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4・本当に、魔王? 中
しおりを挟む「う……運だと!? まさか、運で王になったとでもいうのか。どこまで馬鹿にしてるんだ! もう我慢ならん!」
理解しがたいものごとに出会ったとき、暴力でどうにかしようとする奴は必ずいる。モドンは私に殴りかかろうとした。
「ちょっ……!」
びっくりして身をすくめた私の頬を、奴のマントが掠める。全力の拳を躱されてもんどりうったモドンが、緑色の顔を土色に染めた。
「このガキが……!」
「止めよ、モドン」
キレたモドンを止めようとする将軍をフィブリスが制し、黙って首を振ってみせる。
「なぜ止める、フィブリス」
「いいから、少し見てみましょう」
何とか言ってよ! と思ったけれど、それ以上言う暇はなかった。待って、モドンのやつ。剣を抜いちゃったよ? さすが怪力自慢だけあって刀身もぶ厚い大刀を、叩きつけるように振り回す。私は部屋中を逃げ回った。
「ちょっと、女の子に何するのよぉ!」
「黙れ、ちょこまかと逃げ回りやがって、この……っ!」
「ばか、危ないじゃない!」
巨大な剣が空を切り、それほど実践向きではないらしいベレスパードが飛びのいた。
「うわっ、モドン! 儂まで巻き込むでない!」
「うるさい、それどころではないわ!」
他の三人は平然として見守っている。
「……なるほどな、フィブリス」
「ええ、少し分かってきましたね」
意味ありげに囁き合う二人の後ろへ私が回り込むと、モドンは何を思ったか、宰相と将軍の間に剣を振り下ろした。
「このおおおっ!」
轟音と地響きに、天井からぱらぱらと何か降ってきた。将軍たちがさりげなく避けたので、私の前に、巨大な剣が突き刺さっている。イルウィンとベレスパードが凝然として、剣の持ち主と私を見比べていた。
「そこまでだ、モドン」
将軍がモドンの剣を抜き、床を滑らせた。モドンは思わずキッと顔を上げる。
「もう分かったろう。そなたが我を忘れて仕掛けても、かすりもしない。これが証拠だ」
「……しかし、こやつは卑怯にも逃げ回っただけで!」
「ミミィはまだ、一度も魔法を使っていませんよ」
これは言っておかなきゃと思った私は、勇気を出して口を挟んだ。
「あの、魔法って言っても。私白魔道士なので、ほとんど攻撃できませんよ」
フィブリスはちょっと眉を上げたけど、構わないことにしたらしい。
「それに、ごらんなさい。この剣を前に、彼女は一歩も下がっていない。それがどういうことか分かりますか」
そう指摘されると、モドンは何も言えなくなった。ぎりぎりと奥歯を噛みしめて、私を睨みつけている。フィブリスは微妙な顔で振り返った。
「歴代の魔王とはかなり毛色が違いますが、どうやら認めねばならないようですね」
「……あの私、無理に王様にならなくてもいいんですけど……ひゃっ?」
言った瞬間、王笏が急に光った。その光が例の黒い珠に当たると、さらにいくつかの文字が浮かび上がる。
―――そこには『転生者』と記されていた。
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