話している間も、低いざわめきは止まなかった。
「では、慣例にのっとり、即位の儀は三日後に行います。今日はこれで」
結局私は一言もしゃべることなく、大広間を出た。
大広間の扉が閉まった瞬間、中からわっと怒号のような喧騒が聞こえてきた。振り返ってガルグィードが苦笑する。
「やれやれ、これはしばらく大変だな」
「全くです。しかしこの方に威厳を期待するには、あと二百年ほどは待たなければなりませんね」
フィブリスも失笑し、ついてきた三人に言った。
「こちらも解散にしましょう。分かっていると思いますが、余計なことを洩らさぬように願います」
「分かったな、モドン」
モドンは黙って頭を下げ、出て行った。残りの二人もそれにならう。ガルグィードが改めて私を見た。
「ミミィ……いや、新王陛下。はっきり言って前途多難ですぞ。正直に申し上げるが、わしも完全に納得しているわけではありません」
「……でしょうね」
「ですがこうなった以上、無駄な争いは避けたい。わしからも軽挙妄動は慎むように言っておきますが、どうかご理解のうえ、―――無理は承知だが、何とかそれらしくあるよう、努力していただきたい」
「それらしく?」
私は首をかしげる。
「さよう。王とは、一族全ての命を預かるものです。不運なことに、先代ダンギュバルム様と貴方は、何もかも正反対だ。当然比較され、反感は増すだろう」
さすが将軍。内心どれだけ不満なのかは分からないけど、言ってることは公正だ。決して声を荒げることなく言いたいことを言うと、堂々と退出していった。
フィブリスはそのまま私をつれて、城の最上階へ向かった。最上階は魔王のプライベートエリアだ。豪華な執務室に入ると、ものすごい美女が待っていた。褐色の肌も艶やかな美女は、スケスケのドレスの裾からトカゲのような尻尾を覗かせている。そして何より目を引くのは、薄布から零れ落ちそうな、ぷるんぷるんのお胸。美女は優雅に首をかしげた。
「あら、宰相様。新しい魔王様はご一緒ではありませんの?」
「ミミィ、彼女はシャリムです。シャリム、目の前にいらっしゃるでしょう」
シャリムは長い睫毛をぱちぱち瞬かせた。
「え、……は? 何、まさかこの子が……」
「そのまさかですよ。よろしく頼みます」
「えええええええ!!」
執務室に甲高い悲鳴が響き渡った。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ジャック&ミーナ ―魔法科学部研究科―
浅山いちる
ファンタジー
この作品は改稿版があります。こちらはサクサク進みますがそちらも見てもらえると嬉しいです!
大事なモノは、いつだって手の届くところにある。――人も、魔法も。
幼い頃憧れた、兵士を目指す少年ジャック。数年の時を経て、念願の兵士となるのだが、その初日「行ってほしい部署がある」と上官から告げられる。
なくなくその部署へと向かう彼だったが、そこで待っていたのは、昔、隣の家に住んでいた幼馴染だった。
――モンスターから魔法を作るの。
悠久の時を経て再会した二人が、新たな魔法を生み出す冒険ファンタジーが今、幕を開ける!!
※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「マグネット!」にも掲載しています。
裏庭が裏ダンジョンでした@完結
まっど↑きみはる
ファンタジー
結界で隔離されたど田舎に住んでいる『ムツヤ』。彼は裏庭の塔が裏ダンジョンだと知らずに子供の頃から遊び場にしていた。
裏ダンジョンで鍛えた力とチート級のアイテムと、アホのムツヤは夢を見て外の世界へと飛び立つが、早速オークに捕らえれてしまう。
そこで知る憧れの世界の厳しく、残酷な現実とは……?
挿絵結構あります
半身転生
片山瑛二朗
ファンタジー
忘れたい過去、ありますか。やり直したい過去、ありますか。
元高校球児の大学一年生、千葉新(ちばあらた)は通り魔に刺され意識を失った。
気が付くと何もない真っ白な空間にいた新は隣にもう1人、自分自身がいることに理解が追い付かないまま神を自称する女に問われる。
「どちらが元の世界に残り、どちらが異世界に転生しますか」
実質的に帰還不可能となった剣と魔術の異世界で、青年は何を思い、何を成すのか。
消し去りたい過去と向き合い、その上で彼はもう一度立ち上がることが出来るのか。
異世界人アラタ・チバは生きる、ただがむしゃらに、精一杯。
少なくとも始めのうちは主人公は強くないです。
強くなれる素養はありますが強くなるかどうかは別問題、無双が見たい人は主人公が強くなることを信じてその過程をお楽しみください、保証はしかねますが。
異世界は日本と比較して厳しい環境です。
日常的に人が死ぬことはありませんがそれに近いことはままありますし日本に比べればどうしても命の危険は大きいです。
主人公死亡で主人公交代! なんてこともあり得るかもしれません。
つまり主人公だから最強! 主人公だから死なない! そう言ったことは保証できません。
最初の主人公は普通の青年です。
大した学もなければ異世界で役立つ知識があるわけではありません。
神を自称する女に異世界に飛ばされますがすべてを無に帰すチートをもらえるわけではないです。
もしかしたらチートを手にすることなく物語を終える、そんな結末もあるかもです。
ここまで何も確定的なことを言っていませんが最後に、この物語は必ず「完結」します。
長くなるかもしれませんし大して話数は多くならないかもしれません。
ただ必ず完結しますので安心してお読みください。
ブックマーク、評価、感想などいつでもお待ちしています。
この小説は同じ題名、作者名で「小説家になろう」、「カクヨム」様にも掲載しています。
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします
暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。
いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。
子を身ごもってからでは遅いのです。
あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」
伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。
女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。
妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。
だから恥じた。
「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。
本当に恥ずかしい…
私は潔く身を引くことにしますわ………」
そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。
「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。
私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
元悪役令嬢はオンボロ修道院で余生を過ごす
こうじ
ファンタジー
両親から妹に婚約者を譲れと言われたレスナー・ティアント。彼女は勝手な両親や裏切った婚約者、寝取った妹に嫌気がさし自ら修道院に入る事にした。研修期間を経て彼女は修道院に入る事になったのだが彼女が送られたのは廃墟寸前の修道院でしかも修道女はレスナー一人のみ。しかし、彼女にとっては好都合だった。『誰にも邪魔されずに好きな事が出来る!これって恵まれているんじゃ?』公爵令嬢から修道女になったレスナーののんびり修道院ライフが始まる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる